ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしは知られたことを知ってしまった

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girlside
 

 週明け、あれだけのことがあったにもかかわらず、学校でクラスメイト達がわたしにちょっかいをかけてくることはなかった。いや、むしろあれだけのことをしたからかもしれない。

 きっとみんなにとって、わたしは今どんな弾みで爆発するかわからない爆弾みたいなものなのだ。割れ物壊れ物に触れるのは別に壊れてもいいやと思っていれば容易いが、自分が傷つくかもしれないとなった途端、誰も近寄りたがらない。

 わたしはクラスで孤立したわけだけど、自分でも驚くくらい心は穏やかだった。以前のわたしなら、こんな状況は耐えきれなかっただろう。

 恋をすると盲目になるらしいが、目に入るすべてを過剰に気にしていたわたしにとっては、好きなもの以外見えなくなるくらいがちょうど良かったんだと思う。

 そういえば、あの男、深海とかいう名前らしい。橙子みたいになにか理由をつけて、下の名前で呼ぶことにしてみようかなと考えて、恥ずかしくなったのでやっぱりやめた。あいつの呼び方なんて、今まで通り「おまえ」で充分だ。



「ちょっと、話があるんだけど……」

 学校の帰り道、橙子はまるで、これから叱られることがわかっている子供みたいにもじもじとそう切り出した。

 帰り道は逆方向だが、今日は放課後に彼女の家で勉強を教える事になっている。勉強の場に選択肢は色々あったが、自分の家も学校も嫌で、図書館は好きでも嫌いでもない。そこに彼の兄に遭遇するかもしれないというわたしの下心を加えて、彼女の家で勉強を教えることになった。

「どうしたの、そんな気まずそうにして」
「その、つい口が滑っちゃって、彼方がもう自殺やめたこと兄ちゃんにバレちゃった」

 彼女の言葉に足が止まった。一瞬頭がまっしろになる。

「そっ、か。いやー、わたしも嘘ついてる罪悪感すごくてさあ。でも言い出すに言い出せなかったし、橙子が言ってくれて助かったよ」

 どうせいずれ終わってしまう関係だったのだ。ただそれが早まったというそれだけの話しだ。

「だから、だか、ら……」

 なのに、どうして視界がにじむんだ。声が震えるんだ。どうして、こんなに胸が痛いんだ。

「彼方……」

 にじんだ景色の中で、わたしを呼ぶ声が聞こえる。

「わたしから見ての話だけど……彼方が自殺をやめたって知った兄ちゃん、全然嬉しそうじゃなかったんだよ」

 肩に、橙子の柔らかい手が置かれるのを感じた。

「自殺を止めるために始まった関係でもさ、その後も続いちゃいけないわけじゃないだろ」
「そう、なのかな」
「それはお前が決めることだろ。結局、おまえがどうしたいかでしかないんだし。それがどんな結果になるとしてもさ」

 わたしがどうしたいのか。そう問いかけられたわたしの心は驚くほどわかりやすかった。この関係を続けたい。あいつともっと一緒にいたい。ただそれだけだった。

 それなのにわたしは以前クラスメイトに対してそうであったように、あの男のためにはどうすべきかとか、そんなことを考えて勝手に一人で悩んで、勝手に自分の心に蓋をしていた。でも、そんなことをする必要なんてなかったんだ。

 あの男の気持ちなんか知ったことじゃない。もし自殺をやめたわたしに興味を無くしてしまったというのなら、無理矢理にでもこっちを向かせてやればいい。たとえどんな手を使っても。

 最初から迷惑だろうとなんだろうと、自分のためだけ考えていればよかったんだ。

 だって、わたしは嫌なやつなんだから。

「それは、あいつとわたしの関係は、妹公認ってことでいいの?」
「良くねーよ!」

 わたしがそう茶化すと橙子は吠えた。わたしは笑った。
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