偽物聖女と渡鴉〜聖痕を奪われ追放された元聖女は渡鴉の冒険者と出会う〜

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第一章:元聖女と渡鴉旅団

目覚めた元聖女

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 ごめんなさい─────


 暗い世界の中で大勢から罵声を浴びせられているシャルロットはその中心で蹲り何度も何度も謝罪の言葉を繰り返していた。


 言う通りに出来なくてごめんなさい─────

 上手に出来なくてごめんなさい─────

 迷惑をかけてしまってごめんなさい─────


 繰り返される罵倒はシャルロットの心に深々と突き刺さり、彼女はその苦痛に耐えながら周囲に詫び続ける。


 私が聖女に選ばれてしまってごめんなさい─────


 自分を見下ろす両親と妹に謝るシャルロット……もはや彼女の心は壊れる寸前であった。

 しかしその時─────


「何を謝ってんのか知らねぇけどよぉ……別に謝るようなことはしてねぇんだろ?なら言いてぇ奴には言わせとけ。気にするな。お前は何も悪くない」

「え……?」


 何処からともなく聞こえてくる聞き覚えのない男性の声。

 その声にシャルロットが顔を上げた瞬間、彼女の意識は覚醒した。

 目を開けてみればそこは見知らぬ部屋の中─────

 その天井を呆然と見つめながらシャルロットは今まで眠っていたことを徐々に理解する。

 そして薄らと自身の頬を伝う感触に、寝ながらにして涙を流していたのだと悟った。


(ここ……は……?)


 シャルロットは涙を拭おうと腕を動かすが思うように動かせない。

 まるで自分の体が鉛にでもなったかのような重さを感じながらふと視線を動かすと、タオルを手にした女性と目が合った。

 女性は目を見開いて呆気に取られていたが、直ぐに弾かれたようにタオルを落とし何処かへと走り去ってしまった。


「……?」


 その行動を不思議に思うシャルロット。

 しかしその理由が自分にあると思い至った。

 無意識のうちに彼女の気に触るような事をしてしまったのだと……そしてもし、彼女が戻ってくるようなことがあればその時は謝ろうと……そう考えたシャルロットが身体を起こそうとしていた時、数人の足音が聞こえ部屋の中に三人の男女が駆け込んできた。

 その内の一人は先程の女性だったが、他の二人は見覚えが無い。

 その事にシャルロットが戸惑っていると、見知らぬ二人は安堵の表情を浮かべながら彼女に声をかけてきた。


「良かった……目が覚めたのね?」

「全然目を覚まさねぇもんだから、もうこのまま目覚めねぇんじゃねぇかと思ってヒヤヒヤし……いってぇ?!」

「縁起でもない事言うんじゃないわよ!」

「わ、私……シドさんとギルドマスターを呼びに行って参りますね?」


 口喧嘩を始める二人に女性はそう告げると再び部屋を後にした。

 シャルロットはどうしていいのか分からず困惑していたが、男性の方が女性に〝そんな事より先ずはあの子の方だろ〟と言ったことで、二人の注目はシャルロットに向けられた。


「大丈夫?話は出来るかしら?」

「うっ……ケホッケホッ!」


 女性の問いかけに答えようとしたシャルロット……しかしその瞬間、喉に痛みが走り彼女は思わず咳き込んでしまう。


「あぁ、やっぱりキツいわよね。先ずはこれを飲んで」


 そう言われて差し出された水を飲むシャルロットだったが、つい勢いよく飲んでしまった為に喉が受け付けず咽び返してしまった。


「ゴホゴホっ!」

「大丈夫。ゆっくりでいいから」


 今度は女性の言う通りゆっくりと水を口にするシャルロット。

 含んだ水は彼女の喉を潤したが、それでも声を出すことは難しかった。

 その様子を察した男性が辛そうな顔でこう話す。


「まぁ無理もないわな……あんだけ眠ってりゃ」


 いったいどれ程眠っていたのか……シャルロットは声こそ出せないものの、それを尋ねるような表情を二人に向ける。

 するとそれを察してくれたのか女性が彼女にこう告げた。


「貴方、一週間近く眠っていたのよ?」

「─────?!」


 女性の言葉にシャルロットは思わず驚いてしまった。

 そうしているとまたも人の足音が聞こえ、新たに廊下から二人の男性が姿を現す。

 一人は目の前にいる男女と同じくらいの年頃の男性であり、もう一人は身体の大きい強面の男性であった。

 シャルロットは強面の男性の方を見て思わず表情を強ばらせてしまう。

 それを感じ取った同年代の男性が苦笑を浮かべながら強面の男性に話しかけた。


「ほらぁ……やっぱ俺が言った通りだったろ?ガントさんは来ねぇ方が良いって。怖がらせっちまうからよってさぁ」

「うぅむ……」


 そう言われたガントという名の強面の男性は落ち込んだ表情を浮かべたが、何せ泣く子も黙り鬼さえも裸足で逃げ出しそうな強面なので、それが返って更に恐怖を掻き立てた。


「顔は怖ぇだろうけど、ガントさんはこう見えて優しいから安心しな。ところで話す事は出来るか?」

「無理そうよ。声を出そうとはしてくれてたけれど、直ぐに咳き込んじゃって……」

「まぁ仕方ねぇな。先ずは安静にして回復させるのを優先した方が良いだろうよ」


 そう話す男性……シャルロットはそんな男性の声に聞き覚えがあり、どうして覚えがあるのか考えてその理由が分かった。

 夢の中で罵声を浴びせられる自分に声をかけてくれたあの時の声─────その声と男性の声が全く同じだったのである。

 思い返せば虚ろではあったが頭を撫でられたような感覚もあったような気がする。

 気づけばシャルロットは無意識のうちに隣に立った男性の袖を掴み、ポロポロと涙を流していた。

 それ見て驚いたのは他でもない男性達─────

 男性達はギョッとした表情となると、一斉にガントの方へと顔を向けた。


「ガントさん急いで姿を隠して!」
「可哀想に……泣くほどガントさんが怖かったんだな?」
「よしよし、もう大丈夫だ。ガントさんは今すぐ部屋から追い出すからよ」

「お前ら……」


 シャルロットが涙を流したのはガントが原因では無かったのだが、それを知らない三人は寄って集ってガントを部屋から追い出そうとする。

 その事にガントは表情を引き攣らせつつも、渋々廊下へと出るのであった。


「それで……お前さんの事は色々と聞きてぇところだけどよ、さっきも言った通り先ずは身体を休めるのが先だ。何せ森の中で倒れていて、ここに運び込んだ時にはかなりの熱も出てたし、しかも一週間近く目を覚まさねぇときた。相当身体が弱ってる証拠だ。だから先ずはしっかりと─────」


 男性がそう話す最中に可愛らしい音が鳴った。

 その音はシャルロットのお腹から発せられたものであり、それに対しシャルロットは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「休む前に先ずは腹拵えが先かな?」

「それじゃあ俺は料理長に飯作ってきて貰うわ」

「お~頼むなロン。それとエルナはその間にその子を着替えさせてやってくれ」

「了解。シドはどうするの?」

「俺はガントさんと話をしに戻るかな?何せ話してる最中にリーナからこの子が目を覚ましたことを知らされたもんでまだ話が途中なんだよ」


 シドはそう話すとその場から立ち去ろうとした。

 しかし不意に引っ張られるような感覚を覚え、振り返ってみればシャルロットが再び彼の袖を掴んでいた。

 その事にキョトンとしてシャルロットを見つめるシド……しかし彼はシャルロットの瞳の奥に映る不安を感じ取り、優しげな笑みを浮かべてその頭を優しく撫でる。


「そう不安にならんでもまた顔見せに来るって。それにエルナもいるしロンも様子を見に来るだろうさ。何ならリーナにも時々様子を見に来させるしよ」


 シドはそう話すと今度はエルナに顔を向けて彼女に頼み事をする。


「エルナ、せっかくだから色々と話してやってくれ。まぁ、寂しさを紛らわせる為のちょっとした世間話でいいからさ」

「もちろんよ。それにしてもガントさんからの話って何なの?」

「ん~……俺達の今後についてかな」


 はっきりとは言わなかったがエルナはシドの様子から何かを察したようで、それ以上追求することは無かった。

 そしてシドはシャルロットに〝またな〟と言って今度こそ部屋を後にした。

 正直、シャルロットにしてみればずっと一緒に居て欲しかった気持ちはあるがシドの〝また顔を見せに来る〟という言葉を信じて、エルナに着替えさせて貰うことにしたのだった。
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