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いつだって大事なときに限って、頭も体も動かなくなる
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小川さんは覚えが良いわけではなかったけど、練習を重ねるたびに演技や、話し方が良くなっていくのがわかった。きっと、僕を練習台にする以外でもたくさん練習を積んでいるのだろう。
聴くところによると、練習に参加してなかった間も、セリフを覚える練習だけはずっと一人でしてきていたようだ。今は毎日のように七瀬の家に足を運んでは色々と指導を受けているみたいで、時には泊まっているらしい。七瀬がうざいうざいと不満を言っていた。まぁツンデレなので本音はお察しである。ふたりとも随分と仲良くなったようで。
小川さんは一年と経たずに痩せらたところからもコツコツと努力できる素質は元からあったのだろう。本人は、「大したことじゃないですよ。食事を減らして運動すれば誰でも痩せられますから」と言っていたけど、そんなに簡単に痩せられるならこの世にデブは存在しないのである。
そしてついに、小川さんにとって運命の日がやってきた。そう、補習日である。
教室で、ぼくは段ボールにペタペタと塗料を塗りながら、時計を見た。
そろそろ、補習が終わった頃だろうか。小川さんは、午前中で補習は終わるから昼頃にこちらにくると言っていたが……。
そんな風に考えていると、ちょうどガラッと教室のドアを開ける音がして、小川さんがやってきた。それを見て、いままで騒がしかったはずの教室がピタッと静かになる。
そんな中、茶髪の女子が通せんぼするようにして、教室に入ってきた小川さんの前に立った。
「小川さんさ、今さらなんなの?見物?」
それは、金髪イケメンと一緒に文化祭実行委員をしている林さんだった。
彼女の小川さんへ向ける視線は、険悪そのものだった。
「春風さんも、みんなもすごい困ってたんだよ?読モだかなんだか知らないけどいい加減にしてよ!」
林さんが叫ぶ。
練習をサボり続ける小川さんへの不満がエスカレートしていたのはぼくもわかっていたけど、まさかこんな行為に出る人がいるほどとは思っていなかった。
「ちが、そうじゃ……」
「小川さんがきたら文句言ってやろうってみんな言ってたんだよ!?」
小川さんが慌てて否定しようとするも、その声はか細く震えていて、続く林さんの声にかき消されてしまった。
小川さんはもうぼくや七瀬となら緊張することなく話せるようになったし、クラスの人ともスムーズに話せる様に特訓をした。けど、いきなりあんな剣幕で責め立てられたら、彼女じゃなくたってパニックになってしまうのも仕方のない話だと思う。
……もしかしたら林さんの言う通り、クラスの過半数は小川さんに対して負の感情を持っていたのかもしれない。でもそれは『みんな』ではないのだ。少なくとも、ぼくや、大助や、春風さんに七瀬が『みんな』には入っていないのは確かだ。ぼくたちは、責め立てるために小川さんと話をしようとしていたわけじゃないのだから。
なんだか視界のすべてがスローモーションに映るのに、自分の体も喉も、ぴくりとも動かせない。
「連絡も取れないから役を変えるのもできないし。練習出来なかった時間は返ってこないんだよ?ちゃんとみんなに謝ってよっ」
林さんが、そう怒鳴った。
「……ごめ、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい」
小川さんはその場にうずくまって、壊れたロボットのようにそう繰り返した。
それを見て、責め立てていたはずの林さんも動揺したように瞳を揺らして後ずさった。
きっと普段の小川さんのイメージから、林さんは「言い返されるだろう」「もしかしたら手を出されるかもしれない」なんて思っていたのだろう。それでも一言言ってやろうと覚悟してきたのに、まさかこんな風に泣かれるだなんて思いもしなかったのかもしれない。
小川さんの普通じゃない様子を見て、クラス中にどよめきが広がっていった。
そんな中、七瀬がうずくまる小川さんの元まで歩いてきた。そして肩を貸して小川さんを立ち上がらせると、「保健室に連れていくから」とボソリと告げて教室を出て行く。
誰もが唖然としてその様子を眺めていた。
遅れて、ぼくもあとを追って保健室へと向かう。
しかしいざ泣き崩れる小川さんと、何も言わずに背中をさする七瀬を前にすると、どちらに対してもかける言葉がなに一つ浮かばなくて。ぼくはただその場に立ち尽くしていた。
聴くところによると、練習に参加してなかった間も、セリフを覚える練習だけはずっと一人でしてきていたようだ。今は毎日のように七瀬の家に足を運んでは色々と指導を受けているみたいで、時には泊まっているらしい。七瀬がうざいうざいと不満を言っていた。まぁツンデレなので本音はお察しである。ふたりとも随分と仲良くなったようで。
小川さんは一年と経たずに痩せらたところからもコツコツと努力できる素質は元からあったのだろう。本人は、「大したことじゃないですよ。食事を減らして運動すれば誰でも痩せられますから」と言っていたけど、そんなに簡単に痩せられるならこの世にデブは存在しないのである。
そしてついに、小川さんにとって運命の日がやってきた。そう、補習日である。
教室で、ぼくは段ボールにペタペタと塗料を塗りながら、時計を見た。
そろそろ、補習が終わった頃だろうか。小川さんは、午前中で補習は終わるから昼頃にこちらにくると言っていたが……。
そんな風に考えていると、ちょうどガラッと教室のドアを開ける音がして、小川さんがやってきた。それを見て、いままで騒がしかったはずの教室がピタッと静かになる。
そんな中、茶髪の女子が通せんぼするようにして、教室に入ってきた小川さんの前に立った。
「小川さんさ、今さらなんなの?見物?」
それは、金髪イケメンと一緒に文化祭実行委員をしている林さんだった。
彼女の小川さんへ向ける視線は、険悪そのものだった。
「春風さんも、みんなもすごい困ってたんだよ?読モだかなんだか知らないけどいい加減にしてよ!」
林さんが叫ぶ。
練習をサボり続ける小川さんへの不満がエスカレートしていたのはぼくもわかっていたけど、まさかこんな行為に出る人がいるほどとは思っていなかった。
「ちが、そうじゃ……」
「小川さんがきたら文句言ってやろうってみんな言ってたんだよ!?」
小川さんが慌てて否定しようとするも、その声はか細く震えていて、続く林さんの声にかき消されてしまった。
小川さんはもうぼくや七瀬となら緊張することなく話せるようになったし、クラスの人ともスムーズに話せる様に特訓をした。けど、いきなりあんな剣幕で責め立てられたら、彼女じゃなくたってパニックになってしまうのも仕方のない話だと思う。
……もしかしたら林さんの言う通り、クラスの過半数は小川さんに対して負の感情を持っていたのかもしれない。でもそれは『みんな』ではないのだ。少なくとも、ぼくや、大助や、春風さんに七瀬が『みんな』には入っていないのは確かだ。ぼくたちは、責め立てるために小川さんと話をしようとしていたわけじゃないのだから。
なんだか視界のすべてがスローモーションに映るのに、自分の体も喉も、ぴくりとも動かせない。
「連絡も取れないから役を変えるのもできないし。練習出来なかった時間は返ってこないんだよ?ちゃんとみんなに謝ってよっ」
林さんが、そう怒鳴った。
「……ごめ、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい」
小川さんはその場にうずくまって、壊れたロボットのようにそう繰り返した。
それを見て、責め立てていたはずの林さんも動揺したように瞳を揺らして後ずさった。
きっと普段の小川さんのイメージから、林さんは「言い返されるだろう」「もしかしたら手を出されるかもしれない」なんて思っていたのだろう。それでも一言言ってやろうと覚悟してきたのに、まさかこんな風に泣かれるだなんて思いもしなかったのかもしれない。
小川さんの普通じゃない様子を見て、クラス中にどよめきが広がっていった。
そんな中、七瀬がうずくまる小川さんの元まで歩いてきた。そして肩を貸して小川さんを立ち上がらせると、「保健室に連れていくから」とボソリと告げて教室を出て行く。
誰もが唖然としてその様子を眺めていた。
遅れて、ぼくもあとを追って保健室へと向かう。
しかしいざ泣き崩れる小川さんと、何も言わずに背中をさする七瀬を前にすると、どちらに対してもかける言葉がなに一つ浮かばなくて。ぼくはただその場に立ち尽くしていた。
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