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第二章
泥中蓮花《二》
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巨大な猪の形をした妖魔に突き落とされるのが先か、それとも邪神達の剣に倒れるのが先か。そうとしか考えられない中、玄奘達は自らの武器を振るい闘うしかない。
一進一退と言うよりは攻め込まれるだけのようにも見える中、金角と銀角の刀が突き刺さったままの妖魔が、必死に自分の刀にしがみつく金角と銀角を一緒に連れどんどんと近づいてくる。
二人の刀がささり、他よりは勢いが落ちているとは言え、このまま行けば巻き添えをくらい一緒に蹴散らされるか、あるいはあの巨体に吹き飛ばされ後ろの崖から真っ逆さまに激流に落ちるかのどちらかしなない。
「邪魔だ!」
沙麼蘿が、堕ちた道神の男の剣を払い除け、近くの妖魔を斬り裂く。だが、玄奘達の元に妖魔が近づくまでに辿り着けるかどうか。悟浄の刀だけでは全ては斬り倒せない。
「どちらが邪魔か。お前さえいなければ、天上の桜の鍵など手に入れたも同然だ!」
「私がいなければ、な」
不敵の笑みを見せた沙麼蘿が、力の限り振り下げた氷龍神剣が男の剣を真っ二つにして切り落とす。
「な…ッ!!」
「言ったはずだ。これは宝剣ぞ、修羅界の王であった阿修羅のな。お前のような者が持つ、その鈍らな剣とは違うのだ」
剣と共に男を蹴り倒した沙麼蘿が視線を向けた時、悟空の如意金箍棒がズズッと伸びて、両側の岩肌に突き刺さったところだった。悟空の如意金箍棒は神珍鉄製で、見た目に反して大変重い。だが果たして、あの妖魔の動きを止めることができるのかどうか。
妖魔一体なら何とかなるかも知れないが、金角と銀角を連れたままの妖魔の周りには、何十体もの妖魔がいる。このまま行けば、悟空と如意金箍棒の方が弾き飛ばされるかも知れない。
如意金箍棒に足を引っ掛けた形になった妖魔の躰が揺らぐ、そしてその反動でドンと言う音と共に今までとは真反対側の揺れに飲み込まれた金角と銀角の刀が妖魔の躰から外れ、それを掴んでいた金角と銀角の小さな身体も空中を舞うようにして崖に向かって飛ばされる。
「琉格泉!!」
沙麼蘿の声に、琉格泉が体を反転させ宙を駆けた。だが、すでに金角と銀角の身体は崖のさらに先へ飛ばされている。それでも琉格泉は空中で金角の衣を口で噛むようにして掴み取ると、その身体を自分の背中に向かって投げ飛ばす。そして次に銀角の衣を同じようにして掴むと、サッと背中に向かって投げ飛ばした。
次の瞬間、次から次へとこちらに向かって来る妖魔の大群に耐えきれず、悟空と如意金箍棒が弾き飛ばされる。後ろへ後ろへと追い立てられる玄奘達にはもう逃げ場ない。その時、琉格泉が何かに助けを求めるようにして空に向かって吠えた。
弾き飛ばさた悟空は何とか地面の上に着地しようとしたが、飛ばされた身体は崖を飛び越え下には激流しかない。何とか手に持つ如意金箍棒を崖に突き刺し下に落ちることは免れたが、それも何時まで持つか。このままでは全員激流へ向かって真っ逆さまだ。
そしてついに、もう後ろには大地が何も無い。そこま追い立てられた時、沙麼蘿は叫んだ。
「来い、氷龍!!」
それを玄奘一行は、驚きの表情で見つめた。なぜなら沙麼蘿の氷龍神剣は、皇がいなければ世界中を凍り尽くす代物だからだ。そしてついに下に落ちるだけしかない、そうなった時
「玉龍、根性を見せろ!!」
と、さらなる沙麼蘿の叫び声がした。月亮の肩に乗って戦況を見ていた玉龍は、その肩から崖の向こう側に向かって飛び出すと、いつもの “ピューー!!”と言う鳴き声とは違う声をあげる。
「キュウゥゥゥー!!」
今この場所で、斜め掛けしている鞄の中から力の源にもなる黄仙桃を取り出して食べている暇はない。だとすれば、本当に根性だけで龍神の姿に戻るしか、皆を救える方法はないのだ。だがその龍神としての力を発揮できる時間は、ほんのわずかしかない。
「李子! 月亮! 玄奘達を頼む!!」
沙麼蘿の声に、玄奘一行は玉龍を信じて崖の向こう側へと飛び込んだ。李子が持つ天女の羽衣である披肩が、長い長い紐のようになり悟浄と八戒の身体に次々と巻き付くと、同じく月亮も右手の腕釧を鞭に変え、細く割いた皮を編み込んだ様な長い縄を玄奘の身体に巻き付ける。
小さな小さなハムスターの体が形を変え真っ白な龍神が姿を現すと、悟空が崖に突き刺していた如意金箍棒を小さくして引き抜き、玉龍の背中めがけて飛ぶ。悟空を背中に乗せた玉龍は、李子や月亮、悟浄や八戒や玄奘を少しずつ激流に向かって落ちながらも回収するようにして背中に乗せて行く。そして全員を乗せ終わった時、上空に氷の雲が現れて、その中から氷でできた龍が顔を覗かせた。
それを見た沙麼蘿は、自ら崖に身を投げるようにして地面を蹴り、背中から激流へと落ちる。その時、右手の剣は上空に向かって掲げたまま、もう片方の手は琉格泉へと伸ばし
「喰らい尽くせ、氷龍!!」
と叫ぶ。咆哮を上げながら、氷の龍が降臨する。それは真っすぐに妖魔と邪神達に向い、辺りが冷気に包まれ凍りついて行く。木々も山も崖も激流さえ凍りついて行く中、遥か彼方から少しずつ近づいて来るその気配に、沙麼蘿は剣を下ろした。あとは、皇が何とかしてくれる。
それと同時に沙麼蘿と琉格泉、金角と銀角は激流が流れる川の先で姿を消し、玄奘達を背に乗せた玉龍もまた、その川の先で消えた。
幾つにも分かれた川の先、彼らは一体何処へと辿り着くのか。それを知るのは、沙麼蘿のみだった。
********
鈍ら→刃物の切れ味が悪い、鈍いさま。または、そのような刃物のこと
黄仙桃→一口食せばいかなる病や呪いも治すと言われる桃で、龍神達の嗜好品でもある
次回投稿は6月22日か23日が目標です。
一進一退と言うよりは攻め込まれるだけのようにも見える中、金角と銀角の刀が突き刺さったままの妖魔が、必死に自分の刀にしがみつく金角と銀角を一緒に連れどんどんと近づいてくる。
二人の刀がささり、他よりは勢いが落ちているとは言え、このまま行けば巻き添えをくらい一緒に蹴散らされるか、あるいはあの巨体に吹き飛ばされ後ろの崖から真っ逆さまに激流に落ちるかのどちらかしなない。
「邪魔だ!」
沙麼蘿が、堕ちた道神の男の剣を払い除け、近くの妖魔を斬り裂く。だが、玄奘達の元に妖魔が近づくまでに辿り着けるかどうか。悟浄の刀だけでは全ては斬り倒せない。
「どちらが邪魔か。お前さえいなければ、天上の桜の鍵など手に入れたも同然だ!」
「私がいなければ、な」
不敵の笑みを見せた沙麼蘿が、力の限り振り下げた氷龍神剣が男の剣を真っ二つにして切り落とす。
「な…ッ!!」
「言ったはずだ。これは宝剣ぞ、修羅界の王であった阿修羅のな。お前のような者が持つ、その鈍らな剣とは違うのだ」
剣と共に男を蹴り倒した沙麼蘿が視線を向けた時、悟空の如意金箍棒がズズッと伸びて、両側の岩肌に突き刺さったところだった。悟空の如意金箍棒は神珍鉄製で、見た目に反して大変重い。だが果たして、あの妖魔の動きを止めることができるのかどうか。
妖魔一体なら何とかなるかも知れないが、金角と銀角を連れたままの妖魔の周りには、何十体もの妖魔がいる。このまま行けば、悟空と如意金箍棒の方が弾き飛ばされるかも知れない。
如意金箍棒に足を引っ掛けた形になった妖魔の躰が揺らぐ、そしてその反動でドンと言う音と共に今までとは真反対側の揺れに飲み込まれた金角と銀角の刀が妖魔の躰から外れ、それを掴んでいた金角と銀角の小さな身体も空中を舞うようにして崖に向かって飛ばされる。
「琉格泉!!」
沙麼蘿の声に、琉格泉が体を反転させ宙を駆けた。だが、すでに金角と銀角の身体は崖のさらに先へ飛ばされている。それでも琉格泉は空中で金角の衣を口で噛むようにして掴み取ると、その身体を自分の背中に向かって投げ飛ばす。そして次に銀角の衣を同じようにして掴むと、サッと背中に向かって投げ飛ばした。
次の瞬間、次から次へとこちらに向かって来る妖魔の大群に耐えきれず、悟空と如意金箍棒が弾き飛ばされる。後ろへ後ろへと追い立てられる玄奘達にはもう逃げ場ない。その時、琉格泉が何かに助けを求めるようにして空に向かって吠えた。
弾き飛ばさた悟空は何とか地面の上に着地しようとしたが、飛ばされた身体は崖を飛び越え下には激流しかない。何とか手に持つ如意金箍棒を崖に突き刺し下に落ちることは免れたが、それも何時まで持つか。このままでは全員激流へ向かって真っ逆さまだ。
そしてついに、もう後ろには大地が何も無い。そこま追い立てられた時、沙麼蘿は叫んだ。
「来い、氷龍!!」
それを玄奘一行は、驚きの表情で見つめた。なぜなら沙麼蘿の氷龍神剣は、皇がいなければ世界中を凍り尽くす代物だからだ。そしてついに下に落ちるだけしかない、そうなった時
「玉龍、根性を見せろ!!」
と、さらなる沙麼蘿の叫び声がした。月亮の肩に乗って戦況を見ていた玉龍は、その肩から崖の向こう側に向かって飛び出すと、いつもの “ピューー!!”と言う鳴き声とは違う声をあげる。
「キュウゥゥゥー!!」
今この場所で、斜め掛けしている鞄の中から力の源にもなる黄仙桃を取り出して食べている暇はない。だとすれば、本当に根性だけで龍神の姿に戻るしか、皆を救える方法はないのだ。だがその龍神としての力を発揮できる時間は、ほんのわずかしかない。
「李子! 月亮! 玄奘達を頼む!!」
沙麼蘿の声に、玄奘一行は玉龍を信じて崖の向こう側へと飛び込んだ。李子が持つ天女の羽衣である披肩が、長い長い紐のようになり悟浄と八戒の身体に次々と巻き付くと、同じく月亮も右手の腕釧を鞭に変え、細く割いた皮を編み込んだ様な長い縄を玄奘の身体に巻き付ける。
小さな小さなハムスターの体が形を変え真っ白な龍神が姿を現すと、悟空が崖に突き刺していた如意金箍棒を小さくして引き抜き、玉龍の背中めがけて飛ぶ。悟空を背中に乗せた玉龍は、李子や月亮、悟浄や八戒や玄奘を少しずつ激流に向かって落ちながらも回収するようにして背中に乗せて行く。そして全員を乗せ終わった時、上空に氷の雲が現れて、その中から氷でできた龍が顔を覗かせた。
それを見た沙麼蘿は、自ら崖に身を投げるようにして地面を蹴り、背中から激流へと落ちる。その時、右手の剣は上空に向かって掲げたまま、もう片方の手は琉格泉へと伸ばし
「喰らい尽くせ、氷龍!!」
と叫ぶ。咆哮を上げながら、氷の龍が降臨する。それは真っすぐに妖魔と邪神達に向い、辺りが冷気に包まれ凍りついて行く。木々も山も崖も激流さえ凍りついて行く中、遥か彼方から少しずつ近づいて来るその気配に、沙麼蘿は剣を下ろした。あとは、皇が何とかしてくれる。
それと同時に沙麼蘿と琉格泉、金角と銀角は激流が流れる川の先で姿を消し、玄奘達を背に乗せた玉龍もまた、その川の先で消えた。
幾つにも分かれた川の先、彼らは一体何処へと辿り着くのか。それを知るのは、沙麼蘿のみだった。
********
鈍ら→刃物の切れ味が悪い、鈍いさま。または、そのような刃物のこと
黄仙桃→一口食せばいかなる病や呪いも治すと言われる桃で、龍神達の嗜好品でもある
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