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第二章
籠鳥残火《三》
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年内最後の投稿となります。
書きながら、年末年始の投稿って玄奘一行が出てこないことが多いような気がすると思ったら、この数年で年末の一回を除いて全く登場していませんでしたΣ(゜Д゜)
そして今回は、沙麼蘿と皇も出ないと言う(^_^;)
年始一回目こそは、せめて沙麼蘿と皇が出てくるまでには話を進めたい(๑•̀ㅂ•́)و✧
********
聖宮は嘗て天上界と下界の橋渡しを努め、下界に安寧をもたらす神の血を引く人間を産み育てると言う、前例の数少ない重大な任務を果たすべく下界の希望を一身に背負いその地へと下って行った。
鶯光帝は、妹の聖宮を下界へ遣わすことには乗り気ではなったが、これは戦が絶えず地は荒れ果て疲弊しきった国々を立て直そうとする下界の人間達の強い願いを、前天帝である父の蒼光帝が聞き届け、聖宮が自ら下界へ下ることを決めたことで決定したことだ。
だが、聖宮が下界に下るまでには波乱に継ぐ波乱があった。一番の出来事は、父である蒼光帝の死だ。蒼光帝は、恩赦を与えた罪人である斑の血を引く者に、鶯光帝と聖宮の目の前で殺された。
賢帝と呼ばれ、蒼光帝の時世は長く続くであろうと信じて疑わなかった天人達の衝撃は大変なものであり、これにより聖宮が下界へ下る時期は延びに延びた。下界では、何世代かが過ぎ去る程に。それでも、代替わりするたびに天上人の降臨の話は伝えられて行き、やっとその日を迎えたのだった。
聖宮が向かうのは光厳妙楽国。その国の太子に嫁ぎ、一時期を天上人としてではなく下界に暮らす人として過ごし、太子と夫婦になりその子を産み育てる。それは、天上人である永遠に近い生を生きる聖宮にとっては僅かな時間。その僅かな時間で、子が一定の年齢になれば聖宮は役目を終え天上界へと戻るはずだった。
下界の人間と夫婦になっている間は、聖宮は天帝より普通の人間となるべく天帝最大の奥義の一つである秘術をかけられただの人となるのだ。そうして産まれた子は、下界の人間達にとっては唯一の希望の光となる。人でありながら秀でた才を持ち、神に声を届けることも可能になるのだから。その子の出現によって下界は平穏に満たされ、天上界との堅い絆が結ばれると下界の誰もが信じて疑わなかった。
だが、天上界が用意した大きな立派な船にのり下界へと下る途中、聖宮一行は邪神の集団の攻撃を受け船は無残に破壊され、供の多くはその命を落とし、船から投げ出された者達はみな散り散りなり下界へと落ちて行った。
邪神達が何故聖宮が下界へと向かうことを知り得たのか、それは誰にもわからない。だが彼等は、下界の人間と天上界に住む天人達に絆ができることを、下界に一際優れた人間が出現することを許さなかったのだ。
この時、投げ出された聖宮を必死に庇い共に海に落ちたのは花薔仙女。そして二人から離れまいと、我が身を顧みず手を伸ばす男が一人。気がついた時には三人は、下界の何処ともわからぬ小さな島に流れ着いていた。
「此処は…、何処」
聖宮がその双眸を開いた時、見えたのは木の板とその隙間から差し込む日差しだった。
「気がつかれましたか!」
「花薔…」
声に導かれ見つめた先にいたのは、片足を引きずるように歩いて来ている花薔仙女だった。
「花薔、どうしたの!」
そう言って起き上がろうとした途端、身体を襲う痛みに “ア…ッ” っと聖宮はその美しい面を歪める。
「動かれてはなりません。下界へ落ちた時の衝撃で、お身体を強く打たれたのです。申し訳ございません、私がついていながら…」
「何を言うの花薔。貴女、足を」
花薔仙女は聖宮を守るため、自分の荷物は身に着けていた薬の瓶以外すべてを捨て、聖宮を自らの身体で包み込むようにして大海原に落ちた。その衝撃は、如何程のものだったか。
だが足を痛めただけですんだのは、海に落ちる寸前に花薔の身体を庇うように自分の身体を下にして海に落ちた男がいたからだ。彼がいなければ、自分も聖宮ももっと酷い怪我をしていたに違いない。
花薔は女仙だ、仙術を使えば大概のことはなんとかなる。天帝一族である聖宮もまた然り。だが今、聖宮はただの人であり何の力も持たないのだ。花薔が飲ませた薬のおかげで傷や赤みなどはきえたが、まだ少しの痛みは残っている。花薔の足も、自らが作った薬がなければ歩けなくなっていたかも知れない。
「私の足はしばらくすれば治ります。何処か痛いところはございませんか」
「大…丈夫、よ。動かなければ、なんともないわ」
「そうですか。では、此方をお飲み下さいませ」
花薔は聖宮の枕元に近づき座り込むと、持っていた小瓶から一粒の小さな丸薬を取り出し聖宮に飲ませた。その時
「花薔仙女、食べ物を持って来ました」
と男の声がして、一人の若い男が入って来た。彼は、下界へと下る聖宮の供として船に乗った下級神の一人で、海に落ちる寸前に花薔と聖宮を自らの身を挺して守った男である。
彼の見た目は至って普通の天上人。だがその身体は信じられない程に屈強で、背中に内出血の痕こそあれど痛みなどはなく、動くにはなんの支障もなかったのだ。
「そう…なの…」
「申し訳ございません」
聖宮は “仕方のないことよ” と言って二人を見つめる。身体の痛みもなくなり動けるようになった聖宮は、今初めて自分の置かれている状況を知った。
大海原に落ちた三人は波に流され、何処ともわからぬ小島に流れ着いたそうだ。小さな村があるだけのこの島では大海原を越えられるだけの船などはなく、住民達は自給自足のような生活をしており、光厳妙楽国が何処にあるのかもわからない。光厳妙楽国に行くことはおろか、手紙を出すこともできないと言うのだ。
せめて道観か廟でもあれば、女仙の花薔が祈りを捧げれば天上界へと届き居場所を知らせることができるのだが、この小島の住人達は自然信仰で山や海に祈りを捧げるためそれもない。聖宮には、天上界にも光厳妙楽国にも自分達の居場所を知らせるすべが、何もなかったのだ。
これにより、天帝の妹であるにも関わらず聖宮は約二年もの間行方不明となり、天上界も下界も血眼になって捜索をすることになる。
********
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
安寧→穏やかにおさまり、異変、不安などがないこと。無事でやすらかなこと。特に、世の中が穏やかで安定していること
疲弊→心身がつかれて弱ること。経済状態などが悪化して活力をなくしてしまうこと
恩赦→罪を犯した人の刑罰を、特別に軽くしたり、消滅させたりする制度
賢帝→賢明な帝王
平穏→変わったこともなく、おだやかなこと。また、そのさま
顧みず→振り返らず、考えず、ものともせず、などの意味の表現
大海原→広々とした海。大海
如何程→物事の分量、程度、価値などの数値が、限度のわからないほど多い意を表す。どれほど多く。たくさん。どんなにひどく
大概→物事の全部ではないが、その大部分。ほとんど。だいたい
然り→『そうだ』『その通りだ』『同様である』という意味で用いられる文語的な表現
丸薬→飲みやすくするため、練り合わせて球状にした薬剤
身を挺する→身を投げ出し、人に先んじて事にあたり
屈強→きわめて力が強く頑丈なさま
支障→さしつかえ。さしさわり
道観·廟→道教の神々を奉祀し、道士が祭儀を営む建物。仏教の寺院に相当する
血眼→他のすべてを忘れて一つの事に熱中すること。逆上して目を真っ赤にしていること
次回投稿は2023年1月13日か14日が目標です。
今年も一年、つたない文章にお付き合いくださりありがとうございましたm(_ _)m
皆様、良いお年をお迎えくださいませ!
書きながら、年末年始の投稿って玄奘一行が出てこないことが多いような気がすると思ったら、この数年で年末の一回を除いて全く登場していませんでしたΣ(゜Д゜)
そして今回は、沙麼蘿と皇も出ないと言う(^_^;)
年始一回目こそは、せめて沙麼蘿と皇が出てくるまでには話を進めたい(๑•̀ㅂ•́)و✧
********
聖宮は嘗て天上界と下界の橋渡しを努め、下界に安寧をもたらす神の血を引く人間を産み育てると言う、前例の数少ない重大な任務を果たすべく下界の希望を一身に背負いその地へと下って行った。
鶯光帝は、妹の聖宮を下界へ遣わすことには乗り気ではなったが、これは戦が絶えず地は荒れ果て疲弊しきった国々を立て直そうとする下界の人間達の強い願いを、前天帝である父の蒼光帝が聞き届け、聖宮が自ら下界へ下ることを決めたことで決定したことだ。
だが、聖宮が下界に下るまでには波乱に継ぐ波乱があった。一番の出来事は、父である蒼光帝の死だ。蒼光帝は、恩赦を与えた罪人である斑の血を引く者に、鶯光帝と聖宮の目の前で殺された。
賢帝と呼ばれ、蒼光帝の時世は長く続くであろうと信じて疑わなかった天人達の衝撃は大変なものであり、これにより聖宮が下界へ下る時期は延びに延びた。下界では、何世代かが過ぎ去る程に。それでも、代替わりするたびに天上人の降臨の話は伝えられて行き、やっとその日を迎えたのだった。
聖宮が向かうのは光厳妙楽国。その国の太子に嫁ぎ、一時期を天上人としてではなく下界に暮らす人として過ごし、太子と夫婦になりその子を産み育てる。それは、天上人である永遠に近い生を生きる聖宮にとっては僅かな時間。その僅かな時間で、子が一定の年齢になれば聖宮は役目を終え天上界へと戻るはずだった。
下界の人間と夫婦になっている間は、聖宮は天帝より普通の人間となるべく天帝最大の奥義の一つである秘術をかけられただの人となるのだ。そうして産まれた子は、下界の人間達にとっては唯一の希望の光となる。人でありながら秀でた才を持ち、神に声を届けることも可能になるのだから。その子の出現によって下界は平穏に満たされ、天上界との堅い絆が結ばれると下界の誰もが信じて疑わなかった。
だが、天上界が用意した大きな立派な船にのり下界へと下る途中、聖宮一行は邪神の集団の攻撃を受け船は無残に破壊され、供の多くはその命を落とし、船から投げ出された者達はみな散り散りなり下界へと落ちて行った。
邪神達が何故聖宮が下界へと向かうことを知り得たのか、それは誰にもわからない。だが彼等は、下界の人間と天上界に住む天人達に絆ができることを、下界に一際優れた人間が出現することを許さなかったのだ。
この時、投げ出された聖宮を必死に庇い共に海に落ちたのは花薔仙女。そして二人から離れまいと、我が身を顧みず手を伸ばす男が一人。気がついた時には三人は、下界の何処ともわからぬ小さな島に流れ着いていた。
「此処は…、何処」
聖宮がその双眸を開いた時、見えたのは木の板とその隙間から差し込む日差しだった。
「気がつかれましたか!」
「花薔…」
声に導かれ見つめた先にいたのは、片足を引きずるように歩いて来ている花薔仙女だった。
「花薔、どうしたの!」
そう言って起き上がろうとした途端、身体を襲う痛みに “ア…ッ” っと聖宮はその美しい面を歪める。
「動かれてはなりません。下界へ落ちた時の衝撃で、お身体を強く打たれたのです。申し訳ございません、私がついていながら…」
「何を言うの花薔。貴女、足を」
花薔仙女は聖宮を守るため、自分の荷物は身に着けていた薬の瓶以外すべてを捨て、聖宮を自らの身体で包み込むようにして大海原に落ちた。その衝撃は、如何程のものだったか。
だが足を痛めただけですんだのは、海に落ちる寸前に花薔の身体を庇うように自分の身体を下にして海に落ちた男がいたからだ。彼がいなければ、自分も聖宮ももっと酷い怪我をしていたに違いない。
花薔は女仙だ、仙術を使えば大概のことはなんとかなる。天帝一族である聖宮もまた然り。だが今、聖宮はただの人であり何の力も持たないのだ。花薔が飲ませた薬のおかげで傷や赤みなどはきえたが、まだ少しの痛みは残っている。花薔の足も、自らが作った薬がなければ歩けなくなっていたかも知れない。
「私の足はしばらくすれば治ります。何処か痛いところはございませんか」
「大…丈夫、よ。動かなければ、なんともないわ」
「そうですか。では、此方をお飲み下さいませ」
花薔は聖宮の枕元に近づき座り込むと、持っていた小瓶から一粒の小さな丸薬を取り出し聖宮に飲ませた。その時
「花薔仙女、食べ物を持って来ました」
と男の声がして、一人の若い男が入って来た。彼は、下界へと下る聖宮の供として船に乗った下級神の一人で、海に落ちる寸前に花薔と聖宮を自らの身を挺して守った男である。
彼の見た目は至って普通の天上人。だがその身体は信じられない程に屈強で、背中に内出血の痕こそあれど痛みなどはなく、動くにはなんの支障もなかったのだ。
「そう…なの…」
「申し訳ございません」
聖宮は “仕方のないことよ” と言って二人を見つめる。身体の痛みもなくなり動けるようになった聖宮は、今初めて自分の置かれている状況を知った。
大海原に落ちた三人は波に流され、何処ともわからぬ小島に流れ着いたそうだ。小さな村があるだけのこの島では大海原を越えられるだけの船などはなく、住民達は自給自足のような生活をしており、光厳妙楽国が何処にあるのかもわからない。光厳妙楽国に行くことはおろか、手紙を出すこともできないと言うのだ。
せめて道観か廟でもあれば、女仙の花薔が祈りを捧げれば天上界へと届き居場所を知らせることができるのだが、この小島の住人達は自然信仰で山や海に祈りを捧げるためそれもない。聖宮には、天上界にも光厳妙楽国にも自分達の居場所を知らせるすべが、何もなかったのだ。
これにより、天帝の妹であるにも関わらず聖宮は約二年もの間行方不明となり、天上界も下界も血眼になって捜索をすることになる。
********
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
安寧→穏やかにおさまり、異変、不安などがないこと。無事でやすらかなこと。特に、世の中が穏やかで安定していること
疲弊→心身がつかれて弱ること。経済状態などが悪化して活力をなくしてしまうこと
恩赦→罪を犯した人の刑罰を、特別に軽くしたり、消滅させたりする制度
賢帝→賢明な帝王
平穏→変わったこともなく、おだやかなこと。また、そのさま
顧みず→振り返らず、考えず、ものともせず、などの意味の表現
大海原→広々とした海。大海
如何程→物事の分量、程度、価値などの数値が、限度のわからないほど多い意を表す。どれほど多く。たくさん。どんなにひどく
大概→物事の全部ではないが、その大部分。ほとんど。だいたい
然り→『そうだ』『その通りだ』『同様である』という意味で用いられる文語的な表現
丸薬→飲みやすくするため、練り合わせて球状にした薬剤
身を挺する→身を投げ出し、人に先んじて事にあたり
屈強→きわめて力が強く頑丈なさま
支障→さしつかえ。さしさわり
道観·廟→道教の神々を奉祀し、道士が祭儀を営む建物。仏教の寺院に相当する
血眼→他のすべてを忘れて一つの事に熱中すること。逆上して目を真っ赤にしていること
次回投稿は2023年1月13日か14日が目標です。
今年も一年、つたない文章にお付き合いくださりありがとうございましたm(_ _)m
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