8 / 34
第一章 初恋と事件
08 事件が事件を呼ぶ
しおりを挟む
車内では口数がお互いに少なくなり、ずっとそわそわしていた。
「住んでいるのは警察官ばかりだ。別の意味で落ち着かないかもしれない」
「そんな……僕からしたら頼もしいですけど、同僚が住んでいるのは、エドワードからしたらプライベートに踏み込まれている気分ですよね」
「だな」
駐車場はマンションの中にあり、防犯の都合でも今のルカにとっては有り難かった。
地下からエレベーターで上に行き、三階で止まる。
「さあ、入って」
「お邪魔します……」
一人暮らしにしては広く、殺風景な部屋だった。
大きめのソファーとテーブル、テレビ。棚には家族の写真すらない。
「紅茶はないんだ。近いうちに用意しておく。コーヒーでいいかな?」
「ありがとうございます」
「座って待ってて」
もう一度招いてくれるという意味だろうか。
後ろを向いた彼に、ジョークなのか本気なのか聞けなかった。
「ストーカーだけど、これで二回目?」
「はい。前回は気のせいだと思ったんですが、まさか二回連続なんて……」
「前回と同じ人だと思う?」
「そうですね。足音が同じでしたから。見た目の服装や髪型はいくら変えようとしても、靴はそんなに変える人はいないです」
「犯罪心理学を学んでいるだけはあるね。よほど手慣れた犯罪者でない限り、靴まで気を配らないものだ」
「僕が犯罪心理学を勉強中だって、マークから聞いたんですね」
「優秀だってことも、ね」
指先に力をこめて、カップを握った。
そんな様子を、エドワードは興味深そうに見つめている。
「爆破事件に手紙、さらにストーカー……。次から次へとおかしなことばかり起こります。全部繋がっているのかいないのかもはっきり判らなくて」
「まだなんとも言えないな。ストーカーの件だって、君の勘違いで同じ人ではなかったというケースもある。君は見た目がアジア人だから、狙おうと考えている人だっている」
「そうですよね……」
「夏休みっていつから?」
「夏休みは二週間後です」
「これは俺の勝手な提案なんだが……」
エドワードは一瞬だけ目を逸らし、カップを口にした。
「夏休みの間、うちに来ないか?」
「エドワードの……マンションに?」
唐突の申し出だ。
「ああ。もちろん帰りたくなったら実家へ送ろう。いつだって帰っていいし、君の生活を邪魔することはしない」
「そんな、邪魔だなんて……。むしろ僕がいることによって、あなたはガールフレンドも呼べなくなってしまいます」
「あいにく、付き合っている人はいない。……弟とも相談したんだが、君が了承してくれるなら、しばらく寮から遠ざかって様子見してみるのもいいんじゃないか。手紙の件は、ほぼ内部犯と言ってもいい。さらにストーカーの件も増えた。君が買い物や遊びに行きたいなら、車も出す」
マークはマンションに呼ぶつもりがないらしく、エドワードとふたりきりだ。
まだほとんどコーヒーに口をつけていないのに、身体が熱い。
「僕にとって願ってもない話です。せめて、家事全般はやらせてもらえませんか? 残念ながら、あなたに払うお金もなくて」
「学生の君からお金を取ろうなんて思ってないさ。なら、食事をお願いしてもいいかな? 実を言うと、あまり料理はしないんだ。庭つきの家なら外でバーベキューもできるが、ここはマンションで君に披露できる特技もない」
エドワードはおどけたように言うものだから、緊張がほぐれて肩の力が抜けた。
リビングを見回すが、充分な広さがある。
「それに、君は犯罪心理学を勉強しながら、法律の勉強もしているんだって?」
「そうです。アジア人向けに相談所を開いているところもあって、そこで働きたいんです。日本語と英語が話せますから」
「それはいいアイディアだな。俺も警察官になるために法の勉強をして、資料ならいろいろある。好きに見て構わない」
「本当ですか? すごく助かりますっ」
近頃は最悪なことばかり起こる中、彼は一筋の光だ。
「話がまとまったな。それじゃあ、夕食にしようか。今日は俺が作ろう。腕を見てもらわないとね」
夏休みの間だけの関係であり、エドワードのマンションへは最低限の荷物だけを抱えた。
家事を行う条件ともう一つ条件を出された。それは、母親に事情を説明するというもの。
渋ったルカだが、エドワードは断固として譲らなかった。
母のユウコの元へ行くと、彼女はエドワードを覚えていた。なんせジュニアスクール時代に息子の命を救った恩人だ。
ユウコは何度もエドワードに「お願いします」と伝え、エドワードは「お任せ下さい」と笑う。
結婚の報告をしているようで、ただだ恥ずかしかった。
エドワードのマンションへ来てからは簡単な荷ほどきをし、夕食は買ってきたもので簡単に済ませた。
ふたり分のお茶を淹れようとしたとき、エドワードの端末に電話が入った。
「すまないが、仕事が入った」
「夜遅くまでお疲れ様です」
「こういう風に、時間帯関係なく仕事が入ったりする。君は気を使わずに自分の生活を優先してくれ」
「わかりました。気をつけて下さいね」
「ああ、行ってくる」
エドワードはルカの髪に触れ、微笑んだ。
扉の閉まる音と同時に、ソファーへ深く座り直す。
触れた髪先に電流が走り、息をするのも苦しかった。
これから数週間、彼と共に過ごすのだ。触れられたくらいでびくついていては、心臓が破壊される。
この日は早めにベッドへ入り、目を閉じた。
朝は六時頃に目が覚めたが、エドワードの靴はなかった。
紅茶を淹れながらテレビをつけると、陰惨な光景が広がっていた。
「なに……これ……」
建物が粉々になり、灰色の煙が風に煽られている。
前にも見た惨い景色だ。
携帯端末にはメールが数件あり、母親やマーク、それにエドワードからは着信だ。
来た順番に無事であるとメールを返し、仕事で忙しいであろう彼にもメールを入れた。
するとすぐに着信が鳴る。
「おはようございます。今、起きました」
『ニュースは見た?』
「はい……先ほど起きて、つけたら……」
『家にいる?』
「います。何時頃帰りますか?」
『昼には帰れそうだ。君が行きたいところに連れていくと話したが、すまないがしばらくは叶えられそうにない』
「僕は大丈夫です。怪我なく、無事に帰ってきて下さいね」
『……っ…………そうだな』
エドワードは言葉をつまらせ、外には出ないようにと念を押して電話を切った。
「住んでいるのは警察官ばかりだ。別の意味で落ち着かないかもしれない」
「そんな……僕からしたら頼もしいですけど、同僚が住んでいるのは、エドワードからしたらプライベートに踏み込まれている気分ですよね」
「だな」
駐車場はマンションの中にあり、防犯の都合でも今のルカにとっては有り難かった。
地下からエレベーターで上に行き、三階で止まる。
「さあ、入って」
「お邪魔します……」
一人暮らしにしては広く、殺風景な部屋だった。
大きめのソファーとテーブル、テレビ。棚には家族の写真すらない。
「紅茶はないんだ。近いうちに用意しておく。コーヒーでいいかな?」
「ありがとうございます」
「座って待ってて」
もう一度招いてくれるという意味だろうか。
後ろを向いた彼に、ジョークなのか本気なのか聞けなかった。
「ストーカーだけど、これで二回目?」
「はい。前回は気のせいだと思ったんですが、まさか二回連続なんて……」
「前回と同じ人だと思う?」
「そうですね。足音が同じでしたから。見た目の服装や髪型はいくら変えようとしても、靴はそんなに変える人はいないです」
「犯罪心理学を学んでいるだけはあるね。よほど手慣れた犯罪者でない限り、靴まで気を配らないものだ」
「僕が犯罪心理学を勉強中だって、マークから聞いたんですね」
「優秀だってことも、ね」
指先に力をこめて、カップを握った。
そんな様子を、エドワードは興味深そうに見つめている。
「爆破事件に手紙、さらにストーカー……。次から次へとおかしなことばかり起こります。全部繋がっているのかいないのかもはっきり判らなくて」
「まだなんとも言えないな。ストーカーの件だって、君の勘違いで同じ人ではなかったというケースもある。君は見た目がアジア人だから、狙おうと考えている人だっている」
「そうですよね……」
「夏休みっていつから?」
「夏休みは二週間後です」
「これは俺の勝手な提案なんだが……」
エドワードは一瞬だけ目を逸らし、カップを口にした。
「夏休みの間、うちに来ないか?」
「エドワードの……マンションに?」
唐突の申し出だ。
「ああ。もちろん帰りたくなったら実家へ送ろう。いつだって帰っていいし、君の生活を邪魔することはしない」
「そんな、邪魔だなんて……。むしろ僕がいることによって、あなたはガールフレンドも呼べなくなってしまいます」
「あいにく、付き合っている人はいない。……弟とも相談したんだが、君が了承してくれるなら、しばらく寮から遠ざかって様子見してみるのもいいんじゃないか。手紙の件は、ほぼ内部犯と言ってもいい。さらにストーカーの件も増えた。君が買い物や遊びに行きたいなら、車も出す」
マークはマンションに呼ぶつもりがないらしく、エドワードとふたりきりだ。
まだほとんどコーヒーに口をつけていないのに、身体が熱い。
「僕にとって願ってもない話です。せめて、家事全般はやらせてもらえませんか? 残念ながら、あなたに払うお金もなくて」
「学生の君からお金を取ろうなんて思ってないさ。なら、食事をお願いしてもいいかな? 実を言うと、あまり料理はしないんだ。庭つきの家なら外でバーベキューもできるが、ここはマンションで君に披露できる特技もない」
エドワードはおどけたように言うものだから、緊張がほぐれて肩の力が抜けた。
リビングを見回すが、充分な広さがある。
「それに、君は犯罪心理学を勉強しながら、法律の勉強もしているんだって?」
「そうです。アジア人向けに相談所を開いているところもあって、そこで働きたいんです。日本語と英語が話せますから」
「それはいいアイディアだな。俺も警察官になるために法の勉強をして、資料ならいろいろある。好きに見て構わない」
「本当ですか? すごく助かりますっ」
近頃は最悪なことばかり起こる中、彼は一筋の光だ。
「話がまとまったな。それじゃあ、夕食にしようか。今日は俺が作ろう。腕を見てもらわないとね」
夏休みの間だけの関係であり、エドワードのマンションへは最低限の荷物だけを抱えた。
家事を行う条件ともう一つ条件を出された。それは、母親に事情を説明するというもの。
渋ったルカだが、エドワードは断固として譲らなかった。
母のユウコの元へ行くと、彼女はエドワードを覚えていた。なんせジュニアスクール時代に息子の命を救った恩人だ。
ユウコは何度もエドワードに「お願いします」と伝え、エドワードは「お任せ下さい」と笑う。
結婚の報告をしているようで、ただだ恥ずかしかった。
エドワードのマンションへ来てからは簡単な荷ほどきをし、夕食は買ってきたもので簡単に済ませた。
ふたり分のお茶を淹れようとしたとき、エドワードの端末に電話が入った。
「すまないが、仕事が入った」
「夜遅くまでお疲れ様です」
「こういう風に、時間帯関係なく仕事が入ったりする。君は気を使わずに自分の生活を優先してくれ」
「わかりました。気をつけて下さいね」
「ああ、行ってくる」
エドワードはルカの髪に触れ、微笑んだ。
扉の閉まる音と同時に、ソファーへ深く座り直す。
触れた髪先に電流が走り、息をするのも苦しかった。
これから数週間、彼と共に過ごすのだ。触れられたくらいでびくついていては、心臓が破壊される。
この日は早めにベッドへ入り、目を閉じた。
朝は六時頃に目が覚めたが、エドワードの靴はなかった。
紅茶を淹れながらテレビをつけると、陰惨な光景が広がっていた。
「なに……これ……」
建物が粉々になり、灰色の煙が風に煽られている。
前にも見た惨い景色だ。
携帯端末にはメールが数件あり、母親やマーク、それにエドワードからは着信だ。
来た順番に無事であるとメールを返し、仕事で忙しいであろう彼にもメールを入れた。
するとすぐに着信が鳴る。
「おはようございます。今、起きました」
『ニュースは見た?』
「はい……先ほど起きて、つけたら……」
『家にいる?』
「います。何時頃帰りますか?」
『昼には帰れそうだ。君が行きたいところに連れていくと話したが、すまないがしばらくは叶えられそうにない』
「僕は大丈夫です。怪我なく、無事に帰ってきて下さいね」
『……っ…………そうだな』
エドワードは言葉をつまらせ、外には出ないようにと念を押して電話を切った。
0
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
過去のやらかしと野営飯
琉斗六
BL
◎あらすじ
かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。
「一級になったら、また一緒に冒険しような」
──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。
美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。
それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。
昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。
「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」
寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、
執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー!
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿されています。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる