貴方の杖、直します。ただし、有料です。

椎茸

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第2章 1ヶ月のタイムリミット

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結局、寝付けなかったユミルは日が昇る前から杖の修復に取り掛かった。
スコープで覗いてみれば、思っていたよりもずっと複雑な損傷に、まずどこから手を付けるべきか頭を悩ませる。

気づけば太陽が顔を出し、採用面接に行かなければならない時間になったので、家を出たが、ユミルは修復のことで頭が一杯で、折角の採用面接だったにもかかわらず、気も漫ろになってしまった。

(う~ん…上手く行かない。)
 
ユミルはあまりキャパシティが大きい方ではない。一所懸命になれば、その他に手が回らなくなることもある。
ユミルは自分の相変わらずの不器用さにがっかりしてしまう。

(けれど、ここでウダウダしていても変わらないしね。早く家に帰って作業、作業!)

ユミルは自分の両頬を軽く叩いて気合を入れると、修復の手順を考えながら帰路についた。

_____

「フク、いつ私が気を失うように寝ちゃうかわからないから、今回は特別に食事の場所を言っておくね。時間になったら自分で出して、食べるんだよ?食べ過ぎちゃだめだからね。」
『それ何回目?わかったよ。』
「それから、水はいつものところに多めに入れてあるからね。」
『それもさっき聞いた。』

ユミルはフクが面倒くさそうに返事をするのを見て、本当に大丈夫なのか心配になったが、前回のように食事が取れなければ可哀想だと、何回も同じことを繰り返し伝えた。

漸くユミルは机に向かうと、それから杖に吸い込まれるように作業に没頭した。
流石は部隊長と言うべきか、エリックのときも杖に馴染む魔力量に驚いたが、その更に上を行っている。
損傷部分の複雑さも相まって、想像よりも作業がずっと遅れてしまう。

(やっぱり、どんなにレイン・オズモンドが文句を言おうと、魔法局の杖修復士がやった方が良かったんじゃないかな。)

一度休憩しようと顔を上げて椅子にぐったりと座り込んでいると、ユミルはマイナス思考に引きずり込まれる。
魔法局の杖修復士なら、例え、レインが満足できない仕上がりだったとしても、きっと1日で形にはしてみせるのだろう。

今回の討伐はとても急いでいるようだし、ユミルが3日かけてやっても変わらない出来であれば、ユミルが引き受けた意味がない。むしろ悪い。ユミルは途端怖くなった。
深夜のテンションで引き受けてしまったのか、お金に目がくらんだのか。おそらく両方だが、終わりの見えない作業にユミルは少し泣きそうなる。

『おい、ユミル。大丈夫か?』

ユミルの感情の変化を読み取ったように、フクはぴょんとユミルの膝に跳び乗り、身をユミルに寄せた。
ユミルがフクの背中を手で撫でると、緊張で温度を失っていた手に温もりが戻ってくるようだった。

「フク、ありがとう。」
『アデレートがユミルならできると思ったんだ。
順番にひとつずつやればできる、でしょ。』 

“順番にひとつずつやればできる”、これは同時並行が苦手なユミルがいつも自分に言い聞かせている言葉だった。

難しい事象に見えても、紐解いていけばひとつずつ分けられることが多い。やることがたくさんあっても、ひとつずつ片付けていけば必ずいつかは終わる。

「そうね、そうだったわ。順番にひとつずつ、ね。」

この修復も同じだ。
複雑に見えて、ひとつひとつ、ちゃんと繋いでいけば、確実に修復は進んでいく。

「ありがとう、フク。」

ユミルがそう言うと、フクは世話が焼けるな、とばかりにツンとすました表情で、ユミルの膝から降りた。

「順番にひとつずつ。」

ユミルはまたそう口にすると、先程よりは少しすっきりとした表情で作業を再開した。
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