異世界オタクは幾何学の魔女と伴に

痛痴

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2章 異世界オタクと人形達の街

15話 牙山団の鉄砲玉2

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 ー牙山団拠点ー

 街へは半日ほど時間がかかるらしい。なので今日はこのアジトに泊まることになった。

 牙山団は山賊や盗賊というよりも、傭兵と商人の中間のような組織なのだとか。
 常に世界中を移動して旅商人のように振る舞いながらも国に雇われれば戦争に出ていくので、『武装商隊』と呼ばれる存在らしい。
 あまりに賊っぽ過ぎて、てっきり此処らを縄張りとする盗賊団かと思ってたわ。

「旦那は異世界から来たんすよね! どんな所なんすか?」

 俺がキュリさんに貰った桶にドリンクバーから出した水を注いでいると、へベノが話しかけてきた。
 さて突然だが、俺は思うのだ。
 異世界転生者もタイムリープする奴も、馬鹿である、と。
 結局誰かに頼って解決エンドだったら最初から事情をバラしたほうが早いに決まっている。
 まあ信じて貰えない可能性も高いが、言わないよりもマシだろう。
 俺は馬鹿ではないので、松明様の『急に草原に現れた』という証言とともに自分が異世界転生者だということを説明しておいたのだ。

 ーーキュリさんに話しただけだが、へベノにも伝わったみたいだな。

「旦那、なんでそんなにドヤ顔なんすか」

「ふふふ、俺の故郷か……まあ、平和な所だったよ」

「へぇ、じゃああんましこっちと変わらないっすね」

 へベノは、つまらなそうに言った。ったく、平和で何が悪い。すまんな、戦国乱世じゃなくて。

 というか一つ気になることがある。

「おいおい、この世界は、平和なのか? 魔王がどうとかっていうのは……」

「ああ、30年前の停戦協定で今は戦ってないんすよ。最近じゃ経済面では魔国を圧倒してやすし、また開戦しても圧勝だと思いますよ。勇者もいやすしね」

「お前、色々知ってるな」

「へへ、そんなことないすよ」

 コイツのことを馬鹿だと思っていたのだが、評価を改めなければいけないな。

「そういえば、明日行く森林都市サンリンサンは、魔導具技術が発達した魔刻技師の街っすよ」

「魔刻技師?」

 魔導具っていうのは、よくあるコンテンツだ。要は魔法の力を込めた道具だろう。だが、魔刻技師というのは初耳だった。

「魔刻技師っていうのは、魔導具を作る魔術師のことでさ。連合国の魔導具は、殆どあの街で作られているらしいですぜ」

「へー」

「流石です、旦那。生まれてこの方、ここまであからさまに興味無いことを示す人を初めて見やしたよ」

 予想通りだったし、面白みも無かったからなぁ。
 それにしても、俺は感情をそこまで分かりやすく伝えられるようになったのか。学校とかじゃ何考えてるのかわかんないとか言われて煙たがられてたのにな。

「旦那、なんで誇らしげな顔になってるんですか?」

「うるせぇ。そういえばさ、キュリさんは今どこにいる? 明日、何時ぐらいに行くのか聞きたいんだけど」

 実はこのアジトには時計がある。別に振り子時計ではない。地球でいう電子時計のようなハイテク時計だ。
 キュリに至っては腕時計・・・も着けていた。
 まあ、要は時間が分かるのである。

「ああ、そういえばお頭に言っておけって言われたっすね。えーっと確か6時っす」

「結構早いのな」

「頭なりの配慮じゃないっすかね。あっちに着いたら、宿探しとか色々あるだろうし」

 確かにそうか。

「じゃあもう寝ておくかな」

「それが良いっすね。寝床まで案内するっす」

 寝床は案外きちんとしたベッドだった。しかも一部屋まるまる一晩借りていいらしい。

「良いのか? 他の団員の分とかは……」

「ちゃんと有るっすよ。案内できないですけど地下が広くてですね。一人一部屋あるんですぜ」

「だったら文句無しだわ」

 そのあと暫らくへベノと喋って、白いシーツが張られたマットレスに身を沈めた。


 ーーーーー


「松明様? こんな夜更けにどうされたんですか」

 俺が床に入ってから数十分、コンコンと扉が叩かれたので開いてみると、そこにいらっしゃったのは松明様だった。

 ブンブン。

「ふむ、まあ取り敢えず入って下さい」

 俺は丁重に松明様を部屋の中に入れると、扉の外を探りながら、静かに戸を閉めた。

 俺は、部屋のベッドに腰を下ろして松明様の方を見た。暗い部屋の中で松明様がいると、明るくなっていいな。

「それで、用とは何でしょうか?」

 松明様が話したのは、これからのことだ。
 まずアイシャについて。アイシャは森林都市サンリンサンにいることは確からしい。これは地脈からの信号だとかなんとかで分かったのだとか。
 だが街という場所は魔力が散乱しやすく詳しい場所が分からないらしい。すなわち街の中で地道な捜索をする必要があるのだ。
 それを可能とするためには、大きな資金力か上位層へのコネが必要だ。

「つまり成り上がれということですか?」

 ブンブン。

 そうじゃないらしい。畜生め。せっかくのチャンスだと思ったのだが。

 ブンブン!

 持てる手はできるだけ温存しろ。それが松明様はそう仰られた。よく分かんないが、取り敢えず頷いておいた。

 ーーーーー

 翌日の朝。
 俺はキュリさんと共に牙山団の車庫に来ていた。
 キュリさんは昨日のやつれた様子から少し回復していた。骨張った頬はそのままだが、心なしか目の下の隈も薄くなっている。

 車庫はログハウスの近くにある小屋で、車が出るための細い道がその入り口から街道方面へ続いている。

 中は薄暗く、しんとしていた。

 壁には、工具等が丁寧に片付けられていて、真ん中に灰色の布が掛けられた大きな物体がある
 俺がその物体について聞こうとするとキュリさんは布を引き、物体の正体を示した。

「うおぉ! かっけぇ」

「そう、ですかね」

 そこにあったのは、見た事も無い車だった。
 流線型のフレームにテラテラと妖しく反射する白銅のような装甲。森の悪路にも負けない大きな黒いタイヤ。その姿はまるでレーシングカーに装甲車の四輪を備え付けたようだ。

「このような歪な形で、ぐちゃぐちゃに要素が詰め込まれているにも拘わらず、何故かこんなにも圧倒的な調和を見せている。素晴らしい。これを見れただけでも、ここに来た甲斐があったというものだよ」

「ケントさん、口調が変わっていませんか?」

「む、そうですかね。無意識なのですが」

「ええ、口調というより、もはや人格が変わったかのようです」

 別に俺は車好きって訳でも無いんだがな。

「それで、今日はこの車で街に送って貰えるんですか?」

「いや、違います」

 なんで見せたんだよ。

「ただの自慢です」

「そ、そうですか……」

 キュリはその静かにフフと笑う。

「冗談ですよ。これで、今日は行きます」

「本当ですか!!」

 この人の性格がよく分からない。律儀に恩を返す人と思えば、こうやって茶目っ気を出す時もある。
 不思議な人だな。

「ですが、あまり使わない車なので、一応整備しておきましょうか」

 キュリは、近くの棚からスパナを取り出すと、車を弄り始めた。
 因みにスパナは普通に使うのではなく、魔術を行使する杖として使うらしい。

「あの、杖って言うのはどういう意味があるんですか?」

「え、ああ。そういえば、異世界から来られたんですもんね」

 キュリは一瞬驚いた顔をしてから、懇切丁寧説明してくれた。

「杖は魔術媒体として、使用します。杖無しの魔術は荒削りで細かい作業や複雑な極大魔術の行使には……向いていません。そこで、杖によって自分のバッテリーの放出を均(なら)す訳ですね」

 なるほど。単純にブーストかけるものでも無いのか。元の世界で言うとピンセットに近いのか?

 そんな風に雑談をしていると整備が終わったようだ。キュリがふぅと息を吐く。

「これで……大丈夫です」

「そういえば、その例の、アイシャさんとはどういうご関係で?」

 キュリは思い出したように、そう呟いた。

 アイシャとの関係性ね。
 ガードマン候補? いや金づる候補か?
 何にせよ、今は殆ど何も関係を持っていないんだよな。
 どう説明したものか。

「難しい質問です。簡単に言えば、ただの妹弟子なんですけど、今ひとつぱっと来ませんし」

「そのアイシャという方が松明殿に弟子入りしたのは、一昨日の話だと聞いてます。不思議です。何故、あなたはそこまで彼女の救出にこだわるのですか? 会って殆ど経っていないのに?」

 そりゃ、勇者様に媚び売って、将来の経済状況かつ身の安全を考えて。

 ーーと言いたい所だが、それは不味い。

 俺は昨日、松明様に忠告された。『』と。
 そして、松明様はアイシャが勇者であるとキュリ達にバラしていないようだ。

 アイシャの正体については話さないほうが良いだろう。

「……タイプだったんですよ」

「ほう、さぞ美しい御方なのでしょうね」

 それには賛成する。アイシャは、頭の中はお花畑だったが、外見はかなり良い方だった。旅をしている割には髪とかきれいだったし。

「まあ、確かにそうですね」

 俺は、着ている毛皮のカーディガンに触れた。
 少し暖かった。

「そういえば、何で俺を呼び出したんですか?」

「ただの話相手に、と言ったら……どうしますかね」

 ぶっ殺すぞ、この野郎。こちとら何時もの数時間は早く起きてやってるんだ。
 おっと、声が洩れそうになった。
 危ない危ない。

「どうもしませんよ」

「はは、そうですか。まあ、安心してください。ちゃんとした用事がありますから」

 そう言うと、キュリは急に畏まった顔になった。

「急なんですけどね」

「はい、何でしょう」

 なんか告白でもされそうな雰囲気だった。もしそうだったら、俺にホの気はないので丁重にお断りさせていこう。
 そんな阿呆な事を考えていると予想外の言葉がキュリの口から出た。

「へベノを連れていって貰えませんか?」

「は?」

 あ、不味い。
 不意打ちだったもんで、つい素が出てしまった。

「え、えーっと。それはどういうことでしょうか?」

「へベノをあなたに同行させて頂きたいのです。未だ地につく所も無いケントさんにこれを頼むのは心苦しい限りなのですが、失礼を知ってお願いします」

 キュリは俺に頭を下げた。昨日の威圧感は何処へやら。
 かなり不思議な気分だった。

「いやまあ、構いませんけど。何故?」

 俺としては意外とへベノの事を買っている。
 暢気で煩い変な奴だが、それでもこのピリピリとした牙山団に在籍しているというのは、余程優秀なのだろう。
 それに性格もわりかし嫌いじゃない。

「この団は今後……少し危ない事をする予定です。それに巻き込ませたくないのです」

「でも、へベノはキュリさんを尊敬しているじゃないですか」

「それが理由です。まだ彼はまだ若い。私達と危険を犯す必要はないのです」

 思えば、あの団にはへベノの同世代の団員は居なかった。

「因みに、危ない事っていうのは」

「……」

 キュリは黙ってこちらをじっと見た。
 言えないくらいヤバイことらしい。

「回避も無理なんですよね」

「ええ、無理です」

 ふむ。

「へベノには了承を得ているんですか?」

「今は荷造りしている頃じゃないですかね」

 なら、もう悩むことは無い。

「なら、その話を受けてやりますよ」

 こうしてヘベノは俺の仲間になった。
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