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第3 全ての始まり 2

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なぜだろう。同じ顔を持つ双子なのに。
生まれたのがたった数分の差だっただけで、どうしてこんなに無碍にされるのだろう。

あまりのことに呆然としていたのかもしれない。
次に私がハッキリと周りを認識できた時には、もうお父様の姿はどこにもなかった。

目の前に居たのは痛々しく、頭に包帯を巻いて、右腕を包帯で吊った若い男性ーカナトス卿の令息、リオネル様だった。

私はここで何をすれば良いのだろう。
そもそもエレンとして振る舞ったところで、お父様は本当に気付かれないと思っているんだろうか。それとも気付かれたところで、私の身1つで収まるならばどうだっていいのだろうか。

「顔色が悪いみたいだが、大丈夫か?」

近付いてきたリオネル様は心配しているようだった。

「申し訳ございません。私は大丈夫です」

今はこの茶番を続けるしかない。でもいつ気付かれてしまうか分からない不安で、私はますます緊張していた。

「大丈夫だ。こういった形で呼びつけてしまったけど、決して貴女に悪いようにはしないから」

そう言ってリオネル様は優しく私に笑ってくれた。
自分の方が大けがなのに。気遣われたことに戸惑って少しだけ心が軽くなった。

「なぜ、今回は私をお呼びになられたのでしょうか?」

たった今、交わした会話だけでもリオネル様の人柄が感じられるようだった。それだけに、こうやって向かい合っている今でもお父様の言葉が信じられない。

「貴女へは申し訳ないことをしてしまった。日頃忙しくて女性へ眼を向けていなかったのが悪かったのだろう。貴女の話を出した途端に私の父が先走ってしまったようだ」

それはきっと本当のことなのだろう。「困った・・・」と溜息を吐いたリオネル様の顔には、申し訳なさがハッキリと浮かんでいた。

その姿に、私は何年も前に1度だけ会った時のことを思い出し、変わっていない様子に思わず微笑んだ。

出会ったあの日は、急遽エレンの代わりに出された御茶会でのことだった。

作法だけは見よう見まねで知っていた。でも知っているだけで、やったことなんかなかったのだ。

もし粗相をしてエレンの顔に泥を塗ってしまったら。両親は私をひどく罵るはずだ。もしかしたら食事さえもしばらく与えてもらえない。

だんだん不安と緊張でどうしようもなくなって、私は招かれていた庭の人気のない所へ逃げ込むのが精一杯だった。
人目につかない場所にホッとした。
そんな時に、同じように紛れ込んで来て、終わるまでの時間を一緒に過ごしたのがリオネル様だったのだ。

きっとリオネル様は覚えていない。でも私にとっては初めての恋と一緒に、ずっと大切にしてきた思い出だった。

「とんでもございません。この度は私の為にお怪我を負ってしまわれ、申し訳ございません。1年間しっかりとお役に立てるように頑張ります」

だから、私は本心からそう言えた。むしろずっとずっと不相応だと抑えてきた感情がトクトク、トクトクと胸を高鳴らせて主張していた。

「そうか…じゃあ、申し訳ないが、1年間よろしく頼む」

優しく笑いかけてくれたリオネル様に、私の心はキュッとなる。あれから何年も経っているのに。やっぱり今でも好きだった。

だから、私は心に決めた。

そばに居られる1年間だけのことだから。私はこの気持ちを認めて恋をしよう、と。

そうは言っても、お父様が言うようにたらし込むようなマネはしない。だけど特別な人と一緒に過ごせる時間なのだから。大切な想い出として覚えていたかった。

だから喜んでしまう自分の心ぐらいは許そうと、私はそっと心に決めた。
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