ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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そうしてぼくらは鬼ごっこを続ける

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「さすがにここは、バレないと思った」

 ザザァー、と波が寄せては引く音だけが辺りに響く中、彼女は足元の流木をぐらぐらと揺らした。

 初めて彼女と出会ってから、かれこれ一ヶ月ほど経ったある日の夜。僕らは海に来ていた。

「誰にも気づかれず、消えるように死にたいなら、海かなって」
「残念ながら当たりだね」
「当たりなら残念じゃないと思うけど」
「残念なのはおまえじゃなくて、おまえなんかに思考を読まれたわたしの方だから」
「なるほど」

 しかし結局「おまえなんか」扱いされるぼくの方も残念な気がする。

「水死体って、皮膚とかぶよぶよになって、ものすごく醜くなるんだって。そのまま海の藻屑になれればいいけど、浜辺に打ち上げられるかもしれないでしょ?だからあんまり気が進まなかっったんだけどね」

「あまりにしつこいストーカ―がいるから仕方ない」と、彼女はぼくを、殺意のこもった瞳で睨みつけた。

「首吊り自殺も色々と下から撒き散らして死ぬらしいからおすすめしないよ」
「知ってる。だから避けてる」
「練炭自殺なら綺麗なまま死ねそうだけど」
「密室となると場所が限られるし、死ぬ前に見つかるリスクが大きいでしょ。自殺未遂なんてしたら、死ねないようにベットにくくりつけられでもするのかな」
「少なくともカウンセリングは受けさせられるんじゃないかな」
「それは、最悪だね」
「うん。ぼくもそう思うよ」

 何度か会う内に、彼女は最初よりもぼくと会話をしてくれるようになった。でも話すことといえば「ぼくのかんがえるさいきょうのしにかた」とか、どうやったら気に入らないクラスメイトをバレずに消去できるかとか、そういうネガティブなことばかりだった。

「わたし、誰かと海に来るのって初めてなんだ」
「へえ」

 海に視線を向けた彼女につられて、ぼくもそちらを向く。月が雲で隠れているのもあって、水平線は見えなかった。

「幸いにも日焼けとか潮風を嫌がるやつが周りに多かったからさ」

 そいつらと海になど行きたくもない。そんな意思が声ににじみ出ていた。

「それはよかったね」

 だからぼくはそう相槌をうった。

 しかしもし彼女がそいつらから海に誘われたら、彼女は断らないと思う。断らないというか、断れないのだろう。そうしてまた他人に気を使ってストレスを溜めていくんだと思う。

 彼女は誰にも嫌われないようにと器用に立ち回るのに、心の方はなんとも不器用だった。

「初めて他者と共有する海の思い出がおまえとって、だいぶ気分悪いなあ」

 彼女はここ一ヶ月ほどでよく話すようになったが、ご覧の通り悪態に関しては特に饒舌になった。

「夜だし、水着を見たわけでも泳ぐわけでもないんだから、許してくれないか?」
「夜の海って特別感が増す気がするから、なお悪いと思うけどね」

 話の途中でぼくのスマホがピピピピと鳴る。

 これは9時を告げるアラームだ。いくら彼女が毎日同じ時間に散歩してカモフラージュしているとはいえ、帰りが遅くなると流石に両親も不審がるかもしれない。そう思って、9時になったら自殺は諦めて家に帰る。そういうルールを作った。

「もうそんな時間か。……じゃあ、わたし帰るから」

 アラームを聴いた彼女がそう告げる。今の所、彼女もこのルールに従ってくれている。

 この間、彼女が帰る際ぼくが「また明日」と言ったら彼女はものすごい顔でぼくを睨んできた。なので今日は特になにも言わない。

 彼女は砂をぎゅっぎゅっと踏みしめながら去っていった。

 ぼくが間に合いさえすれば、彼女はいつも抵抗することなく素直に帰る。なんだかこの関係は鬼ごっこのようだなと最近よく思う。

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