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第一章 探偵として
008 それぞれ重荷を抱えて
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ラブレターの内容と過去の住所を述べた観点から、僕の高校時代までを知る人物であり、病気であると口を滑らせた。そしてフラワーショップでの書き間違いにより、犯人の名前はHがつく。
記憶にないとばっさり切り捨てたが、僕と同じく病気がちでなかなか学校に来なかったクラスメイトがいたと独り言を漏らすと、ギルバート刑事はいきなり警察官の顔になった。
「ダメだ。名前は思い出せない」
「イヤーブックは? 実家にあるのか?」
「分からない。連絡してみないと」
イヤーブックは卒業アルバムみたいなものだ。クラスメイト全員の顔写真が載っている。
ギルバート刑事は端末を見やり、僕を凝視する。かけろということか。
電話すべき頼れる相手は母。僕の過去を知る唯一の身内だ。
「母さん、僕のイヤーブックって取ってある?」
『急にどうしたのよ』
「決まってはいないんだけどさ、同窓会でもやろうかって話があったんだ。懐かしくなって」
『引っ越しのとき、処分しちゃったわよ。あなたもう要らないって言ってたじゃないの』
「そうだっけ? それならいいや」
言いたいことだけ言い終えて電話を切ると、ギルバート刑事は意外そうな顔で口を開いた。
「嘘をつけるタイプなんだな」
「これでも探偵を名乗ってるんでね。そんなに純粋そうに見える?」
「ああ」
「……そのアメリカンジョークにはどう対応していいのか分からないよ」
ギルバート刑事はじっと僕を見つめたままで、なんとなく僕から目を逸らした。
「さっきの声を聞いて、何か英語に違和感は感じたか?」
「はっきりとは聞こえなかったけど、男の声ってことくらい……何かあるのか?」
「いや、別に。お前はここにいるな?」
念を押す言い方は、腑に落ちない。
ギルバート刑事が出て行った後、僕はもう一度ジローに電話をかけた。
何度もコール音だけが鳴り、折り返しの電話もなかった。
歩くたびに車のキーがかちゃりと音を立てる。気になれば行動あるのみだ。
僕は車で事務所へ向かった。
探偵事務所の明かりはついていなかった。
「……帰ったのか?」
帰るにはまだ早い。明かりが消えているのはおかしい。
心臓が警鐘を打ち鳴らす。走馬灯のように、僕の回りの人たちの笑顔が消え去っていく。
なるべく足音を立てないように階段を上がっていき、ドアに耳を近づけた。
人の気配がする。十中八九、ジローだろうが、万が一ということもある。端末を動画状態にして、僕はドアノブを回した。
「…………ジロー?」
警戒心を怠らず、相棒のリックは顔をこちらに向けたまま、手探りで明かりをつけた。
「なに、やってるんだよ」
「……見ての通りだ」
「なんで、僕の机を漁ってるんだ……?」
「説明がいるか?」
「……ああ」
本気で分からなくて聞いているわけじゃない。すべてを理解し、その上で理解したくなくて聞いているのだ。俺の相棒は、無知で勘の鈍い人間じゃない。
「分かってるんだろ?」
その言葉で、リックの顔は引き締まる。覚悟を決めた、いい顔をしている。
「……俺の弟はな、可哀想な子供なんだ」
「入院しているんだろ?」
「そうだ。お前に会いたくて病院を抜け出すほど、恋い焦がれた哀れな子供だ。お前と同じクラスだったのに、名前すら覚えてもらえていないと嘆いていたよ」
「なんという?」
「エルヴェ・スミス」
リックの目が大きく開いた。
「ようやく思い出したか。フランス語だ。綴りは『Herve』。アメリカではエルヴェじゃなく、ハーブと呼ばれている」
「覚えてるよ。僕と同じで身体が思わしくない人だった」
「エルヴェはな、過去に友人になってくれたのはお前だけだった。それなのに会いにも来てくれない。名前すら忘れている。エルヴェはお前の写真を毎日眺めているんだ。こんなに愛しているのに、お前ときたら」
「猫の死骸を置いたり手紙を僕のメールボックスに入れたり、車に悪戯したりか? ジェフの件も、お前たちなのか?」
「猫は俺がやった。弟じゃない。手紙は弟が書いた。ジェフは……あれは運命だ。仕方ない」
「仕方ない……だと」
リックの声は震え、拳を握る手もおかしくなったようだった。
「なあ、前に話したよな? 俺は誰よりも家族を優先させると」
「お前からしたら、滑稽だったろうな。怯えている僕を側で眺めていたんだから」
「怯えさせるためにやったわけじゃない。弟のためだ」
「やればやるほど、僕は君の弟から心が遠ざかっていく」
「分からず屋だな」
「君とここまで分かり合えないなんてね」
「ああ、まったくだ」
「ああ、くそ」
信号が早く変われと、運転席でひとり悪態をつく。
元々、犯人は奴ではないかと視野に入れていた。多分、重度の喘息持ちの男は気づいちゃいないだろうが、奴は公園でプラスチック爆弾を作って爆発させた過去がある。幸い怪我人はいなかったが、あの目はまた何かやらかすと踏んでいた。あれから何年も経ち、さらに狂った爆発物を作成できてもおかしくはない。
いささか乱暴に駐車場へ車を止め、勢いよくドアを閉めた。
ロビーに向かうと、やる気のなさそうな男性が眠そうに雑誌をめくっている。
懐から目が覚めるものを取り出し、それを掲げた。
手帳を見た途端、可哀想なことに雑誌は投げ捨てられ、あたふたとわけの分からない言動を繰り返す。
「落ち着け。お前を逮捕しに来たわけじゃない」
「は、はあ…………」
「エルヴェ・スミスの部屋はどこだ」
「エルヴェ……スミス」
『Herve』と、ご丁寧に単語も告げる。キーボードの音が焦りを生み出す。
「あった。ハーブ・スミスさんですね。何かあったんですか?」
「とある事件について知っている可能性がある。話を聞きに来ただけだ」
おかしいと思ったのは、電話越しに聞こえたストーカーの声だ。嬢ちゃんが気づけなかったのも無理はない。あいつは相棒のジローと共に一日の大半を過ごしている。まるで違和感を感じていなかった。
家族ではフランス語を話しているのだろう。英語はフランス訛りの癖のあるアクセントであり、Hの音が抜ける癖がある。すべてが繋がった。そしてジローは探偵事務所いて、嬢ちゃんもおそらく向かっている。相棒のキムを信じるしかない。
「ここからは俺だけでいい」
「はあ……分かりました」
銃を抜く羽目にならないといいが、それは相手の出方次第だろう。
何度か死線をくぐり抜けてきたが、あのときと似た感覚が神経を震わせる。
医師を気取るわけではないが、なるべく穏便に対応し、自首の方向へ持っていきたい。
「…………ミスター・スミス」
俺に気づいていなかったのか、驚いて顔を上げた。手にするノートパソコンをそっと閉じ、いかにも怪しくないです風を装っている。押収確定。破壊されたくないので、俺もあえて触れなかった。
「なんだ。ばれてたのか」
男ははあ、と短く息を吐き、腕を組んだ。
「警察官だろ? 見れば分かるよ。特に歩き方。担当医みたいに踵は引きずらないし、大股であまり音を立てない。みんなそういう歩き方なんだね」
「ばれていた、と言ったな。俺が何しにきたのか分かっているのか?」
「警察官が来るって、逮捕しかないじゃん」
「なぜジェフを殺した?」
「目障りだったから」
今日の朝食はバナナよ、くらいのノリだ。頭蓋骨に一発ぶち込んでやりたい。
「このこと、リックは知ってるの?」
「ああ」
「そっか。知っちゃったか。嬉しいなあ」
「嬉しいだと?」
「だってさ、リックが好きで好きで、好きで好きでたまらないって知ってもらえたじゃん!」
冷えた上から目線が、はつらつとした子供の目に変わる。
「僕ね、僕ね、爆弾作るの得意なんだよ! リックがね、いいこいいこっていつも褒めてくれるんだ。いっぱい僕にキスしてハグして、ベッドで抱き合って、俺のディックもたくさん舐めてくれる」
「もういい」
「リックはゲイなんだよ」
「ああ、知っている」
「可哀想な子だよねえ。大好きだったパパは死んで、新しい父親とはうまくいっていなくて、誰からも愛されなくて。病気のせいで全力で走れないんだよ。なのにリックときたら、探偵事務所まで設立しちゃうんだもん。腹が立つよねえ」
「お前の兄貴がグルなのは知った。何と言って丸め込んだんだ?」
「兄さんも僕の家族も、僕に甘いんだ。心臓が弱くて入院ばっかりしてたから、甘やかしてるんだよ。もう死にたい、死なせてって言ってたら、なんでも言うことを聞くようになった。バカだよね、ほんと」
ブチブチと、聞こえるはずのない神経の切れる音が聞こえた。錯覚だろうが、実在に切れているかもしれない。
「俺が愛してやってたのに、あいつはジェフとかいう男と浮気しようとした。ジェフはジェフで妻も子供もいるのに、ゲイだとか打ち明けてリックを誘惑しようとした。あの男はきっと死を夢見てるんだって思ったよ。だから神に近い僕が制裁を下してやった」
ああ……なるほど。
あいつはジェフのことを隠したがる節があった。話すには話すが、肝心なことを隠している目だった。妻のため、子供のため、そして彼自身のために、死ぬまで口を割らないつもりなのだろう。
「おっと、撃たないでくれよ。俺を撃ったら病院ごと丸焦げだ」
エルヴェが羽織る上着をめくると、小瓶がいくつか巻きつけられていた。
それよりもだ。胸元に見える刺青に、俺は釘付けになった。天使の刺青は、何度か見たことがある。隠れて見えないが、蛇や蝶も刻まれているはず。
「願いを聞いてくれたら、おとなしく捕まってやるよ」
「願い?」
「リックを殺してほしい。それで最後の仕上げになる。俺の復讐劇を手伝ってほしい」
「残念だがそれはできないな。あいつは俺が一番守らねばならない人間だ」
俺は懐から銃を出し、銃口を彼に向けた。
記憶にないとばっさり切り捨てたが、僕と同じく病気がちでなかなか学校に来なかったクラスメイトがいたと独り言を漏らすと、ギルバート刑事はいきなり警察官の顔になった。
「ダメだ。名前は思い出せない」
「イヤーブックは? 実家にあるのか?」
「分からない。連絡してみないと」
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ギルバート刑事は端末を見やり、僕を凝視する。かけろということか。
電話すべき頼れる相手は母。僕の過去を知る唯一の身内だ。
「母さん、僕のイヤーブックって取ってある?」
『急にどうしたのよ』
「決まってはいないんだけどさ、同窓会でもやろうかって話があったんだ。懐かしくなって」
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「そうだっけ? それならいいや」
言いたいことだけ言い終えて電話を切ると、ギルバート刑事は意外そうな顔で口を開いた。
「嘘をつけるタイプなんだな」
「これでも探偵を名乗ってるんでね。そんなに純粋そうに見える?」
「ああ」
「……そのアメリカンジョークにはどう対応していいのか分からないよ」
ギルバート刑事はじっと僕を見つめたままで、なんとなく僕から目を逸らした。
「さっきの声を聞いて、何か英語に違和感は感じたか?」
「はっきりとは聞こえなかったけど、男の声ってことくらい……何かあるのか?」
「いや、別に。お前はここにいるな?」
念を押す言い方は、腑に落ちない。
ギルバート刑事が出て行った後、僕はもう一度ジローに電話をかけた。
何度もコール音だけが鳴り、折り返しの電話もなかった。
歩くたびに車のキーがかちゃりと音を立てる。気になれば行動あるのみだ。
僕は車で事務所へ向かった。
探偵事務所の明かりはついていなかった。
「……帰ったのか?」
帰るにはまだ早い。明かりが消えているのはおかしい。
心臓が警鐘を打ち鳴らす。走馬灯のように、僕の回りの人たちの笑顔が消え去っていく。
なるべく足音を立てないように階段を上がっていき、ドアに耳を近づけた。
人の気配がする。十中八九、ジローだろうが、万が一ということもある。端末を動画状態にして、僕はドアノブを回した。
「…………ジロー?」
警戒心を怠らず、相棒のリックは顔をこちらに向けたまま、手探りで明かりをつけた。
「なに、やってるんだよ」
「……見ての通りだ」
「なんで、僕の机を漁ってるんだ……?」
「説明がいるか?」
「……ああ」
本気で分からなくて聞いているわけじゃない。すべてを理解し、その上で理解したくなくて聞いているのだ。俺の相棒は、無知で勘の鈍い人間じゃない。
「分かってるんだろ?」
その言葉で、リックの顔は引き締まる。覚悟を決めた、いい顔をしている。
「……俺の弟はな、可哀想な子供なんだ」
「入院しているんだろ?」
「そうだ。お前に会いたくて病院を抜け出すほど、恋い焦がれた哀れな子供だ。お前と同じクラスだったのに、名前すら覚えてもらえていないと嘆いていたよ」
「なんという?」
「エルヴェ・スミス」
リックの目が大きく開いた。
「ようやく思い出したか。フランス語だ。綴りは『Herve』。アメリカではエルヴェじゃなく、ハーブと呼ばれている」
「覚えてるよ。僕と同じで身体が思わしくない人だった」
「エルヴェはな、過去に友人になってくれたのはお前だけだった。それなのに会いにも来てくれない。名前すら忘れている。エルヴェはお前の写真を毎日眺めているんだ。こんなに愛しているのに、お前ときたら」
「猫の死骸を置いたり手紙を僕のメールボックスに入れたり、車に悪戯したりか? ジェフの件も、お前たちなのか?」
「猫は俺がやった。弟じゃない。手紙は弟が書いた。ジェフは……あれは運命だ。仕方ない」
「仕方ない……だと」
リックの声は震え、拳を握る手もおかしくなったようだった。
「なあ、前に話したよな? 俺は誰よりも家族を優先させると」
「お前からしたら、滑稽だったろうな。怯えている僕を側で眺めていたんだから」
「怯えさせるためにやったわけじゃない。弟のためだ」
「やればやるほど、僕は君の弟から心が遠ざかっていく」
「分からず屋だな」
「君とここまで分かり合えないなんてね」
「ああ、まったくだ」
「ああ、くそ」
信号が早く変われと、運転席でひとり悪態をつく。
元々、犯人は奴ではないかと視野に入れていた。多分、重度の喘息持ちの男は気づいちゃいないだろうが、奴は公園でプラスチック爆弾を作って爆発させた過去がある。幸い怪我人はいなかったが、あの目はまた何かやらかすと踏んでいた。あれから何年も経ち、さらに狂った爆発物を作成できてもおかしくはない。
いささか乱暴に駐車場へ車を止め、勢いよくドアを閉めた。
ロビーに向かうと、やる気のなさそうな男性が眠そうに雑誌をめくっている。
懐から目が覚めるものを取り出し、それを掲げた。
手帳を見た途端、可哀想なことに雑誌は投げ捨てられ、あたふたとわけの分からない言動を繰り返す。
「落ち着け。お前を逮捕しに来たわけじゃない」
「は、はあ…………」
「エルヴェ・スミスの部屋はどこだ」
「エルヴェ……スミス」
『Herve』と、ご丁寧に単語も告げる。キーボードの音が焦りを生み出す。
「あった。ハーブ・スミスさんですね。何かあったんですか?」
「とある事件について知っている可能性がある。話を聞きに来ただけだ」
おかしいと思ったのは、電話越しに聞こえたストーカーの声だ。嬢ちゃんが気づけなかったのも無理はない。あいつは相棒のジローと共に一日の大半を過ごしている。まるで違和感を感じていなかった。
家族ではフランス語を話しているのだろう。英語はフランス訛りの癖のあるアクセントであり、Hの音が抜ける癖がある。すべてが繋がった。そしてジローは探偵事務所いて、嬢ちゃんもおそらく向かっている。相棒のキムを信じるしかない。
「ここからは俺だけでいい」
「はあ……分かりました」
銃を抜く羽目にならないといいが、それは相手の出方次第だろう。
何度か死線をくぐり抜けてきたが、あのときと似た感覚が神経を震わせる。
医師を気取るわけではないが、なるべく穏便に対応し、自首の方向へ持っていきたい。
「…………ミスター・スミス」
俺に気づいていなかったのか、驚いて顔を上げた。手にするノートパソコンをそっと閉じ、いかにも怪しくないです風を装っている。押収確定。破壊されたくないので、俺もあえて触れなかった。
「なんだ。ばれてたのか」
男ははあ、と短く息を吐き、腕を組んだ。
「警察官だろ? 見れば分かるよ。特に歩き方。担当医みたいに踵は引きずらないし、大股であまり音を立てない。みんなそういう歩き方なんだね」
「ばれていた、と言ったな。俺が何しにきたのか分かっているのか?」
「警察官が来るって、逮捕しかないじゃん」
「なぜジェフを殺した?」
「目障りだったから」
今日の朝食はバナナよ、くらいのノリだ。頭蓋骨に一発ぶち込んでやりたい。
「このこと、リックは知ってるの?」
「ああ」
「そっか。知っちゃったか。嬉しいなあ」
「嬉しいだと?」
「だってさ、リックが好きで好きで、好きで好きでたまらないって知ってもらえたじゃん!」
冷えた上から目線が、はつらつとした子供の目に変わる。
「僕ね、僕ね、爆弾作るの得意なんだよ! リックがね、いいこいいこっていつも褒めてくれるんだ。いっぱい僕にキスしてハグして、ベッドで抱き合って、俺のディックもたくさん舐めてくれる」
「もういい」
「リックはゲイなんだよ」
「ああ、知っている」
「可哀想な子だよねえ。大好きだったパパは死んで、新しい父親とはうまくいっていなくて、誰からも愛されなくて。病気のせいで全力で走れないんだよ。なのにリックときたら、探偵事務所まで設立しちゃうんだもん。腹が立つよねえ」
「お前の兄貴がグルなのは知った。何と言って丸め込んだんだ?」
「兄さんも僕の家族も、僕に甘いんだ。心臓が弱くて入院ばっかりしてたから、甘やかしてるんだよ。もう死にたい、死なせてって言ってたら、なんでも言うことを聞くようになった。バカだよね、ほんと」
ブチブチと、聞こえるはずのない神経の切れる音が聞こえた。錯覚だろうが、実在に切れているかもしれない。
「俺が愛してやってたのに、あいつはジェフとかいう男と浮気しようとした。ジェフはジェフで妻も子供もいるのに、ゲイだとか打ち明けてリックを誘惑しようとした。あの男はきっと死を夢見てるんだって思ったよ。だから神に近い僕が制裁を下してやった」
ああ……なるほど。
あいつはジェフのことを隠したがる節があった。話すには話すが、肝心なことを隠している目だった。妻のため、子供のため、そして彼自身のために、死ぬまで口を割らないつもりなのだろう。
「おっと、撃たないでくれよ。俺を撃ったら病院ごと丸焦げだ」
エルヴェが羽織る上着をめくると、小瓶がいくつか巻きつけられていた。
それよりもだ。胸元に見える刺青に、俺は釘付けになった。天使の刺青は、何度か見たことがある。隠れて見えないが、蛇や蝶も刻まれているはず。
「願いを聞いてくれたら、おとなしく捕まってやるよ」
「願い?」
「リックを殺してほしい。それで最後の仕上げになる。俺の復讐劇を手伝ってほしい」
「残念だがそれはできないな。あいつは俺が一番守らねばならない人間だ」
俺は懐から銃を出し、銃口を彼に向けた。
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