異世界オタクは幾何学の魔女と伴に

痛痴

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1章 異世界オタクと物語の始まり

3話 就職

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ー謎の建物ー

 中はホコリっぽかった。

「ふわっぷ!!」

 思わずくしゃみしてしまう程に。
 変な声が出たが、それを松明が少し馬鹿にしているような気がした。

「おい、お前。人をくしゃみの仕方で笑うとか最低だぞ! お前は松明だからな、呼吸なんて必要ないんだろうけど、俺には必要なんだわ。それでホコリとか吸っちゃうわけ。で、それを出さなきゃならんだろ。くしゃみっていうのは、いわば人間における防衛手段だ。PAC3なんだよ。お前はPAC3を馬鹿にすんのか?」

 松明は何故かちょっと嬉しそうだ。
 ちなみに俺はたくさん喋って、またたくさん息を吸ってしまった。

「ふ、ふわっぷ!!」

 ブンブン(笑)。

「今の完全に馬鹿にしてたよな! だって(笑)だぜ。確かに俺には見えたぞ!! こんちくしょう!」

 俺は松明を捕まえようとするが、奴はスルリと俺の手を避けてしまった。
 また捕まえようとする。躱される。また手を伸ばす。当たり前のように、それもひらりと躱された。
 おっと、勘違いしちゃいけない。
 俺はムキになっていないぜ。

「オンドレァァって!! この松明ごときがぁぁ!!!」

「待てやぁ!! すぐにでもお前を加工して空飛ぶ箒にしてやる。夢だったんだよぉ! 空飛ぶ箒!!」

「ちょ! それはズルいだろうがよぉ! クソ! 俺の手が届く所まで降りてこいやー!!」

「痛っ、痛い。痛いから、ちょ、止め……叩くのだけは、地味に痛いから、止め」

 そう、だからこうして負けているのも俺が本気を出していないからだ。
 きっとそうだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた」

 一週間ぶりにこんなに動いた気がする。

 さて、松明さんを箒には加工できなさそうなので、取り敢えず濡れた服絞ってから俺は寝ることにした。扉の中はやはり人の手が入っており、ベッドこそないがぼろぼろの絨毯はあった。
 ここは、結構寒い。気温で言えば日本の十月くらいか?
 毛布どころか乾いた服さえ無いので、かなりキツイのだ。
 そこで俺は寒いアピールを松明さんにしてみる。

 ブン?

 疑問符だ! これは行けるかもしれない。

 ブンブン卍

 ん? どういうこと……って。

「熱っ!?」

 松明さんが所謂ファイヤーボールを俺に投げてきた。
 酷い。酷すぎる。こんな仕打ちないじゃないか。

 だが、一つおかしいことがある。服が燃えていないのだ。ついでに俺も焦げていない。
 それどころか、服は乾き、なんだかポカポカと風呂にでも入ったような感じがした。
 これはもしかしたら、支援魔法なのかもしれない。
 いや、めっちゃ熱かったけど。

「なんか……サンキュ」

 ちょっとイケメソ風に感謝してみた。
 するとどうだろう。松明さんはまた火球を打ってきた。

「うお! 熱っ。おいおい、俺は感謝しただけ、っていうかスウェット燃えてるじゃん!? これ絶対攻撃用だよな!」

 ここからなんだかんだあって、俺が眠れたのはこの二時間後だった。


ーーーーーー


「知らない天井だ」

 火球(熱いだけの奴)を打たれた。

「熱っ! せっかくの異世界ですよぉ。やりたくなるのが人情ってやつでさぁ!!やらして下さいよー」

 火球(ダメージある奴)を打たれた。

「おい、それはやめろぉ! 服燃えるから。どんだけ、俺のお色気シーンを見たいんだよ!」

 スウェットに付いた火が消える。
 ったくよ。調子に乗らせたらすぐこれだ。俺は人間様だぞ。松明ごときが俺に威張るなんて十年早いわ!

 火が再び付いた。

「すみませんでしたぁ! 俺はクソみたいな人間の中のゴミみたいな奴なので、どうか気高き松明様、ご容赦下さい!」

 俺は土下座した。松明様は納得行かないのか、火の威力を強める。

「なにが駄目なんですか……」

 ブンブン、ブン!!

「や、焼き土下座? 何故あなたがそのネタを……っていうか、それだけは勘弁を…」

 ブーン、ボウッ。

 松明様は一回転してから炎を消した。
 納得して下さったようだ。ちょろいぜ。

 ボウッ?

 松明様が頭の炎を軽く爆発させた。

「さあ、松明様。外に出ましょうか!」

 俺は決めたぞ。

 松明様の奴隷になる!


ー謎の草原ー


「草原だな」

 木製の扉を開き松明様と外に出ると、当たり前だが昨日と同じような草原が広がっていた。
 動物の姿は無く、朝霧が薄く立ち込めている。

「どうするか」

 異世界なのにやることが分からない。
 ラノベとかだと最初にやることといえば、能力の確認とかなんだがな。

「そういや、あのメモ!」

 俺としたことが、忘れたぜ。
 俺は、ポケットのメモをガサガサと漁る。
 あった。

【賞状】
 和田健人君。

 あなたはもとの世界で誰の役に立たず誰の邪魔にもならなかったので、異世界に転生する権利と異能を授けます。

 火本国ラノベ長老陣代表 加賀地真央

【異能:ドリンクバー】
 一定量飲んだ飲み物を何時でも一定量まで出せます。

「クソ能力じゃねえか!!」

 俺はメモを地面に叩きつけた。
 いや、待て。クールに考えろ。ラノベでこういう弱い能力を持ったやつが最強にならなかったことを見たことがあるか? 理不尽なダークファンタジーに投げ込まれたことがあるか? いや、無い。そう、つまりこれは勝ちルート。
 勝った!!
 お母ちゃん、お父ちゃん。俺は勝ったぞ!

 早速使ってみるか。こういう能力は応用してなんぼだ。さてと。

「使用方法は?」

 落ちた紙を拾って読み返す。
 ん、これか。

○使用方法
 頑張れ。

 ……。

「っふざけんなよ!」

 俺はまた地面に叩きつけた。
 頑張れってなんだよ? 頑張れば何でも出来る訳じゃねえんだぞ。才能があっても、使い方を知らなければ、意味ないじゃねえか。
 頑張るってどういうことだ。何を頑張るんだ? どのくらい頑張るんだ?
 頑張るって一口に言っても、色々あるからな。俺にベジータのような努力を望んでも無駄だぜ。なんたって俺は駄目人間! あらゆる努力から避けてきた男なのだから。

「見間違いだよな」

 オタク共の計画でも流石にここまでチュートリアルが雑ってことは無いと思うんだが。

 俺はメモをまた拾い、読み込む。
 しかし、どんなに精読してもそれ以上のことは書かれていない。

「せっかくのクソ能力なのに使えないんじゃ応用も何も無いじゃないかよ! ったく、どうすれば……」

 俺が途方に暮れていると、松明様がブンブンと自己主張した。もしかして。

「使用方法を知っているんですか!? 松明様!」

 松明は肯定し(ているように見え)た。
 思えば、しばしばチート能力のことをユニークスキルだとか固有魔法だとか言うときがある。
 松明様は魔法の使い手だ。もしかしたら、俺の能力についても詳しいかもしれない。

「どうすれば良いですか! 俺の異世界ライフがかかっているんです。どうか、この通り」

 俺は土下座した。二度目だった。
 おでこをジリジリと草原の草になすりつける。
 松明ごときに土下座をするなんて、とても文明の担い手である人間の姿ではない。
 だが、俺は、俺の為なら、人間としての尊厳を捨てる!

 すると、右の耳が一つの必死な声を拾った。

「弟子にしてください!」

 これは俺の声では無い。
 俺は土下座を崩さないように、目だけをチラリ。右に向けた。

 そこに居たのは俺と同じように美しい土下座をする白ローブだった。
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