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第5章 ユミルの恋

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「護衛を雇おうと思う。」
「…はい?」

アデレートがやって来た日の晩、ユミルはいつもどおり杖のメンテナンスのためにレインの部屋を訪れていた。
失恋したばかりなので、ユミルは居心地が悪くて、黙って作業を進めていると、レインが突飛なことを言いだした。

「護衛を雇おうと思う。」
「いやいや、オズモンド様に護衛は…必要ないのでは…?」

レインのこの実力では、護衛の方が逆に守られてしまう未来が見える気がする。

「私に付けるためではない。君にだ。」
「私!?」

まさかの申し出に、ユミルはぎょっとする。

首都メトロポロスは、魔法局所属の魔法騎士によって、常時魔法結界が張られている。
それに、この邸宅にはレインが雇った魔法騎士が3人、常駐しているし、何かあれば、すぐにレインに異常が知らされるようになっていた。

「この邸宅には既に魔法騎士がいるじゃありませんか。」
「君は昼間に出かけることがあるだろう。」
「それは…そうですけれど。」

ユミルは日中暇すぎるので、レインにお願いして外出の許可を貰っていた。偶に執事のバロンにお願いされてお使いに出ることもある。
魔法道具である通信機を持たされ、急用の際は呼び出されることになっている。

「君は弱すぎる。」

(…もっと、オブラートに包んでくれても良くない?)

きっと、レインはユミルのケルベロスとの闘いぶりを見てわかったのだろう。
想像以上にその他では使い物にならないほど魔力が少ないことに。

けれど魔法騎士の人件費は高い。通常の魔法使いよりも危険を孕む分、高くなるのだ。
月50ガルの杖修復士を守るために、それ以上のお金を出してさらに魔法騎士を雇うなど、おかしな話だ。

「いやいやいや、いらないですよ。出かけると言っても、首都内ですし。首都は安全です。」
「いいや、今やどこも安全とは言い切れない。この前の魔法犯罪者が使用していた新しい転移魔法は、世間には公表されていないが、誰かの手に渡っていた場合、脅威になり得る。」

レインは先日捕らえた魔法犯罪者の尋問と後始末で引き続き忙しくしていた。
例の魔法がどこまで拡散しているのか、注意深く探っているのだろう。

「それはそうかもしれませんが…、私ひとりに対して過分です。」
「私の杖のためだ。」

(…まぁ、そうでしょうけれどね!)

ユミルのためではない、わかってはいたけれど、傷口に塩を塗り込むようなことを言われてユミルは肩を落とす。

(堅苦しいのは嫌だなぁ…でも、勤務日の昼間に自由にさせてもらっているわけだから、仕方ないか。)

「もちろん、休暇の日の外出は、ひとりで良いのですよね?」
「…今後検討しよう。」

ユミルが念のため休暇の日の対応を尋ねると、レインはバツの悪そうに顔を逸らした。

「やっぱり、いりませ、」
「既に人選はしてある。明日の朝から来るから、朝食を食べたらここに来るように。」

いりません、とユミルが言い切る前に、レインは被せるように早口で言った。
こうなれば撤回は難しそうだと、ユミルは内心ため息を吐いた。
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