ロスト・ワールド

さのさかさ

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 懐かしい匂いがした。
 きっと成功したのだろう。心の中で僕は安堵し胸元で拳をぎゅっと力強く握る。零れ落ちる涙をもう片方の手で拭うと、手についた涙は七色に輝いていた。
 
 歴史は還付され、世界までもが―。
 
 途端にハッとなって僕は辺りを見渡す。もしかすると彼が現れるような気がしたからだ。だが、そんなに上手くはいかない。
 分かってはいたけれどやはり寂しさが残った。
 冷たい空気は辺りを静寂に包んでいた。
 大きな木の葉と葉の間からは、太陽の光がシャワーのように降り注ぎ、森に温もりを与えているように見えた。
 口から白い息を吐き僕もまた森に温もりを与えようと試みる。
 すると次の瞬間一陣の風が大きな音を立て大地を打った。森は大きく揺れ、静寂が風に押され吹き飛んでいく。
 しばらくして風が過ぎ去った後も、揺れや騒めきは少しの間続いていた。
 そんな森を見渡して僕は微笑む。
 嬉しい気持ちで心が満たされていく。
 こんな気持ちはいつ以来だろう。そう思って記憶を遡ってみようとするが遡るほどの記憶はもう僕には残ってはいなかった。

 さっきまで冷たかった空気は不自然なくらいに温もりで満たされていた。
 僕は分厚いコートを脱ぎ、柔らかな下草の上に丁寧に置く。
 それから、一歩ずつゆっくりと、生を噛み締める様に光のシャワーに向かって僕は歩きだした。
 光のシャワーは僕の身体に当たると飛沫になって四方八方に飛び散っていった。それが不思議で面白くなり、僕は両手を大きく広げ顔を空に向ける。
 光に包まれる僕の身体は色を失いつつあった。
 世界に溶けてしまう前に僕は心に浮かんだ言葉を口に出す。

 誰に届けるわけでもなく自分自身に。


「おかえり。リュニック」






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