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1章 異世界オタクと物語の始まり
4話 JCの魔術レッスン
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ー謎の草原ー
「どうか僕を助けると思って!」
凛と澄んだその声で必死に俺の松明(ご主人様)に嘆願するのは、白いローブを羽織ったガキだった。
歳の頃はJCくらいか? 横目でチラッと見る限りきれいな顔立ちをしている。髪はセミショートぐらいで美しいブロンド。ぱつ金だな。目ん玉は透き通るような鶯色で綺麗だ。
俺は立膝になった。白ローブも立膝になってこちらを見返す。
勿論知らないガキだ。
だが俺は礼儀正しいオタなので、きちんと挨拶をしてやった。
「おんどれぇ! 何処の組のもんじゃ、ぼけぇ。わしの組長になんか用か?」
「ひ、ひう」
うむ。ちゃんとビビってるようだ。フードの奥で綺麗なお目々が震えている。
組長、これで問題ないですよ。さあ、私めにチートの使い方を教えて下さい。
火球(ダメージある奴)を打たれた。
「あちちちっ! 酷い!!」
ブンブン。
松明様は、白ローブの方にふわふわと近づくと、彼の眼に溜まった涙を優しくハンカチで拭ってやる。
対して敬虔な信徒である俺には辛辣だ。
きっと俺が酷いことをされても、松明様なしでは生きれない身体になっていることを見抜かれているのだろう。
「あ、ありがとうございます。え、あの……今、なんて?」
ガキンチョが感謝をすると、ご主人様はブンブン振って何かを伝えた。
だがガキンチョには、それを理解することが難しかったようだ。
まあ、無理もない。
俺は最初の方から出来てたけどな!
「松明様は何故私の魔法を学びたいのかと仰っている。さあ、言え、今すぐ言え。さもなくば、松明四天王が一人、#無限水源_エターナルタンク__#のケントが相手になるぞ」
俺は虚勢をはった。
無限水源って、マイクラかよ。
「無限水源……まさか!?」
え。
「僕聞いたことがあります! ルナシタシア共和国を救った国威級の水魔法使いがいるって。あなたがそうなんですか?」
俺が今適当に作った二つ名は既に使われていたようだ。
だが、俺は負けない。
「おうよ、その通り。この俺が無限水源である」
「ははー」
ガキンチョは俺に跪いた。嘘はついて無いぞ。たまたまその無限水源(笑)さんとセンスが一緒だっただけだ。
ふむ、気分が良い。
「それで、その無限水源殿……」
「ケントで良いぞ」
「あ、はい。ケント殿は、何故今更弟子入りを? あなたほどの実力ならば寧ろ師匠の立ち位置なのでは?」
どうやらオリジナルの無限水源は結構強いようだ。
当たり前か。一国を救ってるんだもんな。
うーん、どうしよう。
あ、これでいいや。
「ここに居られる松明様はな、俺なんかが千人居ても倒せないような大魔法使いなのだよ。そこで初心に戻って、より多くの人を救えるように修行をしたい訳さ」
「なるほど。その絶え間ない向上心に感服します」
ガキンチョは完璧に俺を信じたようだ。その翡翠色の純粋な目に尊敬が篭っているのが、よく分かった。
ちなみに松明様は馬鹿にしたように炎をちょっと弾けさせる。
見抜かれてやがるぜ。
「それで、お前は何処の誰なんだよ」
白ローブはビクッとした。
「ぼ、僕ですか? 僕は連合国軍総大将、勇者アイシャ=ファルシナム・ネムと申する者です」
ゆう、しゃ?
「魔王トドロキを討伐する為、旅をしております」
なるほど。
なる、ほど。
ちょっと待てよく考えろ。
つまり俺は、僕っ子ロリ勇者が旅の序盤で出会ったペテン師扱いになるのか。
うん、俺、死ぬかもしれない。
いや、待て。俺の中の暁美ほ●らが「まだよ」って囁いてる。
例えペテン師だとしても成功した奴らはいる。要は、嘘つくけど根本的には良い奴っていう風になればいいんだ。そうすれば味方か敵かよく分からない強キャラになれる筈。
よし、その路線でいこう。
だが、ともかくだ。松明様が俺達の弟子入りを認めて下さらなければ、何も始まらない。
「ヨロシクな、ローブっ娘……アイシャで良いか?」
「ええ、勿論です、ケント殿。宜しくお願いします」
俺達は固く握手した。
ーーーーー
「ぎゃーーーーーーーーー!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
俺達は今上空約百メートルにいる。
この距離から落ちれば地面に到達する頃には、ざっと計算して時速160キロ。メジャーリーグのトップ選手の野球ボールに成り果てるだろう。
松明様は女勇者がどんなに説得しても頷かなかった。
それでもしつこく引き下がった女勇者。なんか事情でもあるんだろか。
そんなことは知らないとばかりに、面倒臭くなったのか松明様は勇者を魔法でヒョイっと持ち上げ、飛ぶ鳥の速度であっという間にここまで上げてしまった。
ちなみに、俺はただの巻き添えである
「松明様ーー!! 俺は、俺は違いますよねぇ? 下ろしてぇ、下ろしてぇええ!!」
俺は泣き叫んだ。
「ケント殿、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか!? 落ちたら死ぬんだぞ!」
「うふふ、ご冗談を。この程度で死ぬわけないじゃないですか。それよりも、どういう事だと思います?」
どういう事ってどういう事だ?
あ、今下見ちゃった。怖っ。
「切り捨てるのだったら、僕をもっと遠くに飛ばす筈です。何故?」
あ、ああ。そういうことか。
「そりゃオメェを試してるんだろ、きっと。どうやって試すのかは知らんけど、まあ俺が何とかしてやんよ」
「本当ですか! 流石、ケント殿ですね」
俺は、さっき迄の自分のパニック状態を無視して威張った。幸い、このガキンチョは簡単に騙せるので、未だ俺に尊敬の眼差しを向けている。
俺がこうまでして、この勇者から尊敬を得ようとしているのは、強かな算盤弾き故である。
身分証明もない一介の引きニートが街に入れると思うか? いーや、無理だね。だって俺なら入れないもん。
しかーし、ここで愛しの勇者ちゃんが俺を「尊敬できる御仁」なんて助言をすれば、たちまち俺の不審さは消え、本来の清潔感が伝わることだろう。
勝利の方程式だ。
そんな風に考えていると、二人の腹がぐうっと鳴った。
「そういや、昨日からキモオタと喋ったり松明様戯れられたりで飯食ってないな。水は松明様がくれたけど」
「僕も食料が尽きて、町かなにかを探している所でした」
つまり、腹が減ったのだ。
そして、食料は、空には無い。
「おい、もしかして俺達は自力で下に行かない限りずっとこのままなんじゃね?」
「それってもしかして……」
下手すりゃ餓死だ。
流石にそこまで松明様がするとは思えないのだが、人に火を投げてくるような御方だ。加減はないだろう。
「おい、アイシャ! なんか無いのか」
俺はガキンチョに頼った。何とかしてやる、と言っておきながら、鮮やかな掌返しである。
「え、ええ。うーん」
それでも律儀に考えてくれる勇者ちゃんは、なんて良い子なんだろう。
甘ちゃんとも言うが、こっちとしてはとても都合が良い。歳相応だしね。
「多分これ、力術系だと思うんですよね。対抗魔術は使えないし、あのレベルの術者ならバッテリー切れも見込めないから……」
「力術? バッテリー? それってなん……あ」
やべ、まずった。思わず質問しちまったぜ。
今の俺はどっかの知らねえ国の英雄だ。多分それらの言葉はコイツの様子から見て当たり前のことなんだろう。それをわざわざ聞くのは不自然すぎる。
俺が青ざめていると、ちょっと困っていたガキンチョが急に納得顔になって言った。
「ああ、確か地域によって言い方が違うんでしたっけ? 力術は力を司る魔法系統のことで、バッテリーは使用できる魔素の量ですよ」
た、助かった。危機一髪だったな。
さて、つまり力術が力魔法で、バッテリーがMPみたいなものなのね。
なんか力術の方は良いけど、バッテリーって名前はだっせぇな。なんか他に無かったのかぁ?
「なあ、今日からバッテリーのことをマナって呼んでくれない?」
「マ、マナって……変態」
勇者は足をモジモジさせて頬を赤く染めた。
え、何? こっちじゃ、マナって18禁用語なの。ええ、じゃあ日本の魔法系アニメで、マナマナ言ってる奴はコイツらからしたら不審者なのか。
文化の違いって凄いな。
「おっと、こっちだとそういう意味になるのか、すまんな」
「す、すみません。こちらこそ変態だなんて言って。でもこの辺でマ、マナって言わない方が良いですよ」
「因みに、どういう意味なの?」
「それは……うう、無理。言えません」
畜生! 僕っ子JCにエロい言葉を言わせる良いチャンスだったんだけどな。
まあ仕方ない。これ以上は掘り下げんよ。
俺は真摯な駄目人間だからな。
「それで、なんか方法は見つかったのか?」
「多分、質量を人一人分くらい大きくしてやれば自然に落ちると思います。もしくは、一定の推進力があれば」
「質量って言ってもな……」
空で質量を持っているものといえば、鳥ぐらいか? いや、この異世界に来たときにドラゴンが飛んでたな。まあ、それはいい。
問題はそう運良く鳥もドラゴンも来るわけがないということだ。どうしたものか。
「あ、僕。剣を生成する魔法を持ってるんです。それだったら行けるかもしれません」
なんだそれ。めっちゃカッコイイな。
アンリミテッドブレイドワークスとかできそう。
「よし、やってみてくれ!」
「はい!」
勇者は勢いよくそう答えると、目をつぶって集中し始めた。俺も唾をのんでそれを見守る。
《勇者アイシャの名において命ずる》
《我が魔力よ》
《その姿を一振りの鋼剣と化せ》
「【ガルグ•サント】」
おお、ちゃんと詠唱してる。
なんかきちんと魔法って感じだな。
僕っ子勇者の右手が白く輝き、最初は点だったそれが段々と整形されていく。
っておい。
「ちっちぇじゃねえか!」
生成された鋼剣は、大体五センチくらいだった。これで、なにが切れるというのか。というか、これじゃ質量全然足りねえだろうが。なんで、このレベルで超自慢げだったのか訳が分からねえ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
しかもめっちゃ疲れてるしね。それにしても、綺麗めの女が息切れしてるのって良いよな。ガキでもエロいと思うわ。
おっと、俺はロリコンじゃないぜ。そこに関しては自信を持ってる。
いや、確かにごち●さ談話を1話でしたよ。でも、これとそれとは別だから。おれはマヤ好きだが本命は青山さんだから。
それはともかくこれじゃあ解決にはならない。
「僕は魔法適正があるにも関わらず何故か下手なんですよね。上達する為にも、あの松明様? の弟子にして頂きたいのですが……」
ほんわぁ、なるほどね。勇者がなんで魔法を習いたいのか、よく分かったわ。
あ、そうだ。この際だから魔法の使い方とかを教えて貰おうかな。チートと同じかもしれんし。
「ふーん。やり方が悪いのかもしれないな。ちょっと魔法を使うときの手順を事細かに俺に言ってみろ。この試練はお前の為のものだ。お前が達成しなければ駄目だからな。お前の魔法をちょっと特訓してやんよ」
俺は適当に理由をでっち上げた。勇者も納得したのか、ふむふむと頷いた。
「本当ですか! ありがとうございます。じゃあ、早速。えーっと、まず身体の中の魔力の流れを意識して」
おっと、初手から意味が分からないぞ?
「魔力の流れ? もっと具体的に」
俺は苛立った塾講師のように言った。
「ぐ、具体的? うーんと、首の辺りから流れてくるポカポカする液体みたいな奴を意識して……」
首の辺り? うーん。
「ちょっと待ってて」
「え、あ、はい」
首の辺りだと? うーん、特に感じないが。どちらかというと、なんか胸のあたりに何かを感じる。ん、そこから変なのが流れてきている感じがあるような……。
「うわっ」
「え、どうしたんですか?」
ガキンチョが急に奇声をあげた俺を不思議そうに覗いた。
「いや、何でもない」
ちょっとびっくりして思わず間抜けな声が出てしまった。これが、魔力の流れか。
異物のような自分自身のような、そんなあやふやな物が体中に行き渡る。
これが、本気で気持ちが悪い。おぇ、吐きそう。
「大丈夫ですか? 顔色悪そうですけど……」
「問題ない。ちょっと百合が足りないだけだ」
「ゆり?」
勇者は百合が理解できないようだ。訝しげな顔をして首を傾げている。可哀想に。このまま百合の素晴らしさを伝えてやっても良いんだが、まあ良いか。
今度、教えてやろう。
「良いから、発作みたいなものだ」
「なら、続けますけど……それで、魔法の内容を思い浮かべて」
俺はファミレスのドリンクバーを精細に頭の中で再現した。
氷を入れたコップを設置して、オレンジジュースを選択。透明の謎液体と原液っぽいオレンジ色の液体が氷を伝い、注がれていく。
「よし、次だ」
「そして、《自分の権限》、《干渉対象》……この場合は自分の魔力ですね。そして、《干渉内容》を言って、【魔法名】を言えば終わりです」
ふむふむ。なるほどな。
つまり……
《稀代の引きこもりの名において命ずる》
「え? いきなり何を」
《我が魔力よ》
《自宅がファミレスみたいになれば良いのにという、少年達の夢を実現せよ》
「【ドリンクバー】」
その瞬間、俺の頭の上に巨大な機械が顕れた。
「どうか僕を助けると思って!」
凛と澄んだその声で必死に俺の松明(ご主人様)に嘆願するのは、白いローブを羽織ったガキだった。
歳の頃はJCくらいか? 横目でチラッと見る限りきれいな顔立ちをしている。髪はセミショートぐらいで美しいブロンド。ぱつ金だな。目ん玉は透き通るような鶯色で綺麗だ。
俺は立膝になった。白ローブも立膝になってこちらを見返す。
勿論知らないガキだ。
だが俺は礼儀正しいオタなので、きちんと挨拶をしてやった。
「おんどれぇ! 何処の組のもんじゃ、ぼけぇ。わしの組長になんか用か?」
「ひ、ひう」
うむ。ちゃんとビビってるようだ。フードの奥で綺麗なお目々が震えている。
組長、これで問題ないですよ。さあ、私めにチートの使い方を教えて下さい。
火球(ダメージある奴)を打たれた。
「あちちちっ! 酷い!!」
ブンブン。
松明様は、白ローブの方にふわふわと近づくと、彼の眼に溜まった涙を優しくハンカチで拭ってやる。
対して敬虔な信徒である俺には辛辣だ。
きっと俺が酷いことをされても、松明様なしでは生きれない身体になっていることを見抜かれているのだろう。
「あ、ありがとうございます。え、あの……今、なんて?」
ガキンチョが感謝をすると、ご主人様はブンブン振って何かを伝えた。
だがガキンチョには、それを理解することが難しかったようだ。
まあ、無理もない。
俺は最初の方から出来てたけどな!
「松明様は何故私の魔法を学びたいのかと仰っている。さあ、言え、今すぐ言え。さもなくば、松明四天王が一人、#無限水源_エターナルタンク__#のケントが相手になるぞ」
俺は虚勢をはった。
無限水源って、マイクラかよ。
「無限水源……まさか!?」
え。
「僕聞いたことがあります! ルナシタシア共和国を救った国威級の水魔法使いがいるって。あなたがそうなんですか?」
俺が今適当に作った二つ名は既に使われていたようだ。
だが、俺は負けない。
「おうよ、その通り。この俺が無限水源である」
「ははー」
ガキンチョは俺に跪いた。嘘はついて無いぞ。たまたまその無限水源(笑)さんとセンスが一緒だっただけだ。
ふむ、気分が良い。
「それで、その無限水源殿……」
「ケントで良いぞ」
「あ、はい。ケント殿は、何故今更弟子入りを? あなたほどの実力ならば寧ろ師匠の立ち位置なのでは?」
どうやらオリジナルの無限水源は結構強いようだ。
当たり前か。一国を救ってるんだもんな。
うーん、どうしよう。
あ、これでいいや。
「ここに居られる松明様はな、俺なんかが千人居ても倒せないような大魔法使いなのだよ。そこで初心に戻って、より多くの人を救えるように修行をしたい訳さ」
「なるほど。その絶え間ない向上心に感服します」
ガキンチョは完璧に俺を信じたようだ。その翡翠色の純粋な目に尊敬が篭っているのが、よく分かった。
ちなみに松明様は馬鹿にしたように炎をちょっと弾けさせる。
見抜かれてやがるぜ。
「それで、お前は何処の誰なんだよ」
白ローブはビクッとした。
「ぼ、僕ですか? 僕は連合国軍総大将、勇者アイシャ=ファルシナム・ネムと申する者です」
ゆう、しゃ?
「魔王トドロキを討伐する為、旅をしております」
なるほど。
なる、ほど。
ちょっと待てよく考えろ。
つまり俺は、僕っ子ロリ勇者が旅の序盤で出会ったペテン師扱いになるのか。
うん、俺、死ぬかもしれない。
いや、待て。俺の中の暁美ほ●らが「まだよ」って囁いてる。
例えペテン師だとしても成功した奴らはいる。要は、嘘つくけど根本的には良い奴っていう風になればいいんだ。そうすれば味方か敵かよく分からない強キャラになれる筈。
よし、その路線でいこう。
だが、ともかくだ。松明様が俺達の弟子入りを認めて下さらなければ、何も始まらない。
「ヨロシクな、ローブっ娘……アイシャで良いか?」
「ええ、勿論です、ケント殿。宜しくお願いします」
俺達は固く握手した。
ーーーーー
「ぎゃーーーーーーーーー!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
俺達は今上空約百メートルにいる。
この距離から落ちれば地面に到達する頃には、ざっと計算して時速160キロ。メジャーリーグのトップ選手の野球ボールに成り果てるだろう。
松明様は女勇者がどんなに説得しても頷かなかった。
それでもしつこく引き下がった女勇者。なんか事情でもあるんだろか。
そんなことは知らないとばかりに、面倒臭くなったのか松明様は勇者を魔法でヒョイっと持ち上げ、飛ぶ鳥の速度であっという間にここまで上げてしまった。
ちなみに、俺はただの巻き添えである
「松明様ーー!! 俺は、俺は違いますよねぇ? 下ろしてぇ、下ろしてぇええ!!」
俺は泣き叫んだ。
「ケント殿、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるか!? 落ちたら死ぬんだぞ!」
「うふふ、ご冗談を。この程度で死ぬわけないじゃないですか。それよりも、どういう事だと思います?」
どういう事ってどういう事だ?
あ、今下見ちゃった。怖っ。
「切り捨てるのだったら、僕をもっと遠くに飛ばす筈です。何故?」
あ、ああ。そういうことか。
「そりゃオメェを試してるんだろ、きっと。どうやって試すのかは知らんけど、まあ俺が何とかしてやんよ」
「本当ですか! 流石、ケント殿ですね」
俺は、さっき迄の自分のパニック状態を無視して威張った。幸い、このガキンチョは簡単に騙せるので、未だ俺に尊敬の眼差しを向けている。
俺がこうまでして、この勇者から尊敬を得ようとしているのは、強かな算盤弾き故である。
身分証明もない一介の引きニートが街に入れると思うか? いーや、無理だね。だって俺なら入れないもん。
しかーし、ここで愛しの勇者ちゃんが俺を「尊敬できる御仁」なんて助言をすれば、たちまち俺の不審さは消え、本来の清潔感が伝わることだろう。
勝利の方程式だ。
そんな風に考えていると、二人の腹がぐうっと鳴った。
「そういや、昨日からキモオタと喋ったり松明様戯れられたりで飯食ってないな。水は松明様がくれたけど」
「僕も食料が尽きて、町かなにかを探している所でした」
つまり、腹が減ったのだ。
そして、食料は、空には無い。
「おい、もしかして俺達は自力で下に行かない限りずっとこのままなんじゃね?」
「それってもしかして……」
下手すりゃ餓死だ。
流石にそこまで松明様がするとは思えないのだが、人に火を投げてくるような御方だ。加減はないだろう。
「おい、アイシャ! なんか無いのか」
俺はガキンチョに頼った。何とかしてやる、と言っておきながら、鮮やかな掌返しである。
「え、ええ。うーん」
それでも律儀に考えてくれる勇者ちゃんは、なんて良い子なんだろう。
甘ちゃんとも言うが、こっちとしてはとても都合が良い。歳相応だしね。
「多分これ、力術系だと思うんですよね。対抗魔術は使えないし、あのレベルの術者ならバッテリー切れも見込めないから……」
「力術? バッテリー? それってなん……あ」
やべ、まずった。思わず質問しちまったぜ。
今の俺はどっかの知らねえ国の英雄だ。多分それらの言葉はコイツの様子から見て当たり前のことなんだろう。それをわざわざ聞くのは不自然すぎる。
俺が青ざめていると、ちょっと困っていたガキンチョが急に納得顔になって言った。
「ああ、確か地域によって言い方が違うんでしたっけ? 力術は力を司る魔法系統のことで、バッテリーは使用できる魔素の量ですよ」
た、助かった。危機一髪だったな。
さて、つまり力術が力魔法で、バッテリーがMPみたいなものなのね。
なんか力術の方は良いけど、バッテリーって名前はだっせぇな。なんか他に無かったのかぁ?
「なあ、今日からバッテリーのことをマナって呼んでくれない?」
「マ、マナって……変態」
勇者は足をモジモジさせて頬を赤く染めた。
え、何? こっちじゃ、マナって18禁用語なの。ええ、じゃあ日本の魔法系アニメで、マナマナ言ってる奴はコイツらからしたら不審者なのか。
文化の違いって凄いな。
「おっと、こっちだとそういう意味になるのか、すまんな」
「す、すみません。こちらこそ変態だなんて言って。でもこの辺でマ、マナって言わない方が良いですよ」
「因みに、どういう意味なの?」
「それは……うう、無理。言えません」
畜生! 僕っ子JCにエロい言葉を言わせる良いチャンスだったんだけどな。
まあ仕方ない。これ以上は掘り下げんよ。
俺は真摯な駄目人間だからな。
「それで、なんか方法は見つかったのか?」
「多分、質量を人一人分くらい大きくしてやれば自然に落ちると思います。もしくは、一定の推進力があれば」
「質量って言ってもな……」
空で質量を持っているものといえば、鳥ぐらいか? いや、この異世界に来たときにドラゴンが飛んでたな。まあ、それはいい。
問題はそう運良く鳥もドラゴンも来るわけがないということだ。どうしたものか。
「あ、僕。剣を生成する魔法を持ってるんです。それだったら行けるかもしれません」
なんだそれ。めっちゃカッコイイな。
アンリミテッドブレイドワークスとかできそう。
「よし、やってみてくれ!」
「はい!」
勇者は勢いよくそう答えると、目をつぶって集中し始めた。俺も唾をのんでそれを見守る。
《勇者アイシャの名において命ずる》
《我が魔力よ》
《その姿を一振りの鋼剣と化せ》
「【ガルグ•サント】」
おお、ちゃんと詠唱してる。
なんかきちんと魔法って感じだな。
僕っ子勇者の右手が白く輝き、最初は点だったそれが段々と整形されていく。
っておい。
「ちっちぇじゃねえか!」
生成された鋼剣は、大体五センチくらいだった。これで、なにが切れるというのか。というか、これじゃ質量全然足りねえだろうが。なんで、このレベルで超自慢げだったのか訳が分からねえ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
しかもめっちゃ疲れてるしね。それにしても、綺麗めの女が息切れしてるのって良いよな。ガキでもエロいと思うわ。
おっと、俺はロリコンじゃないぜ。そこに関しては自信を持ってる。
いや、確かにごち●さ談話を1話でしたよ。でも、これとそれとは別だから。おれはマヤ好きだが本命は青山さんだから。
それはともかくこれじゃあ解決にはならない。
「僕は魔法適正があるにも関わらず何故か下手なんですよね。上達する為にも、あの松明様? の弟子にして頂きたいのですが……」
ほんわぁ、なるほどね。勇者がなんで魔法を習いたいのか、よく分かったわ。
あ、そうだ。この際だから魔法の使い方とかを教えて貰おうかな。チートと同じかもしれんし。
「ふーん。やり方が悪いのかもしれないな。ちょっと魔法を使うときの手順を事細かに俺に言ってみろ。この試練はお前の為のものだ。お前が達成しなければ駄目だからな。お前の魔法をちょっと特訓してやんよ」
俺は適当に理由をでっち上げた。勇者も納得したのか、ふむふむと頷いた。
「本当ですか! ありがとうございます。じゃあ、早速。えーっと、まず身体の中の魔力の流れを意識して」
おっと、初手から意味が分からないぞ?
「魔力の流れ? もっと具体的に」
俺は苛立った塾講師のように言った。
「ぐ、具体的? うーんと、首の辺りから流れてくるポカポカする液体みたいな奴を意識して……」
首の辺り? うーん。
「ちょっと待ってて」
「え、あ、はい」
首の辺りだと? うーん、特に感じないが。どちらかというと、なんか胸のあたりに何かを感じる。ん、そこから変なのが流れてきている感じがあるような……。
「うわっ」
「え、どうしたんですか?」
ガキンチョが急に奇声をあげた俺を不思議そうに覗いた。
「いや、何でもない」
ちょっとびっくりして思わず間抜けな声が出てしまった。これが、魔力の流れか。
異物のような自分自身のような、そんなあやふやな物が体中に行き渡る。
これが、本気で気持ちが悪い。おぇ、吐きそう。
「大丈夫ですか? 顔色悪そうですけど……」
「問題ない。ちょっと百合が足りないだけだ」
「ゆり?」
勇者は百合が理解できないようだ。訝しげな顔をして首を傾げている。可哀想に。このまま百合の素晴らしさを伝えてやっても良いんだが、まあ良いか。
今度、教えてやろう。
「良いから、発作みたいなものだ」
「なら、続けますけど……それで、魔法の内容を思い浮かべて」
俺はファミレスのドリンクバーを精細に頭の中で再現した。
氷を入れたコップを設置して、オレンジジュースを選択。透明の謎液体と原液っぽいオレンジ色の液体が氷を伝い、注がれていく。
「よし、次だ」
「そして、《自分の権限》、《干渉対象》……この場合は自分の魔力ですね。そして、《干渉内容》を言って、【魔法名】を言えば終わりです」
ふむふむ。なるほどな。
つまり……
《稀代の引きこもりの名において命ずる》
「え? いきなり何を」
《我が魔力よ》
《自宅がファミレスみたいになれば良いのにという、少年達の夢を実現せよ》
「【ドリンクバー】」
その瞬間、俺の頭の上に巨大な機械が顕れた。
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