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第二章:東京事変
プロローグ:姉の帰還
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ここは東京にある羽田空港────ここに一人……いや、三人の女性が日本へと降り立った。
「ん~~~……久しぶりの日本ね♪︎」
後ろで束ねた長い髪を振りながら、その女性……〝忍足御月〟は懐かしむようにそう言った。
するとその背後にいた、チェック柄の衣服を身にまとった少女が僅かに興奮した様子で話し始める。
「ここが日本か!かつては漫画やアニメといった文化が有名で、今も尚廃れぬ文化として海外から非常に人気の高い国だな!」
その少女……〝シャーロット・ホームズ〟はウンウン頷きながら日本の空気を存分に肌で感じる。
「お二人共!今回この国に来た理由をお忘れではありませんよね?まさか観光とかしないですよね?」
そう話すのは二人と共にやって来た────否、シャーロットに半ば連行されるような形で連れてこられた青年、若き医師であり、これまた半ば強制的にシャーロットの助手にさせられた〝ジョシュア・ホプキンス・ワトソン〟である。
かのシャーロック・ホームズに登場するワトソンと同じ名を持っていたというだけでシャーロットの助手にさせられたジョシュアは、普段もこのように彼女に振り回される日々を送っている。
しかもそこに御月も加わったのだから彼の苦労は倍以上のものとなっていた。
彼は今回の日本への訪問の理由を〝オーガスタスの協力者を探すため〟と聞いていた。故に完全にそっちのけな二人にそう苦言を呈した。
しかし当のシャーロットは〝何を馬鹿なことを〟とでも言うような表情をジョシュアへと向け、いけしゃあしゃあとこう言ってのける。
「ワトソン君、せっかくの日本だよ?英国からはるばる、この遠く離れた異国の地に来て観光の一つもしないなんて非常にナンセンスな話だ」
「やっぱりそのつもりだったんですね?!あぁもう……レストレードさんがこれを聞いたらなんと言うだろうか……」
「いやいや、もちろん調査の方もちゃんと行うよ。しかし今だけはこの国を満喫してもバチは当たらないと思うんだ」
「そう言って貴方は必要以上に楽しむつもりでしょう!もういい加減、貴方という人物がどのようなものか、この僕でも分かるようになりましたよ!」
「それは嬉しい言葉だね。これからもどんどん私の事を理解していってくれたまえ」
「無い胸を誇らしげに張らないで下さい!────あ……」
思い余ってジョシュアは己の失言を悟った。
シャーロットは大人びた振る舞いをしているが、実はまだ12歳という幼さである。
故にまだ未発達である彼女の身体的特徴を……密かにコンプレックスにも感じている、正に禁句でもあるその言葉を放ってしまったジョシュアに、シャーロットの凍てつくような笑みが向けられる。
「ワトソン君……君はどうやら若くしてこの世を去りたいようだね?」
「あ……え~と……今のは言葉のあやと言いますか……」
シャーロットに睨まれしどろもどろになるワトソン。
その視線の先では今の会話を全て聞いていた御月が無言で笑みを浮かべていた。
「ワトソン君、君に選択肢を与えよう。今日一日、荷物持ちに徹するか、それともその身一つで太平洋を横断するか……」
「是非とも荷物持ちに徹しさせて頂きます!」
ジョシュアの返答は早かった。
例え山程の荷物を持たされる羽目になろうとも、まだこの若さで死に目に遭いたくはなかったのである。
忍足御月は母親である月夜の才能を色濃く受け継いだ娘であると言える。
なにせ身体強化魔法は大の得意で格闘センスはずば抜けており、一度でも彼女の逆鱗に触れた者は全て筆舌に尽くし難い末路を迎えている。
それを知っているだけに、御月の質問に対するジョシュアの選択肢は一つだけであった。
「そう?それならさっそく、この荷物をお願いね♪︎」
御月はそう言うと自分の荷物をジョシュアへと手渡し始めた。
それを見ていたシャーロットも〝私も〟というように手渡し始め、ジョシュアは最初抗議の目をシャーロットへと向けようとしたが、御月の視線に泣く泣くそれを受け入れたのだった。
◆
所変わって忍足家─────
今日は休日という事で御影はテトと共にリビングのソファーにて惰眠を貪っていた。
その傍では瑠璃が読書をしており、御陽と御夜はそれぞれに友人と連絡したり、スマホのゲームで遊んでいたりしていた。
そんな時、御影はふとある事に気づき、食卓テーブルにて仕事をしていた父親、陽影に質問をした。
「そういや、今朝から母さんの姿が見えねぇんだけど、どっか出かけてんの?」
時刻はそろそろ昼になろうかとしている所……普段ならば月夜が昼食の支度を始めている所なのだが、今日はその姿が見当たらない。
すると陽影はPCを見ながらこう答えた。
「母さんなら御月達の迎えに行ったよ」
「あ~……姉貴の迎えか。なるほど……どうりでいないと思っ─────」
ウトウトしながらそう話していた御影だったが、直ぐにその言葉の意味に気づくと、膝の上にいるテトそっちのけで飛び上がるように跳ね起きた。
「なんだって?」
我が耳を疑うように再度そう訊ねる御影。
「いや、だから……母さんは御月の迎えに行ったって」
「……いつ?」
「あ~……朝の七時くらいかなぁ?羽田だから、もうそろそろ戻ってくる頃だと思うけど」
「……ちょっと出かけてくるわ」
そう言って御影は瞬く間に2階へと上がると、数分もせずにジャージ姿から私服へと着替えて戻ってきた。
「おにぃ、逃げる気でしょ?!」
「私達も一緒に行きたい!!」
慌てながら自分達も急いで準備しようと動く御陽と御夜であったが、そんな彼女達に御影は諭すようにこう言った。
「待て、考えてもみろ?俺達三人がいないとなると、姉貴は絶対に探しに来る……だがお前達が残っていれば、姉貴はそっちに集中するだろ」
「いや、キメ顔で話してるところすまないが、それはつまり二人を囮にしてるだけだろう?」
瑠璃にそう指摘され、御影はおし黙る。
そして批難するような目を向ける妹達の目の前で、御影は瞬く間に姿を消したのだった。そしてそのタイミングで玄関の方から物音が聞こえ始める。
「待って!」
「逃がさない!」
「はっはっはっ!残念ながらあとはもう外に出るだけなんだよ!こういうのは早い者勝ちってやつで─────」
そう言いながら御影がガチャリと玄関のドアを開けると、そこにはニコニコと笑顔を浮かべた御月が立っていた。
それを見て固まる御影に、御月は小首を傾げながら問いかける。
「久しぶりねエーちゃん♡そんな格好でいったい何処に行くつもりなのかしら?まさか、愛しのお姉ちゃんが帰って来たと言うのに、お出かけする気じゃないわよね?」
「いや……その……これはアレだ……ちょっと用事があってだな……」
「いったい何の用事なのかしら?」
「どうしても……ど~~~しても外せない用事があんだよ。俺も姉貴が帰ってくるってのに出かけなきゃならねぇのは心苦しいんだけどよ。でも、どうしても外せない用事ってなれば仕方の無い─────」
必死に言い訳を並べ立てていた御影のその言葉を遮るように、御月はその御影の肩に手を置きながら、あくまでも優しい声音でこう言った。
「エーちゃん……中、戻ろっか♪︎」
「あ……はい……」
有無を言わせぬ御月の迫力に気圧された御影は、大人しく家の中へと戻る。
御月はそんな御影の腕に自身の腕を回すと、ルンルンとした様子で中へと上がってゆく……そして完全に借りてきた猫状態の御影はこの世の終わりかのような表情となっていた。
そんな御影を連れて中へと入ってきた御月─────当然ながらそれを見た御陽と御夜は空気に徹しようと縮こまっており、瑠璃はテトを連れて陽影の隣へと座る。
その向かい側に御月は座ると、ニコリと笑ってこう言った。
「貴方達がお母様が話していた子達ね?初めまして、忍足家長女の忍足御月よ♪︎」
屈託の無いその笑みは普段の月夜の生き写しのようであったが、何処か自分達を見定めているかのような……そんな空気を、瑠璃は感じ取ったのだった。
「ん~~~……久しぶりの日本ね♪︎」
後ろで束ねた長い髪を振りながら、その女性……〝忍足御月〟は懐かしむようにそう言った。
するとその背後にいた、チェック柄の衣服を身にまとった少女が僅かに興奮した様子で話し始める。
「ここが日本か!かつては漫画やアニメといった文化が有名で、今も尚廃れぬ文化として海外から非常に人気の高い国だな!」
その少女……〝シャーロット・ホームズ〟はウンウン頷きながら日本の空気を存分に肌で感じる。
「お二人共!今回この国に来た理由をお忘れではありませんよね?まさか観光とかしないですよね?」
そう話すのは二人と共にやって来た────否、シャーロットに半ば連行されるような形で連れてこられた青年、若き医師であり、これまた半ば強制的にシャーロットの助手にさせられた〝ジョシュア・ホプキンス・ワトソン〟である。
かのシャーロック・ホームズに登場するワトソンと同じ名を持っていたというだけでシャーロットの助手にさせられたジョシュアは、普段もこのように彼女に振り回される日々を送っている。
しかもそこに御月も加わったのだから彼の苦労は倍以上のものとなっていた。
彼は今回の日本への訪問の理由を〝オーガスタスの協力者を探すため〟と聞いていた。故に完全にそっちのけな二人にそう苦言を呈した。
しかし当のシャーロットは〝何を馬鹿なことを〟とでも言うような表情をジョシュアへと向け、いけしゃあしゃあとこう言ってのける。
「ワトソン君、せっかくの日本だよ?英国からはるばる、この遠く離れた異国の地に来て観光の一つもしないなんて非常にナンセンスな話だ」
「やっぱりそのつもりだったんですね?!あぁもう……レストレードさんがこれを聞いたらなんと言うだろうか……」
「いやいや、もちろん調査の方もちゃんと行うよ。しかし今だけはこの国を満喫してもバチは当たらないと思うんだ」
「そう言って貴方は必要以上に楽しむつもりでしょう!もういい加減、貴方という人物がどのようなものか、この僕でも分かるようになりましたよ!」
「それは嬉しい言葉だね。これからもどんどん私の事を理解していってくれたまえ」
「無い胸を誇らしげに張らないで下さい!────あ……」
思い余ってジョシュアは己の失言を悟った。
シャーロットは大人びた振る舞いをしているが、実はまだ12歳という幼さである。
故にまだ未発達である彼女の身体的特徴を……密かにコンプレックスにも感じている、正に禁句でもあるその言葉を放ってしまったジョシュアに、シャーロットの凍てつくような笑みが向けられる。
「ワトソン君……君はどうやら若くしてこの世を去りたいようだね?」
「あ……え~と……今のは言葉のあやと言いますか……」
シャーロットに睨まれしどろもどろになるワトソン。
その視線の先では今の会話を全て聞いていた御月が無言で笑みを浮かべていた。
「ワトソン君、君に選択肢を与えよう。今日一日、荷物持ちに徹するか、それともその身一つで太平洋を横断するか……」
「是非とも荷物持ちに徹しさせて頂きます!」
ジョシュアの返答は早かった。
例え山程の荷物を持たされる羽目になろうとも、まだこの若さで死に目に遭いたくはなかったのである。
忍足御月は母親である月夜の才能を色濃く受け継いだ娘であると言える。
なにせ身体強化魔法は大の得意で格闘センスはずば抜けており、一度でも彼女の逆鱗に触れた者は全て筆舌に尽くし難い末路を迎えている。
それを知っているだけに、御月の質問に対するジョシュアの選択肢は一つだけであった。
「そう?それならさっそく、この荷物をお願いね♪︎」
御月はそう言うと自分の荷物をジョシュアへと手渡し始めた。
それを見ていたシャーロットも〝私も〟というように手渡し始め、ジョシュアは最初抗議の目をシャーロットへと向けようとしたが、御月の視線に泣く泣くそれを受け入れたのだった。
◆
所変わって忍足家─────
今日は休日という事で御影はテトと共にリビングのソファーにて惰眠を貪っていた。
その傍では瑠璃が読書をしており、御陽と御夜はそれぞれに友人と連絡したり、スマホのゲームで遊んでいたりしていた。
そんな時、御影はふとある事に気づき、食卓テーブルにて仕事をしていた父親、陽影に質問をした。
「そういや、今朝から母さんの姿が見えねぇんだけど、どっか出かけてんの?」
時刻はそろそろ昼になろうかとしている所……普段ならば月夜が昼食の支度を始めている所なのだが、今日はその姿が見当たらない。
すると陽影はPCを見ながらこう答えた。
「母さんなら御月達の迎えに行ったよ」
「あ~……姉貴の迎えか。なるほど……どうりでいないと思っ─────」
ウトウトしながらそう話していた御影だったが、直ぐにその言葉の意味に気づくと、膝の上にいるテトそっちのけで飛び上がるように跳ね起きた。
「なんだって?」
我が耳を疑うように再度そう訊ねる御影。
「いや、だから……母さんは御月の迎えに行ったって」
「……いつ?」
「あ~……朝の七時くらいかなぁ?羽田だから、もうそろそろ戻ってくる頃だと思うけど」
「……ちょっと出かけてくるわ」
そう言って御影は瞬く間に2階へと上がると、数分もせずにジャージ姿から私服へと着替えて戻ってきた。
「おにぃ、逃げる気でしょ?!」
「私達も一緒に行きたい!!」
慌てながら自分達も急いで準備しようと動く御陽と御夜であったが、そんな彼女達に御影は諭すようにこう言った。
「待て、考えてもみろ?俺達三人がいないとなると、姉貴は絶対に探しに来る……だがお前達が残っていれば、姉貴はそっちに集中するだろ」
「いや、キメ顔で話してるところすまないが、それはつまり二人を囮にしてるだけだろう?」
瑠璃にそう指摘され、御影はおし黙る。
そして批難するような目を向ける妹達の目の前で、御影は瞬く間に姿を消したのだった。そしてそのタイミングで玄関の方から物音が聞こえ始める。
「待って!」
「逃がさない!」
「はっはっはっ!残念ながらあとはもう外に出るだけなんだよ!こういうのは早い者勝ちってやつで─────」
そう言いながら御影がガチャリと玄関のドアを開けると、そこにはニコニコと笑顔を浮かべた御月が立っていた。
それを見て固まる御影に、御月は小首を傾げながら問いかける。
「久しぶりねエーちゃん♡そんな格好でいったい何処に行くつもりなのかしら?まさか、愛しのお姉ちゃんが帰って来たと言うのに、お出かけする気じゃないわよね?」
「いや……その……これはアレだ……ちょっと用事があってだな……」
「いったい何の用事なのかしら?」
「どうしても……ど~~~しても外せない用事があんだよ。俺も姉貴が帰ってくるってのに出かけなきゃならねぇのは心苦しいんだけどよ。でも、どうしても外せない用事ってなれば仕方の無い─────」
必死に言い訳を並べ立てていた御影のその言葉を遮るように、御月はその御影の肩に手を置きながら、あくまでも優しい声音でこう言った。
「エーちゃん……中、戻ろっか♪︎」
「あ……はい……」
有無を言わせぬ御月の迫力に気圧された御影は、大人しく家の中へと戻る。
御月はそんな御影の腕に自身の腕を回すと、ルンルンとした様子で中へと上がってゆく……そして完全に借りてきた猫状態の御影はこの世の終わりかのような表情となっていた。
そんな御影を連れて中へと入ってきた御月─────当然ながらそれを見た御陽と御夜は空気に徹しようと縮こまっており、瑠璃はテトを連れて陽影の隣へと座る。
その向かい側に御月は座ると、ニコリと笑ってこう言った。
「貴方達がお母様が話していた子達ね?初めまして、忍足家長女の忍足御月よ♪︎」
屈託の無いその笑みは普段の月夜の生き写しのようであったが、何処か自分達を見定めているかのような……そんな空気を、瑠璃は感じ取ったのだった。
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