キミに処刑場で告白をする

不来方しい

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第一章

019 永遠を結ぶクリスタルの光─⑤

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「ろくな面倒を見れちゃいないがな、これでもお前の親なんだ。こんなに人へ執着をしたのは初めてじゃないか。愛加みたいな可愛らしいお嬢さんに振り向くわけでもないし、柔道仲間からチョコレートをもらっても愛想笑いでやり過ごそうとするだろ。早くこの場を去りたいって見え見えだ」
「そんなことないって」
「彼女の一人や二人くらいできないのは、身近にいるはずの女がいなくて、ろくに接してこなかったからじゃないかって責任を感じているんだ。母親が死んじまったからな」
「うそつき」
 雪が降りつくした、銀河の世界のように静まり返った。
 ハルカの笑顔はつんとした氷像のようで、ひどく冷たい。
「じゃあ、準備するから」
「…………ああ」
 正宗は居心地が悪そうにドアを閉めた。



 山梨のイメージを聞かれると、すこぶる反応に困る。
 なんとなく果物が有名だとかぼんやりしたものは浮かぶが、名産は思いつかない。今までは縁がなかった。
 フィンリーに教えてもらい、山梨は水晶を発掘できる都道府県だと知った。一つ賢くなった気がした。
 高速道路は混んでいて、地震の影響というよりクリスマスの影響が大きい。事前情報で、道路の異常はないと調べている。
 一時間三十分で着くと豪語しながら、結局三時間もかかってしまった。
 山梨に入って驚いたのは、たくさんの星が散りばめられていることだ。東京ではほぼ見えない。あまりの宝石の数々に、車から降りてしばらく眺めていた。
──着きました。
──どちらにいらっしゃいますか?
──甲府駅の駐車場で車を止めて、外にいます。どこかで待ち合わせしましょう。 
──その必要はありません。
 ハルカは顔を上げた。背後で近づく足音がする。静かに振り返った。
 星空に浮かぶ宝石をまとった男は、圧巻だった。イルミネーションよりも星よりも、まぶしい。
「馬鹿者」
「ありがとうございます」
「会話になっていない。私は怒っています」
「遅くなってすみません」
「違う、そうではない」
「山梨って、こんなに星が見えるんですね。月も……とても大きく見える」
「……行きますよ」
 フィンリーは歩き出したので、後ろをついていく。
「ホットワインが売っていますよ。飲みますか?」
「日本は二十歳からじゃないと飲めないです」
「失礼。そうでしたね」
「それに飲んだら運転できないですし」
「その必要はありません。今宵はホテルに泊まります。明日のご予定はないと伺いましたが、よろしいですか?」
「ホテル? なんか、どきどきする」
 深いため息が聞こえてきた。
「部屋は別です」
「なんだ、そうなんですか。枕投げとか考えてました。修学旅行みたいでテンション上がりますよね」
「……………………」
 フィンリーとともにデパートの中へ入る。
「ホテル、よく取れましたね」
「あなたと今朝やりとりをしたあと、すぐに二部屋とりました。冬休みでよかったです。一泊宿泊をするので、何か入り用なものはありますか?」
「下着くらいは持ってきました。バスタオルとかはホテルにありますかね」
「揃っていますよ。ミネラルウォーターは購入するとして、山梨名物でも見ましょうか。夕食はホテルで取ります」
 地震が関係している。水はもうほとんど無くなっていた。小さなペットボトルはあるので、フィンリーはカゴに二つ入れる。それと、ワインやらほうとうやら入れていく。
 なぜワインなのかと思いきや、山梨名物と大きなポップに書かれていた。日本とワインはあまり結びつかないが、日本のワイン発祥地であり、山梨のぶどうを使用しているとある。
「ほしいものは?」
「特にないかなあ。あ、やっぱりある」
「なんでしょう」
「外に広がっている、両手いっぱいの星がほしい」
 じゃーん、と手を広げると、フィンリーはぽかんとした表情をした。
「そういう顔、すごく好きだ」
「何を馬鹿なことを」
「やっぱり? 星がほしいとか、ちょっと夢見すぎですよね」
「そうではない。……いいですよ、行きましょうか。あなたの願いを叶えられるか判りませんが」
 ホテルに行くのかと思いきや、フィンリーは外にあるベンチに座った。
 さすがクリスマス。見事にカップルだらけだ。そんな中を失礼して、ハルカも彼の横に座る。
「こんなに星を見たの、初めてってくらいかも」
「山奥へ行けば、もっと素晴らしい星たちを近くで見られるかもしれません」
「良かった。さっき会ってから、フィンリーさんがちょっと疲れてるような気がして。俺が疲れさせる原因を作ってしまったから」
「本音を言うと、あなたに会って元気が出ました。本日の仕事は少々、手こずりまして」
「鑑定が難しい代物だったんですか」
「難しいことは難しいですが、仕事内容より人間関係が」
「あー…………」
 身に覚えはある。ハルカもある。彼の状況は判らなくても、誰しもが通る道。
「本当は一人になりたかった。息苦しくても、宇宙へ行けば一人になれると、馬鹿なことを考えていた。それか山で野宿でもすれば、誰にも会わなくて済むと。今朝早く、あなたから電話があり、考えは一変しました」
「うん?」
「早く、あなたに会いたいと」
 フィンリーの顔を見る。彼は空を見上げ、星を眺めていた。宇宙一、星の似合う男。
「本当は、ずっと待っていました。ですが、震源地の近いとこらへわざわざ向かってくるあなたの浅はかな考えにも腹が立った。一体なにを考えているのか、と。腹を割って話したのだから、あなたの目的を知りたい」
「目的……。俺もよく、判んないです。ただ、フィンリーさんに会いたかっただけで。多分、いろいろ作ってたから、食べてもらいたかった。俺の作った菓子を、ゲテモノ扱いではなく、ちゃんと食べたいって向かい合ってくれた、からっ……」
 最後は声にならなかった。本物の馬鹿で、頬に涙が流れる。気温は寒く、冷えて涙の通り道は痛くなる。
 頬に暖かなものが当たる。ハンカチだ。優しさにまた涙が溢れる。
 ハンカチはフィンリーの使っている香水の香りがして、夢中で嗅いだらゲテモノを見るかのような目で見られた。
「あなたの生み出すものを、ゲテモノなどとは思いませんよ。私は紅茶に厳しいので、紅茶に関しては納得するものが出来上がるまでOKサインは出しませんが」
「さすが紅茶信者」
「誰が信者だ」
「じゃない、教祖」
「なんとでもおっしゃいなさい。それで、作ったものとは?」
「ラッピングとかしてないんですけど」
 ラップで包んだポルボロン。とそのおまけつき。
「実はクグロフも焼いたんです」
「ストップ」
 発音の良いストップだ。
 フィンリーは携帯端末を取り出し、ハルカの手を支えるようにしてそっと下から添えて、手に乗っているお菓子を撮影した。
「素敵なクリスマスプレゼントですので。記念に」
「わー、わー、待って待って、涙引っ込んだ。俺の方がいろいろもらってる」
「食べてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
「ポルボロンは口の中で三回、ポルボロンと唱えながら食べると、願いが叶うそうですね」
 美味しいと言ってほしい、フィンリーの願いが叶ってほしい、と願いを込めて、彼が食べ終わるのを待った。
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