12 / 21
ふたつめの話
12:ふたつめの話、エピローグ
しおりを挟む――竜による新たな被害が出たという話が私の元へと届いたのは、その被害が発生してから随分と時間が経って頃のことだった。
なぜ私のところにまで話がやってきたのか、という理由については考えるまでもない。
……なんといっても、竜退治の英雄様だからね。
多くの人間による勘違いとわずかな権力者の勝手な都合によって、私個人としては甚だ不本意ながらもその立ち位置を得てしまったがゆえに。
その結果として、その手の話は規模の大きなものから小さなものまで、真偽を問わずに――頼んでもいないのに向こうから舞いこんでくるようになっていたからである。
……ホント、引く手数多で大変だ。
一件片付ければ二件増える。
そんな感じで限りがない。
終わりが見えない。
……正直なところを言えば、全部投げ出してしまいたかったが。
あの竜の名誉を回復するという目的を未だ果たせずにいる状態では、そうするわけにもいかなかった。
偽りの名声とはいえ、そのお陰で金を得られて生活は豊かになったから。
一時は、だったらそれでいいじゃないかと思うこともあったのだけれど。
……私は私が思う以上に義理堅かったらしい。
否、頑固だったようだと表現するべきであろうか。
……まぁどう表現するかが違うだけだな。
目的を諦めきれなかったことだけは間違いない。
ただひとつの事実を認めさせたいという願望を。
捨て切れなかった自分がいたからこの生活が続いていることに間違いはない。
ただ、文字に起こしてしまえば簡単に思えるたったひとつのことを現実のものとするのは非常に難しかった。
私の言葉を多くの人間に信じさせるためには、幾つもの結果を残さなければならないが。
そうなるまでにどれだけの数と時間が必要であるのかなどまったくわからないという、終着点が見えないものだったからだ。
本当にそうなることがあるのかもわからなかった。
自分がそこまで続けられるのかどうかもわからなかった。
……どこまで続けられるものなのかもわかりはしないがな。
自分でもそんな風に半ば諦める気持ちを抱きながら、それでも、またひとつの案件を処理するべく現場に向かっていく足は止まらなかった。
●
――竜がやってきて生贄を求められた。
差し出したら去って行った。
その場で起こった出来事を簡単にまとめれば、そんな話であった。
脅威が既に去っていることは話を聞いたときから把握できていたし、周囲の人間からは行く必要がないとまで言われていた案件だったけれど。
私は私の目的のために、その場に行く必要があった。
「それは本当に起こった出来事ですか?」
当事者たちに、そう確認しなければならなかったからだ。
……事実を知らしめる。
ただそれだけのために。
「竜が生贄を求めるというのはよくある話ですが。
全ての人間が善人でないのと同じように、全ての竜がそうするわけではありません。
人間が勝手にそう思い込み、行動した結果によって不幸な出来事が起こることもあるのです」
だから聞くのだ。
「もう一度確認します。
先ほど伺った通りの経緯で、本当にそれが起こったのですか?
――今私が見せた結果は見えますね? 理解できていますね?
それでは、よく考えてお答えください」
私が誰に靡くでもなくそうし続けることによってのみ、私の目的が達成されるからだった。
「嘘は許しませんよ。見抜けないとお思いですか?
……さあ、事実を語ってくださいね」
●
・――生贄を求めて彷徨う竜がいるという風説が流れ始めました。
・――邪竜および悪竜というあだ名が追加されました。
・――一人の信者による風説を正すための活動は継続中です。
0
あなたにおすすめの小説
それは思い出せない思い出
あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。
丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる