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第4章 遠征
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日が沈んでから暫くして、ユミルの部屋の扉を叩く音が聞こえた。
ユミルが急いで扉を開けると、そこには予想どおりレインが立っている。
「今日の巡回は終わった。食事にしよう。」
レインは事も無げにそう言って廊下を歩いて行ってしまうので、ユミルは困惑した。
ユミルはレインに雇用されているので、今まで一緒に食事をとったことは当然ない。
これは一緒に食べる流れなのか、そうではないのか、ユミルが扉を開けたままの格好で迷っていると、レインが振り向いた。
「はやくしろ。」
「すみません!」
ユミルは慌てて扉を閉めると、レインの後に続いた。
どうやら魔法局職員はホテルの1階にあるレストランで食事を取っているらしい。
ユミルはレインに連れられるがまま、レインの正面の席に腰を下ろすと、給仕が2人の食事を配膳してくれた。
その他の魔法局職員はカウンターでのオーダー形式のようで、各々カウンターで食事を受け取ると、好きな席に座っている。
「食事の後、道具を持って部屋に来てくれ。」
「承知しました。」
レインはそれだけを言うと、黙々と食事を開始した。
レインの所作が美しいので、ユミルは食べるのに緊張してしまう。ユミルはアデレートから口うるさく注意されてきたので、平民の割にはマナーがなっているほうではあるが、それでも生粋の教育を受けてきた人と比べてしまえば天と地ほどの差だろう。
折角の食事が楽しめない、とユミルが残念に思っていると、ますます食事の味がしなくなる出来事が起きる。
「レイン様~!お隣失礼いたします。」
先ほどの杖修復士の令嬢が、有無を言わせずレインの横に座ったのだ。
レインがぴくりと眉を寄せたのを、ユミルは見逃さなかった。
(この令嬢、お心が強い…。)
「レイン様、今日もお疲れ様でした。」
令嬢はユミルのことを見ないふりをして、レインに一方的に話しかける。
対するレインは、沈黙したままで、なかなかシュールな光景である。
ユミルは目の前のことを必死に見ないようにしたが、心を無にしても、どうしても令嬢の話し声が耳に入ってくる。レインの返事が無くてもお構いなしに話し続けているが、ユミルはこの空気に居たたまれなくなっていた。聞こえてしまうと、どうしてもお節介心で、会話を繋いであげたくなるが、どちらからも異なった意味で嫌な顔をされそうだ。
「よっ!」
そんなとき、ユミルの隣に誰かが座る気配がした。
ユミルが隣を見やると、そこにはエリックの姿があった。
「エリック!お疲れ様。」
ユミルはエリックを救世主の如く歓迎した。
「シルビア嬢、すごいな。」
エリックは目の前の2人に聞こえないようにユミルに耳打ちをしたので、ユミルは激しく首を縦に振った。ユミルはここで初めて知ったのだが、この令嬢はシルビアというようだ。
その後もエリックは食事をしながらユミルに程よく話をしてくれるので、ユミルは目の前の会話から意識を逸らすことができて、大変助かっていた。
「そういえば、先日はレイン部隊長が急に来たから、びっくりしただろう。ごめんな。俺が話しちゃったんだ…。」
「ううん。あのときは仕事が無くて崖っぷちだったから渡りに船だったよ。」
「そう言ってもらえると、助かるよ。でもなぁ、俺は次回もあの杖修復店に頼もうと思っていたのに、残念だよ。」
エリックには悪気はなかったのだろうが、シルビアの耳に入ってしまったらしい。
一生懸命にレインに話しかけていたシルビアが急に前を向きユミルを睨みつけた。
レインの手前、文句を口にするのは控えているようだが、ユミルはその眼光にまた居心地が悪くなる。
それを見たエリックは慌てたように目配せでユミルに謝ってくる。
微妙な空気が流れる中、レインが席を立った。
「先に部屋に戻っている。後で来い。」
沈黙を貫いていたレインは、もう食べ終わったのか、そうユミルに声をかける。
「承知しました。」
ユミルが返事をするとシルビアとエリックがぎょっとしたような表情をしたので、ユミルは慌てて弁解する。
「杖のメンテナンスに伺うんです。」
「ふぅん。それなら、わたくし、素晴らしい腕だというユミルさんの修復をこの目で見てみたいわ。ねぇ、レイン様、わたくしも伺ってもよいでしょう?」
(メンテナンスだから、裸眼で見てもよくわからないと思うけど…。)
ユミルはうんざりとしながらもレインの判断に従おうとレインを仰ぎ見ると、レインは表情も変えずに言い放った。
「来るな。」
(めちゃんこストレーーート!!)
一生懸命話しかけてくれている女性に対してあんまりな態度だ。しかし、先ほどのレインの態度を見れば、予想できた回答ではある、とユミルがシルビアを見ると、シルビアは驚いたように目を丸くしていた。
「どうしてですか!?」
(えっ、驚いちゃうの?それ聞いちゃうの?)
ユミルはハラハラと2人のやり取りを見守った。一方のエリックはにやにやとこの状況を楽しんでいる。
「理由がない。」
「理由ならあります!私もユミルさんの修復を見て勉強したいのです。」
(白々しい~~~!!)
ユミルはシルビアが都合よくユミルをだしに使おうとしているのに心の中で憤ったがここに割り込む勇気もない。
「魔力量が全然違うんだ、見ても意味がない。」
レインはそれだけを言い残すと、さっさと部屋に戻ってしまった。
シルビアはこの言葉を「シルビアはユミルから学ぶことなどひとつもないほど魔力量が膨大で優秀だ」という意味に受け取ったのか、勝ち誇った顔でユミルを見た。
(確かに、魔力量は少ないけれども、もっと言いようがあるじゃない!)
シルビアの表情にムッとしたユミルは心の中で文句を言いながら、さっさと食事を終わらせてレインを追うように席を立った。
ユミルが急いで扉を開けると、そこには予想どおりレインが立っている。
「今日の巡回は終わった。食事にしよう。」
レインは事も無げにそう言って廊下を歩いて行ってしまうので、ユミルは困惑した。
ユミルはレインに雇用されているので、今まで一緒に食事をとったことは当然ない。
これは一緒に食べる流れなのか、そうではないのか、ユミルが扉を開けたままの格好で迷っていると、レインが振り向いた。
「はやくしろ。」
「すみません!」
ユミルは慌てて扉を閉めると、レインの後に続いた。
どうやら魔法局職員はホテルの1階にあるレストランで食事を取っているらしい。
ユミルはレインに連れられるがまま、レインの正面の席に腰を下ろすと、給仕が2人の食事を配膳してくれた。
その他の魔法局職員はカウンターでのオーダー形式のようで、各々カウンターで食事を受け取ると、好きな席に座っている。
「食事の後、道具を持って部屋に来てくれ。」
「承知しました。」
レインはそれだけを言うと、黙々と食事を開始した。
レインの所作が美しいので、ユミルは食べるのに緊張してしまう。ユミルはアデレートから口うるさく注意されてきたので、平民の割にはマナーがなっているほうではあるが、それでも生粋の教育を受けてきた人と比べてしまえば天と地ほどの差だろう。
折角の食事が楽しめない、とユミルが残念に思っていると、ますます食事の味がしなくなる出来事が起きる。
「レイン様~!お隣失礼いたします。」
先ほどの杖修復士の令嬢が、有無を言わせずレインの横に座ったのだ。
レインがぴくりと眉を寄せたのを、ユミルは見逃さなかった。
(この令嬢、お心が強い…。)
「レイン様、今日もお疲れ様でした。」
令嬢はユミルのことを見ないふりをして、レインに一方的に話しかける。
対するレインは、沈黙したままで、なかなかシュールな光景である。
ユミルは目の前のことを必死に見ないようにしたが、心を無にしても、どうしても令嬢の話し声が耳に入ってくる。レインの返事が無くてもお構いなしに話し続けているが、ユミルはこの空気に居たたまれなくなっていた。聞こえてしまうと、どうしてもお節介心で、会話を繋いであげたくなるが、どちらからも異なった意味で嫌な顔をされそうだ。
「よっ!」
そんなとき、ユミルの隣に誰かが座る気配がした。
ユミルが隣を見やると、そこにはエリックの姿があった。
「エリック!お疲れ様。」
ユミルはエリックを救世主の如く歓迎した。
「シルビア嬢、すごいな。」
エリックは目の前の2人に聞こえないようにユミルに耳打ちをしたので、ユミルは激しく首を縦に振った。ユミルはここで初めて知ったのだが、この令嬢はシルビアというようだ。
その後もエリックは食事をしながらユミルに程よく話をしてくれるので、ユミルは目の前の会話から意識を逸らすことができて、大変助かっていた。
「そういえば、先日はレイン部隊長が急に来たから、びっくりしただろう。ごめんな。俺が話しちゃったんだ…。」
「ううん。あのときは仕事が無くて崖っぷちだったから渡りに船だったよ。」
「そう言ってもらえると、助かるよ。でもなぁ、俺は次回もあの杖修復店に頼もうと思っていたのに、残念だよ。」
エリックには悪気はなかったのだろうが、シルビアの耳に入ってしまったらしい。
一生懸命にレインに話しかけていたシルビアが急に前を向きユミルを睨みつけた。
レインの手前、文句を口にするのは控えているようだが、ユミルはその眼光にまた居心地が悪くなる。
それを見たエリックは慌てたように目配せでユミルに謝ってくる。
微妙な空気が流れる中、レインが席を立った。
「先に部屋に戻っている。後で来い。」
沈黙を貫いていたレインは、もう食べ終わったのか、そうユミルに声をかける。
「承知しました。」
ユミルが返事をするとシルビアとエリックがぎょっとしたような表情をしたので、ユミルは慌てて弁解する。
「杖のメンテナンスに伺うんです。」
「ふぅん。それなら、わたくし、素晴らしい腕だというユミルさんの修復をこの目で見てみたいわ。ねぇ、レイン様、わたくしも伺ってもよいでしょう?」
(メンテナンスだから、裸眼で見てもよくわからないと思うけど…。)
ユミルはうんざりとしながらもレインの判断に従おうとレインを仰ぎ見ると、レインは表情も変えずに言い放った。
「来るな。」
(めちゃんこストレーーート!!)
一生懸命話しかけてくれている女性に対してあんまりな態度だ。しかし、先ほどのレインの態度を見れば、予想できた回答ではある、とユミルがシルビアを見ると、シルビアは驚いたように目を丸くしていた。
「どうしてですか!?」
(えっ、驚いちゃうの?それ聞いちゃうの?)
ユミルはハラハラと2人のやり取りを見守った。一方のエリックはにやにやとこの状況を楽しんでいる。
「理由がない。」
「理由ならあります!私もユミルさんの修復を見て勉強したいのです。」
(白々しい~~~!!)
ユミルはシルビアが都合よくユミルをだしに使おうとしているのに心の中で憤ったがここに割り込む勇気もない。
「魔力量が全然違うんだ、見ても意味がない。」
レインはそれだけを言い残すと、さっさと部屋に戻ってしまった。
シルビアはこの言葉を「シルビアはユミルから学ぶことなどひとつもないほど魔力量が膨大で優秀だ」という意味に受け取ったのか、勝ち誇った顔でユミルを見た。
(確かに、魔力量は少ないけれども、もっと言いようがあるじゃない!)
シルビアの表情にムッとしたユミルは心の中で文句を言いながら、さっさと食事を終わらせてレインを追うように席を立った。
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