冤罪人の恋文と、明けない夜のSOS

不来方しい

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第一章 初恋と事件

09 君に甘えたい

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 昼前にエドワードは帰ってきて、深夜から水以外口にしていないという彼のために、ボリュームたっぷりのハンバーガーを作った。
 てりやきソースはとても気に入ってくれて、また食べたいとリクエストを受けた。
 食後のコーヒーを出しつつ、ルカはテレビをつけた。
「大変でしたね」
「ああ。今回は亡くなった人は出ていない。不幸中の幸いというやつだ」
「あそこにあったバーなんですが、僕とマークで行ったことがあるんです」
 エドワードは何も言わない。知っていた、と言われているようだった。
「その、ゲイバーって呼ばれているもので……友人がそこにはまって、抜け出せなくなっていて」
「連れ戻しに?」
「はい。その友人とは今は疎遠ですが、出会った人にお金を貢いだりして、馬鹿なことをしたって反省していました」
「行ったのは何回くらい?」
「一回だけです。これはマークにも聞いてもらえれば判ります。そもそも、僕はお酒は飲まないですし、行ったときも何も飲まずに帰ってきましたから。……映画館もですが、僕が行ったことのある場所で爆破事件が起こっています」
「ワシントンに住んでいれば、映画館くらい誰でも行くだろう。気に病む必要はない。ただ、可能性を視野に入れるとしたら、君に犯行を見せかけるために……ってことも考えられる」
「それって、僕の近くにいる人が犯人ってことですか?」
「あくまで可能性の話ね」
「だから僕を大学から遠ざけたんですか?」
「それももちろんあるが……今はやめておこう。少し眠ってもいいかな?」
「あ、はい。そうですよね。疲れていますよね」
 立ち上がろうとしたとき、太股に重みがのしかかり、ルカは硬直した。
 エドワードの頭が太股にある。彼はすでに寝息を立てていた。
 おろおろするだけして、身体の力を抜いてソファーに深く沈む。動いたらエドワードが起きる。いろんな意味でとんでもない体勢のままで、せめて身体の熱が彼に伝わりませんように、と祈るしかできない。
「……きれい…………」
 さらさらのブロンドヘアーを撫でてみると、少し汗ばんでいて彼の匂いがよりいっそう強くなった。

 カーテンから差す太陽光が当たり、ルカは瞼を開けた。
 白い天井が見え、かといって寮の見慣れた部屋とも違う。
 ソファーへ横になり、薄手のタオルケットがかかっていた。
──仕事が入った。出かけてくる。部屋から出ないようにしてくれ。
 テーブルに置いてあったメモを見て、ここはエドワードの部屋なのだと思い出した。
 居候の身でありながら、彼がいない寂しさで押し潰されそうだった。
 太股に乗った頭の重みも、体温も、すべて嘘だとは思いたくない。



 パネルに並んだ事件の時系列を元に、弟に聞いて書きなぐったメモ帳と見比べていく。
 マークはルカと共にゲイバーに入り浸っていた友人を救うために一度足を運んだ。この事実を知っている人は、同じ講義を受けていた人物ならばほとんど知り得た情報だという。なぜなら、助け出した友人は同じ講義を受けていて、ゲイバーで気になる人ができたと一室で話していたからだ。ルカやマークに助けられたことも、大きな声でお礼を述べたらしく、その場にいた人物ならば誰でも知っていた。
 映画館へ行った話ではなく、行くきっかけとなった経緯を知りたいと別の言い方で聞いてみた。すると、こちらもふたりでメールのやりとりで決めたわけではなく、授業終わりにマークが誘ったらしい。
 ルカ本人は自分が容疑者だと心を痛めているが、マークも容疑者の一人だ。だが彼らにはアリバイがある。少なくとも、バーが粉々になったときはふたりは部屋から出ていない。ルカも防犯カメラの映像を見て、確認済みだ。
「飲むか?」
「ああ」
 相棒のロベルトが淹れたコーヒーを受け取った。
「やりづらいだろう? 弟が関わってるとなると」
「俺は薬の売人の尻尾を掴む、麻薬捜査課だ。俺たちは爆破事件の専門じゃないだろう」
「安心していい。お前の弟は容疑者からほぼ外れている」
 横から上司のフランクが口を挟んだ。
 ほぼ外れているということは、外れていないということだ。真っ白でない限りは油断ならない。
「もう一度、LS大学の人間と行き来できた人物を洗うべきだな」
「俺もそう思います。絶対に見逃しているものがありそうなんですよね」
「お前たちはバーを利用した客を調べてくれ」
 フランクは一瞬だけエドワードを見て、視線を逸らした。
 弟ががいる限り、大学にいる家族への聞き込みはできない。寮の部屋へ上がらせてもらったのは、名目は弟へ会うためだ。捜査としてではない。
「じゃあ行くか」
「ああ」
 ロベルトとともに席を立ち、外へ出た。
 警察署からバーは少し離れている。運転はロベルトに任せ、エドワードはもう一度メモ帳を開いた。
「フランクはお前のことを気にしてたぜ。弟が関わっているから、気に病んでないかってな」
「家族を疑われていい気分はしないのは当然だが、調べれば弟がシロだってすぐにわかるよ。俺は気にしていない」
「今回の件はどう見てる?」
「犯罪課の奴らは複数人を視野に入れて捜査しているが、俺は単独犯だと見ている」
「だな。その点は俺も同じだ」
 ロベルトは頷いた。
「爆発物は持ち込んで置くだけ。建物から出たら時限つきで爆破させればいい。これだけ大がかりな捜査で、足がつかないのは複数とは考えられない」
 端末を覗いてみるが、ルカから連絡は何もなかった。
 彼の性格を考えれば、残したメモの通り、ちゃんと守ってくれるだろうが、心配は尽きない。
「恋人か?」
「まあ、そんなところだ」
 一から説明するとなると、同居までの流れを事件を交えて話さなければならない。嘘でも、これくらいの願望は許してほしいと可愛らしい顔を思い浮かべる。
 眠気に負けて彼の膝の上で寝入ってしまい、彼は怒っていないだろうか。それとも、憧れのお兄さんの甘えた姿に、失望していないだろうか。
「着いたぞ」
 ロベルトの声にはっと顔を上げた。
 人の波をくぐり抜けて規制線の向こうには、警察官に囲まれた男性が立っていた。
「こんにちは」
「あら、いい男」
 おそらくゲイバーを経営する男性だ。エドワードの身体に触れようとし、ロベルトが制止する。
「すまないね。この人、恋人がいるもんで」
「いい男にはやっぱりいるものね。あなた方も警察?」
「ええ。警察です。何度も聞かれて辟易されているでしょうが、どうかご協力をお願いします」
「さっきまでいた警察官たち見たでしょう? 完全に私が犯人なんじゃないかって決めつけてるのよ! 頭にくるわ!」
「それはとんだ失礼を。疑うのは警察の仕事ですが、何を言われたんです?」
「バーはふたりで経営してたんだけど、もう一人とお金絡みでいざこざがあってね。それで私が爆破させたんじゃないかって」
「もう一人の方はどちらに?」
「入院中よ。私はお休みで家にいたのよ。だから余計に疑われてしまってるの」
「ああ……それで」
「つまらないアメリカンジョークよ! お金稼げなくなるのに、なぜ私が爆発させなきゃいけないのよ!」
「心中察します。ちなみに、家にいたことを証明できる人はいますか?」
「これは全員に聞いていることですので」
 何か言われる前に、エドワードはフォローの一言を付け加えた。
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