偽物聖女と渡鴉〜聖痕を奪われ追放された元聖女は渡鴉の冒険者と出会う〜

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第一章:元聖女と渡鴉旅団

女子会と招かれざる者

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「「「尊いですわ……」」」

「……」


 あれから数分後────ようやくお眼鏡にかなう服装が見つかり、その後に街の理髪店にも立ち寄ったシャルロット達。

 服と髪を整えたシャルロットを見てヴィクトリア、マリアナ、ルーテシアの三人が恍惚とした表情でそう呟いていた。

 そんな三人に何と言葉を返して良いのか分からずシャルロットはただただ苦笑するばかりであったが……。


「それで……確かこの後は喫茶店に行くんだったか?」

「そうよ。シドも行くわよね?」


 エルナがそう尋ねると、シドは何故か難色を示した。


「あ~……そうしてぇのは山々なんだが、ちょいと呼び出しくらってさ」

「誰に?」

「ガントさん。なんかサイクスとレクサスが俺からも話を聞きたいって言ってるらしくてさ……申し訳ねぇけど、あとは頼めるかな?」

「荷物はどうするのよ」

「それは俺がついでに持ってくわ」

「それなら私もご一緒した方が宜しいですか?」

「シャロはそのままエルナ達と喫茶店に行ってて良いぞ。せっかくの女子会なんだから楽しんでこいよ」

「女子会……」


 初めて聞く言葉なのにとても惹かれる言葉。

 頭の中で反響するその言葉にホワホワするシャルロットの頭をシドは優しく撫でた。


「そういうわけで行ってくるわ。まぁ多分……後で合流するだろうけどよ」

「そうなの?」

「あの二人だぞ?どうせ〝顔が見て見たい〟とか言い出すんだろうからロンも一緒に向かうよ。話っつってもそう長くならんだろうしな」

「そういう事ね。それじゃあ待ってるわね」

「お~」


 そうして去っていくシド。

 シャルロットは少し名残惜しかったが、エルナ達との女子会が楽しみだったので何も言わずシドを見送るのだった。

 そうして立ち寄った店はヴィクトリアが贔屓にしているという喫茶店。

 ヴィクトリア曰くここの紅茶はどれも大層美味しいらしく、特にアールグレイがお気に入りだという。

 その話を聞いてシャルロットもアールグレイを注文したのだが、運ばれてきたアールグレイを一口啜ると目を見開いてティーカップを凝視してしまった。


「確かに美味しいです!味わいもですが、特に香りが今まで飲んできたものよりも遥かに素晴らしいですね!」

「そうでしょう?何せここに置かれている茶葉は全て店主自ら手がけているそうでして、私達貴族の間ではかなり有名なんですのよ」


 自分が気に入っている紅茶を褒められ嬉しそうにそう語るヴィクトリア。

 エルナもアールグレイに口をつけては幸せそうな表情を浮かべていた。

 そんなシャルロット達の前へロマンスグレーな男性がその手に持っていたケーキを置いてゆく。


「あら?私達、ケーキなんて頼んでいたかしら?」


 ヴィクトリアがシャルロット達にそう問いかけると、四人は揃って首を横へと振った。

 するとロマンスグレーの男性は笑みを浮かべながら口を開く。


「いつもご贔屓にして下さり誠にありがとうございますヴィクトリアお嬢様。こちらは当店の新商品として出そうかと思っているものでして……せっかくなのでお嬢様達のご感想を頂ければなと思いサービスさせて頂きました」

「新商品!」


 ヴィクトリアが直ぐに食いつく。


「こちらは当店自慢のアールグレイに合うケーキをコンセプトに制作しまして……丁度試食して下さる方を探していたのですよ。お嬢様は足繁く通って下さっておりますので是非にと」


 男性はそう言うと五人に〝どうぞ〟と告げて去っていった。

 シャルロットが今の男性について尋ねてみると、その男性がこの店の店主だという……なんでも店主は元々、とある高名な貴族の屋敷に仕えていた執事だったそうで、引退を機に喫茶店を開いたのだという。

 その話を聞いてシャルロットは店主の礼儀正しい立ち振る舞いに納得がいった。

 そして五人はサービスとして渡されたケーキを一口────すると彼女達の口内にその風味が広がり、幸福どころか歓喜さえも覚えるような感覚に包まれる。


「美味しい……」

「とっても上品な味わいね!こんなケーキ食べたことがないわ!」

「えぇえぇ!流石は紅茶に精通しているだけあって、それに合う味というものをよく理解なさっておりますわ!」

「本当に……この紅茶とよく合いそうですね!」

「正に至福のひとときと言えそうなほど幸せな味です!」


 ケーキに舌鼓を打ちながらそれぞれに感想を述べる五人……その様子にカウンターにいた店主も満足そうに微笑むのであった。

 しかしそんな至福のひとときを壊すかのように何者かが五人に声をかけてきた。


「誰かと思ったら、これはこれは悪名高い渡鴉のエルナじゃないか」

「……ミゲル」


 そこに居たのはエルナが属する渡鴉旅団を目の敵にしているミゲル・アクダインだった。

 その後方では彼の仲間らしき者達がニヤニヤしながらこちらを見ている。

 それまでケーキの美味しさとその場の雰囲気を楽しんでいたエルナはミゲルの登場に顔を顰めた。

 エルナだけでなくヴィクトリアやマリアナとルーテシアまでもがミゲルに対し嫌悪の目を向けており、ただ一人だけ彼と初対面であるシャルロットだけがただならぬ空気に困惑していた。

 しかしミゲルはそんな視線を気にする様子もなくエルナに絡み始める。


「今チームが大変な時に呑気な事だな?それとももう見切りをつけてるのかな?君さえ良ければいつだって僕のチームに迎えてやるんだぜ?」

「誰があんたなんかのチームに入るかってのよ!いつもいつも絡んできて……正直迷惑なのよね」

「そんな強がっちゃってる君も可愛いよ。なぁ……いい加減、素直になれって」


 どうやらミゲルはエルナが意地を張っているように思っているようだった。

 しかし実際にはエルナはミゲルの事が心底嫌いなのであるが、未だにその思いは彼には伝わっていないらしい。

 そしてミゲルが当たり前のようにエルナの方に腕を回そうとしたその瞬間、それまで黙っていたヴィクトリアが声を上げた。


「私の友人に絡まないで頂けるかしら?それとも自分が毛嫌いされているとご自覚なさってらっしゃらないのかしら?」

「あ?なんだテメ────」


 邪魔されたことに声を荒らげるミゲルだったが、その声の主を見て途端にその場で固まってしまう。


「こ、これはこれは……マクスウェル公爵家令嬢のヴィクトリア様……ご、ご機嫌麗しゅうございますか?」

「貴方が来るまでは麗しかったですわ」


 恭しく挨拶をするミゲルに対して向けられたヴィクトリアの皮肉にエルナ、マリアナ、ルーテシアは思わず吹き出しそうになる。

 その事にミゲルはカッとなったが、ヴィクトリアを前にしているのかそれを声に出すことは無かった。


「ヴィ、ヴィクトリア様がどうしてこのような者と?貴方様のような方が何故……」

「エルナは私の友人……いえ、親友だからですわ。せっかくの友人達とのお茶会ですのに、よくもまぁ邪魔をしてくれたものですわね?アクダイン子爵のご子息の分際で」

「い、いえ……別に邪魔をしようと思ったわけでは……ち、知人に会ったものですから挨拶をと」

「それにしては随分な物言いでしたわね?私の父から貴方のお父君に苦情を入れて差しあげても良いのですよ?」

「そ、それだけは……!」


 それまでミゲルの事を知らなかったシャルロットだったが、ここに来て彼はヴィクトリアには逆らえない立場にある人物だということを知った。

 ミゲルはヴィクトリアにへりくだっていたが、その内シャルロットに気が付くと途端に普段の口調で彼女に声をかける。


「き、君は初めて見る顔だね?あぁ……もしかして君がシドが連れてきたって言う子かな?ふぅん……君もなかなか可愛い顔をしているね」


 そう言われた瞬間、シャルロットは全身の鳥肌が立つような感覚に襲われた。

 ミゲルが自身を見る目が、その声が、シャルロットにとっては気色悪いもの以外の何ものでも無かったのだ。

 しかしそんな事に気づかないミゲルは馴れ馴れしくシャルロットに話し続ける。


「もしかして君もゆくゆくは冒険者になるのかな?もしそうだとしたら是非とも僕のチームに入ることをおススメするよ。まぁ他のチームでも構わないけど間違ってもシドのチームになんか入っちゃ駄目だからね?」

「アンタに関係ないでしょ!」

「うるさいなぁ……今は彼女と話してるんだから邪魔をしないでくれるかな?」

「……」


 エルナに冷たい言葉を発し、自身のチームに勧誘してくるだけでなく、あろう事かシドのチームを批判してくるミゲルにシャルロットは黙っていたが、不意にこんな質問を彼に尋ねた。


「どうしてシドさんのチームは駄目なんですか?」

「別に〝さん〟なんて付けなくて良いよあんな奴に。まぁいいや……なんで駄目なのかって質問に答えると、それはシドが悪どい事をしているからだよ」

「悪どい事?」

「そうさ。メンバーの手柄を自分のものにしたり、まだ初級の冒険者に過酷な依頼を強要したり、あとは報酬の総取りといった様々な違反をしているんだよ。しかもそれがバレないように上手く隠してるんだからタチが悪いよね」


 ペラペラとありもしない話をするミゲルにエルナはもちろん、ヴィクトリア達でさえ抗議しようとしていたその瞬間────その話を静かに聞いていたシャルロットがこんな事をミゲルに尋ねた。


「なんで……」

「ん?」

「どうしてそのような〝嘘〟をおつきになるのでしょうか?」

「……は?」


 何を質問されたのか分からずポカンとするミゲル。

 それはエルナ達も同じだったようで、全員がシャルロットに注目していた。

 それでもシャルロットは動じることなく素直に抱いた疑問を更にミゲルへとぶつける。


「シドさん達のチームに関して悪い評判が流れているとは聞かされておりましたが……貴方が今お話になられた事その全てが全くの嘘ですよね?すみません、私は何故、貴方がそのような嘘をおつきになるのか分からないのです」

「う、嘘だって?いったい何の根拠があって嘘だと言うんだ!」

「根拠……と申されましても、私は今まで様々な方達と接する機会が多く、それにより相手が放った言葉の真偽が分かるようになったからとしか説明出来ません」

「根拠が無いくせに僕の話が嘘だと言ったのか!ふざけるな!」


 ミゲルが怒鳴り始めたので他の来店客までシャルロット達に視線を向ける。

 ミゲルは声を荒らげシャルロットを批難するが、対するシャルロットは至って冷静にミゲルとの対話を続けた。


「まるで本当のようにお話になられておりましたが、言葉の端々に悪意が感じられます。私が今まで出会った方達でそのようにお話になられる方の発言は全て嘘ばかりでした。それと周りの方達に言いふらすような仕草もそれに当てはまりますね。あと……」

「まだあるのか!?」

「先程から私を見る目……正直言って気持ち悪いです」


 最後に放った言葉はミゲルの心を抉るような一言で、それを聞いてエルナやヴィクトリアは耐え切れずに吹き出してしまった。

 それはミゲルの仲間達以外の者達も同じだったようで、小声でクスクスと笑う者だったり、声を押し殺し肩を震わせる者が現れる始末。

 その事を恥ずかしく思ったミゲルは一瞬で顔を赤らめ、そしてシャルロットの肩を掴むと拳を握って彼女の頬目掛けて振ろうとしていた。


「テメェ……このクソ女風情がぁぁぁぁ!!!!」

「────!!」


 シャルロットが〝しまった〟と気付くも時既に遅く、振り下ろされた拳は彼女の目の前にまで迫っていた。

 シャルロットは直ぐに来るであろう痛みに耐えようと目を固く瞑ったが、いくら待てどもその痛みが来る様子は無い。

 その事を不思議に思いそっと目を開けてみると、そこには腕を掴まれギョッとしているミゲルと、その横で彼を睨むシドの姿があった。


「テメェ……俺の仲間に何をしようとしている?」


 ミゲルを睨みつけるシドの目は鋭く、シャルロットは畏怖を覚えながらもシドの登場に安堵の表情を浮かべるのであった。
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