魔法学園の空間魔導師

ΣiGMA

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第二章:東京事変

姉と弟の喧嘩

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 はてさて……二人の勝負に割って入ってきた形になったが、どうしても姉貴の瑠璃に対する言葉が聞き捨てならなくて勝手に選手交代しっちまった。

 俺は容姿や種族でそいつの事を決めつけるってのが大の嫌いだ。

 まさか実の姉がそんな事をするとは思ってもおらず、今の俺は絶賛激昂中である。


「姉貴さぁ……俺、堕天使だからとか、そんなくだらねぇ理由で瑠璃の事を決めつけてんの許せねぇンだわ」

「あら?お姉ちゃん何か間違ってるかしら?昔から堕天使というのは魔族と共に世界に悪影響を及ぼしていた存在よ。その瑠璃さんだって堕天使……どうせエーちゃん達を誑かして悪さをしようと思ってるのよ」

「それが〝決めつけ〟だって分かんねぇかな?確かに瑠璃とは出会ってからまだ数ヶ月しか経ってねぇ……けどな?それだけでもコイツの事は十分理解出来てると思ってんだよ」

「たった数ヶ月で何が分かるというの?ねぇエーちゃん……お姉ちゃんの話を聞いて、早く目を覚ましなさい」

「残念ながら目は覚めてんだよな。そりゃあ快眠だからバッチリと覚めてるよ。寝ぼけてんのは姉貴の方だろ?」

「なるほど……既に誑かされているというわけね。それなら、お姉ちゃんが何とかしなくちゃ」

「はぁ……遂に聞き耳すら持たなくなったかよ。そんならこっちからも条件を追加させて貰うわ」

「何かしら?」

「俺が勝ったら瑠璃のことを認め、そんでもって謝罪しろ。当然、土下座でな。そして……」


 俺は考えた……例え負けたとしても、姉貴に反省させ、しかも普段は動じない姉貴の心に大きなダメージを負わせられる条件を。

 そして考えついた条件を、俺は姉貴に言ってやった。


「もし、俺が負けたら、俺も瑠璃と一緒にこっから出ていくとするわ」

「「はぁ?!」」


 瑠璃と姉貴の声が重なった。

 瑠璃は〝いったい何を言い出すんだ〟という表情を浮かべ、姉貴は見るも明らかに酷く狼狽し始めた。


「待って頂戴!どうしてそうなるの?!お姉ちゃん、エーちゃんが何を言っているのか分からないわ?!」

「いやいやいや、負けたら出ていかなきゃならねぇんだろ?だったらそれは俺にも当てはまるよな?別におかしな事を言ってる覚えはねぇんだけど。なぁ、父さん?」

「そうだな」

「お父様?!」


 俺の言葉を肯定した父さんに姉貴が理解出来ないという表情を向ける。

 普段はあまり怒ることの無い父さんだが、今回ばかりは腹に据えかねているようだ。

 まぁ無理もないか……なにせ父さんは他種族との交流がしたいが為に住民課にいるようなものだったからな。

 他の種族に対して差別的な発言はご法度……当然、姉貴の発言は父さんの許容範囲を大きく超えてしまったのだろう。


「つーわけで、勝ったら土下座、負けたら追放って事で決まりだな」


 正直、俺としては負けた方が姉貴から解放されるし、前々から一人暮らしってものをしてみたかったしな。

 けれども瑠璃に対してのあの発言に怒りを感じているのも本当で、土下座させたいというのも本心である。

 俺はその場で軽くウォーミングアップをすると、姉貴に向かって構えを取った。

 しかし当の姉貴はまだ困惑しているようで、構えも取らず俺を説得しにかかっていた。


「考え直して頂戴、エーちゃん!お姉ちゃんは貴方と戦うつもりなんて無いのよ!」


 やれやれ……どうにも姉貴は俺と敵対したくないらしい。

 まぁ、昔から何かとベッタリだった姉貴らしいと言えば姉貴らしいのだが、今回ばかりはそうはいかない。

 俺は姉貴をやる気にさせる為に、生まれて初めて姉貴を煽ることにした。


「え?なに?今更怖気付いてんのか?」

「……え?」


 俺の突然の言葉に姉貴がキョトンとする。

 しかし俺は構わず姉貴を煽り続けた。


「あれだけ瑠璃に、何様の分際であれこれほざいてた割りには度胸ねぇのな?まぁ、どうせ他種族を見下すことで自分を優位に立たせ続けてたんだろ?ダッセェ、ダッセェ(笑)」

「……は?」

「まぁでもいいんじゃね?姉貴にその気が無いってんなら俺の不戦勝って事でいいんだろ?なら……ほれ、さっさと瑠璃に土下座しろよ」

「エーちゃん……流石に可愛い弟と言えど、お姉ちゃん怒るわよ?」

「いやいや、怒ってんのはこっちの方だから。何を逆ギレしてんだ?ダサさが更に極まるだけだって」

「……」

「あれ?次は黙りか?言っとくけどな……今の姉貴よりも瑠璃の方が立派だぜ?なにせ理不尽な状況に遭っても、こうしてちゃんと自分の意思でここにいるんだからよ。そんな瑠璃を偉そうに見下してんじゃねぇよバァァァァァカ!」


 俺はそう言い放つと、姉貴に向かって勢いよく中指を突き立てた。

 うん、生まれて初めて家族に中指突き立てたわ。

 そんな事をしたもんだから姉貴の表情はみるみるうちに怒りの形相へと変わっていった。

 怒髪天といった感じではなく、静かに……まるで火山が噴火する一歩手前のような感じで怒ってるので、まぁ怖い怖い。


「エーちゃん……暫く見ないうちに悪い子になっちゃったみたいね?」

「こちとら無遅刻無欠席、今の今まで皆勤賞で更には生活態度も悪くはないんで~、悪い子になった訳ではねぇんスよぉ」

「お姉ちゃんを怒らせて楽しい?ねぇ、楽しいのかしら?だとしたら酷い目に遭わせるよ?今、謝れば許してあげなくもないよ?」

「申し訳ねぇんだけど、酷い目に遭う気も、謝る気もさらさらねぇんだわ」

「そう……なら、足や腕の一本は覚悟していなさい?」

「やれるもんならやってみろ」


 これ見よがしにベッと舌を出す。

 姉貴の額に青筋が浮かんだが、先程も言った通り謝る気など毛頭ない。

 俺は初の姉弟喧嘩を始める前に、倒れている瑠璃を抱き起こし安全な所へと運ぶ。

 その際に瑠璃は心配そうな表情でこう問いかけてきた。


「大丈夫なのか?何か勝算でもあるのか?」

「勝算?ねぇよ、ンなもん」

「は?それでよく姉君に喧嘩を売れたものだな……」


 呆れ果てる瑠璃。

 そう言われても姉貴に対して策を練ったとしても、母さん譲りの身体能力強化の前では無意味に等しい。

 あの姉は力でゴリ押しするタイプなのである。

 とはいえ勝算が全く無いという訳では無い……なにせ、その一つをたった今実践したのだから。


「姉貴が強ぇのはな……どんな事でも冷静に対処してるからなんだよ」

「いきなり何だ?」


 俺の言葉に瑠璃が訝しげな表情をする。


「姉貴への対抗策の話だよ。姉貴は見事なまでに冷静だから、相手がどんな動きをするか、また次にどんな行動をするのか瞬時に予測するんだよ。まぁ要するに相手の二手、三手先……いや、違うな。千手先を読んでいると言っても過言ではない」

「そんな相手にどうするつもりだ?!」

「だ~か~ら~、さっきも言っただろ?冷静さが売りの相手なら、その冷静さを奪っちまえばいい」

「だからわざと、あんな怒らせるような事をしたのか!」


 どうやら納得した様子の瑠璃だったが、ちょっとその認識は違うな。


「いんや、あれは単純にムカついただけだよ」

「お前はまったく……凄いのか阿呆なのか分からんな」

「はいはい。とりあえずお前はここで休んでろ」


 俺はそう言うと家の壁に寄りかからせるように瑠璃を降ろす。

 そして満を持して姉貴の前へと歩み寄ると、その周辺に空間結界を張った。


「何の真似かしら?」

「家や周辺に影響が出るといけないんでな……ちょいと結界を張らせて貰ったんだわ」

「結界を維持しながらお姉ちゃんとやるつもり?随分と舐められたものだわ……今まで勝った事無いのに」

「いつの話してんだ、ガキの頃の話だろ?」

「あら、今なら勝てるかのような口ぶりね?」

「えっ、俺が勝つ前提で話が進んでたんじゃねぇのか?」


 互いに睨み合いながらレスバトルを繰り広げる俺と姉貴────

 そして誰に言われたでもなく父さん自ら開始の合図を買って出た。


「二人とも準備は……うん、聞かずとも良さそうだね?それでは、始め!」


 その合図と共に俺と姉貴は先ず、お互いとも拳を放った。

 やれやれ……流石は姉貴と言うか、拳がぶつかっただけで骨が軋んでやがる。

 骨が軋むのを感じながら俺が見据える先では姉貴が驚いた表情を浮かべていた。


「エーちゃん……何、それ?」


 姉貴が指す言葉は俺の腕に装着された篭手に向けられていた。

 拳を放つ直前に装着したものだが、姉貴に見せるのはこれが初めてである。


「別に?姉貴とやり合うんだ……これぐらいの事はしとかねぇとマジで骨が砕けるからな」


 先程、瑠璃の神鉄製の盾を破壊した姉貴でさえも、どうやらこの暗黒物質の篭手は破壊出来なかったようだ。

 まぁ、これで不安要素が一つ解決したな。


「しかし、らしくねぇぜ姉貴。昔の姉貴なら、俺がこれくらいの事をしてくる事は予測出来ていただろ?」


 俺はそう言いながらもう片方の腕にも篭手を装着し、姉貴の顔めがけて拳を放った。

 姉貴はそれを腕で防いだあと、今度は左足で蹴りを放ってきた。

 しかしそれを右足を上げて防ぐと、またしても姉貴は驚きの表情を浮かべる。


「脚にも?!」


 暗黒物質の具足を前に驚くばかりの姉貴。

 俺はそんな姉貴を気にもせず、お返しとばかりにその腕を取り放り投げた。


「おらぁ!」

「────っ!」


 意表をつかれ抵抗する間もなく投げ飛ばされた姉貴だったが、すぐに体勢を整え、その場で深呼吸をした。


「なる程……それがエーちゃんの新しい技って事ね。でも、今ので決めなかったのは失敗よ」


 姉貴はそう言うと更に身体能力を強化させ、一瞬にして俺との距離を詰めた。


「可愛い弟を蹴るのは気が引けるけれど……許してね?」


 そう言って蹴りを放つ姉貴────

 目で捉えきれぬほどの姉貴のその蹴りは吸い込まれるように俺の顔へと向かい、そしてそのまま空を切った。


「えっ!?」


 驚きと蹴りの勢いによりその場によろける姉貴のその背中に、俺は容赦なく肘鉄を食らわせた。


「うっ────!」


 背中に衝撃を受けて前方へと倒れる姉貴。

 その表情は何が起きたのか分からないといった表情であった。


「最後に手合わせした時は、これはまだ上手く扱えなかったからな」

「何をしたの……今?」

「なんて事はねぇよ。ただ空間移動で姉貴の背後に移動しただけだ」

「空間移動……ですって?」


 俺の言葉に衝撃を隠せない姉貴。

 そんな姉貴に俺は吐き捨てるようにこう言った。


「成長してんだよ俺も。いつまでもあの頃の俺だと思ってんじゃねぇ。ほら、さっさと立てよ?姉貴はこれを勝負だと勘違いしてるようだが、これは勝負じゃねぇ……俺から姉貴に対するお仕置だ」
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