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20 賢者の検証 *
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師匠がゾーイに封印を施している間、俺はヒサエルディスと奥へ向かった。
「昨夜の実験は上手く行ったのか?」
「ああ。師匠と色々試してみたけれど、全部問題なかった」
あっけらかんと話しているが、試したのはセックスである。共に学んでいた時期も、魔王を倒す旅の間にも、彼女が恋愛や性愛に興味を示した記憶はない。師匠についても同様である。
エルフの性欲が薄いのは、何となく聞き知っていたが、彼らは賢者でもある。俺は何となく、賢者は食欲とか性欲とか、睡眠欲とか、そういった人間に不可欠な欲望がない存在だと思い込んでいた。
もちろん、彼らからそんな説明を受けた覚えもないのだが。
到着したヒサエルディスの寝室は、ベッドとクローゼットだけの簡素なものだった。
「今、魔法陣を敷く。少しだけ待ってくれ」
やっぱり実験って、その件だよな。昨日は俺じゃ駄目って言っていた記憶があるのだが、エルフ同士で成功したから、応用したくなったのだろうか。
「俺、人間だよ?」
「知っている。人間とやりたいエルフもいるんだ。それに、将来的に人間の王族へ売り込むには、データが必要だろう。人間の王族や貴族は、血の繋がりを重要視する。需要はある」
師匠は自分の興味が最優先だが、ヒサエルディスは、その好奇心を世俗にも向けている。この二人は、良いコンビなのである。
「出来た。早速やろう。ザカリー、服を脱げ」
魔法陣が完成すると、ヒサエルディスは服を脱ぎ出した。エロくも何ともない。
「本当に、俺とセックスして大丈夫? それに、全然雰囲気盛り上がっていないけど」
言いつつも、姉弟子の命令である。俺は、服を脱ぎつつ質問する。
「当たり前だ。魔法陣の効果を試すのだから、やる気がしない方がいいに決まっている。私は、お前をいやらしい目で見たことはないぞ」
全裸で仁王立ちしたヒサエルディスが、堂々宣言する。これから、彼女とセックスするのである。
「師匠に怒られないかな?」
そう言う俺の息子は、だらりと垂れていた。姉弟子と同様、俺も彼女をおかずにした事はない。今、バランスの完璧な肢体を前にしても、美術鑑賞の気分である。
「何で?」
本当に理解できないようだ。賢者でも、苦手な分野は存在する。仕方なく、説明した。
「ヒッサは師匠の女になった訳だから、他の男に抱かせるのは嫌なんじゃないかな。えーと、嫉妬とか」
「師匠がそんな事、考える訳ないだろう」
きょとんとして答えたヒサエルディスは、そこで少しだけ考えるポーズを取った。また新たな芸術作品の誕生である。
「昨夜の実験で、性交から得られる快感に興味を持った印象は受けたが、仮にお前の言うような感情を持ったとしたら、この実験の相手は尚更、お前以外には任せられまい。何故なら、お前は信頼できる弟子であり、姫しか愛していないからな」
「なっ」
ここで姫を引き合いに出さなくとも。羞恥で体が熱くなる。ヒサエルディスの視線が下がった。
「おや。そんな事で勃つようでは、実験の精度が下がる」
「大丈夫。少し待てば戻る」
言葉通り、俺の息子は冷静さを取り戻した。
「では、始めよう。最初は、一緒に入るか」
「最初?」
問い返す俺に構わず、ヒサエルディスが手を取ってベッドへ引っ張り込んだ。
魔法陣が発動した。
「うわっ」
「ああ、気持ちいい」
外から見た時は眩しかった光が、内側からはぼんやりとした明るさに感じられた。その陰影で、ヒサエルディスの裸体がエロく見える。
「おお。無事に勃っているな。重畳だ」
普通の状態で聞いたら萎えそうな彼女の言葉も、濡れた声で俺を興奮させた。
「おっぱい揉んでもいいか?」
「尻の穴以外は好きなようにやってみろ。私も好きにさせてもらう」
ヒサエルディスが陰茎を握りながら、口へ舌を差し込んできた。いきなり大胆な行動に、俺の下半身が一層熱くなった。
「んんっ。ふうっ」
触れた場所の一つ一つから快感が広がる。もっと、もっと奥へ。
探り当てた指先が、まるで亀頭に変じたように、肉壁で包み込まれる。本物の亀頭から、快楽の先走りが滴るのに呼応して、俺の手首まで愛液が流れ落ちた。
「あっ、ああっ」
快楽の激しさにびしゃびしゃの唇が外れ、声が漏れる。
「くっ。挿れたい」
俺は、ヒサエルディスの手に握られたまま、腰を動かしてアピールした。もう、手だけでもイケそうだった。
「うん」
ぐい、と体が迫ったかと思うと、もう膣内へ挿入されていた。
「おおおっ」
突かずにはいられない。俺は、彼女の体をしっかり押さえ、思い切り奥まで突き倒す。
「いいっ。イクッ。もっと」
息も体も弾ませながら、ヒサエルディスが甘い声を上げる。パンッパンッとリズミカルな音が、俺の興奮を加速した。
ドピュッピュルルルッ。
思い切り出し終わった途端、光が消え、我に返った。
「すまん。中出ししていいか、聞くのを忘れた」
「昨夜、不妊薬を飲んだ。あれ、まだ効果あったかな? 妊娠しても、それはそれで新たな研究対象になる。気にせず、どんどん出してくれ」
ヒサエルディスも、すっかり元通りだ。
「ああ、わかった‥‥どんどん?」
そういえば始める前、最初は、と言っていた。
「では次。先にお前が入り、時間差で私が入った場合の具合を確認する。イキ時がズレるようでは、使いにくいからな。ううむ。いちいち設定するのは面倒だ。師匠には、三回と五回のバージョン違いを用意してもらおう。組み合わせれば、対応の幅が広がるぞ」
「五回」
そんなに保つだろうか。アデラとヤッた時は何回したっけ?
五回とは限らない。ヒサエルディスは、昨夜師匠とヤリまくった後なのだ。エルフは人間よりも体力が少ない筈。
俺は気を揉みながら、姉弟子が魔法陣を敷くのを見守った。
そして、それは全部で五回繰り返された。エルフ、意外と体力がある。
ヒサエルディスは、大きく伸びをした。
「体を動かすと、疲れるし、お腹も空くなあ。簡単に食べられる物、あったかな?」
「俺が見た限りでは、チーズと干し果物ぐらいだったな」
二人共、服を着るのが面倒で、裸のまま台所まで戻ってきた。
流しの食器が片付いている。
テーブルの上には、四人分の皿とフォーク。チーズの塊が載った木の板と、干し果物が山盛りになった木の器があった。
「師匠?」
見回すまでもなく、誰もいない。
「妖精さんだ。ありがたい」
「妖精、さん」
師匠から、教わった覚えがある。植物や水や風のような自然から発生する生物で、魔法のような力を持つが、魔族とは区別される。何が違うのか、当時の俺にはよくわからなかったので、大きさで区別した覚えがある。妖精は、魔族よりも圧倒的に小さいのだ。人間よりも小さい。
「食事の片付けをした時、残り物を与える契約を交わしている。気が向いた時には、こうして食事の用意もしてくれる」
それは、残り物が欲しいからだ。昨日の菓子も、彼らの胃袋へ収まった訳だ。ヒサエルディス用に取り分けた料理が喰われなかったのは、僥倖だった。いや、見えない部分をつまみ食いされたかもしれない。
「私たちだけで食べてしまうと、師匠と魔王の分まで持ち帰られる。呼びに行こう」
「なるほど」
融通が効かないのである。
ホールへ続く扉を開ける時、全裸なのが気になったが、今朝方あちらの裸を見たばかりだったのを思い出した。外へ出るでもなし、ここには俺たちと妖精しかいない。
ヒサエルディスが呼び鈴を鳴らす。ノッカーは返事をしなかった。
「師匠?」
姉弟子は扉を開けて中へ入った。どうやらいつも無施錠のようだ。
今日は、魔法陣トラップを設置していなかった。
「師匠。昼食一緒に食べましょう」
ヒサエルディスの後について、奥へ進む。間取りや部屋の使い方も左右対称だった。二人とも似たような生活を送っているのである。
「実験に夢中になっているのかな」
「だろうな。待たされる魔王が気の毒だな。どうしていることやら」
奥へ進めば、寝室と実験室だ。ヒサエルディスは、音のする方の扉を開けた。
「ほら、遠慮なく吸ってごらん」
「ぐぶっ」
じゅぼじゅぼじゅぼ。
寝室のベッドが、下から間接照明を当てたみたいに光っていた。
ベッドの上では師匠が、股間に顔を埋めるゾーイの頭を押さえ、前後に揺すっていた。目を閉じたゾーイの股はびしょびしょで、シーツの色が変わっている。
こんな状況でも、師匠の美しさは変わらないのだった。
「これは、イクまで待つしかないな。見るのは、辛いか?」
「い、いや。そんなことは」
何となく、胸がもやもやするのを見透かされたようで、慌てて否定した。
そんな会話を交わす間に、師匠が達した。ゾーイの喉がゴクリと動く。二人を囲む光が消えた。
「魔王ちゃんは、さっきイッたんだったね。あれ、ヒッサたち、どうしたの?」
師匠は全く悪びれずに俺たちを見た。
「妖精さんが食事を用意してくれたから、一緒に食べましょう。魔王の封印は成りましたか?」
言葉の出ない俺の代わりに、ヒサエルディスが引き受けた。
「そうそう。それで、魔力が吸い取られないかどうか確認していたのだよ。問題ない。これでザックは、キスもイラマチオも好きなだけできる」
「あ、りがとうございます」
にこやかに語りかける師匠に、俺は礼を言った。ゾーイを師匠の元へ残していく話は、なくなったようだった。
四人で食事をしながら、更に注意事項を聞いた。
師匠も、魔王の存在や、魔力を全て解析した上で、封印した訳ではない。今回の措置は応急的なものと考えた方が良い。
念の為、魔族の肉を食べないようにする。一度に大量に摂取した場合、ゾーイの心身に異変が起こる可能性がある。
人間の俺でも、避けるよう注意されたのだ。同族を食べて魔力を増やすタイプなら、尚更だ。
「魔王ちゃんの魔力がザックを超えたら、主従の契約は問答無用で破れるよ。その時はもちろん、封印も解けている。定期的に確認することをお勧めする」
「はい」
というか、殺した方が早いのではなかろうか。
「ザック。魔王ちゃんを今殺しても、新魔王の出現可能性は変わらない」
師匠は、俺の心を読み通したように諭した。ゾーイが傍らで体を強張らせる。
「わかりました」
「魔王ちゃん、頑張ったよ。イク時も目を閉じて、ずっとザックの名前を呼んでいた。食べ終わったら、抱いてあげれば? そうだ。エルフなしでも起動可能か、チェックしよう。ザック、試してくれるかい?」
「は、い」
師匠の頼みが、魔法陣の起動だけなのか、その上でゾーイとセックスすることも含まれるのか、一瞬混乱して返事が遅れた。これまでの経緯を鑑みれば、後者であることは、ほぼ確実である。
「予定がなければ、二人共、ここに住んでも構わないぞ。新たに家を建ててやる」
ヒサエルディスが言った。
予定はない。ここにいる限り、ゾーイが魔王化する心配もない。安心である。
「それで、俺たちを実験台にする気だろう」
俺が指摘すると、姉弟子は、からっと笑った。
「バレたか。ゾーイも興味深い存在だ。ザックは優秀で、信頼できる貴重な存在だからね」
エルフの姉弟子は、俺の胸筋を指でつついた。
四人とも、全裸である。
片付けを待ちきれなくなった妖精が、視界の端で動いたような気がした。
「昨夜の実験は上手く行ったのか?」
「ああ。師匠と色々試してみたけれど、全部問題なかった」
あっけらかんと話しているが、試したのはセックスである。共に学んでいた時期も、魔王を倒す旅の間にも、彼女が恋愛や性愛に興味を示した記憶はない。師匠についても同様である。
エルフの性欲が薄いのは、何となく聞き知っていたが、彼らは賢者でもある。俺は何となく、賢者は食欲とか性欲とか、睡眠欲とか、そういった人間に不可欠な欲望がない存在だと思い込んでいた。
もちろん、彼らからそんな説明を受けた覚えもないのだが。
到着したヒサエルディスの寝室は、ベッドとクローゼットだけの簡素なものだった。
「今、魔法陣を敷く。少しだけ待ってくれ」
やっぱり実験って、その件だよな。昨日は俺じゃ駄目って言っていた記憶があるのだが、エルフ同士で成功したから、応用したくなったのだろうか。
「俺、人間だよ?」
「知っている。人間とやりたいエルフもいるんだ。それに、将来的に人間の王族へ売り込むには、データが必要だろう。人間の王族や貴族は、血の繋がりを重要視する。需要はある」
師匠は自分の興味が最優先だが、ヒサエルディスは、その好奇心を世俗にも向けている。この二人は、良いコンビなのである。
「出来た。早速やろう。ザカリー、服を脱げ」
魔法陣が完成すると、ヒサエルディスは服を脱ぎ出した。エロくも何ともない。
「本当に、俺とセックスして大丈夫? それに、全然雰囲気盛り上がっていないけど」
言いつつも、姉弟子の命令である。俺は、服を脱ぎつつ質問する。
「当たり前だ。魔法陣の効果を試すのだから、やる気がしない方がいいに決まっている。私は、お前をいやらしい目で見たことはないぞ」
全裸で仁王立ちしたヒサエルディスが、堂々宣言する。これから、彼女とセックスするのである。
「師匠に怒られないかな?」
そう言う俺の息子は、だらりと垂れていた。姉弟子と同様、俺も彼女をおかずにした事はない。今、バランスの完璧な肢体を前にしても、美術鑑賞の気分である。
「何で?」
本当に理解できないようだ。賢者でも、苦手な分野は存在する。仕方なく、説明した。
「ヒッサは師匠の女になった訳だから、他の男に抱かせるのは嫌なんじゃないかな。えーと、嫉妬とか」
「師匠がそんな事、考える訳ないだろう」
きょとんとして答えたヒサエルディスは、そこで少しだけ考えるポーズを取った。また新たな芸術作品の誕生である。
「昨夜の実験で、性交から得られる快感に興味を持った印象は受けたが、仮にお前の言うような感情を持ったとしたら、この実験の相手は尚更、お前以外には任せられまい。何故なら、お前は信頼できる弟子であり、姫しか愛していないからな」
「なっ」
ここで姫を引き合いに出さなくとも。羞恥で体が熱くなる。ヒサエルディスの視線が下がった。
「おや。そんな事で勃つようでは、実験の精度が下がる」
「大丈夫。少し待てば戻る」
言葉通り、俺の息子は冷静さを取り戻した。
「では、始めよう。最初は、一緒に入るか」
「最初?」
問い返す俺に構わず、ヒサエルディスが手を取ってベッドへ引っ張り込んだ。
魔法陣が発動した。
「うわっ」
「ああ、気持ちいい」
外から見た時は眩しかった光が、内側からはぼんやりとした明るさに感じられた。その陰影で、ヒサエルディスの裸体がエロく見える。
「おお。無事に勃っているな。重畳だ」
普通の状態で聞いたら萎えそうな彼女の言葉も、濡れた声で俺を興奮させた。
「おっぱい揉んでもいいか?」
「尻の穴以外は好きなようにやってみろ。私も好きにさせてもらう」
ヒサエルディスが陰茎を握りながら、口へ舌を差し込んできた。いきなり大胆な行動に、俺の下半身が一層熱くなった。
「んんっ。ふうっ」
触れた場所の一つ一つから快感が広がる。もっと、もっと奥へ。
探り当てた指先が、まるで亀頭に変じたように、肉壁で包み込まれる。本物の亀頭から、快楽の先走りが滴るのに呼応して、俺の手首まで愛液が流れ落ちた。
「あっ、ああっ」
快楽の激しさにびしゃびしゃの唇が外れ、声が漏れる。
「くっ。挿れたい」
俺は、ヒサエルディスの手に握られたまま、腰を動かしてアピールした。もう、手だけでもイケそうだった。
「うん」
ぐい、と体が迫ったかと思うと、もう膣内へ挿入されていた。
「おおおっ」
突かずにはいられない。俺は、彼女の体をしっかり押さえ、思い切り奥まで突き倒す。
「いいっ。イクッ。もっと」
息も体も弾ませながら、ヒサエルディスが甘い声を上げる。パンッパンッとリズミカルな音が、俺の興奮を加速した。
ドピュッピュルルルッ。
思い切り出し終わった途端、光が消え、我に返った。
「すまん。中出ししていいか、聞くのを忘れた」
「昨夜、不妊薬を飲んだ。あれ、まだ効果あったかな? 妊娠しても、それはそれで新たな研究対象になる。気にせず、どんどん出してくれ」
ヒサエルディスも、すっかり元通りだ。
「ああ、わかった‥‥どんどん?」
そういえば始める前、最初は、と言っていた。
「では次。先にお前が入り、時間差で私が入った場合の具合を確認する。イキ時がズレるようでは、使いにくいからな。ううむ。いちいち設定するのは面倒だ。師匠には、三回と五回のバージョン違いを用意してもらおう。組み合わせれば、対応の幅が広がるぞ」
「五回」
そんなに保つだろうか。アデラとヤッた時は何回したっけ?
五回とは限らない。ヒサエルディスは、昨夜師匠とヤリまくった後なのだ。エルフは人間よりも体力が少ない筈。
俺は気を揉みながら、姉弟子が魔法陣を敷くのを見守った。
そして、それは全部で五回繰り返された。エルフ、意外と体力がある。
ヒサエルディスは、大きく伸びをした。
「体を動かすと、疲れるし、お腹も空くなあ。簡単に食べられる物、あったかな?」
「俺が見た限りでは、チーズと干し果物ぐらいだったな」
二人共、服を着るのが面倒で、裸のまま台所まで戻ってきた。
流しの食器が片付いている。
テーブルの上には、四人分の皿とフォーク。チーズの塊が載った木の板と、干し果物が山盛りになった木の器があった。
「師匠?」
見回すまでもなく、誰もいない。
「妖精さんだ。ありがたい」
「妖精、さん」
師匠から、教わった覚えがある。植物や水や風のような自然から発生する生物で、魔法のような力を持つが、魔族とは区別される。何が違うのか、当時の俺にはよくわからなかったので、大きさで区別した覚えがある。妖精は、魔族よりも圧倒的に小さいのだ。人間よりも小さい。
「食事の片付けをした時、残り物を与える契約を交わしている。気が向いた時には、こうして食事の用意もしてくれる」
それは、残り物が欲しいからだ。昨日の菓子も、彼らの胃袋へ収まった訳だ。ヒサエルディス用に取り分けた料理が喰われなかったのは、僥倖だった。いや、見えない部分をつまみ食いされたかもしれない。
「私たちだけで食べてしまうと、師匠と魔王の分まで持ち帰られる。呼びに行こう」
「なるほど」
融通が効かないのである。
ホールへ続く扉を開ける時、全裸なのが気になったが、今朝方あちらの裸を見たばかりだったのを思い出した。外へ出るでもなし、ここには俺たちと妖精しかいない。
ヒサエルディスが呼び鈴を鳴らす。ノッカーは返事をしなかった。
「師匠?」
姉弟子は扉を開けて中へ入った。どうやらいつも無施錠のようだ。
今日は、魔法陣トラップを設置していなかった。
「師匠。昼食一緒に食べましょう」
ヒサエルディスの後について、奥へ進む。間取りや部屋の使い方も左右対称だった。二人とも似たような生活を送っているのである。
「実験に夢中になっているのかな」
「だろうな。待たされる魔王が気の毒だな。どうしていることやら」
奥へ進めば、寝室と実験室だ。ヒサエルディスは、音のする方の扉を開けた。
「ほら、遠慮なく吸ってごらん」
「ぐぶっ」
じゅぼじゅぼじゅぼ。
寝室のベッドが、下から間接照明を当てたみたいに光っていた。
ベッドの上では師匠が、股間に顔を埋めるゾーイの頭を押さえ、前後に揺すっていた。目を閉じたゾーイの股はびしょびしょで、シーツの色が変わっている。
こんな状況でも、師匠の美しさは変わらないのだった。
「これは、イクまで待つしかないな。見るのは、辛いか?」
「い、いや。そんなことは」
何となく、胸がもやもやするのを見透かされたようで、慌てて否定した。
そんな会話を交わす間に、師匠が達した。ゾーイの喉がゴクリと動く。二人を囲む光が消えた。
「魔王ちゃんは、さっきイッたんだったね。あれ、ヒッサたち、どうしたの?」
師匠は全く悪びれずに俺たちを見た。
「妖精さんが食事を用意してくれたから、一緒に食べましょう。魔王の封印は成りましたか?」
言葉の出ない俺の代わりに、ヒサエルディスが引き受けた。
「そうそう。それで、魔力が吸い取られないかどうか確認していたのだよ。問題ない。これでザックは、キスもイラマチオも好きなだけできる」
「あ、りがとうございます」
にこやかに語りかける師匠に、俺は礼を言った。ゾーイを師匠の元へ残していく話は、なくなったようだった。
四人で食事をしながら、更に注意事項を聞いた。
師匠も、魔王の存在や、魔力を全て解析した上で、封印した訳ではない。今回の措置は応急的なものと考えた方が良い。
念の為、魔族の肉を食べないようにする。一度に大量に摂取した場合、ゾーイの心身に異変が起こる可能性がある。
人間の俺でも、避けるよう注意されたのだ。同族を食べて魔力を増やすタイプなら、尚更だ。
「魔王ちゃんの魔力がザックを超えたら、主従の契約は問答無用で破れるよ。その時はもちろん、封印も解けている。定期的に確認することをお勧めする」
「はい」
というか、殺した方が早いのではなかろうか。
「ザック。魔王ちゃんを今殺しても、新魔王の出現可能性は変わらない」
師匠は、俺の心を読み通したように諭した。ゾーイが傍らで体を強張らせる。
「わかりました」
「魔王ちゃん、頑張ったよ。イク時も目を閉じて、ずっとザックの名前を呼んでいた。食べ終わったら、抱いてあげれば? そうだ。エルフなしでも起動可能か、チェックしよう。ザック、試してくれるかい?」
「は、い」
師匠の頼みが、魔法陣の起動だけなのか、その上でゾーイとセックスすることも含まれるのか、一瞬混乱して返事が遅れた。これまでの経緯を鑑みれば、後者であることは、ほぼ確実である。
「予定がなければ、二人共、ここに住んでも構わないぞ。新たに家を建ててやる」
ヒサエルディスが言った。
予定はない。ここにいる限り、ゾーイが魔王化する心配もない。安心である。
「それで、俺たちを実験台にする気だろう」
俺が指摘すると、姉弟子は、からっと笑った。
「バレたか。ゾーイも興味深い存在だ。ザックは優秀で、信頼できる貴重な存在だからね」
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