異世界オタクは幾何学の魔女と伴に

痛痴

文字の大きさ
7 / 30
1章 異世界オタクと物語の始まり

7話 子育て

しおりを挟む


さて、竜の巣は目前だ。流石にここまで来るとドラゴンは速度を落とし、バサバサと大きく羽ばたきながら降下していく。
 うわぁ。
 巣の中はドラゴンの雛が3匹いて、どの赤ちゃんも口をパクパクさせながら俺を待っていた。な、なんだよ。子連れなら最初から言ってくれれば良かったのに。え? バツイチだからって嫌いにならないさ。

 ドラゴンさんがお口を開く。因みに鳥っぽい嘴だ。大きい牙が無くて結構である。
 俺は足が着く場所まで大体2mの高さで落とされた。

「ちょ、ま、この高さで落とされたらぁああああああ」

 俺は顔面を強打した。
 ったく痛いな、もう。最近はDVとか煩いんだから気を付けてよね。俺は気にしないけどさ。

 GYAU?

 それで俺はどうなるんでしょうね?
 熊位のサイズの子供ドラゴン達は落ちてきた新しい父親を歓迎しているようで、皆ジュルリとよだれを口元から垂らした。

「や、やあ。俺が新しいお父さんだよ。短い間だけどお手柔らかに頼むね」

 竜の子達が一斉に俺の方へ駆けてくる。
 俺は人生最大の危機に瀕していた。


ーーーーー


「ん、ここは……?」

 僕が目を覚ますと目の間には松明殿がこちらを心配そうに見ていた。

「は、ケント殿は!? あの翼竜はどうなったのですか」

 ブンブン、ビシッ。

 松明殿は、何処かの方角を指す。そっちにいるということだろうか。
 そういえば、この松明殿は何なのだろう。こうのような奇抜な生き物は基本的に魔物の場合が多いが、そんな雰囲気でもない。
 魔物は当たり前だが魔の物。しかし松明殿からは神聖ささえ感じる。

「助けに行きましょう」

 勿論無限水源とまで呼ばれた魔力量ならば、まだ大丈夫だと思うが、相手がドラゴンならば話は別。
 最悪の場合もある。急がねば……。

 僕は方角に向かって走る。
 僕は物理専門の勇者だ。その走行速度は人の域を超え、突風を纏いながら草原を突き進んでいける。障害物も無い平たい草原なら猶更。
 しかし、それだけの速度を持ってしてもドラゴンに追いつくには遅すぎる。あれは全ての獣の頂点、竜種なのだから。

 その鉄よりも硬く羽よりも軽い鱗は、体を強く守り、強靭な筋力はあらゆる無茶を可能とする。それだけではない。その明晰な頭脳は多くの知識を宿しており、特大魔術の行使さえ可能だそうだ。

 とても人では太刀打ちできない。いや、それ以外の生物でも無理。勇者や賢者レベルでなければ討伐は無理でしょう。

 それにしても、ケント殿はそのドラゴンをまるで怖がっていなかった。普通、ドラゴンを怖がらない者などいない。

ドラゴンを恐れず、あまつさえ利用しようとするケント殿は、僕みたいな人よりもよっぽど勇者。彼は言ってくれました。どうにかしてやると。だから、今私が全速力で彼を救おう駆けつけているのも、本当に良いことなのか分からない。

 だけど、やはり僕は勇者だから。
 だから。

「待っていて下さい。この勇者アイシャ=ファルシナム・ネム、必ずや貴方を救って差し上げましょう」

 失礼に当たるかもしれない。
 だけど僕は勇者なのだから、ドラゴンを討伐して、人を助け行きたい。
 僕はがむしゃらに走った。


ーーーーー


「うぎゃあーーーー!! お助けぇえ!!」

 GYA!
 GYAGYA!
 UDONGE!

「ぎゃー!! っていうか今うどんげって言った奴いただろ! 東方厨なら、話せば分かるから! 原作ゲームはやったことないけど、キャラだけなら結構知ってるから!!」

 俺はドラゴンの巣を泣きながら逃げ回っていた。無理無理!! これ逃げられんわ。早く誰か助けに来いよ!

 ドラゴンの巣は鳥の巣みたいな構造で、表面は人やそれ位の大きさの骨で出来ている。骨って硬いと思うんだけど、痛く無いんだろうか? いや、痛く無いな。だってあいつらの鱗めっちゃ硬いんだもん。さっき気が狂って、子供ドラゴンに、落ちていた頭蓋骨を投げつけたとき、明らかに生物からしちゃいけない音が聞こえたもん。カーンって甲高い音が俺の耳に届いたもん。最低でも鉄ぐらいは覚悟しておいた方が良いだろう。
 なあ、今ぐらい言っても良いよな。

「これ、なんて無理ゲー?」

 GIGYA?
 FF?
 Tuu!!

 おい、なんでこの世界の強い奴等は全員地球ネタを知ってるんだよ! 松明様も焼き土下座所望してたしさ。しかも偏った知識ばっかじゃねえか!!

「もっとラノベを読めよ!」

 漫画とゲームばっかりだといい大人に成れないぞ。俺みたいにラノベもきちんとバランスよく摂取しないとな。
 やっべ、それどころじゃねえや。子ドラゴン達の足は俺の全力疾走と同じぐらいだ。つまり、俺が全力疾走を出来なくなれば、その距離は簡単に縮む。
 何が言いたいかというと、俺は天下一の引きこもりであって、長距離の陸上選手ではないので、ヘロヘロになって追いつかれそうなのだ。

 GABU!

 うおっ! 急に噛むなよ。危うくケツが美味しく頂かれる所だった。

GABU!

 やばいやばいやばい。っていうかさチートも無いのになんでこんな風にならなきゃいけないんだよ! 俺は悪いことをしたか? いーやしてない。確かに今までの人生で自分の為に他人に嘘をついたり、相手が気付かない位の量を勝手にパクって自分の物にしたりしたことはあるが、腹を空かせたドラゴン共にケツを毟られる程の罪ではない筈だ。俺は誰の役にも立たなかったかもしれないが、迷惑もかけなかった。嘘も仮パクもしたが困る量じゃない。
 俺は清廉潔白だ!!

「はあ、はあ」

 本気でスタミナが切れてきた。マラソン大会の後半と言えば分かりやすいだろう。そろそろやばい。

「あっ」

 と思ったら転んだ。俺は受け身も取れず、顔面を強打する。肺が苦しい。

「う、く……」

 俺は急いで、立ち上がる。急がないと。

 だが、既に時遅く……。

 GYAU?

 俺はドラゴンに囲まれた。

「はあ、はあ、はあ」

 まだだ。まだ生存の可能性はある筈だ。
 彼奴らは、こちらを興味津々といった様子で首を傾けている。こいつらは全体的に姿が始祖鳥っぽいが薄緑の鱗が表面を覆っている。その為フォルムは鳥だが、確かにドラゴンなのである。

「そ、そうだ。お父さん、ジュース持ってるんだった。今あげるからちょっと待っててね」

 なんとかジュースで釣れないだろうか。俺は詠唱をしてドリンクバーを出現させた。

 GAO!
 GAOGAO!!

 おっと急に物体を出したので、刺激してしまったようだ。
 落ち着いてね、どーどー。俺は子ドラゴンの鼻の先を撫でようとする。
 すると、子ドラゴンは大きく口を開けて……閉じた。

 KAPU!

 j玖珂はksぬくぃhbでぇsこあ!!!

「い、痛いなぁ、もう」

 俺は笑顔を作ってなんとか痛みに耐えながら、自分の手を確認した。右手だ。千切れてないかな?
 どうやら加減してくれたらしい。だが右手の姿こそあったが、綺麗に赤い歯型が作られている。どうやら鳥とは違って、小さな歯が嘴についていたようだ。出血が全然止まらないんだけど。
 子ドラゴン達は出てきた俺の血を競うように舐めている。下に垂れた奴だ。

 だが、彼奴らはすぐに舐めるのを辞めた。しかも、余り機嫌がよろしくないようだ。おそらく俺の血が思ったよりも不味かったのだろう。

 GUOU!!

 あ、これ「ふざけんな」ってるな。全く、仕方ない奴等だな。俺は

「おい、てめえ等! 人の血を勝手に飲んで不味いとはなんだよ。俺の血はな 
大人の味なんだよ。なんなら試してみるか、あん? お前等の母ちゃんなら味が分かるはずだぜ」

 GAGA?
 GUOU!
 KYAKYA!!

「よし、決まったな! IKUZO!」

 Oo!
 Oo!
 Oo!

 俺達は先程から大人しく寝ているドラゴンの元に向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...