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第18 サポート役ですから…? 3
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「まぁ、素敵なネックレス! 繊細に掘られた花びらもこの澄んだ青色も! こんな綺麗なトパスト石を見たのは始めてですわ!」
エディス様の口から出たその名前に、私の胃の辺りがヒヤッとする。
トパスト。
それは彫刻を施した青色の宝石として、この国でとても有名な石だった。
含水量のおかげで柔らかく彫刻を施しやすいその石は、逆に含水量が多いため光にかざすとすこし曇った青色で、彫刻がなければ価値の低い石なのだ。
彫刻をほどこされたメリーナ様のネックレスを見て、エディス様のようにトパストの首飾りだと思ってしまう人は多いと思う。
だからその言葉も純粋な賞賛から出た言葉なのかもしれなかった。だけどその石を所有する者に『トパスト』という言葉はダメなのだ。
「…エディス様、あなたは何もご存じないようね」
みるみると不機嫌そうになるメリーナ様を前にして、何が起きたのか分からないエディス様は、おろおろとうろたえていらっしゃるようだった。
そんなエディス様へ盛大に溜息を吐いてみせたメリーナ様がようやく私へも話しかける気になったのだろう。
「ブランシャール男爵令嬢はこちらをご存じかしら?」
そう質問しながらも全く答えを期待している様子はない。
メリーナ様の表情も、黙って成り行きを見ているエディス様の表情も、『男爵令嬢ごときに分かるはずがない』とでも言っているようだった。
そんなエディス様とメリーナ様の様子に私はどう振る舞った方が良いのだろう。持っている知識をひけらかす事が正解でない時もある。
特にこういう場所でのエレンの振る舞いが分からないのだ。エレンではないと気づかれない振る舞いに私は悩んでしまう。
だけど私には少し気にかかることもあって、メリーナ様とこの石についてお話しを続けたかった。
それにいくらサボリがちだとは言っても、専属の家庭教師までつけているはずなのだ。エレンが私より知識が劣ることはないだろう。知識を披露したとしてもエレンが困ることはないはずだ。たぶん。
「そちらは『オルスクレーム』ではございませんか? この国にはあまり流通しておりませんので、市場でもトパストと間違えられてしまう事が多いのですが、この透明度でございましたらオルスクレームかと存じます」
「まぁ! 貴女様はご存知でいらっしゃったんですね!」
私の答えに目を大きくしたメリーナ様へ私は小さく苦笑した。
「我が家は商会を持っておりますので」
そのため成金貴族と揶揄されている状況だということは、メリーナ様もよく知っているはずだった。
だけどオルスクレームを知っていたように、色々な商品を異国からも取り入れているおかげで、珍しい物を目にする機会は多いのだ。
しかも日頃は裏方で働いている私がエレナの代役で表に出る時も、男爵令嬢というよりは商人の娘であったおかげで、商人としての経験や知識を得ていることも大きかった。
「過去に1度だけ拝見したことがございます。トパストとは違って青く澄んだ石の美しさを今でもしっかりと覚えています」
「そうなんです! 私もこの美しさに惹かれてしまって父に手に入れて頂きましたの!」
価値が分かる者が居たことが嬉しかったのかもしれない。メリーナ様は頬を染めて誇らしそうにその首飾りを撫でていた。
視界の端に見えていたエディス様の顔が微妙に引きつったように一瞬見えた。エレンの今後のためにもなにかフォローは入れた方が良いかもしれない。
エディス様の口から出たその名前に、私の胃の辺りがヒヤッとする。
トパスト。
それは彫刻を施した青色の宝石として、この国でとても有名な石だった。
含水量のおかげで柔らかく彫刻を施しやすいその石は、逆に含水量が多いため光にかざすとすこし曇った青色で、彫刻がなければ価値の低い石なのだ。
彫刻をほどこされたメリーナ様のネックレスを見て、エディス様のようにトパストの首飾りだと思ってしまう人は多いと思う。
だからその言葉も純粋な賞賛から出た言葉なのかもしれなかった。だけどその石を所有する者に『トパスト』という言葉はダメなのだ。
「…エディス様、あなたは何もご存じないようね」
みるみると不機嫌そうになるメリーナ様を前にして、何が起きたのか分からないエディス様は、おろおろとうろたえていらっしゃるようだった。
そんなエディス様へ盛大に溜息を吐いてみせたメリーナ様がようやく私へも話しかける気になったのだろう。
「ブランシャール男爵令嬢はこちらをご存じかしら?」
そう質問しながらも全く答えを期待している様子はない。
メリーナ様の表情も、黙って成り行きを見ているエディス様の表情も、『男爵令嬢ごときに分かるはずがない』とでも言っているようだった。
そんなエディス様とメリーナ様の様子に私はどう振る舞った方が良いのだろう。持っている知識をひけらかす事が正解でない時もある。
特にこういう場所でのエレンの振る舞いが分からないのだ。エレンではないと気づかれない振る舞いに私は悩んでしまう。
だけど私には少し気にかかることもあって、メリーナ様とこの石についてお話しを続けたかった。
それにいくらサボリがちだとは言っても、専属の家庭教師までつけているはずなのだ。エレンが私より知識が劣ることはないだろう。知識を披露したとしてもエレンが困ることはないはずだ。たぶん。
「そちらは『オルスクレーム』ではございませんか? この国にはあまり流通しておりませんので、市場でもトパストと間違えられてしまう事が多いのですが、この透明度でございましたらオルスクレームかと存じます」
「まぁ! 貴女様はご存知でいらっしゃったんですね!」
私の答えに目を大きくしたメリーナ様へ私は小さく苦笑した。
「我が家は商会を持っておりますので」
そのため成金貴族と揶揄されている状況だということは、メリーナ様もよく知っているはずだった。
だけどオルスクレームを知っていたように、色々な商品を異国からも取り入れているおかげで、珍しい物を目にする機会は多いのだ。
しかも日頃は裏方で働いている私がエレナの代役で表に出る時も、男爵令嬢というよりは商人の娘であったおかげで、商人としての経験や知識を得ていることも大きかった。
「過去に1度だけ拝見したことがございます。トパストとは違って青く澄んだ石の美しさを今でもしっかりと覚えています」
「そうなんです! 私もこの美しさに惹かれてしまって父に手に入れて頂きましたの!」
価値が分かる者が居たことが嬉しかったのかもしれない。メリーナ様は頬を染めて誇らしそうにその首飾りを撫でていた。
視界の端に見えていたエディス様の顔が微妙に引きつったように一瞬見えた。エレンの今後のためにもなにかフォローは入れた方が良いかもしれない。
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