【本編完結】何も無い僕が貴方の完璧を守る

ゆきりんご

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二十五話:お茶会の練習2

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「そ……」

それは駄目だよ、とはすぐに返せなかった。

「結婚を前提に付き合いたい」
「無理だよ。この国では同性の結婚はできない」
「隣国のフェンデラントにでも行けばいい。フェンデラントでならできる」
「駄目だよ。カレンベルク家はどうするの」

リカルドは今までの勢いを失った。彼は長男だ。同性と結婚するために隣国に移り住む、なんて暴挙にでるわけにはいかない。

「家のことが解決できればキミは首を縦に振る?」

今までの語勢より幾分か弱まった声で、懇願するかのような表情で彼は聞いた。

「キミは俺をどう思ってる?」
「命の恩人、みんなの人気者、僕が独り占めするべきではない人」
「好きか嫌いか」
「嫌ってはいないよ」

彼の家の問題だけじゃない。僕は、僕という存在を問題に感じている。何もかもが完璧な彼に、僕という存在が加えられてしまったら、彼の完璧さは崩れてしまう。

「どうしたら好きになってもらえる?」

難しい質問だった。僕の切れた魔力さえ戻れば良いのか。彼の家の問題が解決できれば良いのか。その二つが解決できたとして、僕は自分がリカルドにとって相応しい人間になれるとは思えなかった。

「……分からない」
「何が不安?」

今にも泣きだしそうな顔だった。でもきっとリカルドは、意地でも僕の前では泣かないのだろうとも思った。答えられればいいのに。でも、不安が何から生まれているものなのか、全てをはっきりとは僕自身にも分からなかった。

「分からない……分からないんだよ。ごめんね」
「そっか……。一つ我儘を言うと、ミブ殿下のもとには行ってほしくない」
「お茶会には行かなきゃいけないよ」
「それは分かってる。そうじゃなくて、ミブ殿下と付き合ったりしてほしくないってこと」
「付き合ったりはしないよ……多分」
「多分じゃなくて絶対って言ってほしかったな……もしもだけど」

涙をこらえるかのように上を向いてしばらく間を置いた。そしてまた真っ直ぐ僕を見た。

「もしもミブ殿下から付き合おうと言われて困ったら、俺と付き合ってると言って断るといい。ミブ殿下と付き合われるよりなら、俺の気持ちを利用してもらった方がましだから」
「そんな申し訳ないことはできない」
「絶対ミブ殿下と付き合わないって、約束できる?」
「絶対~ない」という約束はしないに限る、とは何の本で読んだのだったか。
「約束するよ」

知識とは裏腹な言葉が僕の答えだった。僕はミブ殿下には相応しくない。その一言で、押し切るつもりでいる。泣きそうだった彼は、笑った。リカルドは笑っている方がいい。笑っていてほしい。

 僕たちが互いに次の言葉に困っていると、ラルフがコーヒーとお茶を持ってやってきた。

「ありがとうね、ラルフ」

ラルフは僕に「なんですか、この重たい空気は」と耳打ちで伝えてきた。「色々あったの」と、小声で答えた。それ以上の詮索はせずに、ラルフはさがった。

「先日、父上から僕の小さかったときの話を聞いたんだ」

ふっ、とリカルドから表情が消えた。

「僕は本当の魔力欠乏症じゃなかったんだって」

それから僕は、父上から聞いた話をリカルドに伝えた。そして一番大事なことを告げた。

「僕は魔術を使うこともできない。練習をしたいと相談をしたら、体の負担になるという理由で断られてしまった」
「それは俺たちが付き合うことの問題にはならない」

即答だった。このことの深刻さが何も伝わっていないのではと思うほど速かった。

「なるよ、なるんだよ」

なぜこうもリカルドは楽観的でいられるのだろうと僕は不思議でならなかった。魔術を使うことができない魔術師御三家の一員が、問題にならないはずがないのに。

「きっと、そのことをシルヴァは一番不安に思ってるんだね」

そうなのか。そうなのかもしれない。

「俺、振られたのかな。言うとなんだけど、振られるとは思ってなかった」

僕は押し黙った。リカルドの好意にこたえることも、リカルドの好意を無碍にすることもどちらも僕にとって分不相応なことに思えたから。でもどちらかを選ばなくてはいけない。

「学院に通っている間だけでも試しに付き合うっていうのは駄目?」
「諦めの悪い人だね」
「キミには何の不利益は無い」
「貴方の不利益になる」

そんなことをしたら、僕は多分リカルドを好きになってしまう。いや、今でさえ、だいぶ好きの方に気持ちが傾いている自覚はある。そのことがリカルドにも伝わってしまっているから、きっと諦めきれないでいるのかもしれなかった。悪いのは僕だ。

「なかなかにキミは強情だね。どうしてそう意固地になる?」
「その言葉をそっくりそのままお返しするよ」

何だかまるで、話しかけられた最初の頃を彷彿とさせるやり取りだなあ、とぼんやりと思った。このままでは話は平行線をたどるだけだ。僕は一つ、新たな提案をすることにした。

「……次の試験の点数で勝負をしませんか」
「ほう?」
「リカルドが勝てば、試しでお付き合いをすることにします」
「面白い提案だ。その話のった」

大それた提案をしてしまったものだが、もう後には引けない。
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