貴方の杖、直します。ただし、有料です。

椎茸

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第1章 就職と解雇

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ユミルが目を覚まして時計を確認すると、寝始めてから3時間ほどしか経過していなかった。横ではフクが丸まって一緒に寝ている。
頭はまだガンガンと痛むが、これなら受け渡しの時刻に間に合いそうだと、フクを起こさないように静かにベッドから起き上がると、酷い倦怠感とのどの渇きを覚えたため、ユミルはコップ2杯もの水を飲み干した。

ユミルが階段を下りて、店内に入ると、ジョンソンがそろそろ店じまいの作業を始めようとしているところだった。

「ユミル、もう体調は大丈夫なのか?」
「まだ頭痛がしますが、何とか大丈夫です。ドウェル様の受け渡しに立ち会いたいと思って。」

ユミルがそう言うと、ジョンソンは驚いたように目を丸くした。

「受け渡しは昨日だよ。君は丸一日眠ったまま起きなかったんだ。」
「そうだったんですか!?」

(全然起きずに眠っていたことも驚きだけれど…、フクのご飯を早くあげないと!)

フクは食いしん坊なので、1日朝昼晩と3食食べる。いつもは少しでも遅れるとユミルをせっついてくるが、ユミルの様子を見て我慢をしたのだろう。

「今朝、心配だったから2階に上がらせてもらったんだけど、声をかけても全く目を覚まさなかったんだ。それから、フク君に餌を与えたけれど、大丈夫だった?」
「それは失礼しました…。大変助かりました。
それで、ドウェル様のお受け渡しは大丈夫でしたか?」

ユミルが店内の椅子に腰をかけながらそう聞くと、ジョンソンは作業台の上に置いてあった鍋を火にかけながら答えた。

「エレナからお粥を預かっているから、食べると良い。
あぁ、それから、受け渡しについてだけれど、良い意味で大変驚いていたよ。ユミルの腕は魔法局の杖修復士に勝るとも劣らないってね。」
「本当ですか!!」

ユミルは嬉しさのあまり立ち上がって大きな声を出したが、自分の声が頭に響いてしまい、ふらりと力なく再び椅子に腰をかけた。

「本当だとも、ちゃんと約束の残りの100ガルも払ってくれた。」
「そうですか、良かったです。…でも、ここまで体力が削られるのなら、もうこんな機会もないでしょうけれど、勘弁ですかね…全く他の仕事が手につきませんでした。」

少なくとも今日はまだ作業が出来そうな体調ではない。たったの1件だけだったが、ユミルの体は全くと言っていいほどついていけていない。ユミルは魔法局職員全員の杖修復を担う魔法局所属の杖修復士の偉大さを再認識した。

「作業中も今も、大変辛そうだからね。今回は本当に良くやった。ボーナスのことなんだが…。」

(ボー―――ナス!!!)

ユミルは疲れていても、ボーナスの言葉は聞き逃さなかった。
できれば、前回は依頼料の1割を貰ったから、あわよくば今回もその程度を貰えないだろうか、と祈る。

「うん、50ガル、支払うよ。」

ユミルはその額に目を見開いた。
依頼料には、人件費の他、当然材木の調達費、その他管理費用も含まれている。
しかも、ユミルは依頼期間の3日間と今日の合計4日間、他の依頼を全く引き受けていないのだ。

「そんなにもらって、良いのですか…?」
「ああ、もちろんだとも。本来ならば100ガルで引き受けてしまうところだった。ユミルの様子を見るに、先日の冒険者ギルドの魔法騎士の件よりもよっぽど難易度が高かったようだから、割増しでもらった分はできるだけ還元したくてね。…とはいえ、ここの賃料にも充てさせてもらいたくて、割り増し分全額を、というわけにはいかなかったけれど…。」

「いいえ!十分です、ありがとうございます!」

(50ガルあれば、ここを出ても、1ヶ月と少しは何とか同じ水準で暮らせるわ!)

ユミルは何とか求職期間が延長されたと、安堵の息を吐いた。

ジョンソンが、温め終わったお粥をユミルの前に食器と共に差し出してくれたので、ユミルはゆっくりとそれに口を付ける。すっからかんになっていた胃にゆっくりと優しく馴染むような味だ。

「ありがとうございます、とっても美味しいです。エレナさんにも、よろしくお伝えください。」
「ああ、伝えておくよ。さぁ、食べたら寝なさい。確か、明日はもとから休みの予定だったよね。ゆっくり休んでくれ。」

ジョンソンはそう言うと、店じまいの作業に戻っていった。

_____

エレナがお粥を食べきってから2階に上がると、フクが起きていることに気づいた。

「フク、ごめんね。おなかすいたでしょう?」

朝は食べさせてもらえたようだが、昨晩と昼は抜いてしまったはずだ。
ユミルはいつものお皿に多めの餌を入れるとフクの前に置いた。
フクは早速ガツガツと食らいついた。

「フク、起こしてくれても良かったんだよ。」
『疲れてただろ。』
「そうだけれど…お腹すいたでしょう?」
『寝ていたから大丈夫。』

フクはお皿から目を少しだけ上げると、窺うようにユミルを見た。
フクは口には出さないけれど、ユミルを心配していたようだった。

「ありがとう、私は大丈夫。いっぱい食べてね。」

(何とか、来月も高級ケットシーフードを購入できるしね!)

フクがユミルに興味をなくしたようにお皿に視線を戻して食事を再開したのを見届けると、ユミルは再びベッドにもぐった。

(あんなに寝たのに、まだまだ眠れそう…。明日はお休みだけれど予定があるし…。)

ユミルは遠のく意識の中で、何とか魔法時計のアラームをセットすると、ぐっすりと眠りについた。
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