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第2章 過去のふたり
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「ユリウス!見て、今日グリーンハウスで貴方と同じ瞳の花が咲いたのよ!」
ユリウスがシラー領に来てから1年ほど経ったころ、ルフェルニアはグリーンハウスで、お目当ての色の花が咲いているのを見つけ、ユリウスに見せようと、せっせと新しい鉢植えに植え替えた。
すぐに知らせたくて、ノックもせずにユリウスの部屋に飛び入ったため、先客にユリウスの両親がいることに気づくのが遅れてしまった。
「ごめんなさい!」
ルフェルニアは慌てて謝ると、すぐに退室しようと踵を返す。
「ルフェ、おはよう。」
「ルフェルニア嬢、気にしなくて良いよ、こちらへおいで。」
「そうよ、気にしないで。ここであなたが帰ってしまったら、私たちがユリウスに怒られてしまうわ。」
優しく声をかけられたルフェルニアは、グリーンハウスから持ってきた花をおずおずとユリウスの目の前に差し出した。
「ユリウスと同じ色のお花がやっと咲いたから嬉しくって…。」
「ありがとう、とても嬉しいよ。」
ユリウスは変わらず無表情だったが、瞳が優しげに緩められる。
ルフェルニアはユリウスの変化の乏しい表情や声音から随分感情を読み取れるようになっていた。喜んでくれているようだ、とルフェルニアはにんまりする。
ユリウスらがしげしげとその花を見ていたら、後ろに控えていたシラー家の侍女が恐る恐る、といった表情で声をかけた。
「お嬢様、切り花にして飾ってはいかがでしょう?こちらで準備させていただきます。」
ルフェルニアがきょとんとすると「御病気の方に鉢植えのお花をお贈りするのはマナー違反にあたります」と侍女が眉を下げながらこっそり耳打ちをしてくれた。
「そうなのね…。でもまだこの色は1株しかないの。ユリウス、このお花がたくさん増えたら、花束にして渡すね。」
「うん、楽しみにしているよ。」
ルフェルニアとユリウスのやり取りを微笑ましく見守っていたサイラスが興味深げに尋ねた。
「この花はよく見るが、この色は珍しいな。これはルフェルニア嬢が育てたのかい?」
サイラスのその問いに、ルフェルニアは待っていました!とばかりに飛びついた。
「そうなんです!お花はね、いろいろと掛け合わせを変えると、違う色のお花が咲くことがあるから、グリーンハウスでたくさん育てているんです!」
「ルフェは良く植物を見ているんだね。色はランダムなの?」
先ほどルフェルニアが「やっと」と言ったのをユリウスは思い返す。
「ううん、まだ良くわからないけど、ルールがある気がするの。人の親子みたいに。例えば…ユリウス様は、サイラス様の透きとおるお空のような瞳と、アンナ様の雪のようにキラキラした髪をお持ちでしょう?」
ユリウスの綺麗な瞳と髪がお気に入りのルフェルニアは、うっとりと最大限の魅力を持って伝えた気でいたので、侍女が「公爵様御一家を植物に例えるなんて…」と青ざめていたことにちっとも気づかなかった。
「おもしろい考察だね。でも植物の成長を待つ必要があるから、目当ての色を見つけるには、なかなか時間と骨がかかりそうだ。」
サイラスはルフェルニアの話しを実に興味深く思った。今まで、ガイア王国において研究が進んできた植物学は、野山に自生している人の役に立つ植物を新しく見つけ出して、その効能を分析することが主だった。だから”目当ての植物を自分で作る”という考えが物珍しく感じたのだ。
「普通の土だったら、そうかもしれませんが、土に魔力をたくさん込めると、植物の成長が速くなるので、かかる時間を短くすることができます。それに、たくさん同じ植物を繰り返し育てていると、たま~に変わった植物が出てくることがあるんですよ!それがとってもおもしろくて楽しいです!」
ルフェルニアは、自慢げに胸をそり返した。
この世界のあらゆる物質には”魔力”が宿っている。
人は体内で生成する魔力を、物質に込め、そしてその物質に込めた魔力を操作・放出することで、魔法を使うことができる。全員が等しく魔法を使えるわけではなく、もともと物質に宿っている魔力との相性により、使える魔法が異なってくる。
例えば、水に宿る魔力と相性の良い者は、水を操ることができ、魔力が強ければそれを凍らしたり蒸発させたりできる。鉱石に宿る魔力と相性の良い者は、鉱石の形状を変えることができ、魔力が強ければその鉱石に含まれている不純物などを外に弾き出すことができるため、鉱石の加工業者から重用されている。
ただし、人の使う魔法は万能ではない。魔力の相性により物質に干渉できるが、生物に直接的に影響を与える魔法は人の魔力では不可能とされている。
一方で、植物に宿る魔力は生物に影響を与えるものもあり、人に対し好転的な反応を見せるものは薬草として重宝され、熱心に研究が進められていた。
さて、ルフェルニアの魔力は”土”との相性が良かった。
ユリウスが来るまでのひとりの時間、魔法の練習を兼ねて、グリーンハウスで育てている植物の土に魔力を込めて遊んでいた。ただ、込めた割に土から魔力を放出させることをしなかったので、魔力が土にどんどん蓄積されていった。
すると通常より、植物の成長が速く、そして大きくなるではないか。次々芽吹くのが面白くて、ひたすら種を蒔きまくり、種を収穫した。
同じ植物を繰り返し目にしているうちに、花の色が変わったり、突然変な植物が出てきたりする、ということに気づいてからは、”狙った個体”を創り出すことにルフェルニアはすっかりはまっていた。
「なるほど!植物の生育には土壌も影響していたのか。植物に直接的に干渉できなくても、土壌を経由して間接的に干渉することができるなんて、とっても面白い話を聞かせてもらったよ。君はすごい人だね。」
サイラスは本当に感心したように、話を聞いてくれるので、ルフェルニアはすっかり上機嫌だった。
ユリウスの次の一言を聞くまでは。
ユリウスがシラー領に来てから1年ほど経ったころ、ルフェルニアはグリーンハウスで、お目当ての色の花が咲いているのを見つけ、ユリウスに見せようと、せっせと新しい鉢植えに植え替えた。
すぐに知らせたくて、ノックもせずにユリウスの部屋に飛び入ったため、先客にユリウスの両親がいることに気づくのが遅れてしまった。
「ごめんなさい!」
ルフェルニアは慌てて謝ると、すぐに退室しようと踵を返す。
「ルフェ、おはよう。」
「ルフェルニア嬢、気にしなくて良いよ、こちらへおいで。」
「そうよ、気にしないで。ここであなたが帰ってしまったら、私たちがユリウスに怒られてしまうわ。」
優しく声をかけられたルフェルニアは、グリーンハウスから持ってきた花をおずおずとユリウスの目の前に差し出した。
「ユリウスと同じ色のお花がやっと咲いたから嬉しくって…。」
「ありがとう、とても嬉しいよ。」
ユリウスは変わらず無表情だったが、瞳が優しげに緩められる。
ルフェルニアはユリウスの変化の乏しい表情や声音から随分感情を読み取れるようになっていた。喜んでくれているようだ、とルフェルニアはにんまりする。
ユリウスらがしげしげとその花を見ていたら、後ろに控えていたシラー家の侍女が恐る恐る、といった表情で声をかけた。
「お嬢様、切り花にして飾ってはいかがでしょう?こちらで準備させていただきます。」
ルフェルニアがきょとんとすると「御病気の方に鉢植えのお花をお贈りするのはマナー違反にあたります」と侍女が眉を下げながらこっそり耳打ちをしてくれた。
「そうなのね…。でもまだこの色は1株しかないの。ユリウス、このお花がたくさん増えたら、花束にして渡すね。」
「うん、楽しみにしているよ。」
ルフェルニアとユリウスのやり取りを微笑ましく見守っていたサイラスが興味深げに尋ねた。
「この花はよく見るが、この色は珍しいな。これはルフェルニア嬢が育てたのかい?」
サイラスのその問いに、ルフェルニアは待っていました!とばかりに飛びついた。
「そうなんです!お花はね、いろいろと掛け合わせを変えると、違う色のお花が咲くことがあるから、グリーンハウスでたくさん育てているんです!」
「ルフェは良く植物を見ているんだね。色はランダムなの?」
先ほどルフェルニアが「やっと」と言ったのをユリウスは思い返す。
「ううん、まだ良くわからないけど、ルールがある気がするの。人の親子みたいに。例えば…ユリウス様は、サイラス様の透きとおるお空のような瞳と、アンナ様の雪のようにキラキラした髪をお持ちでしょう?」
ユリウスの綺麗な瞳と髪がお気に入りのルフェルニアは、うっとりと最大限の魅力を持って伝えた気でいたので、侍女が「公爵様御一家を植物に例えるなんて…」と青ざめていたことにちっとも気づかなかった。
「おもしろい考察だね。でも植物の成長を待つ必要があるから、目当ての色を見つけるには、なかなか時間と骨がかかりそうだ。」
サイラスはルフェルニアの話しを実に興味深く思った。今まで、ガイア王国において研究が進んできた植物学は、野山に自生している人の役に立つ植物を新しく見つけ出して、その効能を分析することが主だった。だから”目当ての植物を自分で作る”という考えが物珍しく感じたのだ。
「普通の土だったら、そうかもしれませんが、土に魔力をたくさん込めると、植物の成長が速くなるので、かかる時間を短くすることができます。それに、たくさん同じ植物を繰り返し育てていると、たま~に変わった植物が出てくることがあるんですよ!それがとってもおもしろくて楽しいです!」
ルフェルニアは、自慢げに胸をそり返した。
この世界のあらゆる物質には”魔力”が宿っている。
人は体内で生成する魔力を、物質に込め、そしてその物質に込めた魔力を操作・放出することで、魔法を使うことができる。全員が等しく魔法を使えるわけではなく、もともと物質に宿っている魔力との相性により、使える魔法が異なってくる。
例えば、水に宿る魔力と相性の良い者は、水を操ることができ、魔力が強ければそれを凍らしたり蒸発させたりできる。鉱石に宿る魔力と相性の良い者は、鉱石の形状を変えることができ、魔力が強ければその鉱石に含まれている不純物などを外に弾き出すことができるため、鉱石の加工業者から重用されている。
ただし、人の使う魔法は万能ではない。魔力の相性により物質に干渉できるが、生物に直接的に影響を与える魔法は人の魔力では不可能とされている。
一方で、植物に宿る魔力は生物に影響を与えるものもあり、人に対し好転的な反応を見せるものは薬草として重宝され、熱心に研究が進められていた。
さて、ルフェルニアの魔力は”土”との相性が良かった。
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