魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

閑話:果たされる約束、新たな約束

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 これは父島から帰宅した御影達がまだ、夏休みを満喫していた時の話である。

 その日、御影はいつものジャージ姿ではなく、灰色の甚平を着ていた。

 そして何故か玄関先に腰を下ろし、一人空を眺めている。

 何故、御影がそのような姿でいるのかと言うと、それは〝ある約束〟を果たす為であった。

 その約束というのが────


「お待たせ御影♪︎皆の準備が出来たわよ」

「お~、やっとか」


 そう言って立ち上がりざまに振り返ると、そこには綺麗な浴衣姿の瑠璃とテトの姿があった。


「おっ、二人とも似合ってんじゃん」

「ほ、本当か?」

「ありがとうございます」


 瑠璃とテトが着ている浴衣は月夜や御陽のお下がりであったが、月夜が着付けをしてあげた事もあって実によく似合っていた。

 そして御影は背伸びをすると、二人に向けてこう言った。


「そんじゃ、行くとするかね?〝花火大会〟に」


 今宵は御影達が住む地域では大きな花火大会の日……つまり〝約束〟とは、御影が父島にてテトと交していた〝花火を見る〟という約束の事であった。

 当初、約束していた父島での花火は、御影達の怪我の療養もあって結局見れずじまいに終わってしまった。

 しかし夏休み中に花火大会が行われると知って、こうして見に行く事になったのだった。


「花火、楽しみです」


 テトは御影に手を引かれながら心から楽しみそうにしていた。

 ちなみに御陽と御夜については既に花火会場へと向かっており、何でも友達と見に行く約束をしていたのだという。

 よって今は御影、瑠璃、テトの三人で会場へと向かっていた。


「おっ、そういや今年もあるといいな……りんご飴」

「「りんご飴?」」


 御影の言葉に瑠璃とテトの声が重なる。


「そう、りんご飴。りんご丸ごと飴で包んだお菓子だよ。まぁ、こういった祭りでは定番のやつだな」

「りんご、丸ごと……」


 病室で食べていたあのリンゴを丸ごと使用した飴と聞いて、テトはゴクリと唾を飲み込む。

 それを見ていた御影と瑠璃は顔を見合せ、思わずクスリと笑ってしまった。

 そうしている内に三人は会場へと到着し、そこに並ぶ屋台の数々に瑠璃とテトは圧倒されてしまう。


「これは……全て店なのか?」

「そうだ。たこ焼き屋に金魚すくい、射的に輪投げ……色んな出店が並んでる」

「それは……非常に興味深いな」


 当然、祭りなど来たことの無い瑠璃は目を輝かせ、テトについてはキョロキョロと出店を見渡していた。


「まぁ、花火が打ち上がるまでまだ時間があるし……せっかくだから見て回るか」


 最後に〝軍資金もあるしな〟と付け加え、御影はお手玉のように自身の財布を弄ぶ。

 するとその三人に声をかける者達が現れる。

 それは他でもなく先に来ていた都胡達であった。


「お~、やっと来たか三人共!待ちくたびれとったで」

「お前な……両手に食いもんぶら下げながら言っても説得力ねぇよ」


 既に出店を満喫していたのだろう、都胡の両手にかけられていた袋を見て、御影は呆れ顔でそう言った。


「そらぁなぁ、ここに来たんなら楽しまな損やろ?」


 都胡は平然とそう言ってのけ、手にしていたりんご飴をテトへと手渡した。


「はい、テトちゃん。りんご飴やで♪︎」

「お~……これがりんご飴……」


 チラリとヨダレを垂らしながらりんご飴を見つめるテト……彼女は暫くそれを眺めた後、そっと一口りんご飴に齧り付いた。


「美味しい……」


 咀嚼しながらそう呟くテト────彼女の出会った頃のあの無機質な口調は、徐々に感情のこもったものへと変化しつつあった。

 御影はそれを良い変化だと素直にそう思っていた。


「そういや煉は?」


 ふと、この場に来ているはずなのに姿の見えない人物に気づいた御影が都胡達にそう訊ねると、彼女達は呆れたような表情をして、揃ってある店を指さした。

 そこには水槽に入れられた金魚を前に睨めっこをしている煉の姿があった。


「レンレン、なかなか上手くすくえないらしくて、さっきからずっとあの調子なんだよね~」

「もうそろそろ御影君達が来るよって伝えても〝ここで終われるか!〟って言って聞かなくて……」

「せやから放置してきたんよ」

「はぁ……しょうもねぇなぁアイツは」


 変なところで負けん気が発動している煉に御影が呆れていると、不意にテトがその袖をツンツンと引っ張る。


「どうした?」

「テトもアレ、やってみたいです」

「おっ、興味湧いたか?」


 テトは金魚すくい屋を指差しながら自身も挑戦してみたいと言い出した。

 それを聞いて御影は笑みを浮かべると、テトを連れてその店へと向かう。

 そして未だ格闘している煉に声をかけた。


「どうだ?成果の方は」

「おっ、来てたのか御影。いや……それが全くでさ」

「コレはなぁコツがいるんだよ。おっさん、二人分頼む」

「あいよ!二人で400円だな」


 店主にお金を支払い、二人分のポイとお椀を受け取った御影はその片方をテトへと手渡す。


「テト、これはこうしてやるもんだ」


 そう言ってポイを構えた御影は、一瞬で見事に金魚をすくい上げた。


「はぁ?!」

「お~……」


 難なく金魚をすくい上げた御影に煉は驚きの声を上げ、テトはそれを賞賛するように拍手をする。


「水面に近い所を泳いでるやつを狙うんだよ。あとは角度をつけて素早くすくい上げる。やってみるか?」

「はい、やってみます」


 気合を入れるようにそう答えたテトは御影と同じようにポイを構える。

 そして御影に言われた通り、水面に近い所を泳いでる金魚に狙いを定め、素早くすくい上げようと手を動かした。

 しかし……。


「あ~、惜しかったな」

「む~……」


 テトはすくう事は出来たものの、お椀に入れる寸前でポイが破け惜しくも逃がしてしまった。

 その事に非常に悔しそうに口を尖らせるテト。


「もう一度、挑戦してみたいです」

「あはは、分かった分かった」


 御影は再びお金を払い、新しいポイをテトに手渡した。

 それを受け取ったテトは再び水槽へと目を向けると、今度は先程より慎重に金魚を狙い始める。

 その姿に御影が微笑ましそうに見ていると、煉がヒソヒソと耳打ちをしてきた。


「なんかテトちゃん、随分と〝らしく〟なったな?」


 その煉の質問の意味を当然、御影は理解していた。

 今目の前で金魚すくいに熱中しているテトは、どこから見ても年相応の子供のようである。


「人間ではねぇけどさ……やっぱりガキはガキらしくあるべきだな」

「そうだな。夏休みが明けたら学校にも通い始めるんだろ?友達が出来るといいな」

「心配しなくてもきっと出来るさ」

「はは、随分と兄バカになったな?」

「うるせぇ」


 そんな会話をして笑みを浮かべる御影と煉……するとそんな彼らに金魚すくい屋の店主が気まずそうに声をかけた。


「何か楽しそうに話をしてるところ悪いんだけどよ……兄ちゃん、そろそろその辺にして貰えねぇかい?このままじゃ、花火が上がる前に店仕舞いをする羽目になっちまうよ」


 見れば御影の持つお椀には大量の金魚がひしめき合っていた。

 それを見た煉は目が飛び出でる程驚く。


「おまっ……いつの間に?!」

「ん?あぁ、完全に無意識で取っちまってたわ」


 御影はそう言うとお椀の中にいた金魚のうち数匹を水槽へと戻してゆく……すると彼の隣にいたテトが喜びの声を上げた。


「やった……」


 見ればテトのお椀の中には一匹の金魚が入っており、その金魚は御影がすくい上げたものよりも一際大きなものであった。


「お~。初めてにして大物をすくい上げるとは、やるなぁ。おい、煉……テトにすら負けてんぞ?」


 嬉しそうに自分がすくい上げた金魚を見せるテトを前に、御影はニヤニヤしながら煉にそう言った。

 すると煉は変な対抗心を燃やし始め、自分もと再び水槽へと視線を戻す。

 しかし煉が再び金魚すくいに挑む前に、無情にも終了を告げる言葉が投げられた。


「お~い、御影~。そろそろ向かわんと間に合わなくなるで?」

「お、そろそろ時間か。それじゃあおっさん、これ頼むわ」

「えっ?!ちょっ、俺まだ一匹も取ってな────」

「はいはい、また次の機会にしような?ホンマに間に合わなくなるから」


 御影とテトがそれぞれに取った金魚を袋へと移し替えて貰う中、煉は引き摺られるようにして都胡に連れられてゆくのだった。

 その後、御影達は屋台から離れ、御影と都胡を先頭にどこかへと向かっていた。


「御影、いったい何処に向かっているんだ?」

「ん?絶好の花火スポットだよ」


 御影はそれだけを言ってどんどんと前を歩いてゆく……そして彼らが辿り着いたのは会場から少し離れた神社だった。


「ここがそうなの?」


 咲良がそう訊ねる。


「ここが一番綺麗に見えるんだよ。まぁ、母さん達から教えて貰った穴場ってやつだな」


 御影はそう言うと社の濡れ縁へと腰を下ろす。

 それを真似るようにしてテトも御影の隣へと座り、瑠璃達もそれに続いて腰を下ろした。


「もうそろそろだな……5……4……3……2……1────」


 御影のカウントダウンの後に打ち上げ花火特有の〝ピュー〟という音が聞こえ、その直後には夜空に大輪の花を咲かせていた。

 それを合図に次々と打ち上げ花火が上がり、暗い夜空を様々な色で染め上げていった。

 その花火の光に照らされたテトの瞳は爛々と輝いており、彼女はただただ打ち上がる花火に目を奪われていた。


「どうだ?実際に見た花火ってやつは」

「綺麗です。とても……」

「そうか、そいつァ良かった」


 御影はそう言うと満面の笑みを浮かべ、瑠璃達も互いに顔を見合せながら笑みを零している。

 鳴り止まぬ花火の音が響く中、御影はテトの頭を優しく撫でながら彼女にこう言った。


「また来年も来ような?」

「はい。必ず……」


 また新たな約束を交わす御影とテト。

 そんな彼らを祝福するように、花火の光が照らしてゆくのであった。
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