7 / 69
第1章 就職と解雇
7
しおりを挟む
ユミルが目を覚まして時計を確認すると、寝始めてから3時間ほどしか経過していなかった。横ではフクが丸まって一緒に寝ている。
頭はまだガンガンと痛むが、これなら受け渡しの時刻に間に合いそうだと、フクを起こさないように静かにベッドから起き上がると、酷い倦怠感とのどの渇きを覚えたため、ユミルはコップ2杯もの水を飲み干した。
ユミルが階段を下りて、店内に入ると、ジョンソンがそろそろ店じまいの作業を始めようとしているところだった。
「ユミル、もう体調は大丈夫なのか?」
「まだ頭痛がしますが、何とか大丈夫です。ドウェル様の受け渡しに立ち会いたいと思って。」
ユミルがそう言うと、ジョンソンは驚いたように目を丸くした。
「受け渡しは昨日だよ。君は丸一日眠ったまま起きなかったんだ。」
「そうだったんですか!?」
(全然起きずに眠っていたことも驚きだけれど…、フクのご飯を早くあげないと!)
フクは食いしん坊なので、1日朝昼晩と3食食べる。いつもは少しでも遅れるとユミルをせっついてくるが、ユミルの様子を見て我慢をしたのだろう。
「今朝、心配だったから2階に上がらせてもらったんだけど、声をかけても全く目を覚まさなかったんだ。それから、フク君に餌を与えたけれど、大丈夫だった?」
「それは失礼しました…。大変助かりました。
それで、ドウェル様のお受け渡しは大丈夫でしたか?」
ユミルが店内の椅子に腰をかけながらそう聞くと、ジョンソンは作業台の上に置いてあった鍋を火にかけながら答えた。
「エレナからお粥を預かっているから、食べると良い。
あぁ、それから、受け渡しについてだけれど、良い意味で大変驚いていたよ。ユミルの腕は魔法局の杖修復士に勝るとも劣らないってね。」
「本当ですか!!」
ユミルは嬉しさのあまり立ち上がって大きな声を出したが、自分の声が頭に響いてしまい、ふらりと力なく再び椅子に腰をかけた。
「本当だとも、ちゃんと約束の残りの100ガルも払ってくれた。」
「そうですか、良かったです。…でも、ここまで体力が削られるのなら、もうこんな機会もないでしょうけれど、勘弁ですかね…全く他の仕事が手につきませんでした。」
少なくとも今日はまだ作業が出来そうな体調ではない。たったの1件だけだったが、ユミルの体は全くと言っていいほどついていけていない。ユミルは魔法局職員全員の杖修復を担う魔法局所属の杖修復士の偉大さを再認識した。
「作業中も今も、大変辛そうだからね。今回は本当に良くやった。ボーナスのことなんだが…。」
(ボー―――ナス!!!)
ユミルは疲れていても、ボーナスの言葉は聞き逃さなかった。
できれば、前回は依頼料の1割を貰ったから、あわよくば今回もその程度を貰えないだろうか、と祈る。
「うん、50ガル、支払うよ。」
ユミルはその額に目を見開いた。
依頼料には、人件費の他、当然材木の調達費、その他管理費用も含まれている。
しかも、ユミルは依頼期間の3日間と今日の合計4日間、他の依頼を全く引き受けていないのだ。
「そんなにもらって、良いのですか…?」
「ああ、もちろんだとも。本来ならば100ガルで引き受けてしまうところだった。ユミルの様子を見るに、先日の冒険者ギルドの魔法騎士の件よりもよっぽど難易度が高かったようだから、割増しでもらった分はできるだけ還元したくてね。…とはいえ、ここの賃料にも充てさせてもらいたくて、割り増し分全額を、というわけにはいかなかったけれど…。」
「いいえ!十分です、ありがとうございます!」
(50ガルあれば、ここを出ても、1ヶ月と少しは何とか同じ水準で暮らせるわ!)
ユミルは何とか求職期間が延長されたと、安堵の息を吐いた。
ジョンソンが、温め終わったお粥をユミルの前に食器と共に差し出してくれたので、ユミルはゆっくりとそれに口を付ける。すっからかんになっていた胃にゆっくりと優しく馴染むような味だ。
「ありがとうございます、とっても美味しいです。エレナさんにも、よろしくお伝えください。」
「ああ、伝えておくよ。さぁ、食べたら寝なさい。確か、明日はもとから休みの予定だったよね。ゆっくり休んでくれ。」
ジョンソンはそう言うと、店じまいの作業に戻っていった。
_____
エレナがお粥を食べきってから2階に上がると、フクが起きていることに気づいた。
「フク、ごめんね。おなかすいたでしょう?」
朝は食べさせてもらえたようだが、昨晩と昼は抜いてしまったはずだ。
ユミルはいつものお皿に多めの餌を入れるとフクの前に置いた。
フクは早速ガツガツと食らいついた。
「フク、起こしてくれても良かったんだよ。」
『疲れてただろ。』
「そうだけれど…お腹すいたでしょう?」
『寝ていたから大丈夫。』
フクはお皿から目を少しだけ上げると、窺うようにユミルを見た。
フクは口には出さないけれど、ユミルを心配していたようだった。
「ありがとう、私は大丈夫。いっぱい食べてね。」
(何とか、来月も高級ケットシーフードを購入できるしね!)
フクがユミルに興味をなくしたようにお皿に視線を戻して食事を再開したのを見届けると、ユミルは再びベッドにもぐった。
(あんなに寝たのに、まだまだ眠れそう…。明日はお休みだけれど予定があるし…。)
ユミルは遠のく意識の中で、何とか魔法時計のアラームをセットすると、ぐっすりと眠りについた。
頭はまだガンガンと痛むが、これなら受け渡しの時刻に間に合いそうだと、フクを起こさないように静かにベッドから起き上がると、酷い倦怠感とのどの渇きを覚えたため、ユミルはコップ2杯もの水を飲み干した。
ユミルが階段を下りて、店内に入ると、ジョンソンがそろそろ店じまいの作業を始めようとしているところだった。
「ユミル、もう体調は大丈夫なのか?」
「まだ頭痛がしますが、何とか大丈夫です。ドウェル様の受け渡しに立ち会いたいと思って。」
ユミルがそう言うと、ジョンソンは驚いたように目を丸くした。
「受け渡しは昨日だよ。君は丸一日眠ったまま起きなかったんだ。」
「そうだったんですか!?」
(全然起きずに眠っていたことも驚きだけれど…、フクのご飯を早くあげないと!)
フクは食いしん坊なので、1日朝昼晩と3食食べる。いつもは少しでも遅れるとユミルをせっついてくるが、ユミルの様子を見て我慢をしたのだろう。
「今朝、心配だったから2階に上がらせてもらったんだけど、声をかけても全く目を覚まさなかったんだ。それから、フク君に餌を与えたけれど、大丈夫だった?」
「それは失礼しました…。大変助かりました。
それで、ドウェル様のお受け渡しは大丈夫でしたか?」
ユミルが店内の椅子に腰をかけながらそう聞くと、ジョンソンは作業台の上に置いてあった鍋を火にかけながら答えた。
「エレナからお粥を預かっているから、食べると良い。
あぁ、それから、受け渡しについてだけれど、良い意味で大変驚いていたよ。ユミルの腕は魔法局の杖修復士に勝るとも劣らないってね。」
「本当ですか!!」
ユミルは嬉しさのあまり立ち上がって大きな声を出したが、自分の声が頭に響いてしまい、ふらりと力なく再び椅子に腰をかけた。
「本当だとも、ちゃんと約束の残りの100ガルも払ってくれた。」
「そうですか、良かったです。…でも、ここまで体力が削られるのなら、もうこんな機会もないでしょうけれど、勘弁ですかね…全く他の仕事が手につきませんでした。」
少なくとも今日はまだ作業が出来そうな体調ではない。たったの1件だけだったが、ユミルの体は全くと言っていいほどついていけていない。ユミルは魔法局職員全員の杖修復を担う魔法局所属の杖修復士の偉大さを再認識した。
「作業中も今も、大変辛そうだからね。今回は本当に良くやった。ボーナスのことなんだが…。」
(ボー―――ナス!!!)
ユミルは疲れていても、ボーナスの言葉は聞き逃さなかった。
できれば、前回は依頼料の1割を貰ったから、あわよくば今回もその程度を貰えないだろうか、と祈る。
「うん、50ガル、支払うよ。」
ユミルはその額に目を見開いた。
依頼料には、人件費の他、当然材木の調達費、その他管理費用も含まれている。
しかも、ユミルは依頼期間の3日間と今日の合計4日間、他の依頼を全く引き受けていないのだ。
「そんなにもらって、良いのですか…?」
「ああ、もちろんだとも。本来ならば100ガルで引き受けてしまうところだった。ユミルの様子を見るに、先日の冒険者ギルドの魔法騎士の件よりもよっぽど難易度が高かったようだから、割増しでもらった分はできるだけ還元したくてね。…とはいえ、ここの賃料にも充てさせてもらいたくて、割り増し分全額を、というわけにはいかなかったけれど…。」
「いいえ!十分です、ありがとうございます!」
(50ガルあれば、ここを出ても、1ヶ月と少しは何とか同じ水準で暮らせるわ!)
ユミルは何とか求職期間が延長されたと、安堵の息を吐いた。
ジョンソンが、温め終わったお粥をユミルの前に食器と共に差し出してくれたので、ユミルはゆっくりとそれに口を付ける。すっからかんになっていた胃にゆっくりと優しく馴染むような味だ。
「ありがとうございます、とっても美味しいです。エレナさんにも、よろしくお伝えください。」
「ああ、伝えておくよ。さぁ、食べたら寝なさい。確か、明日はもとから休みの予定だったよね。ゆっくり休んでくれ。」
ジョンソンはそう言うと、店じまいの作業に戻っていった。
_____
エレナがお粥を食べきってから2階に上がると、フクが起きていることに気づいた。
「フク、ごめんね。おなかすいたでしょう?」
朝は食べさせてもらえたようだが、昨晩と昼は抜いてしまったはずだ。
ユミルはいつものお皿に多めの餌を入れるとフクの前に置いた。
フクは早速ガツガツと食らいついた。
「フク、起こしてくれても良かったんだよ。」
『疲れてただろ。』
「そうだけれど…お腹すいたでしょう?」
『寝ていたから大丈夫。』
フクはお皿から目を少しだけ上げると、窺うようにユミルを見た。
フクは口には出さないけれど、ユミルを心配していたようだった。
「ありがとう、私は大丈夫。いっぱい食べてね。」
(何とか、来月も高級ケットシーフードを購入できるしね!)
フクがユミルに興味をなくしたようにお皿に視線を戻して食事を再開したのを見届けると、ユミルは再びベッドにもぐった。
(あんなに寝たのに、まだまだ眠れそう…。明日はお休みだけれど予定があるし…。)
ユミルは遠のく意識の中で、何とか魔法時計のアラームをセットすると、ぐっすりと眠りについた。
31
あなたにおすすめの小説
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる