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パトリシア 4
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時間は、前日に遡る。
「痛たたたっ。鼻を斬りやがって。くそ、なんだ、あの男は。パトリシアに、いつの間に、あんな男が出来たんだ。ちくしょう」
パトリシアの店に押し込んだはいいが、尻尾を巻いて逃げ帰って来た陶芸組合の理事、マジャールは怒りをぶちまけていた。鼻を斬られたこともあるが、欲望の対象として見ていたパトリシアに、親し気な男が居たことにも腹を立てていた。
「マジャール様、そんなに興奮されますと、傷によくありませんぞ」と答えたのは、彼と一緒にパトリシアの店で撃退されたラングストンだ。
「あのパトリシアもいまいましい。センネンブナが手に入らないときに、あんなにどっさり仕入れやがって。あんなことをされたら割り当てをした理事会の面子が丸潰れだ」
「それなら、パトリシアを何とかしませんと」
「それを、あの男に邪魔をされたんじゃないか」とマジャールと呼ばれた男は怒鳴った。
「いっそのこと、あの女が仕入れたセンネンブナを燃やしてしまいましょう」
「燃やす?」
「そうです。あの工房だけがセンネンブナを大量に手に入れては、マジャール様の名誉にかかわります。私が手配いたしましょう」
「おい、あまり手荒なことはするなよ」と去っていく部下の背中に、マジャールは声を掛けた。
翌朝、マジャールは街の治安を預かる衛兵隊長の訪問を受けた。
「昨晩、パトリシア工房が燃えたことは御存じですな」衛兵隊長は、単刀直入に話を切り出した。
「ああ、伝え聞いている。わざわざ、見には行かなかったがな」
「我々の調べによると、放火の疑いがありましてな」
「放火の疑いが?それで、なぜ私の所へ?」マジャールは怪訝な表情を浮かべる。
「火事になる直前に、この組合の人間が店から出て行くのを見たという複数の証言がありましてな」
「この組合の者?それは誰ですかな?」
「ラングストンです」
「ラングストン?」
「この組合の職員の筈ですな」
「ラングストンは確かに組合の職員ですが、本当にラングストンを見たという証言があったのですか?」
その時、マジャールの脳裏には、昨晩、ラングストンが言い残した言葉が、蘇った。
「まさか・・・」
「まさか?何か心当たりがおありの様ですな」
「いや、心あたりは・・ないな」
「そうですか。それでラングストンという人物は今日は?」
「うん、そういえば、今朝から見ていないな」
「今日は事務所に来ていないと?」
「私は職員の見張りをしているわけではない。ラングストンが今日出勤しているかどうかは、入り口の事務員に確認してくれたまえ。私は仕事があるので、これで失礼するよ」
このときは、衛兵隊長はそのまま陶芸組合を出て行ったが、昼過ぎに数名の部下を従えて組合の建物に踏み込み、マジャールを放火の主犯として捕縛した。
ラングストンは、マジャールに指示されて放火したという、あからさまな手掛かりを数多く残して、姿をくらましていた。
そんな事情を知る由もないマジャールは、無実を訴え続けたが、ついに裁判にかけられることになった。
早くも、3日後には裁判が行われた。パトリシアが裁判の関係者なので、俺達も裁判を傍聴することが出来た。
この世界の裁判では、裁判官だけがいて、検察も弁護人もいない。被告席には手かせを嵌めれたマジャールが座らされ、床が一段高くなった正面に置かれた大きな机の向こう側に、裁判官が1人座っているだけだ。
裁判官は訴状らしきものを読み上げる。
「静粛に、それでは被告マジャールに問う。んっ、その鼻はどうした?」
裁判官は審問を始める前に、マジャールが鼻に大きな布を当てて、包帯でぐるりと顔を巻いているのを見て尋ねた。
傍聴席から、どっと笑いが上がった。
マジャールは、立ち上がって俺を指差しながら
「あの男だ。あの男が俺の鼻を斬りやがったんだ」と叫んだ。
この発言で、傍聴席から、再び笑いが上がった。
マジャールは、衛兵に「座れ」と無理やり座らされた。
「静粛に」裁判官は、傍聴人達に静かにするように命令すると、再び、マジャールに向き直って、
「そなたは、陶芸組合の職員ラングストンに指示して、パトリシアなる工芸職人の店に火を放たせた。これに相違ないか?」
「いえ、違います。私は、そんなことは指示していません」とマジャールがすかさず抗弁する。
裁判官は、訴状を確認し、
「放火に先立つ同日の昼頃、陶芸組合に相談に来ていたある職人の証言がある」
裁判官は訴状をめくり
「それによると、被告は、いっそのこと、あの女が仕入れたセンネンブナを燃やしてしまいましょうと言った職員ラングストンに対して、あまり手荒なことはするなと答えたとなっています。この証言に間違いはありませんか?」
「そ、それは・・・」
「手荒なことはするなと、答えたことに間違いはないですか?」
裁判官の追及に
「それは、火をつけるような手荒なことをするなと言う意味で言ったのです」と、マジャールが反論すると
「それは、おかしいですね。手荒なというのは、パトリシアと言う女性に乱暴をするなという風に聞こえます。手荒なと言う言葉には、火をつけるなという意味が含まれるとは思えません」
「いや、そんなことはありません」
「それなら、なぜ、燃やすなと、命令しなかったのですか?」
「そ、それは・・・」
「何故ですか?」
「それは、本当に火をつけるとは思わなかったからです」と、マジャール。
「あなたが燃やすなと命令していたら、ラングストンは、パトリシア工房に放火しなかったのではないですか?」
「そ、そんなことを言われましても・・・」
「あなたの部下である陶芸組合の職員が、明確に、パトリシア工房のセンネンブナを燃やすことを提案しているのですよ。それを禁止しなければ、職員は、あなたが同意したと受け取るのが当然でしょう。そしてこれは、明確に、上司の指示に当たります。反論できますか?」
「いや、私は、決してそんな指示はしていません」
「あなたは、命令する者として、部下に接していたのです。その時点で、燃やすという提案を禁じなかったことが、燃やすという提案に同意したことになるのです。それが本法廷の結論です。よって、本法廷は、この者を有罪とする。罪状は、パトリシア工房放火の指示。よって、この者の市民としての全ての権利の剥奪、犯罪奴隷の身分に落とし、鉱山の服役囚人とすることを本法廷の判決とする。これにより、本日の裁判は閉廷」
被告の言い分は一切認められず、裁判官が一方的に、自分の考えと判断をまくしたてただけの裁判だった。まあ、地球の中世の裁判もこんな感じだったのかも知れない。とはいえ、この裁判官は優秀だった。裁判を傍聴している限りでは、マジャールは放火を指示していないようだし、何故、マジャールを放火犯として決めつける必要があったのかも分からない。冤罪疑惑のある判決だったが、裁判官は証言の僅かな隙をついて使用者の責任を追及し、あっさりと有罪にしてしまっていた。現代の地球に連れて来ても通用するぐらいに、法律家として頭が切れる人物なのだろう。
陶芸組合の理事が放火犯として有罪になった為、組合はパティに賠償金を払うことになった。
「あんたには悪いけど、今度のことはパティさんに都合がよすぎるね」と、オーリアが俺の耳元で囁く。
オーリアは、よく寝物語に、裏社会の考え方を教えてくれる。
「考えてみなよ。この事件で得をした者は誰だい?」
「得をした者?誰もいないんじゃないか。パティは賠償金をもらうことになったけれど、店の再建に金が必要なことを考えれば、得をしたことにならないし」
「誰も得していないって?あんたの目は節穴かい」
「それは、酷いな」
「いいかい、マジャールがいなくなった。それなら、マジャールの席はどうなると思う?」
「誰かが、新しい理事になる」
「そいつは、白紙かい?」
「白紙とは?」
「誰かの色が付いていないかと言ってるのさ」
「誰かの色?」
「その誰かが、マジャールを追い詰めたのさ。罠に嵌めたとも言う」
「黒幕がいるということか?」
「考えてもみな、本当の放火犯のラングストンは、手掛かりを残し過ぎている。マジャールに、パティの店に火をつけると言って、都合よく、誰かがそれを聞いていたんだろう。これが仕込みでなくて、何なんだい」
「じゃあ、あの証言者は、グルだと」
「グルじゃなくても、そいつに聞かせるために大声で話しをしたのさ」
「それで?」
「マジャールは追い落とした。後に残る問題は、パティに払う賠償金だ」
ここまで言われて、さすがの俺にも、オーリアの言わんとしていることが分かった。
「パティが危ないのか?」
「金をもらったら、取り返しに来るだろうね。」
「いつが危ない?」
「金を貰ったら、と言いたいところだけど、金を渡す相手が居なくなったらもっと都合がいいと考える奴もいるだろうね」
「それじゃ、今でも危ないのか。直ぐにでもこの街を逃げ出した方がいいな」
「あんた次第さ」
「分かった。パティに街を出るように説得するよ」
オーリアの推測をパティに伝えると、
「そうだったのかい。店に火を付けられた上に、今度は金と命を狙われるのかい?」
「パティのことは俺が護るつもりだけど、マジャールのように罠に嵌められたら護り切れない。いっそのこと、この街を出たらどうだ。街を出てしまえば、金を取り戻すには暴漢を雇うぐらいしか手がないだろうから、対処出来ると思うんだけどな」
「ありがとう。私のことを考えてくれているんだね。うん、この腐った街に住み続ける理由が無くなったよ。それに、あの陶器の色合いが再現出来たら、何処へ行っても成功するさ。むしろ、絡んでくる奴らのいない新天地の方が、煩わしくなくていいだろうし。店の土地を組合に売って、この街を出ることにするよ。あんたも一緒に来てくれるんだろうね」
「もちろんだ。ところで、窯はどうするすんだ?」
「馬車に積むよ」
「積めるのか?」
「大きな馬車を買わないといけないけどね」
「よし、その金は俺が出そう。俺の馬車も、大きなやつに買い替えるよ。準備が出来次第、出発しよう」
焼け跡にあった窯を取り外そうとしたら、耐火煉瓦の一部がボロボロと崩れ始めた。俺は土魔法で、崩れそうな箇所を補強しながら、慎重に窯を馬車に運び込んだ。
その後、パティは店の土地を陶芸組合に売り、その代金と賠償金とを合わせて、かなりの金を得たようだ。
その間は、ずっとパティを護衛しながら、旅の準備を進めた。そして、空き時間があるときは、宿屋の庭を借りて、クレラインを相手に剣の訓練もした。その結果、剣術の熟練度が6に上がった。
ついに旅立ちの準備をすっかり整えて、俺達は、ようやく街を出た。
結局、ラングストンが捕まることはなく、裁判官はマジャールを有罪にするように買収されていたのだが、そんな裏事情を俺達が知ることはなかった。
「痛たたたっ。鼻を斬りやがって。くそ、なんだ、あの男は。パトリシアに、いつの間に、あんな男が出来たんだ。ちくしょう」
パトリシアの店に押し込んだはいいが、尻尾を巻いて逃げ帰って来た陶芸組合の理事、マジャールは怒りをぶちまけていた。鼻を斬られたこともあるが、欲望の対象として見ていたパトリシアに、親し気な男が居たことにも腹を立てていた。
「マジャール様、そんなに興奮されますと、傷によくありませんぞ」と答えたのは、彼と一緒にパトリシアの店で撃退されたラングストンだ。
「あのパトリシアもいまいましい。センネンブナが手に入らないときに、あんなにどっさり仕入れやがって。あんなことをされたら割り当てをした理事会の面子が丸潰れだ」
「それなら、パトリシアを何とかしませんと」
「それを、あの男に邪魔をされたんじゃないか」とマジャールと呼ばれた男は怒鳴った。
「いっそのこと、あの女が仕入れたセンネンブナを燃やしてしまいましょう」
「燃やす?」
「そうです。あの工房だけがセンネンブナを大量に手に入れては、マジャール様の名誉にかかわります。私が手配いたしましょう」
「おい、あまり手荒なことはするなよ」と去っていく部下の背中に、マジャールは声を掛けた。
翌朝、マジャールは街の治安を預かる衛兵隊長の訪問を受けた。
「昨晩、パトリシア工房が燃えたことは御存じですな」衛兵隊長は、単刀直入に話を切り出した。
「ああ、伝え聞いている。わざわざ、見には行かなかったがな」
「我々の調べによると、放火の疑いがありましてな」
「放火の疑いが?それで、なぜ私の所へ?」マジャールは怪訝な表情を浮かべる。
「火事になる直前に、この組合の人間が店から出て行くのを見たという複数の証言がありましてな」
「この組合の者?それは誰ですかな?」
「ラングストンです」
「ラングストン?」
「この組合の職員の筈ですな」
「ラングストンは確かに組合の職員ですが、本当にラングストンを見たという証言があったのですか?」
その時、マジャールの脳裏には、昨晩、ラングストンが言い残した言葉が、蘇った。
「まさか・・・」
「まさか?何か心当たりがおありの様ですな」
「いや、心あたりは・・ないな」
「そうですか。それでラングストンという人物は今日は?」
「うん、そういえば、今朝から見ていないな」
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このときは、衛兵隊長はそのまま陶芸組合を出て行ったが、昼過ぎに数名の部下を従えて組合の建物に踏み込み、マジャールを放火の主犯として捕縛した。
ラングストンは、マジャールに指示されて放火したという、あからさまな手掛かりを数多く残して、姿をくらましていた。
そんな事情を知る由もないマジャールは、無実を訴え続けたが、ついに裁判にかけられることになった。
早くも、3日後には裁判が行われた。パトリシアが裁判の関係者なので、俺達も裁判を傍聴することが出来た。
この世界の裁判では、裁判官だけがいて、検察も弁護人もいない。被告席には手かせを嵌めれたマジャールが座らされ、床が一段高くなった正面に置かれた大きな机の向こう側に、裁判官が1人座っているだけだ。
裁判官は訴状らしきものを読み上げる。
「静粛に、それでは被告マジャールに問う。んっ、その鼻はどうした?」
裁判官は審問を始める前に、マジャールが鼻に大きな布を当てて、包帯でぐるりと顔を巻いているのを見て尋ねた。
傍聴席から、どっと笑いが上がった。
マジャールは、立ち上がって俺を指差しながら
「あの男だ。あの男が俺の鼻を斬りやがったんだ」と叫んだ。
この発言で、傍聴席から、再び笑いが上がった。
マジャールは、衛兵に「座れ」と無理やり座らされた。
「静粛に」裁判官は、傍聴人達に静かにするように命令すると、再び、マジャールに向き直って、
「そなたは、陶芸組合の職員ラングストンに指示して、パトリシアなる工芸職人の店に火を放たせた。これに相違ないか?」
「いえ、違います。私は、そんなことは指示していません」とマジャールがすかさず抗弁する。
裁判官は、訴状を確認し、
「放火に先立つ同日の昼頃、陶芸組合に相談に来ていたある職人の証言がある」
裁判官は訴状をめくり
「それによると、被告は、いっそのこと、あの女が仕入れたセンネンブナを燃やしてしまいましょうと言った職員ラングストンに対して、あまり手荒なことはするなと答えたとなっています。この証言に間違いはありませんか?」
「そ、それは・・・」
「手荒なことはするなと、答えたことに間違いはないですか?」
裁判官の追及に
「それは、火をつけるような手荒なことをするなと言う意味で言ったのです」と、マジャールが反論すると
「それは、おかしいですね。手荒なというのは、パトリシアと言う女性に乱暴をするなという風に聞こえます。手荒なと言う言葉には、火をつけるなという意味が含まれるとは思えません」
「いや、そんなことはありません」
「それなら、なぜ、燃やすなと、命令しなかったのですか?」
「そ、それは・・・」
「何故ですか?」
「それは、本当に火をつけるとは思わなかったからです」と、マジャール。
「あなたが燃やすなと命令していたら、ラングストンは、パトリシア工房に放火しなかったのではないですか?」
「そ、そんなことを言われましても・・・」
「あなたの部下である陶芸組合の職員が、明確に、パトリシア工房のセンネンブナを燃やすことを提案しているのですよ。それを禁止しなければ、職員は、あなたが同意したと受け取るのが当然でしょう。そしてこれは、明確に、上司の指示に当たります。反論できますか?」
「いや、私は、決してそんな指示はしていません」
「あなたは、命令する者として、部下に接していたのです。その時点で、燃やすという提案を禁じなかったことが、燃やすという提案に同意したことになるのです。それが本法廷の結論です。よって、本法廷は、この者を有罪とする。罪状は、パトリシア工房放火の指示。よって、この者の市民としての全ての権利の剥奪、犯罪奴隷の身分に落とし、鉱山の服役囚人とすることを本法廷の判決とする。これにより、本日の裁判は閉廷」
被告の言い分は一切認められず、裁判官が一方的に、自分の考えと判断をまくしたてただけの裁判だった。まあ、地球の中世の裁判もこんな感じだったのかも知れない。とはいえ、この裁判官は優秀だった。裁判を傍聴している限りでは、マジャールは放火を指示していないようだし、何故、マジャールを放火犯として決めつける必要があったのかも分からない。冤罪疑惑のある判決だったが、裁判官は証言の僅かな隙をついて使用者の責任を追及し、あっさりと有罪にしてしまっていた。現代の地球に連れて来ても通用するぐらいに、法律家として頭が切れる人物なのだろう。
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「得をした者?誰もいないんじゃないか。パティは賠償金をもらうことになったけれど、店の再建に金が必要なことを考えれば、得をしたことにならないし」
「誰も得していないって?あんたの目は節穴かい」
「それは、酷いな」
「いいかい、マジャールがいなくなった。それなら、マジャールの席はどうなると思う?」
「誰かが、新しい理事になる」
「そいつは、白紙かい?」
「白紙とは?」
「誰かの色が付いていないかと言ってるのさ」
「誰かの色?」
「その誰かが、マジャールを追い詰めたのさ。罠に嵌めたとも言う」
「黒幕がいるということか?」
「考えてもみな、本当の放火犯のラングストンは、手掛かりを残し過ぎている。マジャールに、パティの店に火をつけると言って、都合よく、誰かがそれを聞いていたんだろう。これが仕込みでなくて、何なんだい」
「じゃあ、あの証言者は、グルだと」
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「それで?」
「マジャールは追い落とした。後に残る問題は、パティに払う賠償金だ」
ここまで言われて、さすがの俺にも、オーリアの言わんとしていることが分かった。
「パティが危ないのか?」
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「いつが危ない?」
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「ありがとう。私のことを考えてくれているんだね。うん、この腐った街に住み続ける理由が無くなったよ。それに、あの陶器の色合いが再現出来たら、何処へ行っても成功するさ。むしろ、絡んでくる奴らのいない新天地の方が、煩わしくなくていいだろうし。店の土地を組合に売って、この街を出ることにするよ。あんたも一緒に来てくれるんだろうね」
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その後、パティは店の土地を陶芸組合に売り、その代金と賠償金とを合わせて、かなりの金を得たようだ。
その間は、ずっとパティを護衛しながら、旅の準備を進めた。そして、空き時間があるときは、宿屋の庭を借りて、クレラインを相手に剣の訓練もした。その結果、剣術の熟練度が6に上がった。
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