異世界オタクは幾何学の魔女と伴に

痛痴

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2章 異世界オタクと人形達の街

19話 お昼休み

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―竜の森 サンリンサン近郊―
 
 
 ヘベノ達が帰ってきた。
 
「ただいまー!!」
 
 ケモミミがリービの方に駆け出して飛びついた。どうやらあのボーイッシュ、ほかのメンバーからお兄さん的ポジションにあるらしい。
 実際はお姉さんだけどさ。
 
「お帰り、イェン。薪拾いどうだった?」
 
 イェンリアは赤髪をぱぁっと舞わせながら、キラキラした目で言った。
 
「えっとね、すごかったんだよ! おっきな魔物が出てね、怖かったんだけど、こう、バンッて感じで」
 
「え、魔物が出たの?」
 
 リービは眉を上げた。
 魔物ね、そういえばこの世界に来てから魔物ってやつにあったことがないな。
いや、ドラゴンがいたか。あの子供ドラゴンたち、アイシャが倒したには倒したけど殺してはいないらしいからな。
 元気でやってるかなぁ。好き嫌いが治っているといいんだが。
 
「よお、ヘベノ。どうだった?」
 
 俺はヘベノに尋ねた。
 ヘベノはなにやら大きな袋を持っていた。防水性のつややかな袋はかなり重そうだ。
 
「いやあ、魔物が出ましてね。あっしが気付いて、蹴り殺せたので良かったんすけど、こっちの方が危なかったっすね」
 
 蹴り殺す? 俺はヘベノの不穏な言葉に気を取られつつも、袋の中身を聞いた。
 
「ああ、これっすか。せっかくなので魔物の肉をとってきました。あいつら強いくせして筋肉とかあんまり筋張ってないんで旨いんすよ」
 
 ふーん。ドラゴン肉はまずかったが、それは美味しいのか。
 
「じゃあ、楽しみだな。ああ、野菜は全部切っておいたぞ」
 
「感謝っす。じゃあ、薪をくべながら熊鍋にしましょうか」
 
 あ、熊なんだ。
 
 
 
 
「じゃあ、まずは肉から臭みを取りやしょう」
 
 そういってヘベノは周りの木の皮をナイフで切った。
 ヒロペノだったか。俺が痛い目にあったやつだ。
 
「ヒロペノを茹でた水は臭み取りに使えるんすよ。毒性も最初にあぶってやればなくなります」
 
 ヘベノがヒロペノの皮を炙ると、その色が見る見るうちに赤茶色からこげ茶色に変わっていった。
 毒は空気に触れた部分にあるらしく、その部分を炙ってやれば毒性は消えるのだとか。
 
 俺は鍋に水を張って、たき火の上のスタンドにどしんと置いた。
 
「じゃあ、そこに魔物の肉とヒロペノの皮、そしてこの魔道具を入れてやります」
 
 ヘベノが掲げた魔道具は小石に何かの刻印がされているといういでたちのものだった。
 とても魔道具って感じではない。
 
「なんだそれ?」
 
「料理用の反応促進魔道具です。これを使えば大体の工程が短縮できやす」
 
 つまり茹で時間や発酵時間を短縮できるってことか。『タイムふろ●き』みたいなもんだろうか。
 結構便利だな。
 
「じゃあ、入れやすね」
 
 ヘベノが食べやすいように切り分けた熊肉を鍋の中に落としていく。そしてヒロペノの皮を入れて、最後に魔道具をいれた。
 ヘベノは何かを小さく唱えた。おそらく魔道具の起句だろう。
 
 その瞬間鍋が緑色の光で包まれた。凄まじい勢いで肉の色が変わっていく。ついでに灰汁汁も大量に。
 そして十秒もたたないうちに臭み取りの工程が終了した。
 
「じゃ、灰汁を取ってやって、ほかの野菜も入れてください。そのあと調味料も入れてやれば完成っす」
 
 すさまじく簡単だ。普通熊鍋といえば、いや食べたことないけど、結構手間がかかるはずだ。臭みを取るのだって2時間くらいは酒に漬ける必要があるだろうし、そのあとに果物とかを使って肉を柔らかくする必要もある。
 この魔物の肉の臭みがそんなにないのかもしれないが、それでも楽だ。
 
「魔術って偉大だな」
 
「ええ、全くっす。あ、ガル芋からいれてください。火が通るの遅いんで」
 
 言葉に従って俺は野菜をぽちょんぽちょんと入れていった。
 最後に塩コショウと、赤いよくわからないドロドロが入った缶を入れて完成となった。
 おそらくあのドロドロはトマト缶だろう。
 
 俺は人数分のスープを木の皿によそっていく。
 さて、いざ実食だ。
 
「いただきます」
 
 ちなみに俺は食膳のあいさつをちゃんとするタイプだ。
 さて、ほかのメンバーはどうかな? と思ったらそういえばヒメル以外は修道院育ちだった。よくわからない神に祈りをささげている。祈りのポーズは手を複雑な形で組んでいるのだが、どうやっているのかよくわからない。
 
 まあいいか。
 
 俺はスプーンで熱々の赤いスープをすくった。香りはいい。肉の油とトマト(っぽいやつ)の酸味の効いた香りがとてもマッチしている。
 
 それを口の中に運ぶ。
 
「うまい……」
 
 熊肉のうま味とトマトのコクが合わさり、そこに塩と胡椒が加わることによって引き締まった味になっている。端的に言おう、旨い。いや、とても旨い。
 
 俺はこれでも料理にはうるさい。その俺がここまで旨いと感じるのは、素材のおいしさもそうだが、それを生かし切る素朴な調理法だろう。
 
 肉を食べてみる。
これまた旨い。
 ヘベノは旨いと言っていたが、半信半疑だった。熊肉は堅いと聞いたことがあったのでどうなのかと考えていたのだが、これは何だろうか。
 何時間も煮込んだようなホロホロと崩れる肉には、スープに味が出ているというのに噛めば噛むほどうま味が出てくる。
 ガル芋やほかの野菜もおいしい。特にガル芋はそんなに煮込んでいないのに味がよくしみ込んでいて、ホクホクととても味わい深かった。
 
 そういえばこの世界にきて、初めての温かい料理かもしれない。昨日の夜は牙山団の残り物をいただいたが、おいしくはあるが冷めていてどこか物足りなかった。
 
 やはり熱々の料理はいい。俺はスープを早々に飲み干して、残ったパンをかじりながらそう感じた。
 
「かーっ、うまいな。おい、お前ら。ジュース飲むか?」
 
 俺は上機嫌になって、みんなに提案した。
 
「あ、いただきやす」
 
「私もいただこうかしら」
 
「私もー!!」
 
 俺は要望に応えてドリンクバーを唱えた。詠唱をしているとき、何やってんだ的な雰囲気になったが、ドリンクバーが出た瞬間にそれは驚愕に変わった。
 俺は備え付きの紙コップでオレンジジュースを注いでいく。
 
「ほらよ」
 
「あ、ありがとう」
 
それを全員に配り、最後にヒメルにも渡してやった。
全員ゴクリと紙コップの中身を見ていた。誰一人飲もうとするやつはいない。
 
「ん? どうした。オレンジ嫌いだったか?」
 
 俺は自分の分を一気に飲み干すと、ぷはぁっと声を漏らす。
 やっぱりうまいな。
 
 ヘベノが口を開く。
 
「いや、このオレンジジュースという飲み物を初めて見たもんで、びっくりしているだけっすよ。あとその魔術はなんすか?」
 
 ああ、まあ当たり前か。カルチャーショックってやつね。
 ……ちょっと違うか。
 
 初めて飲むんだったら、少し怖くなるのは当たり前だよな。
 
「まあ飲んでみろよ。旨いぞ。で、この魔術は……なんだろうな」

 結局のところ自分でもよくわからない。オタク共はチートだとか異能だとかって言ってたが、起動方法は魔術だし。先天魔術(ネイティブマジック)って呼ぶらしいが、それが本当なのかもわからない。

 ヘベノたちは俺の返答を不思議そうに受け止めながらも、各々オレンジジュースを飲み始めた。ゴクリゴクリとのどが動く。

「どうだ? 口に合ったか?」

 ケモミミは目一杯に腕を上げて言った。

「おいしい!!」

 どうやらうまかったようだ。

「ふむ、不思議な味っすね。酸味と、独特の爽やかな風味があるっす」

「美味しいわね」

 どうやらオレンジジュースはトキシトート人類に受けいられたようだ。まあ、あのスープを飲んだ時点でこの世界の食文化がそんなにかけ離れたものではないと分かっていたが。

「さて、ヘベノ。そろそろ出発しないか?」

 ヘベノは元気よく答える。

「そうっすね。じゃあ、みんな片づけを手伝ってください」

 俺たちはヘベノに素直に従い後片付けをした。
 そして、順風満帆にサンリンサンへの道を進んでいくのだった。
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