嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

猫桜

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淡雪、弟の襲来に疲弊する

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 整った冬星の顔が能面のようになった。目を細めこちらを睥睨する。
 なまじ顔が整っているだけに圧が半端ない。
 その冬星は長いまつ毛しばたかせ、目もとを笑みの形に変えた。
 にっこりと笑った冬星は

「侵害だな。僕は兄さんのことを心配してるんだよ」

「うそつけ!お前のその嘘くさい笑顔に騙されるか。何年、お前と付き合ってると思ってるんだよ」

「15年と2ヶ月」

 冬星が真顔で冷静に答えた。
 いや、ここでそう冷静に答えられると、僕の威勢が削がれて後が続かないじゃないか。

「そ、そうだ」

「で?」

 でって・・・僕が口ごもり、言葉を続けることができないでいるのを見て取った冬星は

「威勢がいいのはいいけどね、兄さん。次にどう対処するかを考えなきゃ。後先見ずに行動すると痛い目にあうと思うよ。統計学的にも歴史学的に見ても短慮、短気は碌な結末を迎えないんだからね」 

 と、出来の悪い生徒を諭すようにいう。
 統計学的って、そんなことまで統計をとるなよ、バカ。
 これだからコイツは嫌なんだ。
 ここは僕に食って掛かるか、後ろめたさ故に焦るとかしてくれないと僕の立つ瀬がない。弟なら冷静に対応なんかするんじゃないよ。 
 振り上げた拳の降ろし先をどうしてくれるんだよ。
 わなわなと震える僕を冬星がじっと見ていることに気がついた。
 
 あっ、この流れだと、まさか・・・

「その顔、口うるさいと思ってる表情だよね。ごめんなさい。出過ぎたことだとは思うよ。けどね、これも兄さんのためを思っていってるのはわかるよね」

 ゾワッと一気に悪寒が全身を巡った。
 冬星の恐ろしさは冷静に対処することじゃない。
 一歩身を引いて相手を立てつつ、情理をついて反省を促してくるのだ。
 美少年が哀しげに責めるでもなく恨みがましい台詞をいうでもなく、感情のない瞳でじっと見つめて哀訴なんてものをする姿を想像して欲しい。
 身の毛がよだつことこの上もないと思う。
 喧嘩腰ならこっちもそれ相応の態度が出来るが、引かれたらどうしようもないじゃないか。
 こいつ、前世は悟りを開いたお坊さんか高僧で、毎日毎夜説教三昧していたに違いない。絶対にそうだと自信を持って断言できる。
 ホント、弟から諭される兄の身になってみろ。いたたまれないことこの上もない。
 くーっ、この遣る瀬ない思いをどうしてくれようか。

「と、まあ、意趣返しはこれくらいにしようか」

「へっ?」

 いま、何といったのかな、冬星?

「青髭鬼元帥と悪評高い大公家に嫁ぐ事になった兄さんを心配しないと思ったの?」

「心配したの?」

「心配したから父上は都筑を付けたし、何かあれば、食糧の流通を断ち、兵糧攻めをしてでも救出しようとあれこれと各方面にも手を回してたんだよ」

「あの父上が?」

「兄さん、父上を甘く見ないほうがいい。血筋と爵位だけで魑魅魍魎跋扈ちみもうりょうばっこする社交界を足元を掬われずにいられるわけないだろう。父上は案外策略家だよ」

 いまひとつ冬星の言うことが理解できない。
 下手なダジャレを言ってはウケを狙っている父上が策略家・・・どっちかというと、オヤジギャグでドン引きされてそうだけど?
 人は見かけによらないってことかぁ

「都筑や晴からは小まめに近況報告がなされているというのに、当の本人からはなしの礫だし、急に婚儀を挙げると知らされた時、ついに兄さんが大公の手にかかってこの世を去るのかと我が家は恐慌状態パニックに陥ったの知らないだろう」

 はい、知りません。
 婚儀を挙げる=成仏って、直江どんだけ悪評高いんだか。

「だから父上は言祝ぎにかこつけて、叔父上と一緒に僕を遣わしたんだよ。公配となったからには晴だけじゃ心許ないからもう一人よく出来た侍女を付け、いざとなった時には、大公の手から逃れることができるようにとね」

 冬星が合図の手を打つと二人の侍女が入ってきた。
 ひとりは年頃は二十代半ば位、ほっそりしたどこにでもいそうな侍女だったが、物腰に隙がなく、微笑んでいるけど一緒にいるとなんだか息が詰まりそうな感じだった。
侍女は頭を下げ

九重ここのえでございます。本日より淡雪様の侍女として支えさせていただきますのでよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

「九重は機転が利くから役に立つと思うよ」

もう一人は晴と同じくらいの年のようだ。くりくりとした目が印象的な可愛らしい容姿でにこにことしていた。

「安芸といいます。九重さんと同じく今日から淡雪様の侍女としてお仕えさせていただきます」

「安芸は目端が利くから兄さんや晴の補助に丁度いいから」

九重と安芸の挨拶が済むと冬星は九重を下がらせた。
ありがたいとは思うけど、なんだろう。
お目付け役がきたみたいでうんざりとするのは。
特に九重。
雰囲気がちょっと近江に似ていて合いそうにないんだよなぁと思いつつ、僕は新しい侍女達を受け入れた。

「兄さん」

冬星が嫌に真面目な表情かおをして僕を見た。
えっ!?何だよ、何?
その表情怖いんですけど・・・

「大公と初夜を過ごして以来拒んでるって真実ほんとう?」

冬星が爆弾を投下した。
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