魔法学園の空間魔導師

ΣiGMA

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第二章:東京事変

空爆・連鎖爆陣

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 瑠璃や父さん達が見守る中、俺は未だその場にしゃがみ込んでいる姉貴を見下ろしていた。

 俺の憶えている限りでは、姉貴は確かに俺の事となるとちょっとおかしくなる傾向があったが、それでも他種族を蔑むような事を言っていた記憶は無い。

 どうして今回に限って瑠璃にあんな事を言ったのか分からず、気づけば俺は未だ俯いている姉貴に訊ねていた。


「なぁ姉貴……なんで瑠璃をそこまで毛嫌いしてんだ?」

「別に瑠璃さんだからではないわ……堕天使というのはね、昔から人間と敵対関係にあった存在なのよ?魔族と一緒にね」


 確かに昔の文献にはそう書かれていた。

 それこそこの世界に他種族が現れ始めた頃────〝黎明期〟と呼ばれた時代に堕天使は魔族と共にこの世界の征服へと動いていた。

 しかし時の勇者────クラスメイトである御剣勇聖の先祖とその仲間によって魔王は倒され、それ以降は魔族と堕天使は身を隠すように生活している。

 まぁ中には人間社会に紛れ、人と共に生活している変わった奴らもいるようだが、とにかく初代魔王が討伐されて以降、魔族と堕天使が何か事件を起こしたという記録は無い。


「姉貴、そういうのを〝偏見〟って言うんだぜ?」

「偏見?いいえ、違うわ。今の人間達が危機感を抱いていないだけよ。いつか必ず、魔族も堕天使もまた人間を襲うようになるわ」

「確か今の魔王は人間を含めた他の種族達と友好的だと言われてるが?」


 新たに現れた魔王はそれはそれは友好的な人物らしく、前にテレビでこの国の総理大臣とも会談をしたと、夕方のニュースでそう報じられていた。

 しかし姉貴はそれでも否定的な考えを改めようとはしない。


「確かに今の魔王はそうでしょうね……でも、その魔王を良く思わない魔族達はどうかしら?そういった人達は今も影で息を潜め、来る時の為に牙を研いでいるわ」

「まるで見てきたかのように言うな?」

「お姉ちゃんが見てきた魔族がそうだっただけよ」

「俺達人間だって犯罪を犯すだろ?」

「はぁ……これ以上続けても押し問答ね」


 まるで諦めたかのように姉貴はため息をつくと、ゆっくりとその場に立ち上がった。

 しかし勝負をやめるつもりは無いようだ────その証拠に姉貴は先程よりも濃密な魔力を纏い始めていた。


「エーちゃん……出来ることなら弟に〝これ〟は使いたく無かったけれど、でもエーちゃんが引かないって言うなら、仕方ないわよね」


 姉貴は最後にそう言うと、吸い上げるように纏っていた魔力を自身の身体に取り込んだ。


(不味いな……)


 どうやら今の会話で姉貴の持ち前の冷静さを取り戻したようだ。

 しかもかなり本気にさせたらしい。

 姉貴は取り込んだ魔力を魔法へと変換する。


「身体能力強化の極地……〝武神権限〟」


 その瞬間、俺の身体におぞましい程の悪寒が走った。

 その直後、俺が全身を暗黒物質の鎧で覆ったのと、そんな俺の脇腹……肝臓の位置に姉貴の拳が深く入ったのはほぼ同時であった。


「がっ────」


 なんつー衝撃……!

 姉貴ですら破壊出来なかった暗黒物質の鎧を纏っているというのに、まるで衝撃波のようにその鎧を突き抜け、俺は一瞬呼吸が止まった。

 それは瞬時に自身で反対の位置を殴った事で直ぐに呼吸が出来るようになったが、それでも先程の一撃で相当なダメージを負ったのか、俺の膝は僅かに震えていた。


「おいおい……ンな隠し技持ってやがったのかよ」

「流石ねエーちゃん。直ぐに呼吸を取り戻すなんて、流石はお姉ちゃんの弟だわ」


 言葉は弟の成長を喜ぶ姉そのものであったが、表情は微塵たりとも笑ってはいなかった。

 ただ自身の敵に対して向けるような冷たい表情をしている姉貴。

 気合を入れるように太ももを叩いて無理やり震えを止めると、まだダメージが残る身体に鞭を打って構えを取る。


「まだお姉ちゃんに勝てると思ってるの?確かにエーちゃんは昔と比べて強くなった……でも、お姉ちゃんだって昔より強くなってるのよ?」

「律儀に言われなくても分かってらァ!だがな姉貴……俺は姉貴の予想よりも遥かに強くなったと言えるんだぜ?」

「エーちゃん……お姉ちゃんは言葉よりも────」

「〝行動〟だろ?だから今からそれを見せてやるよ」


 俺はそう言うと姉貴に向かってかかった。

 姉貴はそれを迎撃しようと蹴りを放とうとするが、その足はその場から動く気配が無かった。

 当たり前だ────なにせ今の会話の間に姉貴の足を空間ごと固定したんだからな。


「足が駄目でも拳があるわよ」


 〝武神権限〟って言ったか?その魔法を発動した姉貴の拳は先程よりも遥かに速いものだった。

 音速を超えた時特有の音を発しながら姉貴の拳が俺の顔へと迫り来る。

 しかし俺はそれを空間移動で躱した。


「どうせ後ろでしょう?」


 そう言って姉貴は自身の背後に向けて回し蹴りを放つも、それはまたしても虚しく空を切る。


「こっちだよ」


 背後に回ると見せかけてその真下にいた俺は姉貴の顎めがけてアッパーを放った。

 しかしその拳は姉貴の顎を捉える前に、姉貴の手によって封じられる。


「お姉ちゃんがコレを読んでいなかったとでも思ったかしら?」

「思わねぇよ」


 俺の拳を止めた姉貴が今度は自身の拳を放とうとする前に、俺は素早く両足で姉貴の頭を挟み込み、そのまま関節技を決めた。


「こうすりゃご自慢の拳も足も出せねぇだろ?」


 ギリギリと姉貴を締め上げる……が、姉貴の表情はピクリとも変わらない。


(通じてねぇか……)


 だがここで話してしまえば姉貴の猛攻が来る。

 俺はこのまま勝ちをもぎ取る為に父さんに声をかけた。


「父さん、カウント!」

「必要ないわ」


 俺の言葉に姉貴はそう言うと次の瞬間、俺の身体を浮遊感が襲った。


「おいおいマジか……!」


 なんと姉貴は俺の関節技から抜け出すのではなく、そのまま俺を持ち上げたのである。

 姉貴は関節技を決められているというのに、まるで平気な様子で持ち上げた俺を地面に叩きつけた。

 背中に受ける衝撃に思わず力を緩めてしまいそうになるが、なんとか耐えてそのまま関節技を続けようとするも、そこは姉貴……その僅かな隙を見逃さず俺の関節技から抜け出ると、直ぐに俺に馬乗りになった。


「エーちゃん……マウントポジションよ」

「やっべ……」


 襲い来る姉貴の拳を篭手を装着した両腕で防ぐが、姉貴の拳が当たる度に骨が悲鳴を上げる。

 姉貴相手の持久戦は本当に……非常に分が悪い。

 暗黒物質はいくら拳が当たろうともヘコみすらする様子は無かったが、それでもその篭手を超えてくる衝撃で骨が折れてしまいそうだ。

 空間移動でその場から抜け出せば話が早いのだが、それをするとまた姉貴を拘束するのは手がかかる。

 俺は拳を防ぎつつ、この状況を打破する策を考えた。

 そして────


「姉貴さぁ……」

「なに、エーちゃん?もしかして降参かしら?」


 姉貴は未だ殴り続けながら返事をする。


「ンなわけねぇだろ。でもまぁ、このままじゃ俺は姉貴に勝てねぇだろうな」

「当たり前でしょう?お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだもの」

「だからよ……正攻法で勝とうってのはやめにしようと思うわ」

「……どういう意味?」

「そういう意味だよ。いい加減、俺にだけ夢中になってねぇで、ちっとは周りを見てみりゃいいんじゃねぇか?」

「は?」


 姉貴は攻撃の手を止めると、俺に言われた通り周囲を見渡し始める。

 そして自分の周りに浮いているシャボン玉のような……透明の球体に気づき俺にこう言った。


「エーちゃん……なに、これ?」

「俺の決死の覚悟……その表れってやつだ!」


 俺は姉貴の下で再度、防御の構えを取るとその上に空間の壁を作った。

 そして困惑する姉貴を前にこう唱えたのだった。


「〝空爆……連鎖爆陣〟!」
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