虚空の神術師

ΣiGMA

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第一章:神術学園

第二話:天城空洞の過去

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 その後、秋穂は警察へと連絡し不良生徒達を任せた。

 あのスキンヘッドの不良生徒については神威所有者である事が判明した為、専門の機関にて検査を行うよう指示を出した。

 そうして後のことを任せた彼女は現在、ウツロと共に近くの喫茶店へと足を運んでいた。

 理由はウツロと二人で話がしたかったから……特に不良生徒との一戦で見せたウツロが起こした不可解な現象の数々について言及したかったからである。

 ウツロについては午後の授業のノート取りを柘植口達に頼み、彼女達から〝動画を撮って送っておく〟との言葉を受けてから秋穂と共に来た次第である。

 まぁ、昼休憩に呼び出されたせいで昼食が取れず、腹を空かせていたのも理由の一つではあるが……。


「よくそんなに食べれるわね……」


 そして秋穂は目の前で沢山の料理を食べているウツロを見てそんな感想を述べる。

 するとウツロは料理を口に運びながらその言葉に対しこう返した。


「まぁ、神威を使うとかなりのエネルギーを消費しますんで」

「それって、自分も神威所有者であると認めるって事かしら?」


 その事について訊ねようとした秋穂だったが、その前にウツロ自らそう話したことでその手間が省けた。

 ウツロは秋穂の言葉を否定せずにこう続ける。


「あんたが相当な鈍感じゃない限り、あの時にバレてるだろうって思ってたっスからね。今更否定なんてしねぇっス」

「つまり、あの大岩が消えたり、神威所有者が神威を発動出来なくなったりしたのは貴方の神威って事ね」

「その通りっス」


 ウツロは最後に口に運んだ料理を飲み物で流し込んだ後、キッパリとそう答えた。


「俺の神威は〝虚空〟っつって、任意の物体とかを消すことが出来る能力なんスよ。そして俺のこの手に触れられた神威所有者の神威を無効化する事も可能っス」


 ウツロはそう話すと徐ろに秋穂の手に触れる。

 秋穂はウツロの目を見て直ぐにその理由を察し神威を発動させようとしたが、彼が話した通り神威は一向に発動する気配は無い。


(なんて恐ろしい神威なのかしら……)


 物質を消し、神威を無効化させる神威……それはこの世に存在する全ての神威所有者にとって脅威以外の何ものでもなく、またその者達にとってウツロはこの世で唯一の天敵と言っても過言では無いだろう。


「あのスキンヘッドの彼に殴られても平気だったのも神威によるものかしら?」

「それは違うっスね。俺、異常に身体が頑丈なんスよ」

「そうなの?」


 頑丈と言うには程があると思った秋穂。

 そう思うのも仕方の無いことで、鬼人系の神威による膂力は戦車でさえも破壊することが出来るほどの力があるのだ。

 そんな力で殴られても平気な程頑丈というのは、確かに異常なのかもしれない。


「物心つく前からそうだったらしくて、特に階段から転落した際は骨折どころかヒビすら入ってなかったらしいっスよ?まぁ、親から話を聞いた程度なんで本当かどうかは分からんっスけど」

「もしそうなら尚更不思議ね。どうしてそんな貴方が一般の中学になんて通っているの?」

「あ~……それは両親の意向ってやつですね」

「両親の意向?」

「俺の両親は俺を普通の人間として生きて欲しかったらしくて……まぁ先天性神威所有者だったからこそだと思うんスけど」

「貴方、先天性神威所有者だったの?!」


 ウツロの言葉に秋穂は思わず周囲を気にせず声を上げてしまう。

 またその際に勢いよくテーブルに手をついて立ち上がったので、乗っていた皿などがガチャンと音を立てた。

 しかし彼女が驚くのも無理はなく、現在確認されている神威所有者のほぼ全てが後天性の神威所有者であり、そもそも神威は本人の精神に衝撃を与えるほどの影響を受けることによって覚醒する事が研究により判明されている。

 故にウツロのような先天性神威所有者は非常に稀少な存在であった。


「ちょっ……周りの迷惑っスよ?」

「あっ、ごめんなさい」


 ウツロに指摘されたことでようやく周囲から注目されている事に気がついた秋穂は申し訳なさそうな表情で静かに椅子へ座った。


「まぁ両親は共に神威管理局の局員だったんで、神威所有者が抱く不安や、周囲から向けられる感情ってのをよく知ってるんスよ。だから俺を普通の人間として育てたかったんでしょうね」

「ご両親、管理局の方だったのね」


 そう口にしたところで秋穂はふと引っかかりを覚えた。


(あれ?管理局員……天城……管理局員の天城って確か……)


 秋穂の脳裏に過ぎる、とある記憶……それは秋穂がまだ刑事として駆け出しだった頃にとても印象に残った事件にまつわるものであった。


「もし差し支えなければお聞きしたいのだけれど……ご両親は今……?」

「亡くなったっス。事件に巻き込まれてね」

(やっぱり……)


 秋穂が非常に印象に残った事件……それはとあるバスジャック事件についてである。

 そのバスジャック事件は今から2年ほど前、運行中のバスが当時警察に指名手配されていた男に乗っ取られた末に乗客ごと海に転落したという悲しい事件であった。

 男は逃走のためにバスを乗っ取ったのだが直ぐに警察にバレてしまいハンドルを奪って逃走……その途中でハンドル操作を誤り乗客諸共海へ転落した。

 しかしその後の捜査でタイヤ痕が一直線に海へと向かっていたこと……その事により男は逃げ切れないと悟り、乗客を道連れにして躊躇なく海へと飛び込んだのではないかという判断となった。

 その証拠に引き上げられたバスの乗客達は全員、刃物で胸を一突きにされており、この事は当時では最大のバスジャック事件として連日ニュースに取り上げられることとなった。

 そしてその乗客の中には神威管理局の局員である夫婦が含まれており、その夫婦の名がそれぞれ〝天城八雲やくも〟、〝天城美空みそら〟という名であった。

 まさか目の前にいる天城ウツロが二人の息子であるとは思いもしなかった秋穂。

 彼女はその事を悟ると、深々とウツロに頭を下げた。


「ごめんなさい……辛いことを聞いてしまって」

「構わねぇっス。もう心の整理はついてるんで」


 秋穂の謝罪にウツロはそう返すと、新たに注文したコーヒーを啜った。


「確かに亡くなったと知らされた時は悲しかったっスけど、今では家族の分まで生きて、そんであの世で再会したら土産話でもしてやろうって思ってるんで」

「強いのね」

「悲しみを楽しみに変えたってだけっスよ」


 そう話すウツロに少しだけ笑みを浮かべる秋穂。

 しかしその表情は直ぐに神妙なものへと変わり、彼女はその事件について〝ある事実〟を述べるか否かを迷っていた。


(これは極秘情報だからおいそれと話してはならない事だけど……でも、天城くんはあの事件の被害者の遺族。彼には事実を知る権利があるわ)


 話すことを決意した秋穂……彼女は真剣な眼差しをウツロへと向けると、静かにその口を開いた。


「これは警察内部……特に私が所属している部署の人間しか知らないのだけれど」

「ん?」

「もしかしたらその犯人、まだ生きているかもしれない」

「え……」


 秋穂が口にした言葉を聞き、その衝撃にウツロは思わず手にしていたカップを落としそうになるのであった。


───────────────────
《次回予告》
    秋穂からの衝撃の一言に動揺を隠せない空洞
    そして彼女が告げた事実と、そして〝ある提案〟を聞かされた空洞は何を思い、そしてどのような決断をするのか?

次回、〝明かされなかった事実〟
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