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第二章
夕景山の揺籃歌《一》
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夕景→夕方の景色。夕方の光。夕日
揺籃歌→子守唄
********
青々とした緑の中に、廃墟とかした村の残骸がある。決して朽ち果てた村ではない。家の形を留める材木の中には、まだ新しいと思われる物すらあった。
だが、まるで故意に壊されにような家にはどす黒く色を変えた血の跡が其処彼処にあり、此処で何が起こったのかがわかる。悲惨な出来事を思い起こさせる家の残骸が建ち並ぶ中、八戒はある家の前で足を止めた。
その家の残骸を見つめる八戒の睛眸には、嘗て此処にあった慎ましくも幸せだった頃の生活が浮かんでは消えって行く。
「父さん、母さん」
あの頃の自分に、何ができただろうか。せめて今の自分のような力があれば、母や村人達を守れただろうか。村がこんな状態になることを、防ぐことができただろうか。
いいや、できるはずがない。昔も今も相手は邪神で、数をなしてこの小さな村を襲って来るのだから。
この村に住む人々が何をした。ただ穏やかに慎ましい暮らしをして、助け合って生きていただけではないか。そんなにも、コレが欲しかったのか。
八戒は、己の手を強く握りしめた。その指でキラリと光る指環、この残骸を生み出す元となった父が持っていたこの指環で、必ず皆のかたきを討つ。
「此処が、八戒が生まれた村なのか」
今は廃墟と成り果てた、元は小さな村だった場所を見回し、悟空が呟く。
「らしいな。邪神の襲撃を二回もくらえば、こうなるわな」
「次なる襲撃に怯え、此処で暮らし続けることは諦めたようだ」
悟空の呟きに続くように、悟浄と玄奘が言葉を紡ぐ。八戒の話によれば、二回の襲撃を受けてなお生き残った村人達がおり、皆で助け合って暮らしていたらしいが。
西へ西へと歩みを続ける旅は、以前八戒が住んでいた村の近くまでやって来ていた。八戒は此処に立ち寄るつもりはなかったが、“近くなら行ってみようよ” と言う悟空の一言で、此処までやって来ることになった。
「生き残った村人は、何処にいったんだ」
「今は、長老達の知り合いの村へ別れ別れになって暮らしています。場所によっては、種族の違いを受け入れられないような住民もいるようですから、皆息を殺すように暮らしているらしいです。この闘いに決着がつき、天上の桜を護りきれたなら、その時は皆で此処に戻って来て村を再興したいですね」
いつの間にか、悟空達の近くまで来ていた八戒が答えれば
「八戒の弟妹は、親戚が暮らす人間の村にいたんだったか」
「はい」
「それはよ、此処から近いのか」
「えぇ、まぁ」
「じゃ、会いに行かなきゃだな」
と、玄奘や悟浄や悟空が言って笑って見せた。その言葉に、思わず八戒は驚いたように双眸を見開く。
八戒だって、弟妹に会いたい気持ちはやまやまだった。だが、この天上の桜を巡る闘いが終わるまでは会いに行くつもりはなかった。
全ての闘いに決着がつき安心して暮らせるようになったら、いっぱいのお土産を持って迎えに行くつもりだったのだ。今会いに行って “着いていきたい。離れたくない” と言われたら、八戒にそれを拒絶することができるだろうか。
お世辞にも母の妹である叔母は、優しく良い人間とは言いがたい。昔は仲が良かったと言う母と叔母の関係は、母が邪神と一緒になったことで変わったらしい。
いつの世も、邪神とは嫌われているものだ。叔母や母の両親は、とにかく母が邪神と一緒になったと言うことを世間に隠し、八戒達とは距離を置いて暮らしていた。それでも弟と妹を預かってくれたのは、あの時八戒が見せた金子があればこそだ。
それを見た途端、“えぇ、えぇ。任せて頂戴。二人のことは八戒が迎えに来るまで、しっかりと預かっておくわ。安心して行ってらっしゃい” と、笑顔を見せて言った。
確かに、村の長老達に預け遠い地へ行く選択肢もあった。だが、自分が行ったこともない知らない人達ばかりの村よりも、住んでいた場所からはそれなりに近い血の繋がりがある親戚を選んだのだ。
自分が迎えに行くまでの間、二人で助け合って暮らして待っていて欲しいと。必ず二人の元にいっぱいのお土産と一緒に戻って来るから、それまでの間辛抱して欲しいと。あの時、まだ幼い小さな弟と妹の身体を抱きしめ言った。
酷い兄だろうか。父と母を奪われた理由を、住んでいた村を奪われたその理由を知らなければ前に進めないと、幼い弟妹を叔母の元に置き去りにした。
いつか弟や妹が大きくなった時に、何故両親が命を奪われなくてはならなかったのか、それを説明できるようにと言う勝手な言い訳をつけて、本当は復讐と言う名の旅に出た。何故自分達が住んでいた村が二度も襲われなければならなかったのか、その理由が知りたかった事は事実だ。
だが一番は、自分達から親を奪い村を奪った者達に対する復讐の気持ちが強かったのだ。許せなかった、父と母を奪った邪神達が。
「会いに行っても。旅の途中だと言うのに」
皆の言葉に、八戒は呟く。
「会える時に会っておけ。どんなに会いたいと思っても、普段は会えないんだからな」
「そうだぜ。あの時会っておけば、なんって思ってからじゃ遅いんだ」
「そうそう、行こうよ」
玄奘達に背中を押され八戒は、夕景山と呼ばれる燃えるような紅葉が夕焼けに例えられる山が見える、叔母達が暮らす村へと足を進めることになった。弟妹に会える喜びと、少しだけの不安を胸に。
********
廃墟→建物、集落、都市、鉄道等の施設が長期間使われず荒廃した状態になっているもの
残骸→使用できないほど破壊されて残っているもの
朽ち果てる→すっかり腐って原形をとどめないようになってしまう
其処彼処→あちこち
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
慎ましい→ぜいたくでないさま。質素なさま
襲撃→おそいかかること。相手の不意をついてせめること
紡ぐ→言葉をつなげて文章を作る
再興→衰えたり、滅びたりしていたものが、ふたたび興ること。また、それを興すこと
やまやま→たくさんあるさま。山ほど。実際はできないが、ぜひそうしたいと思うさま
金子→金貨。おかね
辛抱→つらいことや苦しいことをがまんすること。こらえ忍ぶこと
次回も一回お休みをいただきまして、次の投稿は28日か29日が目標です。
揺籃歌→子守唄
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青々とした緑の中に、廃墟とかした村の残骸がある。決して朽ち果てた村ではない。家の形を留める材木の中には、まだ新しいと思われる物すらあった。
だが、まるで故意に壊されにような家にはどす黒く色を変えた血の跡が其処彼処にあり、此処で何が起こったのかがわかる。悲惨な出来事を思い起こさせる家の残骸が建ち並ぶ中、八戒はある家の前で足を止めた。
その家の残骸を見つめる八戒の睛眸には、嘗て此処にあった慎ましくも幸せだった頃の生活が浮かんでは消えって行く。
「父さん、母さん」
あの頃の自分に、何ができただろうか。せめて今の自分のような力があれば、母や村人達を守れただろうか。村がこんな状態になることを、防ぐことができただろうか。
いいや、できるはずがない。昔も今も相手は邪神で、数をなしてこの小さな村を襲って来るのだから。
この村に住む人々が何をした。ただ穏やかに慎ましい暮らしをして、助け合って生きていただけではないか。そんなにも、コレが欲しかったのか。
八戒は、己の手を強く握りしめた。その指でキラリと光る指環、この残骸を生み出す元となった父が持っていたこの指環で、必ず皆のかたきを討つ。
「此処が、八戒が生まれた村なのか」
今は廃墟と成り果てた、元は小さな村だった場所を見回し、悟空が呟く。
「らしいな。邪神の襲撃を二回もくらえば、こうなるわな」
「次なる襲撃に怯え、此処で暮らし続けることは諦めたようだ」
悟空の呟きに続くように、悟浄と玄奘が言葉を紡ぐ。八戒の話によれば、二回の襲撃を受けてなお生き残った村人達がおり、皆で助け合って暮らしていたらしいが。
西へ西へと歩みを続ける旅は、以前八戒が住んでいた村の近くまでやって来ていた。八戒は此処に立ち寄るつもりはなかったが、“近くなら行ってみようよ” と言う悟空の一言で、此処までやって来ることになった。
「生き残った村人は、何処にいったんだ」
「今は、長老達の知り合いの村へ別れ別れになって暮らしています。場所によっては、種族の違いを受け入れられないような住民もいるようですから、皆息を殺すように暮らしているらしいです。この闘いに決着がつき、天上の桜を護りきれたなら、その時は皆で此処に戻って来て村を再興したいですね」
いつの間にか、悟空達の近くまで来ていた八戒が答えれば
「八戒の弟妹は、親戚が暮らす人間の村にいたんだったか」
「はい」
「それはよ、此処から近いのか」
「えぇ、まぁ」
「じゃ、会いに行かなきゃだな」
と、玄奘や悟浄や悟空が言って笑って見せた。その言葉に、思わず八戒は驚いたように双眸を見開く。
八戒だって、弟妹に会いたい気持ちはやまやまだった。だが、この天上の桜を巡る闘いが終わるまでは会いに行くつもりはなかった。
全ての闘いに決着がつき安心して暮らせるようになったら、いっぱいのお土産を持って迎えに行くつもりだったのだ。今会いに行って “着いていきたい。離れたくない” と言われたら、八戒にそれを拒絶することができるだろうか。
お世辞にも母の妹である叔母は、優しく良い人間とは言いがたい。昔は仲が良かったと言う母と叔母の関係は、母が邪神と一緒になったことで変わったらしい。
いつの世も、邪神とは嫌われているものだ。叔母や母の両親は、とにかく母が邪神と一緒になったと言うことを世間に隠し、八戒達とは距離を置いて暮らしていた。それでも弟と妹を預かってくれたのは、あの時八戒が見せた金子があればこそだ。
それを見た途端、“えぇ、えぇ。任せて頂戴。二人のことは八戒が迎えに来るまで、しっかりと預かっておくわ。安心して行ってらっしゃい” と、笑顔を見せて言った。
確かに、村の長老達に預け遠い地へ行く選択肢もあった。だが、自分が行ったこともない知らない人達ばかりの村よりも、住んでいた場所からはそれなりに近い血の繋がりがある親戚を選んだのだ。
自分が迎えに行くまでの間、二人で助け合って暮らして待っていて欲しいと。必ず二人の元にいっぱいのお土産と一緒に戻って来るから、それまでの間辛抱して欲しいと。あの時、まだ幼い小さな弟と妹の身体を抱きしめ言った。
酷い兄だろうか。父と母を奪われた理由を、住んでいた村を奪われたその理由を知らなければ前に進めないと、幼い弟妹を叔母の元に置き去りにした。
いつか弟や妹が大きくなった時に、何故両親が命を奪われなくてはならなかったのか、それを説明できるようにと言う勝手な言い訳をつけて、本当は復讐と言う名の旅に出た。何故自分達が住んでいた村が二度も襲われなければならなかったのか、その理由が知りたかった事は事実だ。
だが一番は、自分達から親を奪い村を奪った者達に対する復讐の気持ちが強かったのだ。許せなかった、父と母を奪った邪神達が。
「会いに行っても。旅の途中だと言うのに」
皆の言葉に、八戒は呟く。
「会える時に会っておけ。どんなに会いたいと思っても、普段は会えないんだからな」
「そうだぜ。あの時会っておけば、なんって思ってからじゃ遅いんだ」
「そうそう、行こうよ」
玄奘達に背中を押され八戒は、夕景山と呼ばれる燃えるような紅葉が夕焼けに例えられる山が見える、叔母達が暮らす村へと足を進めることになった。弟妹に会える喜びと、少しだけの不安を胸に。
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廃墟→建物、集落、都市、鉄道等の施設が長期間使われず荒廃した状態になっているもの
残骸→使用できないほど破壊されて残っているもの
朽ち果てる→すっかり腐って原形をとどめないようになってしまう
其処彼処→あちこち
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
慎ましい→ぜいたくでないさま。質素なさま
襲撃→おそいかかること。相手の不意をついてせめること
紡ぐ→言葉をつなげて文章を作る
再興→衰えたり、滅びたりしていたものが、ふたたび興ること。また、それを興すこと
やまやま→たくさんあるさま。山ほど。実際はできないが、ぜひそうしたいと思うさま
金子→金貨。おかね
辛抱→つらいことや苦しいことをがまんすること。こらえ忍ぶこと
次回も一回お休みをいただきまして、次の投稿は28日か29日が目標です。
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