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第4章 遠征

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(心を踊らせていた自分はバカだ!!)

ユミルは魔法局職員の転移魔法で移動した後、早々に来たことを後悔していた。

ひとつ。べらぼうに寒い。
ユミルは持っている衣服の中で最も暖かいものを選んで持ってきたが、何枚重ねても足りないほど寒い。
これでは手が悴んで仕事にならない。

ふたつ。圧倒的過疎地。
お店はほぼ無い。幸い、生活必需品が辛うじて手に入る程度か。ホテルも旅人用にこぢんまりと営業しているだけだ。周りは山々に囲まれていて、天候も荒れやすいと聞く。到底、楽しめそうな土地ではない。

みっつ。完全にアウェイ。
魔法局職員の遠征なのだから、覚悟はしていた。しかし、魔法局職員はエリートの集まりだけあって、プライドが高い人が多い。ユミルのことを白い目で見てくる。
特に、同行している杖修復士が1人いたが、ユミルと同い年くらいの女性で、もの凄い眼光で睨まれた。ちっとも仲良くなれそうな気配がない。

「おい、大丈夫か。」

レインは移転後に隊員を集合させてこの後の予定と計画を簡単に説明していたが、終わったのかユミルの隣にやってきた。

「何がでしょう…。」

(全てにおいて、大丈夫じゃないんだけれど…。)

ユミルが青い顔で震えていると、レインは怪訝そうな顔をした。

「転移魔法には慣れていないだろう。気分が悪くなっていないか。」
「それは大丈夫です。」
「それから、上着はそれしか持っていないのか。」
「これが私の最高防備です。」
「バカな。死ぬぞ。」

レインは眉を寄せると、自分が身にまとっていたコートをユミルに頭から被せた。

「私はもうひとつ持ってきているから、これを着ておけ。」 

レインはそう言って前のボタンをいくつか留める。

レインの太もも辺りまであったコートは、ユミルが頭から被ってもお尻の下まですっぽりと覆ってくれるほどだった。

「ありがとうございます。」

ユミルは、コートを頭から被り、腕を通さずに前を留められてしまったのでてるてる坊主のような格好になる。
しかし、レインが先程着ていたこともあり、随分と暖かい。ユミルは頬を緩めてほっと一息をついた。

「はは。ヘンテコな格好だな。」

そんなユミルの様子を見ていたレインが声を出して笑った。
レインの表情はすぐに無表情に戻ってしまったが、ユミルは驚きでぽかんと口が開きっぱなしになる。
周りでユミルとレインのやり取りを見ていた人もざわついている。

「それじゃあ、君は指定した部屋で過ごしていろ。今日の周辺の巡回が終わったら、声をかける。」

レインは全く周りの様子を意に介さずユミルに言いつけるとまた他の隊員たちのところへと戻っていった。

ユミルは先程のやり取りを他の人に見られていた恥ずかしさからそそくさとホテルの中に引っ込もうとしたが、聞いたことのあるような声に呼び止められる。

「ユミルさん!」
「えっと、貴方はエリック・ドウェル様…?」
「はい、覚えてくれていて、嬉しいです。」

その人は、以前ジョンソン杖修復店に杖の修復依頼に来た奇特な魔法局職員だった。

ユミルは四面楚歌の中、顔見知りに出会えたことで少し心が軽くなる。

「もちろんです。あの時は驚きましたから。」
「突然失礼しました。ユミルさんの修復は素晴らしかったです。」
「そう言っていただけると嬉しいです。そういえば、アデレート様と同期と伺いました。」
「そうそう、まさかアデレート嬢が貴女と繋がっているとは思いませんでした。ほら、アデレート嬢は気難しいから、まさか平民の友人がいるなんて思いもしませんでしたよ。」
「同い年かと思いますので、私のことは是非ユミルと。敬語もいりません。」
「ありがとう。俺のこともエリックと、気軽に接してくれ。」
「…貴方は貴族ではないのですか?」

いくら気軽に、と言われても貴族に対しては気軽にし辛い。実際、ユミルはアデレートと仲はいいが、未だに敬語で接している。

「いや、一代限りの騎士爵の息子だから、気にしないで。」
「まぁ、そういうことなら…。」

「エリック!!」

ユミルとエリックが話を続けていると、それを遮るようにレインの声が響いた。
そろそろ出発するらしい。

「じゃあ、お気をつけて。」
「ありがとう、レイン部隊長のこととかさ、話したいことあるから、また今度!」
「うん。わかった。」

ユミルはエリックがレインのもとへ合流するのを見送ると、今度こそホテルの中へ足を踏み入れた。
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