88 / 205
第一章
残花、その名残を 《十》
しおりを挟む
残酷な場面が続きます。苦手な方は、この回も飛ばして下さい。m(__)m
********
弟と父、二人の身体を血で染め上げてもなお、花韮の身体から溢れ出る血は止まらなかった。それはまるでどこかに鎌鼬がいて、花韮の身体を傷つけ続けているようにも見える。だがそれは鎌鼬の仕業ではなく、父親の持つ刀が関係していた。
父親の持つ刀は、華魂と同じように人の魂を吸う妖刀だ。悟浄の父親は花韮の身体を刀で貫いた時、刀に焔魂の力を吸わせていた。それに焔魂も気づき “刀…、ごとき…が…” と呟いたが、父親を離すことができなかった。
これにより、刀に力の一部を奪われた焔魂は、悟浄から傷つけられた傷口を修復できず力を発揮できない。今なら、半分とは言え鬼神の血を引く花韮にも反撃の機会がある。花韮の身体の中で焔魂と花韮が鬩ぎ合い、それが己の身体を傷つけているのだ。
だが、既に花韮の身体は死に体。あの日、あの森で二本の箭に身体を貫かれた時に、花韮の魂魄のうち肉体を支える氣 “魄” は、理に従い地に帰してしまっている。しかし精神を支える氣 “魂” は、その身体を離れ天に向かう直前に華魂によって “魄” の存在しない身体に繋ぎ止められてしまった。
“魄” の存在しない身体は、所詮は人の形をしたただの入れ物に過ぎない。いかに、その身体から血が出ようと、花韮も焔魂も傷つかない。それでも、傷ついた華魂を花韮の魂を吸いきることで修復しようとする焔魂と、焔魂を自分の “魂” で封じ込め華魂の主導権を奪いとろうとする花韮の間で、凄まじい闘いが繰り広げられていた。
花韮だって知っている。焔魂を封じ込め華魂の主導権を奪いとったとしても、華魂は華魂にしかなり得ない。所詮は花韮の魂はすべて華魂に吸い尽くされる。それでも、焔魂が勝てば自分の魂が入った華魂は宝具となり様々な命を奪い続ける。そこには、悲劇しか存在しない。
でも、もし花韮が勝てば、例え華魂になったとしても残虐に人の命を奪い尽くす宝具にはさせない。そんな自信が、花韮にはあった。
「私はお前に、この魂を渡さない! お前が、私の魂を吸い尽くす前に、この私が、焔魂を消滅させる!!」
『馬鹿げたことを! お前ごときに何ができる! お前の魂など、所詮はこの焔魂に食い尽くされるのみ!!』
花韮の傷だらけの身体から、白百合色の光と赤い炎が溢れ鬩ぎ合う。
「姉貴!!」
「花韮!!」
花韮の左側の肩口から、反対側の脇腹にかけて血が溢れ出て傷口が開く。あまりにひどい傷を見せつけられて、悟浄と父親が叫んだ。美しかった花韮の姿が、跡形もなく消えて行く。その光景は、悟浄には自分の身体を切り刻まれるより辛く痛く、心臓を鷲掴みされるようだ。
例えその身体がただの入れ物だとわかっていても、自分のせいで娘に取り返しのつかないことをした。大切に育ててきた娘の最後が、身体を切り刻まれて終わりになるのは耐えられない。悟浄の父親は、泪を浮かべるその睛眸で天を見上げる。
「私は…、道を間違えた。阿修羅よ、鬼神にとっては、阿修羅だけが唯一の王だった。邪神の王など、鬼神は認めるべきではなかった。どうか、どうか阿修羅よ、哀れな娘のためにお力をお貸しください!」
両膝を地面につき、泪を流しながら両腕を上げ、言葉を紡ぐ男の声は天上界に届いたか。鬼神でありながら邪神にいいように利用され、娘と息子に苦痛しか与えられなかった。もはや、天上界の阿修羅にすがることしかできない哀れな鬼神の声を、阿修羅は聞いたか。
晴天の中、一筋の稲妻が天から地上に落ちる。稲妻は、ただ真っ直ぐに花韮の身体めがけて落ちた。それは、仏に帰依し修羅界を捨てた元王である阿修羅が、自分に助けを求める仲間であった鬼神に送る手向け。
鬼神とは、他人に厳しく身内に甘い生き物だ。いかに恐れられる鬼神であっても、家族に対する愛情は深い。それなのに、我が子に許されざる罪を犯した親はどうなる。我が子を、地獄の底に叩き落とすようなことをしでかした親は。
『後は任せる』
収華弾の鳥籠の外、花韮の部下達をその剣で斬り倒していた沙麼蘿は、稲妻の光の後に声を聞いた。辺りを見渡せば、自分だけではなく悟空や八戒、そして玄奘の足元に崩れ落ちる人数のなんと多いことか。
木々を血潮に染め上げて、地面の色さえ変わっている。沙麼蘿は右手に持つ剣を握りしめ、辺りを薙ぎはらうような素振りを見せた。
「何!」
玄奘が声を上げたのも仕方がない。沙麼蘿のその剣が動いた瞬間、辺りの景色は一変する。木々は薙ぎ倒され、地面は抉れ、八戒の作り上げた鳥籠さえ消えてなくなり、その場にいた者達は玄奘一行と悟浄の姉と父親以外、誰も居なくなっていた。
稲妻が花韮の上に落ちた瞬間から、身体を傷つけていた花韮と焔魂の争いは終わり、その身体は崩れ落ち動かなくなる。悟浄と父親が花韮に近寄り抱き上げるが、既にその身体は冷たい。
「最後の別れだ、その女は消える」
いつの間にか、悟浄の真後ろまで来ていた沙麼蘿はそう言うと、花韮の服の襟元に手を伸ばし掴み上げた。
「何…を、する!」
花韮の身体を取り返そうとする悟浄とは反対に、父親はその場に頭をこすりつけるように平伏する。
「お願い、いたします」
父親の声が僅か揺れ、泪が地面にぽとぽとと落ちた。沙麼蘿に片手で掴み上げられた花韮の瞼が動き、双眸が開く。そして、沙麼蘿の双眸と花韮の睛眸が絡み合う。そう、半分しか神の血を持たない花韮の睛眸を、沙麼蘿の睛眸が見たのだ。
とたん、花韮の身体が中から崩れ落ちるように壊れさって行く。そして、コロンと蓮の花の形をした、燃えさかるような焔魂が地面に落ちる。
「ただ人の命を奪い尽くす宝具になりたくなければ、自分の力で華魂を奪いとれ!」
沙麼蘿の声が、その場に響き渡った。
********
鎌鼬→日本に伝えられる妖怪。もしくはそれが起こすとされた怪異である。つむじ風に乗って現れて人を切りつける。これに出遭った人は刃物で切られたような鋭い傷を受ける
鬩ぎ合う→互いに争う。対立して争う
理→物事の筋道。道理。条理。わけ。理由
所詮→最後に落ち着くところ
鷲掴み→ワシが獲物をつかむように、手のひらを大きく開いて荒々しくつかむこと
紡ぐ→言葉をつなげて文章を作る
帰依→すぐれた者に対して、全身全霊をもって依存すること。仏教では特に信仰をいただくこと
手向け→別れる人へのはなむけ
薙ぎはらう→刃物などで勢いよく横に払うこと
平伏→両手をつき、頭が地面や畳につくほどに下げて礼をすること。ひれ伏すこと
次回投稿は11月3日か4日が目標です。
********
弟と父、二人の身体を血で染め上げてもなお、花韮の身体から溢れ出る血は止まらなかった。それはまるでどこかに鎌鼬がいて、花韮の身体を傷つけ続けているようにも見える。だがそれは鎌鼬の仕業ではなく、父親の持つ刀が関係していた。
父親の持つ刀は、華魂と同じように人の魂を吸う妖刀だ。悟浄の父親は花韮の身体を刀で貫いた時、刀に焔魂の力を吸わせていた。それに焔魂も気づき “刀…、ごとき…が…” と呟いたが、父親を離すことができなかった。
これにより、刀に力の一部を奪われた焔魂は、悟浄から傷つけられた傷口を修復できず力を発揮できない。今なら、半分とは言え鬼神の血を引く花韮にも反撃の機会がある。花韮の身体の中で焔魂と花韮が鬩ぎ合い、それが己の身体を傷つけているのだ。
だが、既に花韮の身体は死に体。あの日、あの森で二本の箭に身体を貫かれた時に、花韮の魂魄のうち肉体を支える氣 “魄” は、理に従い地に帰してしまっている。しかし精神を支える氣 “魂” は、その身体を離れ天に向かう直前に華魂によって “魄” の存在しない身体に繋ぎ止められてしまった。
“魄” の存在しない身体は、所詮は人の形をしたただの入れ物に過ぎない。いかに、その身体から血が出ようと、花韮も焔魂も傷つかない。それでも、傷ついた華魂を花韮の魂を吸いきることで修復しようとする焔魂と、焔魂を自分の “魂” で封じ込め華魂の主導権を奪いとろうとする花韮の間で、凄まじい闘いが繰り広げられていた。
花韮だって知っている。焔魂を封じ込め華魂の主導権を奪いとったとしても、華魂は華魂にしかなり得ない。所詮は花韮の魂はすべて華魂に吸い尽くされる。それでも、焔魂が勝てば自分の魂が入った華魂は宝具となり様々な命を奪い続ける。そこには、悲劇しか存在しない。
でも、もし花韮が勝てば、例え華魂になったとしても残虐に人の命を奪い尽くす宝具にはさせない。そんな自信が、花韮にはあった。
「私はお前に、この魂を渡さない! お前が、私の魂を吸い尽くす前に、この私が、焔魂を消滅させる!!」
『馬鹿げたことを! お前ごときに何ができる! お前の魂など、所詮はこの焔魂に食い尽くされるのみ!!』
花韮の傷だらけの身体から、白百合色の光と赤い炎が溢れ鬩ぎ合う。
「姉貴!!」
「花韮!!」
花韮の左側の肩口から、反対側の脇腹にかけて血が溢れ出て傷口が開く。あまりにひどい傷を見せつけられて、悟浄と父親が叫んだ。美しかった花韮の姿が、跡形もなく消えて行く。その光景は、悟浄には自分の身体を切り刻まれるより辛く痛く、心臓を鷲掴みされるようだ。
例えその身体がただの入れ物だとわかっていても、自分のせいで娘に取り返しのつかないことをした。大切に育ててきた娘の最後が、身体を切り刻まれて終わりになるのは耐えられない。悟浄の父親は、泪を浮かべるその睛眸で天を見上げる。
「私は…、道を間違えた。阿修羅よ、鬼神にとっては、阿修羅だけが唯一の王だった。邪神の王など、鬼神は認めるべきではなかった。どうか、どうか阿修羅よ、哀れな娘のためにお力をお貸しください!」
両膝を地面につき、泪を流しながら両腕を上げ、言葉を紡ぐ男の声は天上界に届いたか。鬼神でありながら邪神にいいように利用され、娘と息子に苦痛しか与えられなかった。もはや、天上界の阿修羅にすがることしかできない哀れな鬼神の声を、阿修羅は聞いたか。
晴天の中、一筋の稲妻が天から地上に落ちる。稲妻は、ただ真っ直ぐに花韮の身体めがけて落ちた。それは、仏に帰依し修羅界を捨てた元王である阿修羅が、自分に助けを求める仲間であった鬼神に送る手向け。
鬼神とは、他人に厳しく身内に甘い生き物だ。いかに恐れられる鬼神であっても、家族に対する愛情は深い。それなのに、我が子に許されざる罪を犯した親はどうなる。我が子を、地獄の底に叩き落とすようなことをしでかした親は。
『後は任せる』
収華弾の鳥籠の外、花韮の部下達をその剣で斬り倒していた沙麼蘿は、稲妻の光の後に声を聞いた。辺りを見渡せば、自分だけではなく悟空や八戒、そして玄奘の足元に崩れ落ちる人数のなんと多いことか。
木々を血潮に染め上げて、地面の色さえ変わっている。沙麼蘿は右手に持つ剣を握りしめ、辺りを薙ぎはらうような素振りを見せた。
「何!」
玄奘が声を上げたのも仕方がない。沙麼蘿のその剣が動いた瞬間、辺りの景色は一変する。木々は薙ぎ倒され、地面は抉れ、八戒の作り上げた鳥籠さえ消えてなくなり、その場にいた者達は玄奘一行と悟浄の姉と父親以外、誰も居なくなっていた。
稲妻が花韮の上に落ちた瞬間から、身体を傷つけていた花韮と焔魂の争いは終わり、その身体は崩れ落ち動かなくなる。悟浄と父親が花韮に近寄り抱き上げるが、既にその身体は冷たい。
「最後の別れだ、その女は消える」
いつの間にか、悟浄の真後ろまで来ていた沙麼蘿はそう言うと、花韮の服の襟元に手を伸ばし掴み上げた。
「何…を、する!」
花韮の身体を取り返そうとする悟浄とは反対に、父親はその場に頭をこすりつけるように平伏する。
「お願い、いたします」
父親の声が僅か揺れ、泪が地面にぽとぽとと落ちた。沙麼蘿に片手で掴み上げられた花韮の瞼が動き、双眸が開く。そして、沙麼蘿の双眸と花韮の睛眸が絡み合う。そう、半分しか神の血を持たない花韮の睛眸を、沙麼蘿の睛眸が見たのだ。
とたん、花韮の身体が中から崩れ落ちるように壊れさって行く。そして、コロンと蓮の花の形をした、燃えさかるような焔魂が地面に落ちる。
「ただ人の命を奪い尽くす宝具になりたくなければ、自分の力で華魂を奪いとれ!」
沙麼蘿の声が、その場に響き渡った。
********
鎌鼬→日本に伝えられる妖怪。もしくはそれが起こすとされた怪異である。つむじ風に乗って現れて人を切りつける。これに出遭った人は刃物で切られたような鋭い傷を受ける
鬩ぎ合う→互いに争う。対立して争う
理→物事の筋道。道理。条理。わけ。理由
所詮→最後に落ち着くところ
鷲掴み→ワシが獲物をつかむように、手のひらを大きく開いて荒々しくつかむこと
紡ぐ→言葉をつなげて文章を作る
帰依→すぐれた者に対して、全身全霊をもって依存すること。仏教では特に信仰をいただくこと
手向け→別れる人へのはなむけ
薙ぎはらう→刃物などで勢いよく横に払うこと
平伏→両手をつき、頭が地面や畳につくほどに下げて礼をすること。ひれ伏すこと
次回投稿は11月3日か4日が目標です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
Another World-The origin
ファンファン
SF
現実に飽きた世界を、本物の「業」が震撼させる。
九十二歳、一之進。かつて国宝を打ち上げ、戦場を駆けた「生ける伝説」。
隠居した彼が手にしたのは、息子から贈られた最新のVRギアだった。
ステータス? スキル? そんなものは関係ない。
「本物」が振るう一撃は、物理演算さえも置き去りにする。
これは、役目を終えたはずの老兵たちが、電脳世界で再び「魂の火」を灯すまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる