ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしはまた見抜かれる

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girlside

 放課後、わたしは図書室のカウンターで本を読んでいた。図書委員に属しているわたしは、その活動の一環として昼休みや放課後にこうして受付をすることがある。

 図書委員の活動はいい。なんせ図書室に限り、うるさい猿どもに堂々と「黙れ」と言う権限が与えられるからだ。委員会がある日は放課後はクラスメイトと帰り時間もずれるので、一人で帰れる可能性も高まるというのも魅力的な点である。今日も無事一人で帰れそうだ。

 委員会の活動が終わり教室に荷物を取りに戻ると、そこにはぽつんと独り教室に残り、スマホを弄る女子生徒がいた。

 彼女の名前は相浦橙子。わたしと彼女は、3年間同じクラスだった。学期初めは名前順に席が決まる我が校において、名字がわたしと同じで「あ」から始まる彼女は、わたしのすぐ前の席に位置することが多かった。にもかかわらず、わたしは彼女とほとんど会話を交わしたことがない。

 別け隔てなく優しさを振りまくことを意識しているわたしですら話さないので、他の人との交流は更に少ないようだ。休み時間も、彼女は一人でいることが多かった。

 けど、孤立とか、ぼっちだとかいう表現は彼女に似つかわしくない。わたしから見た彼女の印象は孤高だった。

「相浦さんは、いつも一人でいるけど、クラスの目線とか気にならないの?」

 するっと口から嫌味じみた疑問がこぼれてしまった。

 慌ててすぐに謝ろうとしたけど、それよりも早く「どうでもいいやつにどう思われようとどうでも良くないか?」と、彼女は即答した。その反射というべき回答速度から、その言葉はきっと本心だろうなということが伝わってくる。

 クラスメイトである自分がどうでもいい奴と言われたわけだけど、わたしは不快になることはなく、むしろ相浦のことを、「ああ、いいな」と羨ましく思ってしまった。

 やはり彼女は孤高なのだと、誇り高き独りを選んでいるのだとそう再認識したから。有象無象を恐れて、心をすり減らして群れに属するわたしとはまるで違う。彼女のその価値観が、わたしには狂おしいほどに羨ましかった。

「そっか。強いんだね。相浦さんは」

 わたしが笑顔でそう言うと、彼女は「……わたし、おまえのそういうとこ嫌いだわ」と、ささくれた声でそう吐き捨てた。

 その言葉に、わたしはきゅっと心臓が握られたように胸が苦しくなる。

「そういうところって、どういうところ?」

 ふと思う。わたしは今怯えた顔をしてしまっているのだろうか。幸い、相浦の目線はスマホに釘付けで、顔は見られていないようだった。

「その表面の皮だけで喋ってて、本心とか全部隠してそうな感じ。そういうところが嫌いなんだよ」

 なぜだか彼女のその言葉にわたしの心は傷まなかった。それどころか彼女の嫌いという言葉に、わたしはどこか優越感さえ感じていた。

 自分が密かに憧れていた、クラスメイトになど欠片も興味の無さそうな彼女に自分が認識されてた。それも、的確にわたしの本質を理解してくれている。心を痛めるよりも先に、まずそのことにわたしは舞い上がったのだ。

「何笑ってんだよ。きもいな」

 今のはさすがにチクっとした。でもそれは他とは違う、どこか心地の良い痛みだった。なぜか彼女は他とは違う、特別な気がした。


※                  ※                  ※


 家に帰った後、朝から鞄にセットしておいたカメラの映像を確認する。うまい具合に、クラスメイトと話している時の私の顔が撮れていた。

 そこには、わたしのイメージ通りの振る舞いをする自分がいる。自分でいうのもなんだが、完璧だ。顔が歪んでるとか、そういうことは一瞬たりともなかった。

 ふぅーっと、思わず安堵の息が漏れた。

 安心すると同時に、それでもあの男と相浦には腹の底を見抜かれたのだなという事実が際立つ。相浦は、まだわかる。話したことはほとんどなくとも、曲がりなりにも3年間同じクラスだったのだから。わたしが彼女をよく見ていたように、彼女がわたしを見ていた可能性はある。……その見立てに、見ててほしいなあというわたし自身の願望が多量に入っているのは否定しないけど。

でも、出会っていくばくも経っていないあの男に腹の底を見抜かれたことだけはどうにも納得いかなかった。

 あんなやつに、出会ってすぐのそれほど会話もしていないあんなやつに自分の中が覗かれたと思うと悔しくてしょうがない。あんなやつにボロを出してしまうほど感情を大きく揺さぶられたと思うと腹立たしくて仕方がなかった。

 わたしは腹いせに上へと放り投げた枕をグーで思い切り殴りつける。パスっと、空気の抜ける音が部屋に鈍く響いた。
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