11 / 30
11 団長のハーレム
しおりを挟む
当たり障りのない事実だけを答えつつ、俺は頭の中で忙しく整理する。
ホレスは隊長で、恐らく昨夜の当直責任者だった。
オーク目撃談を軽く見て、マーゴを派遣したのは彼である。
そして、勤務明けに娼館へ行きたいがため、部下の帰還を待たず、副団長に引き継ぎをした。
今の話だと、ホレスはマーゴとリタを派遣したことになる。
実際リタが現場にいなかったことは、俺がよく知っている。ホレスは知らないままのようだ。
メイナードは、リタが仕事をサボったことを、少なくとも現場に来た時点で知った筈だ。
それなのに、ホレスにそのことを指摘せず、従って罰してもいない。
警備を司る騎士団として、あり得ない態度であった。
リタと団長は恋愛関係にある。だから、戻らない二人を心配した副団長が、自ら探しに来たのかもしれないし、出動する時点で既にリタの居場所を知って、後始末のために来たのかもしれない。
新人騎士のマーゴが戻らない以上、オーク出現情報は本物の可能性があった。
そこに、俺がいた。
最初は金で適当に追い払おうとした。ところが名前を聞き、オークの切り口を見て、アデラの知り合いと知ると、強引に本部へ連れてきた。
素人の俺がちょっと見ただけで、騎士団の規律が緩んでいることはわかる。
アデラは王都騎士団の副団長である。俺には休暇で来た、と言っていたが、実は別の目的があったのか。
だとしても、単なる知り合いの俺に、わざわざ目撃させて、どうしろと?
接待して口添えでも頼むつもりか。俺に、そんな力はない。
まさか、口封じ?
結果的に、オーク退治を新人騎士一人に任せたことは、騎士団の失態である。リタがサボったことを隠蔽したかったのだろうか。
他にも色々な問題がありそうだ。
俺の知ったことではないのに。アデラの知り合いというだけで、誤解されている。
王都騎士団に告げ口されないよう、別の場所で始末し、死体を隠したら、行方不明を口実に調査団を派遣されるかもしれない。
騎士団内で、大勢の目撃者の前での病死を装えれば、領主側の調べも逃れられる。
先ほどメイナードが団長室へ行ったのは、俺の暗殺計画を相談するためかも。
俺は何の権力も持っていないのだが。
余程、勝手に帰ろうか、と思った。
これが全部俺の妄想だったら、平民が一人宴会を辞退したところで、残る騎士に魔獣料理の取り分が増えるだけだ。
まさかの真実だったら、逃がしてもらえない。
「ホレス隊長、ご案内ありがとうございました。私は、そろそろお暇しようかと思います」
「おっそうか? じゃあ、上に言っとくわ。また、マダム・ヤンのところで会ったら、よろしくな」
ホレスは、あっさり俺を解放した。暗殺計画が存在したとしても、騎士団ぐるみではなさそうだ。
俺は、ほっとして出口へ向かった。
マーゴがいた。徹夜してその後の書類仕事で食事も抜いている筈なのに、俺を見た途端、元気に駆け寄ってきた。若さと体力の成せる技である。
「ザックさん、決裁間に合いました! ご協力ありがとうございました。バジリスク、食べて帰りますよね?」
両手を握り、上下にぶんぶん振り回す。徹夜ハイという奴だ。
「いや、私はもう帰ろうかと」
「え~そんなあ。もうちょっとで、夕食の時間になるのに。あ、そうだ。私の剣捌きをお見せします。夜のオーク相手は、ちょっと無理だったけど、本気を出したら、私も結構できるんですよ。何なら、お相手してくださっても」
もはや、酔っ払いと同じである。
「そんな。私のような素人が、騎士様のお相手など務まりません」
「マーゴ。ザック殿の手を離して差し上げろ。ザック殿、お待たせしました。もうすぐ夕食の準備が整います。それまで、私がお相手致しましょう」
水牛人がにこやかに登場した。暗殺決定である。
食堂のテーブルと椅子は、ホレスに案内された時と違って、蹄鉄型に並べられていた。
中央に、骨付き鶏もものローストが山盛り。バジリスクである。他にも茹でたササミや、唐揚げが並ぶ。
その周囲を、パスタやパン、果物なんかが取り巻いていた。酒樽もあった。
宴会仕様である。
ゴールト団長も出席した。リタが側にベッタリと侍っている。
そればかりではない。
少し離れてはいるものの、団長の周辺は、全員女騎士で占められていた。マーゴも、女性陣の中では一番離れた席ではあるが、一応団長の取り巻きのような位置に座っていた。
「今日は、オークを退治した上に、バジリスク肉が大量に手に入ったことを祝う宴だ。大いなる貢献を果たした騎士マーゴに、最初の一口を味わう褒美をやろう。こっちへ来い」
マーゴは自分の皿とフォークを持ち、大回りして、団長の正面から近付いた。
各自の席の前には、それぞれバジリスクステーキ一切れとカップの酒が用意されていた。彼女の皿にも肉は載っている。
うっすらと失笑が起きた。俺の思うに、手ぶらで良かったのではないか。嫌だけど。
ゴールト団長は、近付くマーゴを見てニヤリと笑った。
「おいおい。俺にも食べさせてくれるのか。団長思いだな」
「え? あ、はい」
マーゴは徹夜ハイの効果が切れてきたようだ。ぼんやりとした返事をした。
団長は構わず、自分の皿にフォークを突き立てた。ステーキの一切れを、マーゴの口へ押し付ける。
本能で齧り取るマーゴ。およそ一日ぶりの食事なのだ。徹夜明けで起きたままでもある。周囲の喧騒の意味など、理解できないだろう。ただ、目の前にぶら下がった肉を食べたい一心だ。
「よーし。次は、お前が食べさせる番だ」
団長が突き刺したフォークを使う手もあった。そうすれば、マーゴの肉は齧られずに済む。しかし、彼女は両手が塞がっていた。自分の皿にある肉を差し出すしかない。
マーゴが肉を差し出すと、団長はフォークを掴む手の上から握り込み、ステーキを食いちぎった。
「待たせたな。乾杯といこう」
マーゴの手は握ったままである。団長はそのまま乾杯し、宴会に突入した。その隣でリタがマーゴを睨んでいる。
「団長。お酒のお代わりいかがですか? ちょっと、マーゴどいてくれるかな。団長の邪魔になっているじゃないの」
頭が熊の女騎士が、ピッチャーを持って団長の前に来た。そう言えば、彼女は俺たちの近くに座っていた。こうして全身を見るまで、女だと気付かなかった。
「あら、マリイ。気が利くじゃない。マーゴ、どきなさいよ」
反応したのは、リタだった。両側から女に迫られ、団長は渋々マーゴの手を離した。
熊騎士が酒を注ぐ間に、彼女は席へ戻る。途中でササミを仕入れていった。徹夜とプチ断食明けは、あっさりした物が口に合うのかもしれない。
「団長、私もお肉を食べさせてください」
「私のお肉を食べさせて差し上げますわ」
「団長~」
マリイが離れると、近くの席に座る女騎士が、次々と皿やカップを持って団長に寄ってきた。リタがあからさまに不機嫌な顔を見せるが、彼女たちは気にしない。
「おお、お前たちも気が利くなあ」
団長もまた、女騎士に機嫌よく応じる。酒や肉のやり取りが始まった。
俺は、彼らを眺めながら、うっかりバジリスクを口に入れてしまった。
乾杯の時は、飲んだフリで誤魔化したのに。しかも、肉の焼き加減、味付け共に、絶妙である。あああ、と思ううちに、咀嚼して飲み込んでしまう。
美味い。毒どころか、力がみなぎる気さえする。
そういえば、魔物の肉を食べるのは、随分と久しぶりのことだった。
急いで自分の酒と皿をスキャンした。
どこにも毒は入っていなかった。ほっとした。
「ご心配なく。毒は入れていません」
二口目のステーキを齧った俺に、メイナードが囁いた。俺は咽せそうになった。
「副団長様は、魔法をお使いになりますか?」
「形程度です。相手が魔法を使う時に、攻撃パターンを読む参考として習得したので、自分ではほとんど使えません。ザック殿が、相当の使い手であることは、何となくわかります」
すると、暗殺する気はないのだ。少なくとも食事中は。
「私には、何の権限もコネもありませんよ」
「お言葉通りでないことを期待します」
メイナードは、毒など入っておりません、とアピールするように、ステーキをむしゃむしゃ平らげた。頭が水牛でも、食事は人間なのだ。
「休暇で立ち寄られたアデラ殿にも訴えました。あの方も、特に約束はなさいませんでした」
立ち上がって、お代わりのローストバジリスクを何本か持ってきた。俺はそこから一本分けてもらう。
「組織は、上下の別が守られねば成り立ちません。私にも、妻子という守るべきものがあります」
副団長の目線の先は、団長に向いていた。俺もつられて目を向け、ギョッとする。
ステーキの端と端を、ゴールトと女騎士がそれぞれ口で咥えていたのだ。その脇で、リタが豊満なおっぱいを押し付けると、団長が手で鷲掴みにした。口は肉を咥えたままである。
「今は、ぎりぎり職務に当たっている状態ですが、早晩それも崩れるでしょう。魔王が倒されたというのに最近、魔物の出現が増えている実感があります。辺境騎士団の防御が外れるということは、国、つまり国民の安全が無防備にさらされるということです」
バジリスク料理は、見る間に減っていく。酒樽の中身も半分以上なくなっている。酒の追加を求めてきた騎士が、上半身を乗り出すようにして、ピッチャーをそのまま突っ込んでいた。
左右の騎士は、とうに酔っ払っていた。
「私としては、組織の機能を保つため、上司に逆らわない範囲で、正常化に向けて努力をしているつもりです。どのような小さなきっかけでも、可能性があれば、試してみる価値はあります」
団長と女騎士の間にあるバジリスク肉は、見る間に半分以上縮んだ。
俺は、リタの手が、テーブルの下で怪しい動きをしていることに気付いた。
テーブルの上では、団長が最後の一口を女騎士の唇と共に奪ったところである。
リタの手は、細長い物を握って摩るような動きをしていた。
皆、酔っ払っている。メイナードと俺以外。
「なるほど」
俺は言った。
マーゴは、テーブルに突っ伏して眠っていた。口からステーキの切れ端がはみ出ていた。
ホレスは隊長で、恐らく昨夜の当直責任者だった。
オーク目撃談を軽く見て、マーゴを派遣したのは彼である。
そして、勤務明けに娼館へ行きたいがため、部下の帰還を待たず、副団長に引き継ぎをした。
今の話だと、ホレスはマーゴとリタを派遣したことになる。
実際リタが現場にいなかったことは、俺がよく知っている。ホレスは知らないままのようだ。
メイナードは、リタが仕事をサボったことを、少なくとも現場に来た時点で知った筈だ。
それなのに、ホレスにそのことを指摘せず、従って罰してもいない。
警備を司る騎士団として、あり得ない態度であった。
リタと団長は恋愛関係にある。だから、戻らない二人を心配した副団長が、自ら探しに来たのかもしれないし、出動する時点で既にリタの居場所を知って、後始末のために来たのかもしれない。
新人騎士のマーゴが戻らない以上、オーク出現情報は本物の可能性があった。
そこに、俺がいた。
最初は金で適当に追い払おうとした。ところが名前を聞き、オークの切り口を見て、アデラの知り合いと知ると、強引に本部へ連れてきた。
素人の俺がちょっと見ただけで、騎士団の規律が緩んでいることはわかる。
アデラは王都騎士団の副団長である。俺には休暇で来た、と言っていたが、実は別の目的があったのか。
だとしても、単なる知り合いの俺に、わざわざ目撃させて、どうしろと?
接待して口添えでも頼むつもりか。俺に、そんな力はない。
まさか、口封じ?
結果的に、オーク退治を新人騎士一人に任せたことは、騎士団の失態である。リタがサボったことを隠蔽したかったのだろうか。
他にも色々な問題がありそうだ。
俺の知ったことではないのに。アデラの知り合いというだけで、誤解されている。
王都騎士団に告げ口されないよう、別の場所で始末し、死体を隠したら、行方不明を口実に調査団を派遣されるかもしれない。
騎士団内で、大勢の目撃者の前での病死を装えれば、領主側の調べも逃れられる。
先ほどメイナードが団長室へ行ったのは、俺の暗殺計画を相談するためかも。
俺は何の権力も持っていないのだが。
余程、勝手に帰ろうか、と思った。
これが全部俺の妄想だったら、平民が一人宴会を辞退したところで、残る騎士に魔獣料理の取り分が増えるだけだ。
まさかの真実だったら、逃がしてもらえない。
「ホレス隊長、ご案内ありがとうございました。私は、そろそろお暇しようかと思います」
「おっそうか? じゃあ、上に言っとくわ。また、マダム・ヤンのところで会ったら、よろしくな」
ホレスは、あっさり俺を解放した。暗殺計画が存在したとしても、騎士団ぐるみではなさそうだ。
俺は、ほっとして出口へ向かった。
マーゴがいた。徹夜してその後の書類仕事で食事も抜いている筈なのに、俺を見た途端、元気に駆け寄ってきた。若さと体力の成せる技である。
「ザックさん、決裁間に合いました! ご協力ありがとうございました。バジリスク、食べて帰りますよね?」
両手を握り、上下にぶんぶん振り回す。徹夜ハイという奴だ。
「いや、私はもう帰ろうかと」
「え~そんなあ。もうちょっとで、夕食の時間になるのに。あ、そうだ。私の剣捌きをお見せします。夜のオーク相手は、ちょっと無理だったけど、本気を出したら、私も結構できるんですよ。何なら、お相手してくださっても」
もはや、酔っ払いと同じである。
「そんな。私のような素人が、騎士様のお相手など務まりません」
「マーゴ。ザック殿の手を離して差し上げろ。ザック殿、お待たせしました。もうすぐ夕食の準備が整います。それまで、私がお相手致しましょう」
水牛人がにこやかに登場した。暗殺決定である。
食堂のテーブルと椅子は、ホレスに案内された時と違って、蹄鉄型に並べられていた。
中央に、骨付き鶏もものローストが山盛り。バジリスクである。他にも茹でたササミや、唐揚げが並ぶ。
その周囲を、パスタやパン、果物なんかが取り巻いていた。酒樽もあった。
宴会仕様である。
ゴールト団長も出席した。リタが側にベッタリと侍っている。
そればかりではない。
少し離れてはいるものの、団長の周辺は、全員女騎士で占められていた。マーゴも、女性陣の中では一番離れた席ではあるが、一応団長の取り巻きのような位置に座っていた。
「今日は、オークを退治した上に、バジリスク肉が大量に手に入ったことを祝う宴だ。大いなる貢献を果たした騎士マーゴに、最初の一口を味わう褒美をやろう。こっちへ来い」
マーゴは自分の皿とフォークを持ち、大回りして、団長の正面から近付いた。
各自の席の前には、それぞれバジリスクステーキ一切れとカップの酒が用意されていた。彼女の皿にも肉は載っている。
うっすらと失笑が起きた。俺の思うに、手ぶらで良かったのではないか。嫌だけど。
ゴールト団長は、近付くマーゴを見てニヤリと笑った。
「おいおい。俺にも食べさせてくれるのか。団長思いだな」
「え? あ、はい」
マーゴは徹夜ハイの効果が切れてきたようだ。ぼんやりとした返事をした。
団長は構わず、自分の皿にフォークを突き立てた。ステーキの一切れを、マーゴの口へ押し付ける。
本能で齧り取るマーゴ。およそ一日ぶりの食事なのだ。徹夜明けで起きたままでもある。周囲の喧騒の意味など、理解できないだろう。ただ、目の前にぶら下がった肉を食べたい一心だ。
「よーし。次は、お前が食べさせる番だ」
団長が突き刺したフォークを使う手もあった。そうすれば、マーゴの肉は齧られずに済む。しかし、彼女は両手が塞がっていた。自分の皿にある肉を差し出すしかない。
マーゴが肉を差し出すと、団長はフォークを掴む手の上から握り込み、ステーキを食いちぎった。
「待たせたな。乾杯といこう」
マーゴの手は握ったままである。団長はそのまま乾杯し、宴会に突入した。その隣でリタがマーゴを睨んでいる。
「団長。お酒のお代わりいかがですか? ちょっと、マーゴどいてくれるかな。団長の邪魔になっているじゃないの」
頭が熊の女騎士が、ピッチャーを持って団長の前に来た。そう言えば、彼女は俺たちの近くに座っていた。こうして全身を見るまで、女だと気付かなかった。
「あら、マリイ。気が利くじゃない。マーゴ、どきなさいよ」
反応したのは、リタだった。両側から女に迫られ、団長は渋々マーゴの手を離した。
熊騎士が酒を注ぐ間に、彼女は席へ戻る。途中でササミを仕入れていった。徹夜とプチ断食明けは、あっさりした物が口に合うのかもしれない。
「団長、私もお肉を食べさせてください」
「私のお肉を食べさせて差し上げますわ」
「団長~」
マリイが離れると、近くの席に座る女騎士が、次々と皿やカップを持って団長に寄ってきた。リタがあからさまに不機嫌な顔を見せるが、彼女たちは気にしない。
「おお、お前たちも気が利くなあ」
団長もまた、女騎士に機嫌よく応じる。酒や肉のやり取りが始まった。
俺は、彼らを眺めながら、うっかりバジリスクを口に入れてしまった。
乾杯の時は、飲んだフリで誤魔化したのに。しかも、肉の焼き加減、味付け共に、絶妙である。あああ、と思ううちに、咀嚼して飲み込んでしまう。
美味い。毒どころか、力がみなぎる気さえする。
そういえば、魔物の肉を食べるのは、随分と久しぶりのことだった。
急いで自分の酒と皿をスキャンした。
どこにも毒は入っていなかった。ほっとした。
「ご心配なく。毒は入れていません」
二口目のステーキを齧った俺に、メイナードが囁いた。俺は咽せそうになった。
「副団長様は、魔法をお使いになりますか?」
「形程度です。相手が魔法を使う時に、攻撃パターンを読む参考として習得したので、自分ではほとんど使えません。ザック殿が、相当の使い手であることは、何となくわかります」
すると、暗殺する気はないのだ。少なくとも食事中は。
「私には、何の権限もコネもありませんよ」
「お言葉通りでないことを期待します」
メイナードは、毒など入っておりません、とアピールするように、ステーキをむしゃむしゃ平らげた。頭が水牛でも、食事は人間なのだ。
「休暇で立ち寄られたアデラ殿にも訴えました。あの方も、特に約束はなさいませんでした」
立ち上がって、お代わりのローストバジリスクを何本か持ってきた。俺はそこから一本分けてもらう。
「組織は、上下の別が守られねば成り立ちません。私にも、妻子という守るべきものがあります」
副団長の目線の先は、団長に向いていた。俺もつられて目を向け、ギョッとする。
ステーキの端と端を、ゴールトと女騎士がそれぞれ口で咥えていたのだ。その脇で、リタが豊満なおっぱいを押し付けると、団長が手で鷲掴みにした。口は肉を咥えたままである。
「今は、ぎりぎり職務に当たっている状態ですが、早晩それも崩れるでしょう。魔王が倒されたというのに最近、魔物の出現が増えている実感があります。辺境騎士団の防御が外れるということは、国、つまり国民の安全が無防備にさらされるということです」
バジリスク料理は、見る間に減っていく。酒樽の中身も半分以上なくなっている。酒の追加を求めてきた騎士が、上半身を乗り出すようにして、ピッチャーをそのまま突っ込んでいた。
左右の騎士は、とうに酔っ払っていた。
「私としては、組織の機能を保つため、上司に逆らわない範囲で、正常化に向けて努力をしているつもりです。どのような小さなきっかけでも、可能性があれば、試してみる価値はあります」
団長と女騎士の間にあるバジリスク肉は、見る間に半分以上縮んだ。
俺は、リタの手が、テーブルの下で怪しい動きをしていることに気付いた。
テーブルの上では、団長が最後の一口を女騎士の唇と共に奪ったところである。
リタの手は、細長い物を握って摩るような動きをしていた。
皆、酔っ払っている。メイナードと俺以外。
「なるほど」
俺は言った。
マーゴは、テーブルに突っ伏して眠っていた。口からステーキの切れ端がはみ出ていた。
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる