妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
49 / 58

第49 初めまして、愛される日々 6

しおりを挟む
「失礼致しました。そのような点からブランシャール男爵令嬢をおそばへ置かれて居たのですね」

「えぇ、レナは日頃から商会を通じて学ばれていたようで、リオネルをサポートするには十分の知識を持ち合わせていましたから、本当に助かりましたわ」

「まぁ、そうでしたの。素晴らしいわ」

私に向かって、にこやかに笑うエバース伯爵夫人が何を考えているのかは分からなかった。

だいぶ社交界ではやり手な方なのかもしれない。考えを読ませないその笑顔は、まるで大きなギルドの代表の方々を前にした時のようだった。

「お褒めにあずかり光栄でございます」

だから、私も目を反らさずにニコッと微笑み返した。

視線を逸らしたり、謙遜したり、自分を小さく見せたりしたらダメなのだ。あくまでも言葉や態度は下手に出つつ、気持ちは一歩も譲らないぐらいの意気込みでいないと、こういう相手には飲まれてしまう。

「では、娘にもその辺りの知識を教育致しましょう」

「いえ、これは私どもカナトス領に限った話ですわ。ミカエラ様はご立派な淑女でいらっしゃいますもの、すでに数多引く状態だとうかがっていますわ。それにレナをそばに置きますのも、これだけの理由ではありませんから」

「……では他にどのような理由が?」

「あら、ちょうど当人がやってきましたわ。見ていらっしゃいますと、よく分かりますわよ」

「マ、マエリス様」

視線を向けた先には使用人に案内をされるリオネル様の姿があった。ようやくご用が終わったのだろう。

この後ご一緒できることは嬉しい。だけど、今は私にとってはタイミングが悪かった。

クスクスと面白そうに笑うマエリス様が何を指しているのか。それがハッキリと分かる私は恥ずかしくて仕方がなかった。

その声に私の方を向いたリオネル様が、フワッと柔らかな笑顔になった。そのまま使用人の方を断って早足で近付いてくる。

「だいぶ待たせただろうか?」

そばに立ったリオネル様は何がそんなに嬉しいのか、と戸惑ってしまうほどニコニコと微笑んでいた。

「リオネル、こちらはエバース伯爵夫人とミカエラ令嬢ですわ」

「リオネル様、本日はお会いできて光栄ですわ」

とびっきりの笑顔を浮かべたミカエラ様の顔からは、さっきまでの険しさは消えていた。やっぱり鍛え抜かれた令嬢のスキルは素晴らしいものだった。

「あぁ、私もだ」

その挨拶へリオネル様が表情を調え、口許へ柔らかな笑みを浮かべて挨拶を返す。最近ではご一緒の時には全く見ない、よそ行き用の笑顔だった。

「よろしければ、改めてあちらにお茶の席を設けますため、このままリオネル様もご一緒にお茶などいかがでしょうか?」

そう言ってエバース伯爵夫人が使用人を呼び寄せようとする動きをリオネル様が片手を上げて制止した。

「いや、今日はこの後に予定も詰まっている。遠慮をしておこう」

そう言って微かに微笑んだリオネル様の表情は、これまで市井でよく耳にしていた通り、爽やかさで満ちていた。

リオネル様が向けていた視線に「そうね」とマエリス様も頷いて立ち上がる。

「では、行こうかレナ」

だけど私に手を差し出した途端、リオネル様の顔や声がガラリと変わってしまうのだ。ひどく甘いその声音に、慣れない私は差し出された手を取る動きが止まってしまう。

勘違いなんて言葉では片付けきれないほど、あからさますぎる差だった。私はまた顔が熱くなって、もういっそうのこと逃げ出したい気持ちにさえなってくる。

「ほら、ごらん頂けましたでしょ? この状況を」

マエリス様がおかしくて仕方がない、というようにクスクス笑っていた。

これまでに市井で見られていたリオネル様の姿とあまりに違っているせいだろう。チラッと見たエバース伯爵夫人とミカエラ様はもう呆気にとられているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

処理中です...