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第一章:元聖女と渡鴉旅団
断罪
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シャルロットに殴りかかろうとしたミゲルを鋭い眼差しで睨むシド────その光景にそれまで遠くから見ていたミゲルの仲間達が応戦しようと立ち上がるが、シドの傍にいる者達の姿に気が付くとサァーッと表情を青くさせ、そそくさと椅子へと座り直した。
そんな事など気付きもしないミゲルは自身を睨むシドに表情を歪ませると、掴んでいるその手を振り払って距離をとる。
「は……はは……誰かと思ったらシドじゃないか?嫌だなぁそんな顔しないでくれよ?僕は何もしていないのにさぁ、言いがかりはやめてくれよ」
先程シャルロットに拳を振り下ろそうとした事を無かったかのようにそう話すミゲル。
当然、その光景を目撃していたシドにはそれは通じていないのだが、あえて追求する程のことでは無いとシドは判断した。
「なら俺の仲間達にウザ絡みしてねぇでさっさと失せろ」
「僕は親切心で彼女に教えてあげてたんだよ。君達がどれ程悪い奴らなのかをね」
それを嘘だと言い切られたのにも関わらずヘラヘラとそう話すミゲルにシドは大きくため息をつく。
そして再び鋭い眼差しをミゲルに向けると、静かにこう言った。
「〝小さな親切、大きなお世話〟という言葉を知らんのか?」
「は?なんだいそれは」
「テメェにとっては些細な親切だろうが、相手にとっては余計なお世話だって事だ。そんな事も分からねぇんだからテメェはいつまで経っても愚物なんだよ」
その言葉にミゲルの額に青筋が浮かぶ。
「はぁ?負け犬が偉そうによく吠えるな。名誉毀損で訴えてやってもいいんだぜ?」
「名誉毀損で訴えられんのはテメェの方だろう。テメェ、影でよくサイクスやレクサスの悪口言ってるそうだしな」
その言葉がミゲルの琴線に触れたのか、彼はそれまでヘラヘラとした表情を一気に憤怒の形相へと変えた。
「当たり前だろ?!サイクスもレクサスもそしてギルマスも、揃いも揃ってテメェの味方をしやがる!ずっと前から奴らも負け犬のテメェと同類なんだなって思ってたんだよ!」
その言葉は静まり返った店内によく響き渡り、店内にいた者達は表情を青白くさせていた。
特にミゲルの仲間達はシドの傍に立つ人物に目を向けながら今にも死にそうな表情となっている。
しかしそれに気づかないミゲルはシドが何も言わないことをいい事に次々と減らず口を叩き始めた。
「ギルマスの息子なんだかギルド最強のチームのリーダーだろうが、この僕を舐めている奴らは皆下等なんだよ!そうだ!この僕こそがギルド最強の冒険者なんだ!今に見ていろ……この僕がギルドの頂点に君臨する姿をな!ははははは!」
高らかに笑うミゲル……その先ではシド達が憐憫の眼差しを向けているのだがミゲルはそれにすら気づかない。
そんな彼にひとつの声が放たれる。
「ふぅん……君が僕のことをそう思っていたなんて知らなかったなぁ」
「はははは────……は?」
聞こえてきた声に笑い声をやめたミゲルは顔を向け、そしてそこに立っている人物を見て目が飛び出でるほどの驚愕の表情を浮かべた。
そこに立っていたのは────
「どうやら君には、最大級のお灸を据えた方が良さそうだねぇ?」
「れ、レクサス?!」
そこに立っていたのはギルドの中でシド達と最も親しい冒険者のレクサスであった。
その隣にはガントの息子であるサイクスの姿もある。
ミゲルはその二人を見て先程までの自身の失言を思い返し震え始める。
「いや……い、今のは別に深い意味は無い……」
「別に意味が深いだろうと浅いだろうと関係無いんだよね。シド達のことを悪く言っているってだけでも腹が立ってるのにさぁ……君、余程僕のことを怒らせたいみたいだね?それとももしかして自殺志願者だったりする?」
「あ……あ……」
表情は満面の笑みなのに目が全然笑っていないレクサス。
そんな彼の言葉にミゲルは死に体と言ってもいいほどの状態であった。
レクサスの隣ではサイクスが〝やれやれ〟といった表情を浮かべており、ヴィクトリアは〝終わりですわね〟と呟いている。
「それとお前、レクサスがただの冒険者だと勘違いしているようだが、レクサスはこう見えて皇族だからな?」
「………………は?」
シドの口から発せられた衝撃の事実にミゲルは言葉を失う。
周囲に顔を向けてみればエルナやヴィクトリア達が揃って肯定するように何度も頷いていた。
まぁ、シャルロットだけはレクサスが皇族である事に驚いていたのだが……。
「〝レクサス〟って名前は僕のミドルネームなんだよね。本当の名は〝ヴィルヘルム・レクサス・フォン・カルヴァドス・アルカトラム〟と言うんだ」
「そ、その名は……この国の第二皇子の……」
「あっ、やっと思い出したんだねぇ。困るなぁ……君にこの名を名乗るのはこれで二度目だよ?一度目は君のデビュタンの時なんだけどね。まぁ無理も無いか……その時の君は僕より兄上に取り入ろうと躍起になってたからねぇ」
レクサス────もといヴィルヘルムはそう言うと今度はシャルロットに顔を向けて彼女に話しかける。
「驚かせちゃってごめんね?」
「い、いえ……お気になさらず……」
「シドからある程度話は聞いているよ。まさかアトランシアの聖女様だったとは驚きだけど、でも僕は君を心から歓迎するよ」
ヴィルヘルムの言葉にヴィクトリア達は大層驚いていた。
シャルロットの素性を明かしたヴィルヘルムにエルナが苦言を呈す。
「ちょっとレクサス……その話はある程度打ち解けあった時に私から話そうと思ってたのだけれど?」
「そうだったのかい?それは余計な真似をしてしまったね。でも僕も彼女とは色々と話をしてみたかったんだよ。それと安心して欲しかったんだ……彼女に〝君の正体を知っているけど、それでも僕は歓迎するよ〟って感じにね」
ヴィルヘルムはそう話すと、〝その前に〟と呟き再度ミゲルへと顔を向けた。
「皇族たる僕の悪口についても言及するけど、先ずは君に報せなきゃならない事があるんだ。という事でサイクス、彼にあの話を伝えてくれないかい?」
ヴィルヘルムの指名を受けたサイクスは自分に振るのかと怪訝な顔をしたが、直ぐに眼鏡を直して一歩前へと出る。
そして狼狽しているミゲルに対して淡々とある事を告げた。
「ミゲル……本日をもって君のチームの解体が決まりました」
「なんだと?!」
自身のチームが解体されると告げられたミゲルは声を荒らげるが、サイクスは変わらず淡々とその経緯を話し始めた。
「君のチームに所属している冒険者からの密告がありましてね。まぁ〝タレコミ〟というやつです。ミゲル、君は前々から不正を働いていたそうですね?」
「そ、そんな証拠が何処にあるってんだ!」
「証拠?ここに来て証拠の有無を問うんですか?前々から頭が足りない人物だとは認識しておりましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」
「なっ────」
「あのですね……証拠が無いのにチームの解体が決定されると思いますか?当然、君の不正の証拠の数々は既に揃ってますよ。だからこうして君にその事を伝えているんですけどね」
「……」
「それともう一つ、もうギルド内で君が流した悪評を信じている人なんて誰もいないですよ?」
「そんなはずが……!」
「これがあるんですよ。なにせ私と殿下がシド達がどれ程優れた人物であるか説明して回りましたからね。それと君がしてきた不正行為についてもね。シド、ギルド内の全員が君達に謝りたいんだそうだけど」
「別に謝罪なんて要らねぇよ。また前みてぇに接してくれるならな」
「そう言うだろうと思って彼らには前のように接してあげて欲しいと頼んできましたよ。それでミゲル……君は当然、冒険者としての資格を剥奪され、貴族裁判にもかけられます。ちなみに君のお父上についても今まで君が犯した罪を揉み消してきた証拠も掴んでますので、お父上共々裁かれる事になるでしょうね」
「そ、そんな……馬鹿な……」
「今まで好き勝手やってきたツケがようやく回ってきたって事だ。つまり年貢の納め時ってやつだよ」
「ついでに僕の悪口を言っていたって事で不敬罪も加算されるだろうしねぇ」
「ともかく、はっきりと言えることは君はもう終わりです」
サイクスがそう言い放った直後、店内に帝都の憲兵達が雪崩込むように現れ、自然な流れでガックリと両膝をついているミゲルを取り囲んだ。
「ミゲル・フォン・アクダイン。数々の不正行為及び脅迫、横領、恐喝などの容疑で貴様を拘束する!」
憲兵隊に連行されてゆくミゲル────彼と共に来店していたその仲間達も同様に拘束され、あっという間にドナドナされて行った。
嵐のような展開にシャルロットは呆然としていたが、やがてシドに声をかけられたことで我に返ることが出来た。
そして、ふと目を向けてみればヴィルヘルムがヴィクトリアに小言を言われている姿を目撃する。
「殿下!ようやくあの不届き者が捕まったのは喜ばしい事ですが時と場所を弁えて下さいまし!お陰でせっかくの女子会が台無しになってしまいましたわ!」
「ごめんねぇヴィクター。でも、ここで逃してしまったら次の機会がいつになるか分からなかったんだよ~」
「だとしてもですわ!私達はいずれこうなるだろうと予測しておりましたが、何も知らないシャロは呆けてしまっているではありませんか!」
「それについても本当に申し訳ないとは思ってるよ~」
「思っているだけですの?まさか〝ごめんなさい〟の一言だけで済ませようなどとは思っておりませんわよね?」
「怖いよヴィクター。今回の穴埋めはちゃんと考えてるからそう怒らないでくれるかな?」
「信用出来ませんわね。殿下はよくそう仰っては、いつもいつも反故にするではありませんか。この前もそう!せっかくの約束を反故にして……その時も同じような事を仰っておりましたわよね?いつになったらあの時の穴埋めをして下さるんですの?」
「そ、それについても~、ちゃんと考えているというか~……」
まるでお説教をされる子供のように視線を彷徨わせてはあれこれ言い訳を始めるヴィルヘルム。
二人の様子にシャルロットが目を丸くしているとシドが二人の関係性について教えてくれた。
「二人は婚約してるんだよ、幼い頃からな。まぁつまりは〝許嫁〟ってやつだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
確かにヴィクトリアの様子を見てみれば駄目な夫を叱責する妻のようにも見える。
そんな二人の傍ではエルナとマリアナ、そしてルーテシアはクスクスと笑っており、サイクスは呆れ顔でため息をついている。
そしてその横にロンがいるのを見て、今の今まで一緒にいた事にシャルロットは気付いた。
「さてと……ヴィクトリアの言う通りせっかくの女子会がパァになっちまったな。レクサスやサイクスのお陰で冷たい視線を浴びる事も無くなったし、せっかくだからギルドで仕切り直しといくか?」
そう尋ねるシドにシャルロットは〝そうですね〟と困ったような笑みを浮かべた。
するとその会話を聞いていたのかヴィルヘルムがこんな事を言い出す。
「それなら是非とも僕のチームハウスでどうかな?さっきも言っていたけど、聖女シャルロットとは話したい事が山ほどあるからね」
「シャルロット?殿下、彼女の名はシャーロットではないんですの?」
「それについてもチームハウスで話すよ。ヴィクター達はせっかくこの国で出来た彼女の友人でもあるしね。という事でシドとしてはどうかな?」
「せっかくの誘いだから甘えたいところだが……メンバー達は大丈夫なのか?俺達……というか俺はあいつらに滅茶苦茶嫌われてたと思うんだが?」
「それはあの悪評があったからだよ。今では彼女達もそんなデマを信じてしまったことを反省してるし、何よりギルドの中で最も君に謝りたいと願っているからね」
〝だから彼女達の為にも来ておくれよ〟と最後にそう言ったヴィルヘルムに、シドはシャルロットへと顔を向ける。
シャルロットは行きたがっているようで子供のように目を輝かせながらシドを見上げていた。
「じゃあ、そうするか。エルナとロンも良いよな?」
「勿論よ」
「断る理由はねぇしな」
二人の同意も得られたということでシド達はヴィルヘルムのチームハウスへと向かうことになった。
それにより代金を支払って店を出たのだが、その瞬間シドの耳に耳障りな声が聞こえてきた。
「シド・ヴァイナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
シドが振り返ってみればそこには今正に自分達に迫ってくる火球と、その先で目を血走らせながらこちらを睨むミゲルの姿があった。
「シドさん!!!!」
シャルロットのそんな悲鳴と共に、シドの姿はその火球に飲み込まれてゆくのであった。
そんな事など気付きもしないミゲルは自身を睨むシドに表情を歪ませると、掴んでいるその手を振り払って距離をとる。
「は……はは……誰かと思ったらシドじゃないか?嫌だなぁそんな顔しないでくれよ?僕は何もしていないのにさぁ、言いがかりはやめてくれよ」
先程シャルロットに拳を振り下ろそうとした事を無かったかのようにそう話すミゲル。
当然、その光景を目撃していたシドにはそれは通じていないのだが、あえて追求する程のことでは無いとシドは判断した。
「なら俺の仲間達にウザ絡みしてねぇでさっさと失せろ」
「僕は親切心で彼女に教えてあげてたんだよ。君達がどれ程悪い奴らなのかをね」
それを嘘だと言い切られたのにも関わらずヘラヘラとそう話すミゲルにシドは大きくため息をつく。
そして再び鋭い眼差しをミゲルに向けると、静かにこう言った。
「〝小さな親切、大きなお世話〟という言葉を知らんのか?」
「は?なんだいそれは」
「テメェにとっては些細な親切だろうが、相手にとっては余計なお世話だって事だ。そんな事も分からねぇんだからテメェはいつまで経っても愚物なんだよ」
その言葉にミゲルの額に青筋が浮かぶ。
「はぁ?負け犬が偉そうによく吠えるな。名誉毀損で訴えてやってもいいんだぜ?」
「名誉毀損で訴えられんのはテメェの方だろう。テメェ、影でよくサイクスやレクサスの悪口言ってるそうだしな」
その言葉がミゲルの琴線に触れたのか、彼はそれまでヘラヘラとした表情を一気に憤怒の形相へと変えた。
「当たり前だろ?!サイクスもレクサスもそしてギルマスも、揃いも揃ってテメェの味方をしやがる!ずっと前から奴らも負け犬のテメェと同類なんだなって思ってたんだよ!」
その言葉は静まり返った店内によく響き渡り、店内にいた者達は表情を青白くさせていた。
特にミゲルの仲間達はシドの傍に立つ人物に目を向けながら今にも死にそうな表情となっている。
しかしそれに気づかないミゲルはシドが何も言わないことをいい事に次々と減らず口を叩き始めた。
「ギルマスの息子なんだかギルド最強のチームのリーダーだろうが、この僕を舐めている奴らは皆下等なんだよ!そうだ!この僕こそがギルド最強の冒険者なんだ!今に見ていろ……この僕がギルドの頂点に君臨する姿をな!ははははは!」
高らかに笑うミゲル……その先ではシド達が憐憫の眼差しを向けているのだがミゲルはそれにすら気づかない。
そんな彼にひとつの声が放たれる。
「ふぅん……君が僕のことをそう思っていたなんて知らなかったなぁ」
「はははは────……は?」
聞こえてきた声に笑い声をやめたミゲルは顔を向け、そしてそこに立っている人物を見て目が飛び出でるほどの驚愕の表情を浮かべた。
そこに立っていたのは────
「どうやら君には、最大級のお灸を据えた方が良さそうだねぇ?」
「れ、レクサス?!」
そこに立っていたのはギルドの中でシド達と最も親しい冒険者のレクサスであった。
その隣にはガントの息子であるサイクスの姿もある。
ミゲルはその二人を見て先程までの自身の失言を思い返し震え始める。
「いや……い、今のは別に深い意味は無い……」
「別に意味が深いだろうと浅いだろうと関係無いんだよね。シド達のことを悪く言っているってだけでも腹が立ってるのにさぁ……君、余程僕のことを怒らせたいみたいだね?それとももしかして自殺志願者だったりする?」
「あ……あ……」
表情は満面の笑みなのに目が全然笑っていないレクサス。
そんな彼の言葉にミゲルは死に体と言ってもいいほどの状態であった。
レクサスの隣ではサイクスが〝やれやれ〟といった表情を浮かべており、ヴィクトリアは〝終わりですわね〟と呟いている。
「それとお前、レクサスがただの冒険者だと勘違いしているようだが、レクサスはこう見えて皇族だからな?」
「………………は?」
シドの口から発せられた衝撃の事実にミゲルは言葉を失う。
周囲に顔を向けてみればエルナやヴィクトリア達が揃って肯定するように何度も頷いていた。
まぁ、シャルロットだけはレクサスが皇族である事に驚いていたのだが……。
「〝レクサス〟って名前は僕のミドルネームなんだよね。本当の名は〝ヴィルヘルム・レクサス・フォン・カルヴァドス・アルカトラム〟と言うんだ」
「そ、その名は……この国の第二皇子の……」
「あっ、やっと思い出したんだねぇ。困るなぁ……君にこの名を名乗るのはこれで二度目だよ?一度目は君のデビュタンの時なんだけどね。まぁ無理も無いか……その時の君は僕より兄上に取り入ろうと躍起になってたからねぇ」
レクサス────もといヴィルヘルムはそう言うと今度はシャルロットに顔を向けて彼女に話しかける。
「驚かせちゃってごめんね?」
「い、いえ……お気になさらず……」
「シドからある程度話は聞いているよ。まさかアトランシアの聖女様だったとは驚きだけど、でも僕は君を心から歓迎するよ」
ヴィルヘルムの言葉にヴィクトリア達は大層驚いていた。
シャルロットの素性を明かしたヴィルヘルムにエルナが苦言を呈す。
「ちょっとレクサス……その話はある程度打ち解けあった時に私から話そうと思ってたのだけれど?」
「そうだったのかい?それは余計な真似をしてしまったね。でも僕も彼女とは色々と話をしてみたかったんだよ。それと安心して欲しかったんだ……彼女に〝君の正体を知っているけど、それでも僕は歓迎するよ〟って感じにね」
ヴィルヘルムはそう話すと、〝その前に〟と呟き再度ミゲルへと顔を向けた。
「皇族たる僕の悪口についても言及するけど、先ずは君に報せなきゃならない事があるんだ。という事でサイクス、彼にあの話を伝えてくれないかい?」
ヴィルヘルムの指名を受けたサイクスは自分に振るのかと怪訝な顔をしたが、直ぐに眼鏡を直して一歩前へと出る。
そして狼狽しているミゲルに対して淡々とある事を告げた。
「ミゲル……本日をもって君のチームの解体が決まりました」
「なんだと?!」
自身のチームが解体されると告げられたミゲルは声を荒らげるが、サイクスは変わらず淡々とその経緯を話し始めた。
「君のチームに所属している冒険者からの密告がありましてね。まぁ〝タレコミ〟というやつです。ミゲル、君は前々から不正を働いていたそうですね?」
「そ、そんな証拠が何処にあるってんだ!」
「証拠?ここに来て証拠の有無を問うんですか?前々から頭が足りない人物だとは認識しておりましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」
「なっ────」
「あのですね……証拠が無いのにチームの解体が決定されると思いますか?当然、君の不正の証拠の数々は既に揃ってますよ。だからこうして君にその事を伝えているんですけどね」
「……」
「それともう一つ、もうギルド内で君が流した悪評を信じている人なんて誰もいないですよ?」
「そんなはずが……!」
「これがあるんですよ。なにせ私と殿下がシド達がどれ程優れた人物であるか説明して回りましたからね。それと君がしてきた不正行為についてもね。シド、ギルド内の全員が君達に謝りたいんだそうだけど」
「別に謝罪なんて要らねぇよ。また前みてぇに接してくれるならな」
「そう言うだろうと思って彼らには前のように接してあげて欲しいと頼んできましたよ。それでミゲル……君は当然、冒険者としての資格を剥奪され、貴族裁判にもかけられます。ちなみに君のお父上についても今まで君が犯した罪を揉み消してきた証拠も掴んでますので、お父上共々裁かれる事になるでしょうね」
「そ、そんな……馬鹿な……」
「今まで好き勝手やってきたツケがようやく回ってきたって事だ。つまり年貢の納め時ってやつだよ」
「ついでに僕の悪口を言っていたって事で不敬罪も加算されるだろうしねぇ」
「ともかく、はっきりと言えることは君はもう終わりです」
サイクスがそう言い放った直後、店内に帝都の憲兵達が雪崩込むように現れ、自然な流れでガックリと両膝をついているミゲルを取り囲んだ。
「ミゲル・フォン・アクダイン。数々の不正行為及び脅迫、横領、恐喝などの容疑で貴様を拘束する!」
憲兵隊に連行されてゆくミゲル────彼と共に来店していたその仲間達も同様に拘束され、あっという間にドナドナされて行った。
嵐のような展開にシャルロットは呆然としていたが、やがてシドに声をかけられたことで我に返ることが出来た。
そして、ふと目を向けてみればヴィルヘルムがヴィクトリアに小言を言われている姿を目撃する。
「殿下!ようやくあの不届き者が捕まったのは喜ばしい事ですが時と場所を弁えて下さいまし!お陰でせっかくの女子会が台無しになってしまいましたわ!」
「ごめんねぇヴィクター。でも、ここで逃してしまったら次の機会がいつになるか分からなかったんだよ~」
「だとしてもですわ!私達はいずれこうなるだろうと予測しておりましたが、何も知らないシャロは呆けてしまっているではありませんか!」
「それについても本当に申し訳ないとは思ってるよ~」
「思っているだけですの?まさか〝ごめんなさい〟の一言だけで済ませようなどとは思っておりませんわよね?」
「怖いよヴィクター。今回の穴埋めはちゃんと考えてるからそう怒らないでくれるかな?」
「信用出来ませんわね。殿下はよくそう仰っては、いつもいつも反故にするではありませんか。この前もそう!せっかくの約束を反故にして……その時も同じような事を仰っておりましたわよね?いつになったらあの時の穴埋めをして下さるんですの?」
「そ、それについても~、ちゃんと考えているというか~……」
まるでお説教をされる子供のように視線を彷徨わせてはあれこれ言い訳を始めるヴィルヘルム。
二人の様子にシャルロットが目を丸くしているとシドが二人の関係性について教えてくれた。
「二人は婚約してるんだよ、幼い頃からな。まぁつまりは〝許嫁〟ってやつだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
確かにヴィクトリアの様子を見てみれば駄目な夫を叱責する妻のようにも見える。
そんな二人の傍ではエルナとマリアナ、そしてルーテシアはクスクスと笑っており、サイクスは呆れ顔でため息をついている。
そしてその横にロンがいるのを見て、今の今まで一緒にいた事にシャルロットは気付いた。
「さてと……ヴィクトリアの言う通りせっかくの女子会がパァになっちまったな。レクサスやサイクスのお陰で冷たい視線を浴びる事も無くなったし、せっかくだからギルドで仕切り直しといくか?」
そう尋ねるシドにシャルロットは〝そうですね〟と困ったような笑みを浮かべた。
するとその会話を聞いていたのかヴィルヘルムがこんな事を言い出す。
「それなら是非とも僕のチームハウスでどうかな?さっきも言っていたけど、聖女シャルロットとは話したい事が山ほどあるからね」
「シャルロット?殿下、彼女の名はシャーロットではないんですの?」
「それについてもチームハウスで話すよ。ヴィクター達はせっかくこの国で出来た彼女の友人でもあるしね。という事でシドとしてはどうかな?」
「せっかくの誘いだから甘えたいところだが……メンバー達は大丈夫なのか?俺達……というか俺はあいつらに滅茶苦茶嫌われてたと思うんだが?」
「それはあの悪評があったからだよ。今では彼女達もそんなデマを信じてしまったことを反省してるし、何よりギルドの中で最も君に謝りたいと願っているからね」
〝だから彼女達の為にも来ておくれよ〟と最後にそう言ったヴィルヘルムに、シドはシャルロットへと顔を向ける。
シャルロットは行きたがっているようで子供のように目を輝かせながらシドを見上げていた。
「じゃあ、そうするか。エルナとロンも良いよな?」
「勿論よ」
「断る理由はねぇしな」
二人の同意も得られたということでシド達はヴィルヘルムのチームハウスへと向かうことになった。
それにより代金を支払って店を出たのだが、その瞬間シドの耳に耳障りな声が聞こえてきた。
「シド・ヴァイナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
シドが振り返ってみればそこには今正に自分達に迫ってくる火球と、その先で目を血走らせながらこちらを睨むミゲルの姿があった。
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