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第一章 初恋と事件
022 君の待つ家
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一番地味なドーナツを一つもらい、コーヒーとともに流し込んだ。
麻薬課にいた頃も、こうしてロベルトと共にドーナツを食べていた。昔というほどではないが、懐かしく思えた。
「悩ましいあなたのために新情報よ。凶器に使われた包丁は、ロスでもよく出回っているものよ」
「包丁はそれほど買い換えるものではありません。絞れるかもしれませんね。マイナーなものであればよかったですが、メーカーが限定できただけでも進歩ですね」
「あとは時間との勝負よ。子供もいるし、早いところ決着をつけて、先の人生を歩んでほしいわ」
「子供……マーサのことですが」
エドワードは、マーサが実の父親が逮捕された後で友人に話した内容だと前提におき、ルカから聞いた話を掻い摘まんだ。
「娘のマーサにも聴取に協力してもらったけど、同じことを言っていたわね……」
「今の話は警察の聴取の前に友人に話した内容になります。容疑者が我々に嘘をついても、娘につく理由がない」
「調べるほどに容疑者から遠ざかっていくのよ」
「俺も同意見です。本当に殺していないのかもしれない。被害者の交友関係を洗うべきかと思います」
一日中車を走らせていたが、有力な手がかりは全く得られなかった。
「あれ? マーサじゃない?」
ケリーが目を光らせていて、とぼとぼ歩くマーサを発見した。
エドワードは車を止めて運転席から降りた。
「やあ、これから帰るのかい?」
「……っ……そうよ」
「警戒しないで。よければ乗っていく?」
「……この車に?」
「ああ。すごい荷物だね」
「誰からか届いたのよ」
「知らない人から?」
「そう。最近、継続的に私のところに届くの。一度捨てたら、なぜ捨てたんだって手紙が届いて。面倒くさくなって、家に持って帰ってから捨てるようにしてる」
エドワードはケリーと目を合わせた。
「学校に届くってこと?」
「学校だったり、前泊まってたホテルだったり。中身はお菓子だったり、授業で使うノートだったりするから助かるっていえば助かるんだけど、気味が悪いじゃない?」
「追いかけられたりとかはない?」
「そういう危険なことは全然。たまに友達も一緒に帰ってくれるし」
「なら今日は警察官が家まで送ろう」
警戒心を出しつつも、マーサは後部座席に乗り込んだ。
「マーサ、よければもらったプレゼントをこちらに渡してもらえないか?」
「まさか、調べてくれるの?」
「ああ。まだ犯人も捕まっていないしね」
「犯人の可能性があったりする?」
「絶対とは言わないが、君の身の回りで事件が二つも起こっている。偶然で片づけるのは難しい」
「指紋とか調べるんでしょ? 友達が触っちゃってるけど、犯人扱いされたりしない?」
「そこは念入りに調べるから、心配しなくていい」
友達がよほど大事なのか、不安そうに瞳を揺らした。
友達の中にルカも入っているだろうが、友達止まりならまだいい。特別な感情がないとは言いきれないのは、ルカがあまりにも魅力的であるからだ。
事件があった当初に比べると、マーサは明らかに顔色がよくなり、はきはきと喋る。喜ばしいことだが、ルカに深入りしてほしくないと、どうしても考えてしまう。
マーサを家まで送り、警察署へ戻る。借りた荷物はすぐに鑑定を依頼した。
どこでも手に入れられる凶器とマーサの現状を考えても、大学に犯人がいるのではないかと疑わずにはいられなかった。
ルカの待つマンションへ帰ると、ルカはテレビを観ながら料理を作っていた。
「いつもありがとう。ただいま」
「おかえりなさい。ちょっと遅かったですね」
「帰りにマーサと会ったんだ。彼女を家まで送り届けてきた」
「ああ……それで。たくさん荷物を持っていませんでした?」
「持ってたよ。何か聞いてる?」
「マーサ……ストーカーに会ってるみたいなんです。最近になって手紙やお菓子を知らない人からもらうみたいで……」
ストーカー──ルカにとっては聞きたくもない話だろう。
少し前に、彼はロスで起きた爆破事件の犯人であるヴィクター教授に粘着されていた。事件が時系列だけに、彼の言い分はマスコミには流されながったが、被害者であるルカが心を傷める嫌な事件だった。
「マーサ本人は気にする素振りは見せないんですが、お家であんなことがあったので、心配なんです」
「心当たりはないのかい?」
「それが全然。そもそもマーサは人と群れたりすることを好まないタイプですし、知り合いの線はないかもって言ってました」
今日はグリーンカレーだ。ココナッツミルクを使ったカレーに最近はまり、ルカはよく作っている。改良を加えるごとに美味しくなっていき、次はナンに合うカレーもチャレンジしたいのだと言う。
「今はまだプレゼントだけだからいいが、人間は欲の強い生き物だ。彼女が気持ちに答えてくれないとなると危害を加える恐れがある。仲の良いルカも気をつけてくれ」
肩に手を置いて、言い聞かせるように伝える。
つい感情を表に出しすぎてしまい、ほんの少しの後悔が生まれる。
「僕にもいろいろあったから、心配なんですよね。充分に気をつけます。何かあったら、ちゃんとあなたに言いますから」
「俺が一番大事なのは君だ。自分の命を優先してくれ。……また事件の話になってしまったな。早く君の作ったカレーが食べたいよ」
「もうすぐできます。最近カレーばっかりで、飽きちゃいますよね。もっと上手くできるんじゃないかって思ってしまって」
「君の作るカレーは大好きだよ。ルカは凝り性なんだな」
ルカは恥ずかしそうに頷く。
一緒に住んでみないと判らないのはお互い様だが、これはルカの美点の一つだ。料理好きの彼はどんどん上手くなっていき、店で出せるのでは、と恋人の目を差し引いても美味しい。
「食べたら、君と一緒にシャワーを浴びたい」
独り言のつもりで呟いたが、しっかりとルカの耳に届いていた。
首を縦に振ったようにも見えたが、控えめすぎていまいち自信がなかった。
恥ずかしがり屋の彼を誘導したらいいのか、エドワードは心理戦をスタートさせていた。
麻薬課にいた頃も、こうしてロベルトと共にドーナツを食べていた。昔というほどではないが、懐かしく思えた。
「悩ましいあなたのために新情報よ。凶器に使われた包丁は、ロスでもよく出回っているものよ」
「包丁はそれほど買い換えるものではありません。絞れるかもしれませんね。マイナーなものであればよかったですが、メーカーが限定できただけでも進歩ですね」
「あとは時間との勝負よ。子供もいるし、早いところ決着をつけて、先の人生を歩んでほしいわ」
「子供……マーサのことですが」
エドワードは、マーサが実の父親が逮捕された後で友人に話した内容だと前提におき、ルカから聞いた話を掻い摘まんだ。
「娘のマーサにも聴取に協力してもらったけど、同じことを言っていたわね……」
「今の話は警察の聴取の前に友人に話した内容になります。容疑者が我々に嘘をついても、娘につく理由がない」
「調べるほどに容疑者から遠ざかっていくのよ」
「俺も同意見です。本当に殺していないのかもしれない。被害者の交友関係を洗うべきかと思います」
一日中車を走らせていたが、有力な手がかりは全く得られなかった。
「あれ? マーサじゃない?」
ケリーが目を光らせていて、とぼとぼ歩くマーサを発見した。
エドワードは車を止めて運転席から降りた。
「やあ、これから帰るのかい?」
「……っ……そうよ」
「警戒しないで。よければ乗っていく?」
「……この車に?」
「ああ。すごい荷物だね」
「誰からか届いたのよ」
「知らない人から?」
「そう。最近、継続的に私のところに届くの。一度捨てたら、なぜ捨てたんだって手紙が届いて。面倒くさくなって、家に持って帰ってから捨てるようにしてる」
エドワードはケリーと目を合わせた。
「学校に届くってこと?」
「学校だったり、前泊まってたホテルだったり。中身はお菓子だったり、授業で使うノートだったりするから助かるっていえば助かるんだけど、気味が悪いじゃない?」
「追いかけられたりとかはない?」
「そういう危険なことは全然。たまに友達も一緒に帰ってくれるし」
「なら今日は警察官が家まで送ろう」
警戒心を出しつつも、マーサは後部座席に乗り込んだ。
「マーサ、よければもらったプレゼントをこちらに渡してもらえないか?」
「まさか、調べてくれるの?」
「ああ。まだ犯人も捕まっていないしね」
「犯人の可能性があったりする?」
「絶対とは言わないが、君の身の回りで事件が二つも起こっている。偶然で片づけるのは難しい」
「指紋とか調べるんでしょ? 友達が触っちゃってるけど、犯人扱いされたりしない?」
「そこは念入りに調べるから、心配しなくていい」
友達がよほど大事なのか、不安そうに瞳を揺らした。
友達の中にルカも入っているだろうが、友達止まりならまだいい。特別な感情がないとは言いきれないのは、ルカがあまりにも魅力的であるからだ。
事件があった当初に比べると、マーサは明らかに顔色がよくなり、はきはきと喋る。喜ばしいことだが、ルカに深入りしてほしくないと、どうしても考えてしまう。
マーサを家まで送り、警察署へ戻る。借りた荷物はすぐに鑑定を依頼した。
どこでも手に入れられる凶器とマーサの現状を考えても、大学に犯人がいるのではないかと疑わずにはいられなかった。
ルカの待つマンションへ帰ると、ルカはテレビを観ながら料理を作っていた。
「いつもありがとう。ただいま」
「おかえりなさい。ちょっと遅かったですね」
「帰りにマーサと会ったんだ。彼女を家まで送り届けてきた」
「ああ……それで。たくさん荷物を持っていませんでした?」
「持ってたよ。何か聞いてる?」
「マーサ……ストーカーに会ってるみたいなんです。最近になって手紙やお菓子を知らない人からもらうみたいで……」
ストーカー──ルカにとっては聞きたくもない話だろう。
少し前に、彼はロスで起きた爆破事件の犯人であるヴィクター教授に粘着されていた。事件が時系列だけに、彼の言い分はマスコミには流されながったが、被害者であるルカが心を傷める嫌な事件だった。
「マーサ本人は気にする素振りは見せないんですが、お家であんなことがあったので、心配なんです」
「心当たりはないのかい?」
「それが全然。そもそもマーサは人と群れたりすることを好まないタイプですし、知り合いの線はないかもって言ってました」
今日はグリーンカレーだ。ココナッツミルクを使ったカレーに最近はまり、ルカはよく作っている。改良を加えるごとに美味しくなっていき、次はナンに合うカレーもチャレンジしたいのだと言う。
「今はまだプレゼントだけだからいいが、人間は欲の強い生き物だ。彼女が気持ちに答えてくれないとなると危害を加える恐れがある。仲の良いルカも気をつけてくれ」
肩に手を置いて、言い聞かせるように伝える。
つい感情を表に出しすぎてしまい、ほんの少しの後悔が生まれる。
「僕にもいろいろあったから、心配なんですよね。充分に気をつけます。何かあったら、ちゃんとあなたに言いますから」
「俺が一番大事なのは君だ。自分の命を優先してくれ。……また事件の話になってしまったな。早く君の作ったカレーが食べたいよ」
「もうすぐできます。最近カレーばっかりで、飽きちゃいますよね。もっと上手くできるんじゃないかって思ってしまって」
「君の作るカレーは大好きだよ。ルカは凝り性なんだな」
ルカは恥ずかしそうに頷く。
一緒に住んでみないと判らないのはお互い様だが、これはルカの美点の一つだ。料理好きの彼はどんどん上手くなっていき、店で出せるのでは、と恋人の目を差し引いても美味しい。
「食べたら、君と一緒にシャワーを浴びたい」
独り言のつもりで呟いたが、しっかりとルカの耳に届いていた。
首を縦に振ったようにも見えたが、控えめすぎていまいち自信がなかった。
恥ずかしがり屋の彼を誘導したらいいのか、エドワードは心理戦をスタートさせていた。
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