魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

連れ去られたテト

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 テトに背後から刺され、瀕死の状態で小笠原診療所へと運び込まれた御影────

 彼の両親達も警察からの報せで診療所へと駆け付けたのだが、医者から伝えられたのは絶望にも似た話であった。


「息子さんが受けた傷は幸いにも急所からは外れておりましたが、予断は許さない状況です。急いで本土の病院へと搬送した方が宜しいでしょう」

「そんな……」


 話を聞いた月夜は目眩を起こしその場に崩れ落ちた。それを陽影が支え、彼女を椅子へと連れてゆく。


「いったいなんでこんな事に……」


 御影がいる病室にて、未だ目を覚まさぬ御影を前に瑠璃達は暗い雰囲気となっていた。


「テトちゃんも見つからんし……」


 都胡のその一言で場の空気は更に重苦しいものとなった。

 そんな時、病室に一人の人物が姿を現す。その人物は男性でスーツを着ていたのだが、暑いからか上着を脱ぎ、袖を捲った姿であった。

 その男性は瑠璃達を見渡した後、上着から警察手帳を取り出し、それをかざしながらこう述べた。


「初めまして。私は警視庁所属の刑事、〝大岡忠則おおおかただのり〟という者です……っと、瑠璃くんだったか?君と会うのは二度目だね」

「お久しぶりです……」


 大岡に問いかけられた瑠璃は暗い表情のままそう返した。


「今回のことについては私も心配している。だからこそこの事件の速やかな解決を目指している。なので君達も協力しては貰えないか?」


 大岡にそう言われ瑠璃達は互いに顔を見合せた。

 そんな彼女達の前で大岡が共に来ていた部下に指示を出すと、部下が手にしていたパソコンを開き、瑠璃達に見えるように台座へと置いた。


「これは?」

「これは御影が襲われた場所の近くに設置されていた監視カメラの映像だ。あそこはよく若者達が悪さしていると噂の場所でな……それで確認したところ、御影が襲われた瞬間が記録されていた」


 大岡はそう言うとパソコンのキーを押してその映像を再生する。するとそこには御影とテト……そしてオーガスタスとその部下達の姿があった。

 瑠璃達がその映像を確認していると、シーンは御影が刺された瞬間へと移る。それを見た瑠璃達は驚きで大きく目を見開いた。


「そんな……テトちゃんが……!」

「君達はこの少女の知り合いか?」

「あ……え~と……」


 大岡の質問に瑠璃達は直ぐに答えられなかった。

 テトの正体や事情を知っているだけに、それを教えていいものかと迷ってしまったのである。

 それを察してか大岡は諭すように瑠璃達にこう言った。


「何やら事情があるようだが……しかしここは御影の為にも話してはくれないだろうか?」

「どないする……?」

「どうするったって……」

「話したらテトちゃんと会えなくなるかもだし……」


 大岡の前で円陣を組みヒソヒソと相談し合う都胡達。すると彼女達の横を通って、瑠璃が大岡の前へと立った。


「分かりました。全てお話させて頂きます」

「瑠璃はん?!」


 〝全てを話す〟と言い出した瑠璃を都胡が引き戻す。


「何を考えとるんや?!テトちゃんの事を話したら、もう二度と会えないかもしれへんのやで?!」

「分かっている!分かってはいるが……大岡さんの協力を得られなければ、テトを連れ去って行った奴らをみすみす逃す事になるかもしれないんだぞ!」


 テトの為に大岡の協力を得たい瑠璃と、テトの為に彼女の事を隠したい都胡が互いに睨み合う。

 すると二人の間に立つように咲良が前へと出て、二人を叱責した。


「今はお互いに喧嘩をしている場合じゃないでしょ!御影くんが刺されて、テトちゃんが連れ去られて行った……瑠璃さんの言う通り、刑事さんに協力して貰わないと助けることすら出来ないんだよ!それと瑠璃さん。瑠璃さんの話も分かるけれど、都胡の気持ちも考えてあげて」

「……すまへん」

「私も……申し訳なかった」


 咲良の叱責により喧嘩を止めた二人はバツが悪そうに俯いた。

 そして瑠璃は顔を上げると、都胡にこう話す。


「私だってテトと会えなくなるのは避けたい。だから私に考えがあるんだ。だから私を信じては貰えないだろうか?」

「……分かったわ」


 今度こそ瑠璃は大岡の前に立つと、真っ直ぐと彼の目を見据えながらこう言った。


「全て話します。ですが条件があります」

「何だろうか?」

「もし、この事件が解決したとしても、テトを……この少女の事は私達に任せて貰えないでしょうか?」

「……場合による」


 テトが御影を刺したことは事実……それ故に大岡は素直にその条件を飲めなかった。

 しかし瑠璃は決してその条件を引っ込めまいと大岡から目を離そうとしない。その事に大岡が困り果てていると、再び病室のドアが開き、そこから月夜が姿を現し大岡にこう言った。


「瑠璃ちゃんの言う通り、テトちゃんの事はこの子達に任せて貰えないかしら?ねぇ、大岡くん?」

「忍足……主任……」

「やぁねぇ、〝元〟よぉ。今はただの主婦で御影のお母さんなんだから」


 大岡がかつてそう呼んでいたように月夜の名を口にすると、月夜は気恥しそうに手を振ってそう返した。

 そんな月夜は瑠璃へ笑みを向けてから大岡にこう諭した。


「ねぇ大岡くん。確かに大岡くんが考えてる事も分かるわ。でもね、例えテトちゃんが御影を刺したのだとしても、それはテトちゃん自らの意思でそうしたとは思えないの。ちょっとだけ一緒にいただけだけど、私はテトちゃんはそんな子じゃないって言えるわ」

「しかしですね……」

「大岡くん。仕事も大事だけれど、この子達の想いも大事にしなきゃね?」


 大岡はなおも反論しようとしたが、途中でそうするのを止めた。

 かつて後輩として、そして部下として共に過ごした月夜に頭が上がらなかったのである。


「それに、勝手にテトちゃんを連れてっちゃったなんて知ったら、御影が怒っちゃうかも?」

「分かりました……瑠璃くんの条件を飲みましょう」


 大岡は御影の事をよく知っているだけに、月夜が口にした〝怒る〟という単語に渋々条件を飲まざるを得なかった。

 大岡にとって、御影を敵に回すことは何としてでも避けなければならないことだったのである。

 それを聞いていた大岡の部下が抗議しようとしていたが、それを大岡が首を振って止める。


「瑠璃くん、条件は以上かな?」

「いえ……もう一つだけ」

「ふむ、何かな?」

「もし、奴らの所へ行く際は、私も一緒に連れてっては貰えないでしょうか?」

「……正気か?」


 テトを連れ去ったオーガスタス達の所へ同行するという事は、彼らとの戦闘に参加するという事である。

 それ故に大岡は瑠璃に対しそう訊ねたのだった。

 その質問に対し瑠璃は強く頷く。


「御影をこうした奴らを、私はどうしても許せないので」

「せやったらウチも行くで!」

「俺だって!」

「私も!」

「私も行くよ!」


 瑠璃を皮切りに煉、都胡、咲良、そして才加も声を上げる。


「私達はおにぃと一緒にいるよ」

「おにぃ、目が覚めたら連絡する」


 完全に一緒に行く気でいる四人に大岡が助けを求めるように月夜へと顔を向ける。

 月夜は困ったような顔をしていた。


「あらあら~……〝駄目よ〟と言っても聞いてくれそうにないわね~」

「しかし、流石に危険過ぎますよ」

「それなら私も一緒に行けばいいんじゃないかしら~?」

「なんでそうなるんですか?!」


 本来止めるべき側であるはずの月夜でさえも同行すると言い始めた事で大岡が焦った表情となる。


「いくら忍足主任といえど、もう刑事ではないんですよ?!」

「あら?確かに私は現役を退いたけれど、戦えないわけではないのよ~?だって御影を鍛えたのはこの私なんだから♪︎それにね……」


 その瞬間、室内に背筋が凍るほどの冷気が漂い始める。

 その冷気は月夜から発せられており、彼女の表情はその場にいた誰もが見たことの無いような冷たい表情をしていた。

 底冷えするような冷気に全員が震え始める。


「愛する我が子がこんな目に遭って黙ってられる親なんて居ないのよ大岡くん♪︎」


 笑っているが笑ってはいない……そんな月夜の表情に大岡はゴクリと唾を飲んだ。


(この表情……あの頃の主任のままだ……)


 大岡はそう思うと暫く考え、そして大きく息を吐いてからこう言った。


「分かりました……彼女達の同行も認めましょう」

「ちょっと大岡さん?!」


 今度こそ声を上げる大岡の部下。しかし直ぐに大岡は部下の手を引いて少し離れた位置へと移動すると、コソコソと部下にこう話した。


「問題行動である事は分かっている。責任は俺が持つ」

「どうしてそこまでして……」

「忍足主任の表情を見たか?あの表情……今でも現役でいれるレベルだ。私はあの表情の時の主任を、主任がまだ現役だった頃に幾度となく見ている」


 大岡がそう言った時、部下は思い出したかのようにこう言った。


「もしかして……あの人が大岡さんがよく話していた〝羅刹〟ですか?!」

「おい、馬鹿っ────!!」


 大岡が慌てて部下の口を塞ぐも時すでに遅し────今の言葉がバッチリと聞こえていた月夜は、先程よりも恐ろしい笑みを浮かべながら大岡を見ていた。


「あらあら~、今の話は初耳よ?大岡くん、もしかして貴方達の間では、私はそんな風に呼ばれてるのかしら?」

「いや……これはですね……言葉のあやと言いますか……ちょっとした間違いと言いますか……」

「ふふふ……お説教とお仕置、どっちがいいかしら?」

「「ヒッ────」」


 冷気を帯びた声と凍りつくような視線に大岡と部下は思わず抱き合いながら小さな悲鳴を上げる。

 その光景を見て困惑している瑠璃の元に、御夜がこう耳打ちをしてきた。


「お母さん、昔はとっても怖い人だったらしい」

「御~夜♡」

「ひゃっ────!」


 今度は御夜が御陽の背中へと隠れる。


「もうっ!なんでそんな恥ずかしい呼ばれ方をするようになったのかしら……」

「それは致し方のないことだと……いえ、なんでもありません」


 また余計なことを言おうとして月夜に睨まれ口を噤む大岡。そんな事をしている場合では無いのだが、そんな雰囲気にしてしまうのが月夜の凄いところである。

 なんとも言えない空気の中、誰かの携帯の着信音が鳴り響いた。


「お前……ここは病院内なのだからマナーモードにくらいしておけ」

「あ、すみません……」


 着信音が鳴ったのは大岡の部下の携帯であった。

 部下は少し離れてから通話ボタンを押すと、何やら小声でヒソヒソと話し始めた。そして暫くしてその部下が大声をあげる。


「えっ?!それは本当ですか!!」

「うるさいぞ。もう少し静かに電話出来ないのか?」

「あっすみません……あまりの情報に思わず……」


 部下はそう言いながら電話を切ると、そのまま大岡へと耳打ちをする。

 するとそれを聞いていた大岡の目がみるみるうちに大きくなっていった。


「なん────コホン……それは本当か?」

「はい……何度も解析した結果、奴で間違いないと」

「これは……少々厄介な事になったな」

「何かあったのですか?」


 ヒソヒソと話し合う大岡とその部下に、瑠璃が不安そうな表情でそう訊ねた。

 訊ねられた大岡は一瞬話すか迷ったが、瑠璃から話を聞く事を思い出し、意を決して彼女達にこう述べたのだった。


「君達も協力してくれる以上、こちらもそれに応えねばならないな。実は先程の映像に映る男について本庁に解析を頼んでいたんだ。すると驚くべきことが分かった」

「何でしょうか?」

「映像に映る男の名は〝オーガスタス・ヘルマン〟……数年前に違法な研究をしているとの疑いで国際指名手配に認定された男だ。奴を追っていたFBI捜査官達がようやく奴の家宅捜索を行うという所でまんまと逃げ仰せた人物でもある」


 遂に瑠璃達に明かされたオーガスタスの正体────彼が手を染めていたとされる研究とテトには確かな因果関係がある事を察し、瑠璃達は緊迫した表情で互いの顔を見合うのだった。
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