冤罪人の恋文と、明けない夜のSOS

不来方しい

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第一章 初恋と事件

06 狭間で揺れる一方通行

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 映画館での流れ、次の日に手紙が挟まっていた件をぽつぽつと説明した。
 エドワードは無理に聞き出そうとはせず「これ美味しいね」や「デザートにフランあるけど食べる?」など会話を挟みながら、ルカが話せるようになるまで待った。
 少し固めの甘さが際立った卵のスイーツだ。日本のプリンとは似て非なるもの。
 ここまでマークが戻ってこないと、わざとふたりきりにさせているのだと思った。
「警察官は、間違いなく僕の飲んだ紅茶の缶が使われていたと断言していました。指紋も見つかったみたいだし、間違いないんだと思います」
「日本のメーカーだっけ? それ」
 エドワードは冷蔵庫の上に置いてある一本の缶を見る。
「そうです。大好きで、子供の頃からお気に入りなんです。でも映画館で売っているものじゃなく、僕が持ち込んでロビーのソファーに座って飲んでいました」
「飲み終わった缶はゴミ箱に捨てた?」
「はい、捨てました」
「であれば、誰でも缶は手に入れられたわけだ」
 ルカははっと顔を上げた。言われてみればその通りだが、今まで自分自身が犯人だと決めつけられて反論が出来なかった。
「あの崩壊を見てると、防犯カメラもまともに機能してないでしょうし、このまま犯人だと断定されて、逮捕されたらどうしようって……」
「今あるのは状況証拠だけだ。君がやったわけじゃないんだから、逮捕なんてされるわけがない。それと連絡先を教えてもらっていいかな? 何かあったときのために」
「はい」
 携帯端末を持つ手が震えるが、平然を装って連絡先を交換しあった。
 夢のような時間だが、緊張しすぎて本当に夢なのではないかと疑ってしまう。
 食べ終わると、エドワードは本物の警察官らしく、ドアを調べていくつかの質問をした。
「大学の関係者ですよね……怪しい人が入ってきたら、すぐに判るだろうし。そもそも建物内にいる人なら、誰でも簡単に手紙を差し込めます」
「可能性は高いな」
 エドワードは可能性の話をしたが、ほぼ決まっているようなものだ。
「とにかく、何かあったらすぐに連絡をくれ」
 エドワードはルカの肩に手を置こうとするが、すんでのところで止めた。
 入れ違いにマークが入ってきて、やはり彼はあえてふたりきりにしようとしたのだと察した。
「ちゃんと話せた?」
「やっぱり気を使ったんだね。そんなことしなくていいのに」
「俺がっていうより、エドがふたりだけで話したいから席外してって頼んできたんだよ」
「それなら多分、事件のことを聞きたかったんだと思う。ほら、彼は警察官だし」
 言い訳がましいが、それ以外にも理由があってほしいと願わずにはいられない。
「手紙や爆破事件もだけど、頼れるのはエドだよな。ロスの警察官なんて、あんな態度だったし。でも担当が違うから、難しい部分もあるだろうけど」
「そうなの?」
「聞いてない? エドは麻薬課担当だよ。大学にも素性隠して捜査するってテレビでやってた」
「麻薬課……」
 単に話を聞きにきただけだと思いたいが、もしかしたら別の事件の捜査も込みだったのかもしれない。
「それ、食べてもいい?」
 寿司とフランに視線を送りながら、マークは腹をさすった。
 ルカは暖かなお茶を用意すべく、席を立った。



 数日経つと、エドワードに会って話をしたおかげか、いくらか気持ちの整理ができた。
 手紙の件は犯人がまだ判っていない。怪しい人物を誰も見ていないとすると内部犯は間違いないが、特定するにも至っていない。
「手紙?」
「え?」
「今、手紙がどうとか言わなかった?」
 犯罪心理学を教える教授であるヴィクターは、ルカの独り言をしっかりと聞き返した。
「すみません、集中します」
 今日はヴィクターから資料の整理を頼まれていた。
 アルバイトもないしすぐに手伝うと申し出たのだが、なかなか進みがよくない。
「何か気になることがあるなら話してよ」
「えと……そうですね……実は……、」
 ドアにカミソリつきの手紙が挟まっていた─警察云々の話せず─と話した。
「ただの悪戯ですから、気にしてないです」
「悪質だよ。ケガはなかった?」
「はい、問題ないです」
 ケガはしたが、包帯も取れているし特に広げようとはしなかった。むしろ大げさすぎるし折りたたんでしまいたい話だ。
「でももう音沙汰がないですし、本当に悪戯だと思います」
「前向きなのはいいことだけど、解決してないんだから用心して。同じ寮の……誰だっけ?」
「マークですか?」
「友達を疑うべきじゃないのは判るが……用心するに越したことはない。君の回りの人にもね」
「ッ……マークはそんな人じゃないです」
「君は犯罪心理学を学んでいるよね? 人良さそうにしている人が、裏では何をしているのか判らない人間は山ほどいる。すまない、これでは君の友達を疑っているみたいに聞こえてしまうね」
 確かにヴィクターの言うとおりだ。講義で散々学んできたことであり、ぐうの音も出ない。
 思えば、警察官もマークに対し探りを入れる目を向けていた。手紙の第一発見者であり、一緒に映画を観にいったマーク。続けて手紙にカミソリが仕込まれていて、側にいたのはマークだ。
 だが心理学の話を持ち出さなくても、マークがそんなことをできるタイプではないとわかりきっていた。
「心配して下さって嬉しいですが、僕は彼を信じていますし親友なのは変わらないです」
「ああ、君たちが仲がいいのは知っている。すまないな、こんな話を持ち出してしまって。何かあったら、いつでも相談に乗るから」
「はい……ありがとうございます」
 ヴィクターの気遣いには感謝しつつ、肩に置かれた手を取り除いた。
 余計なお世話だと割り切ることもできない。純粋な心配に、ただ目を伏せるしかない。
 ヴィクターの淹れてくれた紅茶の入ったティーカップを持つと、指先が小刻みに震えていた。
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