異世界オタクは幾何学の魔女と伴に

痛痴

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1章 異世界オタクと物語の始まり

10話 グダグダ終ろう

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ー竜の巣ー

いや睨み合っているというより、黒ローブが一方的に松明様を目の敵にしている感じだな。空気がピリピリしてるぜ。
 喧嘩かぁ?
 俺は人の喧嘩が好きだ。何時も澄ました顔をしている奴が不細工に顔を顰めている姿を見るとワクワクする。自分が巻き込まれるのは嫌だけど、是非盛大に潰しあって欲しい。
 という訳で野次を飛ばしてみた。

「良いぞー。もっとやれー!!」

 そのまま俺は腰を下ろし、ドリンクバーを詠唱してオレンジジュースをグビる。
 未成年なんで麦は呑まないが、こんなのは気分だ。美味いぜ。

「け、ケント殿。そこにいらっしゃったのですか。想像も尽きませんでした」

 だが俺の期待とは裏腹にロリ勇者は潔くこっちに振り向いた。ったく、なんだよ。つまんねーな。

「おうよ。アイシャ、松明様を睨んだりして何があったんだ?」
「い、いえ。松明殿の余りの強さに驚愕しただけです。あのドラゴンを一発とは」

 あー、なるほどね。つまり、こいつはこう言いたいんだろうよ。

「松明様の力に嫉妬したんだな?」

 勇者の顔が曇る。

「別に、そういう訳では……」
「いーや、嫉妬だな。お前は勇者の癖に他人に嫉妬したんだ。証拠は……言わなくても分かるよな」

 自分自身が一番分かる筈だ。
 じゃなきゃ、そんな顔はしねぇ。

「僕は、弱いんです。勝つことは出来ますが、それでも弱いし遅い」
「だから、圧倒的な強さに嫉妬してしまう、と。……なるほどな」

 勇者はぐうの音も出ないのか奥歯を噛み締める音がこちらにまで響く。悔しいのだろう。情けないのだろう。俺は紙コップを煽った。

「良いと思うぜ。忘れるなよ」
「え?」

 俺はそういうの、好きだ。俺は勇者の株を上げた。こいつはただのガキンチョじゃないな。俺は理解した。こいつはちゃんと勇者なのだと。人々を暗泥から救う希望の光なのだと。
 勇者は俺の言葉がまだよく分かってないようだが、まあ別にいい。
 俺はポケットから例の宝珠を取り出した。

「松明様。これ元嫁ドラゴンの中で見つけたんだけど何か知ってる?」

 ボウボウ。

 松明様は機嫌よく炎を揺らした。喜んでいらっしゃる。

 ブンブン、ブン!!

「そちらに投げれば良いのですか? 分かりました」

 俺は上手とは言えないフォームで松明様目がけて高そうな宝珠を投げつけた。
 幾ら俺のパワーアップアイテムとは言え、俺の持ち物はご主人様である松明様の物だ。迷いは無かった。

「おりゃ」

 ひょろひょろと宝珠が放物線を描いて宙を舞う。ちょっと飛距離が足りない。だが、問題は無かった。宝珠が急に止まり、浮かび上がる。松明様の魔術だろう。
 松明様はグルンと一回転をした。するとどうだろう。宝珠が粒子状の紫光となって分解されていく。RPGで敵モブが倒された時のエフェクトがあるだろ、あれが一番近い。
 そしてその光の粒が松明様の身体(?)に吸収されていく。え? なんかあれ、松明様の強化アイテムっぽいんだけど。俺のは? ずるい。

「ケント殿、あれはなんですか?」

 一人きりの思考から復活した勇者が俺に尋ねた。面倒臭くなって俺の言葉を考えるのを放棄したらしい。放棄すんなよ。もっと悩めよ。
 で、あれが何かだって? いや、知らないわ。こっちが教えて欲しいね。

「さあね。ん、終わったみたいだな」

 光の吸収が終わる。さぞパワーアップにつき、フォルムチェンジした仮面ライダーばりの変化があると思ったが、松明様の様子は変わっていな……いや、なんか違うな。

「松明様、なんか装飾が豪華になりましたか?」

 光が集まっている時は明る過ぎて気付かなかったが、松明様の棒部分には金色の金属が飾られている。荘厳といった感じだが、何故か可愛く見えるのは俺のご主人様愛によるものだろうか? 取り敢えず、褒めとくか。

「素敵ですよ、松明様」

 ブンブン。

 お、松明様が久し振りにデレた。や、止めてよ~、って感じだ。ありがとう。ありがとう? まあいっか。

 すると松明様がご機嫌になったついでなのか、何かを勇者に飛ばした。反射なのか勇者はそれを躱そうとするが、まあ松明様に勝てる筈も無くそれは勇者の右腿に被弾する。

「ぐ、これは」

 すると勇者の動きが目に見えて悪くなった。
 次に松明様は、圧倒的存在の前に怯えて隠れていた子ドラゴン達に何かを撃つ。

 GUOOON!
 GUOOON!
 GUOOON!

 子ドラゴン達は遠吠えをした。それは親の仇を仇を討たんとする復讐者の雄叫びであった。
 松明様が告げる。わぁい、テレパシーだぁ。

【最後の試練だ】

 試練って、弟子入りのやつか。正直忘れかけてたぜ。っていうか松明様、女だったんだな。俺のヒロイン枠ってやっぱり松明様なのかな。

【竜の子は人に親を殺された】

 いや、殺してませんけど。殺ったの松明様ですよね。勇者もあの様子じゃ、ちょっと戦ったみたいだけど、誤差みたいなもんだ。まあでも、確かに子ドラゴンにしてみたら、親を殺した奴と一緒にいる毛がないモンキーも同類だわな。

【今、勇者の身体に軽い拘束を掛けた】
【彼らを倒せ。それが竜のしきたり】
【さもなくば、勇者の勇気は蛮勇となろう】

 あの、俺関係無くないですか? 確かに勇者は良い奴だと思うけど、この後どうなって知らないし、ぶっちゃけチートの使い方分かったから、弟子入りする必要もないし。

「あーあ。やる気出ねぇな」


【試練始め!】

 GAOGAO!!

 ドラゴンがこちらに走る。一匹は正面を他の二匹はサイドからだ。どいつもこいつも勇者を狙っている。まあ、こいつら俺の味が嫌いだもんね。

「【ドリンクバー】」

 取り敢えずドリンクバーを出しておこう。なんかこう役に立ってほしい。

 中央から来た子ドラゴンA(仮名)は勇者の右腕に噛み付いた。だが、あのローブは意外と丈夫な素材で出来ているらしく、攻撃を通さない。
 続いて、子ドラゴンB,Cも応戦。勇者の身体能力は一般人並に落ちており、動きも遅い筈なのに、意外と頑張る勇者。流石だな。
 俺は勇者が作ってくれた貴重な隙を利用し戦線を離脱、松明様の元へ行く。

「頑張れー、勇者ー!!」

 俺は勇者を観せ……応援する事に決めた。俺が勇者にエールを送り、その友情パワーを貰った勇者が子ドラゴンを倒す。完璧な作戦だ。だが、勇者は文句があるようだ。

「ちょ、待ってください。ケント殿? お願いですから手伝ってください。流石にこの状態で、ドラゴンは無理ですって!」
「いやー、いけるよ。俺は信じてる。ぐび、よっ、勇者、日本一!」
「飲み物飲みながら答えないで下さい!っていうか”にっぽん”ってなんですか?」

 なんかさっきまで勝手に俺まで巻き込んでシリアスやってたんだ。責任とって一人で頑張って欲しい。
 その間、俺は松明様とお喋りに興じよう。

「どう見ますか?」

 ブンブン!

「なるほど、甘えであると。おーい、勇者! なんかお前、甘えてるらしいぞー。そんなんじゃ社会で生きて行けないぜ!」

 勇者の頭が潰される。嘘だろ!?

「松明様!?」

 松明様は動かない。かなりスパルタだが、優しい御方だ。見殺しにはしないと信じていたのだが。ん?

「ケント殿、頭が潰されたんですけど? 一日で二回も潰された経験なんて僕ないですよ!」

 あれ? 勇者が生きてる。なんだ、あれ?
 もしかして、再生したのか。

「お前、人間じゃないとは思ってたけど、そういう方面で人間辞めてたのかよ。アンデッド系ヒロインは良いセレクトだけど、僕っ子といい、お前は設定詰め込み過ぎだ。ちょっとバランス考えろ!」
「あ、アンデッドじゃないですよ!あ、右手が」

 あ、また千切れたな。だが、直ぐに回復する。再生シーン、グロいな。なんか千切れた部位が蛆の群体みたいにピクピク蠢いて勇者の身体に張り付いている。うーん、回復というより、もののけ姫のあれだな。イノシシ君にくっついてた奴。
 勇者は普段と異なる身体に困惑しているようでなかなか上手く攻撃が当たらない。
 だが、死ぬ事は無いと分かっているので安心して見れる。
 愉快愉快。

「ぐび、他人の不幸を肴にオレンジは美味いなぁ」

 俺は、勇者がヘロヘロになって子ドラゴンを倒し切るまで、松明様と一緒に宴会をした。


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