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そうしてぼくは死ぬのをやめた
しおりを挟むぼくは将来自殺する。死ぬっていったら理由はいろいろあると思う。いじめだとか、家庭環境だとか、ぼくの場合は特にそういった理由はなかった。高校を卒業してすぐに勤めて、もう3年になる会社はきついけど、働くということはそういうことだと納得している。両親が死別して妹とふたり暮らしだが、特に困っているということもない。
ぼくの人生に、別段人より苦しいだとか、そういったことは何一つなかった。だけど、気づいてしまったのだ。ぼくの人生はたいした山も谷もなくこれからずっと続いていくのだろうと。ぼくは生きてきた中で幸福感だとか、達成感だとかを感じたことがあまりない。それは別に自分が不幸って言いたいわけじゃない。
たぶん、幸福を感じるハードルが高いのだと思う。心が鈍感だとでも言うのだろうか。だからこれからもいままでのような平坦な人生を歩むのなら、ぼくが幸福を感じることはそうないだろう。
そう考えると、なんだか生きることに疲れてしまった。しかしまだ高校生の妹を残して一人死ぬわけにもいかないと思ったぼくは、将来妹が自立するまで自殺は我慢することに決めたのだった。
それからというもの、ぼくは夜、散歩がてら自殺スポットを下見するのが日課となっていた。
ある日、いつも通り自殺に良さそうな橋の上を下見しにきたところ、裸足になって橋の手すりの上に登ろうとする女の子を見つけてしまった。
彼女の足元に転がっているローファーから見るに学生だろうか。私服なので中学生か高校生かはわからないが、そんな若い子が自殺とは世も末だなとぼくは自分のことを棚に上げて世界を嘆いた。
「あの。ここはぼくが自殺に使おうと思ってるんだけど」
自殺に縄張りもなにもないだろうになぜそんなバカなセリフを口走ったかは自分でもわからない。
「自殺はやめた方がいい」「生きてればいいことあるさ」とでも声をかけるのが正しいのだろうが、自殺を考えているぼくがそれを言うと、ものすごい勢いのブーメランが返ってきそうだった。
少女が気だるそうにゆっくりとこちらを振り向く。そしてぼくを見て一瞬嫌そうに顔をしかめた気がした。彼女はぼくの問いかけに答えることなく、手すりにかけていた足を下ろすと、転がっていたローファーを履き始めた。
「あの、ぼくの話聴いてる?」
「……知らない男と同じ場所で死ぬのも嫌だから、帰るんです。あなたみたいな人と心中した、みたいに勘違いされても嫌なので」
少女は心底嫌そうな顔をして、「じゃあどうそ」と手すりを示して、本当にその場を去った。
ぼくあっけにとられて、立ち去る少女の後ろ姿を見送る。そして、彼女が少なくとも今日のところは自殺をやめたらしいということを脳が理解した途端、いままで感じたことのない幸福感がぼくを襲って、体がぶるりと震えた。胸に手を当てるといつのまにか心臓がバクバクとうるさいくらいに高鳴っている。
理由はどうあれ、ぼくのせいで彼女は自殺を諦めた。つまり、ぼくが彼女の命を救ったということだ。どうやらその事実がぼくにこの薬物のような幸福感を与えたらしい。人を救うというのは、こんなに気持ちの良い行為だったのか。
そしてぼくは思ってしまったのだ。彼女に自殺を諦めさせることができれば、どれほどの幸福感を味わえるのだろうかと。
その日から、ぼくは自分の自殺について考えることをやめた。その代わりに、彼女の自殺を諦めさせることで頭がいっぱいになった。
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