ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしは感情を抑えつける

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 わたしは昨日のことを猛烈に後悔していた。なぜ、あんなに自分について話してしまったんだろうと。

 理由はなんとなく検討がついた。

 わたしは自分でも自覚が無かったが、どうやらクラスメイトの悪口と、自殺について考えることが趣味だったらしい。その話題が通じたことで、予想以上に口が緩んでしまったのだ。

 自殺の話題で盛り上がれることなどまずない。あの時わたしは、あいつが自分と同じような、普通の人からするとたいしたことない理由で死のうとしていると知って、この期に及んで自分のことを理解してもらえるかもなんて思ってしまったのだ。もう死ぬと決めたのに、今更なにを期待しているのか。

 ……わたしは自分の顔を触る。わたしはあいつに敬語を使っているとき、嫌そうな雰囲気がにじみ出ていたらしい。

 もしかしたらクラスで話している時も、同じように思っていることが顔に出ていたのかもしれないと思って、わたしはぞっとした。

「蒼井さん。ノート見せてくれない?」

 クラスの男子が気安く話しかけてきた。ノートはただの口実で、ただわたしに近づきたいだけという下卑な思惑が透けて見える。

「じゃあ100円」
「えー有料!?」
「そりゃあ成績学年一位のノートですからね。お高いですよ。昼休み中に写し終えてよ」

 男子はすんなりと100円を差し出した。

「っぱ蒼井さんは優しいなあ」

 ――君はきっと優しすぎるんだな

 クラスメイトに優しいという言葉を使われて、昨日あの男に言われた言葉が脳裏を過ぎった。

 なんとなくわかる。あの男はお世辞でもなんでもなく本気で言っていたと。だけど、それはただの勘違いだ。わたし自身が一番、自分の中身が汚くて、優しくなんかないってことをよくわかってる。

 だからあの男に優しいと言われた時、男から見るわたしと、わたしの知っているわたしの差にたまらなく劣等感を感じて、胸が張り裂けそうになった。あの時わたしは優しいという呪いのような言葉に耐えられなくなって逃げたのだ。


 しかし今、目の前のクラスメイトが発した同じ「優しい」という言葉に、わたしはただただ不快感を覚えるだけだった。胸の痛みは感じない。同じ言葉なのに、なにが違うのだろうか。

 ご機嫌取りが透けて見えるから?こいつが心の底でわたしに思っているのは「優しい」じゃなく、「都合がいい」だろうから?いくら頭をひねっても答えは出てこなかった。

「そしたら江口がさあ」

 いつも通りの、つまらないクラスメイトとの会話が続いていく。けど、今日はいつもと違うところが一つあった。腹でグツグツと煮えたぎるような苛立ちが収まらないのだ。

「ちょっと、トイレ行ってくるね」

 特に尿意があったわけじゃなかったけど、気持ちをリセットするためわたしは席を立った。

「じゃあわたしも!」

 そう言ってわたしの了承を確かめることもなく勝手についてきた可奈子に、わたしはなんとか舌打ちをこらえる。

 学校という場所は、トイレですら一人になれない。

 便器に腰掛け、わたしはあごに手を当てた。以前だったら、いくらつまらない会話だといっても、こんなにイライラしない。心の中でなにを思っていても、涼しく振る舞えるのに。今はついなにかの拍子に本音が漏れてしまいそうなほど情緒が不安定になっていた。

 あの男の、去り際に言われた「いっそ本音をぶちまけてみればいい」という言葉が、今も耳に残っている。本音が漏れそうになるのは、そのせいかもしれない。

 ためしに今この瞬間、可奈子に心内をぶちまけたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。想像すると、ドクンと心臓が大きく跳ねて……わたしはトイレの扉にダンッとつま先をぶつけた。

「え、どした!?」
「ごめん。扉に足ぶつけちゃった!」

 可奈子の驚いた声が響いて、わたしは慌てて苦しい言い訳をした。

「もーびっくりしたじゃん」
「だからごめんってー」

 バクンバクンとううるさい胸を、痛いくらいに押さえつけた。

 わたしは一体、なんてことを考えてるんだ。そんなことをしたらどうなるか、想像しただけでもぞっとする。だけど同時に、そのことを想像して高揚する自分がいるのも確かだった。

 ……全部、あいつのせいだ。呪うように、わたしは心のなかでそうつぶやいた。

 あの男は、自殺だけでは飽き足らず、学校生活までも邪魔してくるのか。わたしはぎりぎりと歯噛みした。

 
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