大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
5 / 5

第5 ××をなくして、初めて好きだと言えます

しおりを挟む
あれから私は1ヶ月近く眠りに落ちていたようでした。

「テディエス、体調はどうだ?」

そんな私を心配して、今日もアレクス様が見舞って下さる状況なのです。もう大丈夫だと何度もお伝えしているのですが、それでも心配だと仰います。

そんなご迷惑をお掛けしている状況に、私は困ってしまっておりました。

「大丈夫です。特に変わりはありません」

かつてのような胸の痛みも苦しみも、もう私には残っていません。初めは光さえ感じなかった目も、今はぼんやりと形が見えてきています。私はアレクス様だと思われる影に、ニコッと微笑んで見せました。

あの日、だいぶ調子の悪かった私を救って下さるためにアレクス様は守り人レナント族の地へ早馬を出して下さったようです。

それからは私の故郷との間で色々なことが起きてしまったようなのですが、いくらかの物資とアレクス様の最も大切とするモノを差し出されたことで、決着したと伺ったのです。

その時に何を差し出させてしまったのでしょう。そのお話を聞いてすぐにお伺いしてみたのですが、アレクス様は私へは教えて下さる気はないようでした。

どうしてこんなことになってしまったのかを、私はしっかり覚えています。ただ嘘を吐けない守り人レナント族である私が、なぜそんな事をしてしまったのかは、思い出しても理解ができない状態でした。

でも、そんな自業自得としか言えない私に、アレクス様がここまでやってくれたのです。そしてなにかを失わせてしまったのです。

私はそのことが申し訳なくてしかたありません。ですから精一杯お返ししようと思うのです。ただアレクス様の大切なものがなんだったのか、分からない私にお返しすることができるのか。それがだいぶ不安ですが、とにかく頑張るしかありません。

「嫌いなはずの私に、ここまでして頂きありがとうございます」

「違う! 本当は嫌ってなどはいないんだ!」

「ふふっ、大丈夫ですよアレクス様。そこまで気を遣って頂かなくても、しっかりとご恩は返してまいります。それに私はアレクス様もこの国もちゃんと大切に思っておりますから」

そうなのです。私はちゃんと大切に思っていたはずなのです。それなのに、どうしてあんなに必死になって「嫌い」だと伝える必要があったのでしょう。

今の私にはやっぱり分からないようでした。

「テディエスは、今は私が嫌いではないのか?」

「嫌いではありません! 皆様と同じように大切に思っておりますよ」

「他と同じか?」

「えぇ、故郷のお姉様やお父様と同じように、大切な家族だと思って好いております」

アレクス様はお優しい方でいらっしゃいます。私を嫌っていらっしゃっても、この国と生まれるべき子のためにも、どうにか折り合いを付けてやっていって下さると私は信じているのです。

「一緒に責務を果たしてまいりましょう」

でもそう言ってニッコリと笑った私の手をギュッと握るアレクス様の手が震えているような気がします。

「アレクス様? どうされましたか?」

「……私は責務としてではなくて、テディエスを本当に愛おしいと思っているよ」

私のことをずっと嫌いだと思っていたアレクス様のそんな言葉に私はとても驚きました。だけどそれ以上に、伝えてくるその声があまりに切なく聞こえてきて、私まで苦しくなってくるようでした。でもアレクス様のその気持ちに寄り添うことは私にはできそうにないのです。

「申し訳ございません……」

私にもアレクス様が仰るような、そんな気持ちがあったことは覚えています。それなのになぜか今では全く分からなくなってしまっている状態でした。

「……テディエスが謝ることではないさ。分かっていたことだからな」

アレクス様の声が少し震えたような気がします。その直後にポタッと手の甲に雫が落ちた感触がしました。

「あぁ、悪い。髪が濡れていたものだから、雫が垂れてしまったな」

「雨でも降っていらっしゃったんですか?」

「……あぁ、そうだな。ずっとあの日から降っているようなものかもな」

「えっ?」

「いや、何でもない」

そう言ってハンカチを取り出されたのでしょう。柔らかい布がそっと私の手の甲に触れて、そのまま離れていきました。

言葉の意味を聞き返すこともできないまま、消えた温もりがなぜかとても寂しい気持ちにさせます。そしてまた私の胸がズキッと痛んだようでした。でも前とは違うその痛みに心当たりのない私は、ただ首を傾げるだけでした。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました

Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい… ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。 忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。 だから私は婚約者を尾行した。 するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。 まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!! ※誤字脱字報告ありがとうございます。 ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

処理中です...