冤罪人の恋文と、明けない夜のSOS

不来方しい

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第一章 初恋と事件

016 愛しのパンケーキ

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 すべての事件が解決してから二か月が過ぎた。
 ルカは寮から荷物を引き取り、引っ越しをしたエドワードの住むマンションへ移った。
 新しいマンションはふたりで住むには広すぎる部屋で、同室だったマークは「寂しいがルカの気持ちを尊重する」と言い、送り出してくれた。
 だが、マンションへ来てから、すぐに大事件が発生するとは、夢にも思わなかった。
「………………?」
 部屋で荷解きをしていると、やたら焦げくさい臭いが鼻についた。
 部屋を飛び出すと、キッチンから臭いが強くなっている。
「……エド?」
 珍しいことに、エドワードは先手パンチを食らったかのように愕然としている。悔しさとショックで、頭を抱えてしまった。
「ほのかに甘い香りがしますが……」
「甘さだけなら良かったよ……」
 おそらくパンケーキだろうが、消し炭がフライパンの上で煙を出している。
「どうやら君のように才能がないみたいだ」
「落ち込まないで下さい。ちょっと火が強すぎただけだと思います。生地はありますか?」
「ああ、まだ残ってる。ぜひとも手本を見せてほしい」
 ルカは慣れた手つきで、パッケージに載っている通りのパンケーキを三枚焼き上げた。一枚は半分にしてそれぞれの皿に乗せた。
 エドワードは自分が作った黒こげのパンケーキを見つめ、
「なんというか、努力でどうにかなるレベルではない気がしている」
「苦手なことは誰にだってありますよ。僕、運動が苦手だったりしますし」
「けど、日常的にはさほど困らないだろう? 料理は死活問題だ」
「フライドエッグはとても上手ですよ。外側がかりかりなのが好きなので、エドが作ってくれるとすっごく美味しく食べられます」
 なぜパンケーキを作ろうとしたのか疑問だったが、この前、料理番組でパンケーキの特集をしていたと思い出した。
 美味しそうとぼやいたのがきっかけだったのかもしれない。
 エドワードはこうしてルカが食べたいだのほしいだの言った言葉をよく覚えている。
「君が作ったパンケーキは美味しいが、部屋の焦げ臭さはどうにもならないな」
「換気扇を回しましょうか」
「それより……気にならなくなることでもしようか」
「え? ど、どっちでしょう?」
「どっち? 一つだろう?」
「んん?」
 ソファーに覆い被さってきたエドワードは、まだわからないのか、と言わんばかりに首を傾げた。
「今、わかりました」
「……なぜ手で胸を押すんだ?」
「場所がソファーですし……」
「何度もしただろう?」
「まだ二回です」
「ベッドにする?」
「…………する」
 ふにょ、と音がしそうなほど柔らかな唇が首筋をなぞる。
 エドワードが妙なタイミングで盛るのはいつものことだが、なぜ今なのかという疑問は呑み込まれていった。

 怪我も治り、気持ちが重なったエドワードは容赦がなかった。
 彼なりの手加減はしているものの、人と付き合った経験が乏しいルカとでは、差がありすぎる。
 エドワードはキスが好きだ。身体のどこへでも唇を落とす。
「エド……そこは……」
「好きなんだ。させてほしい」
 エドワードは亀頭に音を立ててキスをすると、ルカの身体は悦びに震える。
 恥ずかしいのにしてほしい、もっと深くまで口に含んでほしい──。
 視線の意味を感じ取ったエドワードは、口をすぼめて固く上を向く陰茎を深く受け入れた。
 肉厚の舌は巧みに動き回り、筋を何度も上下する。窪みに圧をかけては、先端から溢れ出る透明な液を舐めとった。
 同時に、人差し指が臀部の割れ目を撫で、窄まりに優しく円を描く。
 括約筋が緩み異物を受け入れ、奥へ奥へ誘っていく。指は二本に増え、襞を揉みながら快楽を探して徹底的に悦びを与えた。
「あっ、あ、もう…………っ!」
 溜め込んだ一気に放射し、エドワードの口の中へすべて収まる。
 エドワードの喉が鳴り、喉仏が大きく揺れる。まだ出るだろう、と告げるように先端が舌でノックされると、残った液も口内に流れた。
「エド…………」
「ああ、俺も限界だ」
 みっともなく足を開かされるのは恥ずかしくて仕方ないが、一番感じる体位でもあった。
 太股が胸につくまで持ち上げられると、自然と腰が浮いた。
「ああ……可愛い。なんて可愛いんだ」
 情けないポーズであっても、エドワードは可愛いを連呼する。
 彼の思考は理解不能だが、これが好きだと言うのなら何も言い返さなかった。
 先端が狭い窄みへ押し当てられ、襞を押し上げながら徐々に奥へ進んでいく。
 外側から受け入れることのない器官は拒絶せず、むしろ悦びを求めて奥へと誘おうと収縮する。
 規則的に動いていた身体が震え、上から低いうなり声が聞こえた。
「あっ…………!」
 内部では生温い液体が襞に直撃し、さらに異物を圧迫する。
 凄まじい快楽が身体を這いつくばり、ルカの先端から放射された体液はエドワードの腹筋を濡らす。
「…………ごめん」
「え?」
「早すぎて……なんというか、恥ずかしい」
「僕もきもちよかったですし……別に、そんな……」
 固さを取り戻しつつある陰茎は、張りのある先端で襞を刺激する。
 ルカももう一度快楽を求め、身体の力を抜いた。



 最近、ルカは鼻歌を歌うことが多い。料理を作りながら、スイーツの準備をしながら、掃除をしながら。機嫌が良いときの合図にもなるし、彼の歌を聴くのは幸福でしかない。
 ときどきこちらをちらっと見てくるのも、また愛らしい。
 多分一緒に歌ってほしいのだろうとエドワードは察し、合わせて歌ってみると、頬を染めて掃除機を持つ手が早くなる。
 音痴なのが申し訳ないと思いつつ、エドワードはこの状況を楽しんでいた。
 どうやってベッドに連れ込もうか考えながら観葉植物に水をあげていると、突然鼻歌が止まった。
「この歌、なんの歌でしたっけ?」
「タイトル? なんだったかなあ。ジュニアスクール時代、合唱で歌った気がする」
「僕もです。有名なバンドの歌ですよね。ちょっと切なくなるような……懐かしい感じがします」
 ルカは掃除機を片づけ、キッチンへ入った。
 キッチンからは良い香りが漂う。今朝、焼いたばかりのスポンジケーキを冷ましていたところだ。
「それ、どうするんだい?」
「チョコレートにするか、生クリームにするか……。あなたはどちらが好みですか?」
「チョコレートかな。ああ、でも生クリームの賞味期限が近いとか言っていなかったか?」
 彼の好みを尊重しつつも、生クリームの使い道がないとショッピングを楽しみながらぼやいていたことを思い出す。
「そうですね。生クリームにしましょうか」
 不埒なことを考えていても、純粋なルカにはまるで通じない。
 天使のような微笑みで、生クリームを泡立てている。
「ちょっと待って下さいね。すぐ作りますから」
「かなり大きいけど、ふたりで食べきれる?」
「え? 三人ですけど」
「え」
 誰を人数に入れるつもりなのか。
「マークも呼ぼうかなあって……」
「それはいい案だ」
 何が楽しくて弟とケーキを食べなければならないのか、と悪態つきたくなるが、元々出会っていたのはマークが先だ。マークのおかげでルカと出会えたと言っても過言ではない。
「ならマークを呼ぼう。その間、部屋の掃除でもしてこようかな」
「お願いします」
 マークのことなので、おそらく勝手に部屋の探索を始めるだろう。
 家族には見られたくない残骸が山ほどあり、早急に片づけなければならない。とくにベッドの状態は、誰かに見られたら不都合が生じる。いろんな意味で。
 ゴミ箱の中もくまなく掃除し、ティッシュ一つも落ちていない状態にした。
 痕跡を消そうとする犯人はこのような気持ちなのかと、エドワードは苦笑した。
 髪の毛までローラーで取ろうとし、止める。
 以前、犯人が部屋の主ではないかと疑いがかかった事件があった。
 犯人ではないと状況証拠が出てきたのは、徹底して証拠隠滅を謀ろうとしたからだ。それも埃や髪の毛一本にいたるまで、何もなかったのだ。
 家主はそれほど几帳面な性格ではないということ、住んでいる人間が細かく髪の毛まで痕跡を消そうとするのかと議論になり、結果犯人から外れた。
 犯人は隣に住む男のストーカー事件だったが、とにかく揉めに揉めた事件だ。
 ここまで我を失うほど掃除をするのはおかしいと、さすがに手を止めた。
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