魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

オーガスタス、変貌

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 瑠璃達の危機に現れた御影はテトの解放を果たし、そしてオーガスタスに一撃をお見舞いした。

 御影に殴り飛ばされたオーガスタスは折れた鼻から流れる血を抑えながら、ヨロヨロと立ち上がり恨めしげに御影を睨みつける。


「き、きさま……ワシにこのような事をしてタダで済むと……」

「〝思っているのか〟って?もちろん、毛ほどにも思っちゃいねぇよ。今の俺はテメェをぶっ飛ばす事で頭がいっぱいなんだわ」


 凄むオーガスタスに対し飄々とそう言ってのける御影。

 しかしその目は鋭い刃物のようにオーガスタスを睨みつけており、こめかみには青筋が浮かび上がっていた。


「テメェが何の為にテトを作り出したのかはこの際どうでもいい。ただ、テメェがテトを……そして瑠璃達に危害を加えようとした事だけは許せねぇ。それと────」


 再びその場から姿を消す御影。そしてその直後、オーガスタスの身体はくの字に折れ曲がっていた。


「俺は人をコケにするのも、人からコケにされるのも嫌いなんだよ」

「ごふぁ────!」


 御影にみぞおちを殴られたオーガスタスは意識が失いそうになるのを何とか堪えていた。

 しかしそれを追撃するように御影に胸ぐらを掴まれたオーガスタスは、無意識にそれを振り払おうと手を払う。

 するとその手は御影の胸へと当たり、偶然にも当たった場所がテトに刺された箇所だったのか、御影は思わずオーガスタスから手を離しその場にうずくまってしまった。


「~~~っ……」


 その様子を見ていたオーガスタスはこれ幸いとばかりに懐から拳銃を取り出すと、その銃口を御影の頭に向けながら勝ち誇った表情を浮かべた。


「ふははは!この場に現れた時には驚いたが、やはり無事で済んではいなかったようだな!ワシをコケにした事……またワシの計画を邪魔した報い、償って貰おうか!」

「御影……!」
「御影!」


 大岡とテトが駆け出そうとしたのを御影が手を翳して制する。


「データやら何やらを持ってここから離れねばならなくなったが、貴様らを始末し、TE-TO01を連れて行けばまだ計画は進められる!そうなればきっと今回の不始末について〝あの方〟は許してくださるだろう!しかし、ワシをここまで追い詰めた事だけは称して、最後に辞世の句くらいは残すことを許してやろう」

「そうか……なら一言だけ────一言だけテメェに言いてぇ事がある」

「なんだ?言ってみろ!まぁ覚えてるかどうかは分からんがな!ふははは!」


 高らかに笑うオーガスタス。そんな彼に御影はある事を問いかけた。


「〝灯台もと暗し〟って知ってるか?」

「……はあ?なんだそれは?」


 御影が口にしたことわざに、オーガスタスは途端に訝しげな表情をした。

 すると御影はそんなオーガスタスに向かって、不敵な笑みを浮かべながらこう言ったのだった。


「〝足元には十分注意しとけ〟って意味だよ馬ぁ~~~鹿」


 その瞬間────オーガスタスの身体は再びくの字に折れ曲がった。

 目に見えぬ何かによってオーガスタスは身体をくの字にしながら真上へと吹っ飛んでゆく。

 その光景を瑠璃達やテトがポカンとしながら見つめる中、オーガスタスは勢いそのままに天井へとぶつかり、ものの数秒でその天井をぶち破って空へと打ち上げられたのだった。


「空間魔法の応用編、名付けて〝空間ラオム欠泉ゲイザー〟……なんつってな」


 御影はそう呟くと、今しがたポッカリと空いた穴から覗く空を見上げて笑みを浮かべるのであった。





 ◆





 そして場面は変わって現在────

 御影によって上空へと打ち上げられたオーガスタスは、その肥えた身体を回転させながら浜辺へと落下した。

 結構な高さからの落下であったのにも関わらず足の骨を折る程度で済んだのは柔らかい砂の上に落ちたという事以外に、その付きに付きまくった贅肉のお陰であるというのも理由の一つである。

 オーガスタスは折れた足を引き摺りその場からの逃走を図ろうとしていたのだが、その行先を何者かの足が阻んだ。

 オーガスタスが見上げてみると、そこには不思議そうな表情を浮かべている月夜の姿があった。


「あらあら~?あんなに高いところから落ちてよく平気だったわね~」


 オーガスタスはそんな事を口にする月夜を他所に周囲を見渡し愕然とした。

 それもそのはず……そこには侵入者を撃退するために放った部下や異形達が揃って地面に伏しているのだから。

 そんなオーガスタスなどお構い無しに月夜は大岡の部下に声をかける。


「この方はどちら様?」

「そ、その男が我々が追っていた男です」

「つまり~、テトちゃんに〝あんな事〟をさせた張本人って事かしら~?」


 月夜が話す〝あんな事〟とは、テトが御影を刺した事を示すのだが、半ばパニックに陥っているオーガスタスにはそんな事など知る由もない。

 ただ、今自身が置かれているこの窮地を如何にして脱するか────それだけしか考えることが出来なかった。


「という事は……この方を捕まえれば全てお終いって事よね~?」

「ヒッ────」


 そう言って冷ややかな目をオーガスタスへと向ける月夜。

 オーガスタスは蚊の鳴くような声で悲鳴をあげた後、手に持っていた拳銃を月夜へと向けた。


「そこを退け女ぁぁぁ!!!!」


 そう怒鳴り引き金を引こうとするも、それより先に月夜の目にも止まらぬ蹴りが炸裂し、拳銃を弾き飛ばすどころかオーガスタスの手首をへし折った。

 一瞬の出来事に思考が追いつかず呆けた顔をするオーガスタス。次第にその思考が……脳が〝手首を折られた〟という事実を理解するにつれて、オーガスタスの身を激しい痛みが襲い始める。


「ぅぐぉぉぉぉぉ!!」


 折れた方の手を抑えて地面に転げ回るオーガスタス。そんな彼を見下ろし、月夜はため息混じりに一言放った。


「あらあら、嫌だわ……〝か弱き〟女性にそんな物騒なものを向けるだなんて、おイタが過ぎるわよ?」


 誰がか弱いのだろうかと大岡の部下はそう思ったが、その言葉がうっかり口から零れ落ちぬように慌ててその口を塞ぐ。

 するとそこへ、空間転移で移動してきた御影達がその場に降り立った。

 そして御影は地面をのたうち回るオーガスタスを一瞥してから、呆れた様子で自身の母親へと不満を漏らす。


「おいおい母さん……俺はまだまだソイツを殴り足りねぇンだから、あまりやり過ぎるなよな?」

「あらあら~。思わず拳銃なんて向けてきたものだから、つい足が出ちゃったのよ」


 そう言って最後に〝ごめんなさいね?〟と付け足す月夜。

 二人の会話にそれ以外の全員が苦笑いを浮かべていた。


「うぅ……こ、こんな所で……こんな所で終わってたまるか!ワシは……ワシはこんな所で終わるような男では────ヒッ!!」


 ズルズルとなおもその場からの逃走を試みようとするオーガスタス。しかしそんな彼の頭を、御影が背後から鷲掴みした事でその試みは失敗に終わる。


「テメェ、今からここから逃げ仰せれると思っていたのか?悪ぃが、こちとらテメェを逃がす気はねぇンでな」

「ヒッ……ヒッ……」

「怯えてるところすまねぇが、俺ァまだまだテメェを殴り足りねぇのよ。つー事で……」

「ヒ……ヒィィィィィ!!」


 悲鳴を漏らすオーガスタスの顔面に御影の拳が深々と突き刺さる。

 しかしその一撃に終わらず、御影はその拳による乱打を、全てオーガスタスの顔面へと浴びせたのであった。

 そして────


「これで……」

「ヒィ────」

「終いだ!!」


 最後に御影が放った拳はオーガスタスの頬へとめり込み、そしてそのまま彼を地面へと叩きつけた。


「ぶべらっ!!」


 御影の乱打と最後の一撃を全て受けたオーガスタスは、その場でピクピクと痙攣していた。

 白目を剥いている様子から察するに、もはや意識も僅かなのだろう。しかしオーガスタスはそのゴキブリのようなしぶとさでなおも逃走を目論んでいるようであった。

 それを見ていた御影はほとほと呆れ果てる。


「やれやれ、嫌になるくらいしぶとい奴だ……」


 御影は首を鳴らし、拳も鳴らすと、今だ逃げようとするオーガスタスへと近づいてゆく。

 その一方でオーガスタスは飛んでしまいそうな意識の中、何としてでもこの場から逃げ仰せないかと考えていた。


(何か……何かこの状況を打開する術は……!)


 テトを操ろうとするもそのスイッチは愚か、体内に埋め込んでいた装置さえも御影と大岡に破壊され、拳銃は月夜によって遠くへと蹴り飛ばされている。

 それでも何か無いかとオーガスタスが自身の身体を探っていた時、ふとその指先に何かが触れる。


(……?)


 不思議に思ったオーガスタスがそれを握り締め懐から取り出すと、それは何かの液体が入った注射器であった。

 拳銃のようなフォルムのソレを見たオーガスタスはニヤリと怪しい笑みを浮かべる。


「ぐは……ぐははは……ま、まだ……ワシはまだ運に見放されていなかった……!!」

「あ?いったい何を言って────」


 御影が訝しげにそう言った瞬間、オーガスタスはその注射器を自身の首筋へと打ち込んだ。

 そして注射器の引き金を引くとパシュッという音が流れ、その直後オーガスタスの身体が激しく痙攣する。


「テメェ……今何をしやがった?!」

「ぐはははははは!!まだ試作段階ではあったが、これでこの場から逃げ出せるというものだ!いや……もしかしたら貴様ら全員始末できるかもしれんな!!────ぬ……ぬぐぉぉぉぉあぁぁぁぁ!!」


 ビクビクと身体を激しく痙攣されるオーガスタス。その身体は次第にボコボコと変形していき、数秒の後にオーガスタスの身体は醜い異形の姿へと成り果てていた。

 その姿を見た御影は研究所内で見たあの異形の事を思い出す。


「そうか……あの異形はそいつによるものか!!」

『その通り!!元は身体機能を大幅に強化する目的で研究していた物だったが、如何せん肉体がこのような有様になってしまう副作用が難点でな。しかし、例え化け物に成り果てようとも、今ここで貴様らを始末出来るのならば些末な事よ!!』

「チッ……捕縛してFBIに突き出そうと思っていたが、こうなってはどうしようもないな!」


 変わり果てたオーガスタスに大岡は悪態をつきながら銃を発砲した。しかし放たれた弾丸は全て命中するも、まるで金属にぶつかったかのように弾かれた。

 それを見た大岡は目を大きく見開く。


「弾丸が通じないだと?!」

『ぐふふ……ぐははは!貴様は先程、その天使が剣を弾かれていたのを忘れたのか!この肉体は既に鋼鉄そのもの……弾丸などという玩具など通じるわけがなかろう!!』

「くっ……ここは瑠璃くんに先程の一撃をお願いしたいところだが、流石に……」


 大岡はチラリと瑠璃の方へと目を向ける。

 瑠璃は血を流し過ぎたのか、既に呼吸が浅く非常に危険な状態であった。

 応急措置として咲良が呼び出した氷の精霊によって傷口は塞がれてはいるが……。


「はぁっ!!」


 そんな矢先、月夜が勢いよく飛び出しオーガスタスの土手っ腹に蹴りを炸裂させた。

 やはり目にも止まらぬ速さの月夜の蹴りは見事にオーガスタスの土手っ腹へと炸裂するが、驚くことにその蹴り足はまるで飲み込まれるようにその肉体に沈んでゆく。


「────!?」


 驚く月夜……するとオーガスタスはまたも下卑た笑みを浮かべながら月夜に対しこう言い放つ。


『ぐふふ……確かに貴様の蹴りはなかなかのものであったぞ。しかしこの〝弾力〟ならばもはやその蹴りすらも通じんわい!!ふんっ!!』

「きゃあっ!!」

「母さん!!」


 まるでゴムのような弾力すらも兼ね備えたオーガスタスの肉体は、彼が力を込めると共に勢いよく元へと戻り、身動きの取れなくなった月夜を弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた月夜に御影は直ぐ様彼女の元へと飛ぶと、そのまま彼女を守るようにして受け止め、そして地面を滑るように落下した。

 受け止めた際、またもや打ちどころが悪かったのか、御影は咳き込むと同時に少量の血を吐く。


「がはっ……ごホッ……」

「御影!!」


 心配する月夜を前にヨロヨロと立ち上がる御影────戦況は完全に逆転したと言っていいだろう。

 それを悟ったオーガスタスは今度こそ勝利を確信した様子で高らかに笑い声を上げるのであった。


『ぐふふ……ぐふ……ぐははははははははは!!鋼鉄のようで、それでいて驚異的な弾力を併せ持つ肉体!!人類のそれを遥かに超越した膂力!!もはや……もはやこのワシに勝てる者など、ありはしないのだァァァァ!!』


 もはや敵無しといった様子のオーガスタスを前に、御影達は苦々しい表情を浮かべたり、絶望に苛まれたりしていた。

 その時、一閃の光がオーガスタスへと直撃し、その衝撃にオーガスタスは思わず身をよろけさせる。

 その一閃を放ったのはテトであった。

 テトは今しがた砲撃を放った長銃を構えながら、真っ直ぐにオーガスタスを睨みつけていた。


「テトの大切な人達……その人達を危険に晒す貴方を、テトが止めます!」


 小さい身体ながらも確固たる意思でそう告げるテトに対し、オーガスタスは彼女をギロリと睨みながら吐き捨てるようにこう言った。


『ふん!貴様が完成した時はようやく成功したと思っていたが、とんだ失敗作だったな!』

「失敗……作……?」

『そうだとも!ワシに背く輩など失敗作の他にないだろうが!だが、貴様はまだ使い道がある』


 オーガスタスはそう言うと怪しい笑みを浮かべテトに向けて手を差し出した。


『今ここでワシに頭を下げ、共に来るというのであれば、ワシに背いたことは不問としよう。そして、コイツらの命も保証すると誓うぞ?』

「え……」

「駄目だテト!そいつの言葉に耳を傾けるな!!」


 御影がそう忠告するが、既にテトはオーガスタスの術中に嵌り、長銃へと変えていたその手を元に戻してしまった。

 その瞬間、素早い動きでオーガスタスがその大きな手でテトの身体を鷲掴みにし、勝利宣告をするかのように御影達に向けてこう言い放った。


『ぐははは!これでTE-TO01はワシの手に堕ちた!貴様らは己の力不足を嘆きながら死ねい!!』

「や……やめ……!」


 テトは何とかしてオーガスタスの手から逃れようと身動ぎするが、オーガスタス自身がそう言っていたようにその異常な力からは逃れられなかった。

 しかし抵抗しようとしたその行為がオーガスタスの癪に触ったのか、オーガスタスはそっとテトの顔に手を近づけると、ピンッと彼女の額にデコピンを放った。


「かふっ……」


 オーガスタスのデコピンを受けて、首が折れたのではないかという程に頭を揺らしたテトは、そのままぐったりとその頭を垂れた。

 それを見ていた御影達全員の額に青筋が浮かぶ。

 そんな彼らを気にする様子もなく、オーガスタスは心底呆れ果てたような態度でボヤいた。


『やれやれ……大人しくしていれば、無駄な傷など負わなかったものを────まぁ、完全に記憶をリセットしてしまえば、二度とワシに逆らおうなどという気も起きまいて。しかししまった……気を失ってしまっては、奴らが死ぬ様を見せられぬではな────』


 オーガスタスが御影達の方へと顔を向けた直後であった────その醜く成り果てた顔面に、硬い何かが激突する。

 それを受けてオーガスタスは思わずテトを握り締めていた手を離してしまった。

 落下するテト……それを優しく受け止めたのは先程まで月夜と共にいたはずの御影であった。

 先程までとは一つ違うのは、御影の両腕両脚には漆黒の篭手と脛当が装備されている事。

 未だ何が起きたのか分からないオーガスタスを見下ろしながら、御影は地の底から響くような声でこう言った。


「テメェ……楽に死ねると思うなよ?」
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